エピローグ「恋に恋する彼女の物語」④
ちなみに、人口比についても、旧クリーヴァ傘下星系や数多く存在していた辺境流域の独立星系国家群がまとめて合流したから、今や総計で500億人くらいが帝国国民として認定されてる。
これは侵略合併した訳ではなく、皆それなりの事情があって、途方に暮れてた辺境流域星系の人達ばかり……。
そう言う人達を取りまとめて、迎え入れたことで銀河辺境帝国は、一気に勢力を増やしたのですよ。
全銀河の人口が1200億人と言われてるから、それでも過半数には届かないけど、シリウスでも全人口400億くらいなのを考えると、実は銀河辺境帝国は総人口でも銀河トップだったりするのですよ。
どうして、こんな一気に勢力を増したのかというと、それもやっぱり評議会でひと悶着あったから。
当初、エスクロンの総人口は約150億人で、銀河全人口の一割弱程度だったのですよ。
でも、戦争が一段落したら、色々あってエスクロンの傘下に下った星系が数多く出てきた上に、セカンド宇宙からの疎開難民とかも受け入れてるうちに、気が付いたら人口が250億くらいに増えてたのですよ。
古来から、銀河連合評議会は各国の人口に比例して議席が増える……つまるところ、人口が多い国ほど、発言力が比例して高くなる制度を取っていたのですよ。
要するに、多数派こそが最強。
良くも悪くも民主的ではあったのだけど。
エスクロンは元々シングルプラネット……独立星系国家だった名残で、決して人口が多い勢力じゃなかったので、評議会では少数派として日陰者扱いだったのですよ。
逆に人口の多いシリウスやセブンスターズ……この二つの国だけで、700億と軽く過半数超え……それが現実で、評議会ではこの中央二大国の影響力が強く、まさに盤石……だったのですよ。
そんな中、どさくさ紛れで、人口が一気に倍近くになったエスクロンは、議会における発言権を強化すべく、自国議席の増加を議会に申請したのですよ。
一割勢では、議会への影響力なんて話にならなかったけど、順当に倍の二割の議席を獲得できるなら話は変わってくる。
二割の議席があれば、セブンスターズ辺りとも遜色なく、セブンスターズや他の国々との意見を揃えることで、過半数を超える事も不可能じゃない。
そうなったら、議会を数の暴力で支配している元凶と言えるシリウスを抑えることも不可能ではなくなるし、エスクロンの意見も軽んじられることもなくなる。
色々とおかしい今の銀河連合議会をもうちょっとマシなものに出来る……そのはずだったのですよ。
けど、シリウスやセブンスターズと言った中央勢が主流を占める評議会は、この事実を頑なに否定して、エスクロンは元々総人口の一割勢に過ぎないのだから、議席も一割は譲らないとして、エスクロン側の怒りを大いに買った。
エスクロンの議席が増えると、当然しわ寄せが行って、シリウスとかセブンスターズは議席や影響力が減る事にもなる。
セブンスターズは、昔から割と日和見なんだけど、この場合一番困るのはシリウス。
評議会での影響力を削られる……シリウスの頼みの綱が評議会への影響力である以上、それがなくなったら、シリウスなんて、ただのぽんこつ引き篭もり集団。
だから、そりゃあもう必死だったのですよ。
でも、もちろん、議会には、中央勢以外の旧クリーヴァ勢や独立星系群の議員さん達と言った中立勢力だっている。
その人達もさすがに、それは暴論に過ぎるだろうと言うことで、当事者ではない中立的立場の議員さん達からの提案と言う事で、議員比率の見直し決議案が採決されることになったのです。
さすがに、この正論の前に中央勢も怯んだんだけど、多数決になればこっちのものとでも思ったのか、そこまで強く反対しなかったのですよ。
もっとも、この辺は実を言うとゼロCEOの差し金で、圧倒的資金力を背景に裏で多数派工作を実施し、中立派はもちろん、セブンスターズの半数くらいの議員さん達までもが賛成に回ってくれたことで、ギリギリ過半数を上回ると予想されるところまでは持ち込めたのですよ。
けど、投票当日になって、唐突にシリウスの議員団が、旧クリーヴァ勢の議員は、テロ支援国家認定された時点で議員権限が凍結されたままになっているので、採択権はないとか言い出して、旧クリーヴァ勢の投じた票は、すべて無効票とされて……結果、盤石と思われた形勢は逆転……。
クリーヴァ勢といえば、辺境の一大勢力で大本が空中分解したとは言え、総人口200億を超えるエスクロン以上の一大勢力で、議席も相応に持っていたのですよ。
実際、その事が異世界の敵を招き入れた張本人と解っていても、完全に追い詰められない理由にもなっていて、議会への影響力もそれなりに持っていたのです。
でも、そんな一大勢力がいきなりまとめていない事にさせられてしまったのだから、たまったものじゃなかった。
結局、中央勢……主にシリウスの思惑通り、反対過半数となって、議員数見直し決議案は否決されちゃったのですよ。
さすがに、この結果にはゼロお兄さんも唖然。
なにより、このあんまりな結果に、旧クリーヴァ勢の議員さん達は皆、怒って銀河連合からの脱退を表明した。
まぁ、それも当然といえば当然。
議員権限の凍結なんて、居ても居なくても関係なくなったって事なんだから。
慌てて、凍結については解除するから機嫌直して、とか言い出したけど、時はすでに遅し。
むしろ、馬鹿にするにもほどがあると憤慨して、元クリーヴァ系の議員さん達は全員まとめて、評議会から抜けてしまった。
それまで、クリーヴァ勢は大本の本社幹部達がまとめて逃亡して行方不明になったことで、残された人達は宇宙の孤児みたいになって、水面下でエスクロンの保護を求めていて、エスクロンとも裏で交渉してたんだけど。
この事をきっかけに、銀河連合を完全に見限って、無条件でのエスクロン傘下加入を決定したのですよ。
エスクロン側としても、出来る限り従来の枠組みの中で、穏便に議会での多数派工作を仕掛けつつ、時間をかけて議会の主導権を握ろうと考えてたんだけど、旧主派の壁は思った以上に分厚く、なりふりすら構わない頑なな自己中全開の姿勢の前に、穏便にやると言う方針に完全に見切りを付けたのですよ。
その辺もあって、クリーヴァ勢との合流は決定事項ながらも、本来はじっくり、こっそりと進める予定だったんだけど、もう全員まとめて面倒見てやるとばかりに、一斉に受け入れを表明。
その様子を横目で見ていて、やはり少数派故に議会で軽んじられ、エスクロンへの合流の機会を探っていた辺境流域に点在していた独立星系群も「銀河連合評議会にもはや存在意義はない」と表明し、一斉に脱退。
要するに、元々銀河連合評議会に不満を持ってた人達がごっそりと、評議会から出て行っちゃったのですよ。
……思えば、これが完全に潮目になったのですよ……。
最終的に、エスクロンもこんなん、もうやってらんねーとばかりに正式に脱退して、総人口500億を数えるエーテルロード外周辺境流域の星間国家群がごっそりと銀河連合から脱退してしまったのですよ。
かくして、銀河人類をひとまとめにしていた銀河連合評議会は、一夜にして実質上、加入国家二カ国だけの議席スッカスカ状態になって、シリウスワンマンショー状態になり、あんまりやる気のないセブンスターズの議員さんと中央流域系独立星系国家群の議員さん達が、まぁまぁシリウスさん落ち着けとなだめつつ、暴走を食い止めてるような感じになってしまった……。
当然ながら、今の銀河連合評議会はもはや、人類の総意決定機関としては、機能停止してる。
なにせ、議席だけならシリウスはすでに単独過半数を超えており、シリウスの独裁状態……。
バランス役を自認していたセブンスターズも立場を失い、面白くなかったみたいで、脱退をほのめかす有様で……ものの見事に銀河連合はバラバラになってしまった。
そのきっかけを作ったのは、半ば自業自得で、自分達の手で銀河連合の看板だった民主主義を否定するような真似をやらかした結果なのだから、もはや誰にも釈明なんて出来ないのですよ……。
でも、そんなズタボロの議会が真面目に帝国と戦争始める事を考えてるとか……。
確かに、正気を疑う話だね。
「相変わらず慧眼だと称賛させてもらおうかな。……うん、当然ながら、あの人達がそこまで考えるわけがない。むしろ、まるっきり夢物語を語り合ってるようなものだったよ。まず、シリウスの各地上軍の最大動員数で銀河連合軍の総兵力を20億とか数字出して、帝国軍の平時常備兵力3千だか5千万だっけ? その数字だけで戦力比較して、40倍の兵力差なら鎧袖一触とか吠えて、圧倒的に有利な条件で惑星地上戦のVR演習やって、勝った勝ったって騒いでるような有様でねぇ……」
「え? 地上戦とか……何、言ってんの? それ……。と言うか地上戦力なんて戦力外だって永友提督も解ってるよね? それまさか、黙って聞いてたの?」
「いや、地上の兵隊さんとかどれだけいても、現代戦じゃほとんど意味ないよって、私も散々言ったよ? でも、人の話、全然聞かなくてねぇ……。挙げ句に怯懦ゆえの発言で、自分達が連合艦隊を指揮したほうがマシだとか言い出す始末でね。さすがにアレには、絶望的な気分になってね……。お腹痛くなったから、トイレ行くと称してバックレちゃったっよ! いやぁ、はははっ! 我ながら大人気なかったかな」
……さすがに、目の前が真っ暗になったのですよ。
もうどこからツッコんでいいか解らない。
銀河辺境帝国との戦いを想定してるのに、地上戦の演習やって勝ったからって、それがなんなの?
今日日の宇宙戦争戦略なんて、最上位レイヤーのエーテル空間での戦闘結果が全てなんだけどなぁ……。
要するに、拠点……中継港と中継港同士の連絡航路を如何に制圧し、勢力圏下に置くかの勝負。
複数のストリームが集中する要衝にある中継港を一つ抑えるだけで、国家戦略に致命傷を与えうる以上、この拠点を巡る攻防がエーテル空間の対人類戦では、キモとなる。
もっとも、中継港に関しては、エーテル空間側の施設を占拠して、通常宇宙との行き来を遮断するだけで、十分事足りると言われている。
中継港を制圧されて、ゲートを閉じた上で、エーテル空間から締め出される。
そんな状態で、通常宇宙に引き篭もって籠城しても、勝ち目なんてゼロ。
なにせ、通常宇宙からゲートを開くことも出来るけど、閉じたゲートを開くとなると軽く3日くらいはかかる。
ゲートってのは、基本的に閉めたり、開いたままにする分には大したエネルギーは要求されないんだけど……開くとなると、膨大な電力が必要とされるのですよ。
その莫大な電力をチャージして、ゲートを開いて安定化させるとなると、それくらいの時間はかかる。
当然ながら、エーテル空間側では開こうとしてるのは解るから、ゲートの向こう側で準備万端で待ち伏せしてるだけで済む。
その上、宇宙空間側からゲートを超えて、エーテル空間に進出して戦うとなると……重力圏対応の小型揚陸艦でも送り込んでの白兵戦とか、そんな調子になる……。
よしんば、中継港を制圧できたとしても、今度は艦隊戦力による集中砲火で歩兵戦力なんて、施設諸共あっさり殲滅される。
かと言って、宇宙空間から宇宙戦闘艦をエーテル空間にダイレクトに送り込んだところで、宇宙戦闘艦でいきなり重力のあるエーテル空間に飛び込んでも、バッシャーンってエーテル流体に墜落して、あっさり沈むのが関の山。
そもそも、銀河連合標準規格ゲートだと、50m縛りがあるから、20mくらいの地上往還小型艦か重力圏対応宇宙戦闘機くらいしか通れない。
……はっきり言って、通常宇宙からエーテル空間に攻め込むのって、ハードル高すぎるのですよ。
戦争抑止システムとして、昔の人や超AI達が色々考えた結果が今の銀河連合の様々な共通規格なんだけど、その仕組はとっても良く出来てるのですよ。
エーテル空間戦闘艦にしても、同様。
エスクロンは、海洋惑星国家で独自の水上艦のノウハウを持ってたから、自前のエーテル戦闘艦を作り上げるまで漕ぎ着けてるけど、他の国はそんなノウハウは持ってない……。
そもそも、これが銀河連合軍が遥か古代の水上戦闘艦を引っ張り出して、エーテル空間戦闘艦に仕立て上げてた大きな理由でもあるのですよ……。
と言うか、他の国もそれなりにがんばって、色々開発してたっぽいんだけど。
まともな成功例については、全然聞かない……。
もちろん、百年単位で進歩してないようなエーテル空間用の大型輸送艦とかコンテナ船は割とどこでも作れてる。
中身スッカスカで非装甲のどんがら船ってのは、結構簡単に作れるのですよ。
でも……本格的な高速機動戦闘を想定した無人戦闘艦となると一気に怪しくなる。
帝国ですら、スターシスターズ艦の完成度には全く及ばないのが実情。
……ソレくらいにはエーテル空間戦闘艦ってのは、宇宙戦闘艦と比較すると、作るのが面倒くさい。
クリーヴァなんかも無闇にデカくて、安普請のエベレストとか、そんなの作ってたけど……あれが精一杯だったみたいなのですよ……。
あれも、とにかく簡単には沈まないってのをコンセプトに作ってたけど、出来としては酷いものだった。
帝国も両用艦とか作ろうとしてるけど、順当に失敗作の山が出来てる……。
その辺は、帝国技術開発局長にまで出世したお姉さまが愚痴ってたから良く解るのですよ。
結局の所、一度エーテル空間から締め出されたら、通常宇宙側の守りを固めつつ、友軍にエーテル空間側で逆襲してもらって、中継港を取り戻してもらうのが、一番楽だし、下手に通常宇宙側から手を出しても、損害が増すばかりでほとんど意味がないのですよ。
ましてや、惑星上の地上兵力なんて、どれだけいてももはや何の意味もない。
最終防衛ラインと言う意味はあるかも知れないけど、重力の井戸の底に当たる惑星地上から衛星軌道への反抗と言うのは、割と絶望的なのですよ。
何故なら、地上からの衛星軌道上の航宙艦への有効な反撃手段と言うのが、ほとんど存在しないから。
対軌道レーザーとか荷電粒子砲も惑星大気中では大幅に減衰するから、防御手段の発展した今日日の戦闘艦のシールドや装甲をまず撃ち抜けないし、対軌道ミサイルや機動爆雷の類も衛星軌道上から観測していれば、地上で撃った時点で解るから、軽く迎撃できる。
大気圏内の飛翔体は、宇宙空間ほどのスピードは出せないから、実弾兵器の時点で航宙戦闘艦の脅威じゃないのですよ。
そんな訳で、それこそ惑星上に1億もの軍勢がいても、衛星軌道を制圧してしまえば、たった一隻の宇宙戦闘艦でも、核融合弾辺りを地上にポイポイばら撒くだけで、まともな反撃を受けること無く、軽く全滅させることが出来る。
要するに、まるっきり勝負にならない。
とは言え、有人惑星攻略戦なんて公式には行われた記録もないし、やってみなければ解らないと言う意見もあるんだけどね。
エスクロンも造反AIに占領された、衛星クラスの拠点攻略戦くらいはやってるから、惑星上陸戦のノウハウや装備はあるんだけど……。
その経験を踏まえても、こんなの実際に試すまでもないと断言できる……。
衛星軌道を制圧されて、制宙権を失った時点で迷わず白旗を上げる。
それ以前に、中継港が陥落した時点で、さっさとゲートも解放して降伏の打診をするか、長期戦の構えで自給自足で助けが来るのを待つ。
……これが現代戦の常識なのですよ。
まぁ、星界の紋章やヤマト2199でもやってたけど。
衛星軌道上を制圧されたら、その時点で惑星地上軍なんてどれだけいても詰みなんですよ。(笑)
ソレくらいには、重力の井戸の底を這い上がるってのはしんどい。
ソレ考えると、ガンダムで地球連邦勝てたのって結構奇跡だったりする。
地球なんてほっといて、ルナ2潰せば、それでほぼ勝ち確だったのに……。
ギレン総帥って馬鹿じゃねーのと。
 




