エピローグ「恋に恋する彼女の物語」①
西暦2674年1月1日
銀河辺境帝国、本星系惑星エスクロン。
大海洋沖、最重要機密区画最深部……人工浮島「宮殿」の大聖堂で、毎年恒例となっている新年会が開かれていた。
「……帝国臣民の諸君! 困難なる情勢の中、この日を共に祝えることを嬉しく思う!」
ゼロCEO、改めゼロ皇帝陛下の演説が始まる。
そう……ゼロお兄さんは、皇帝陛下になったのですよ。
ついでに言うと、国号も「エスクロン・エンタープライゼス」から「銀河辺境帝国」へ改号。
まぁ、色々とすったもんだがありまして……。
我らがエスクロンは、銀河連合から離脱して、銀河辺境帝国と名乗って、独自勢力化しちゃったのですよ。
ユリも今年の3月の時点で、サクラダ高校卒業が内定してる。
ユリも周りの皆の気遣いで、クオン星系でのんびりと暮らしてた……と言いたいところなんだけど。
あのドラゴンフェイズ2との激戦、シュバルツ総統カイオスの逆襲を返り討ちにしてから、三ヶ月後。
遥提督がお父さん達を奪回すべく、シュバルツ残党の立てこもる研究施設への強襲作戦を仕掛けたのですよ。
入念に計画された奪回作戦だったみたいだけど、結果的にそれは罠……3倍もの圧倒的兵力差の大艦隊の猛攻の中、人質を守りながらの撤退戦。
全滅しても少しもおかしくない絶望的な状況の中、結遥提督は3倍以上もの兵力差を覆して、撤退どころかシュバルツ艦隊を完膚なきまでに殲滅し、無事にお父さん達の奪還に成功した。
永友提督やグエン提督と言った歴戦の提督さん達の活躍もあったけど、たった三個艦隊で100隻以上いたシュバルツ残党を全滅させちゃったんだから、あの人やっぱり半端ない。
むしら、ユリが参戦したかったくらいの作戦だったけど、銀河連合にも内密で、秘密裏に行われた作戦だったので、ユリがその事を知ったのは、放課後に唐突にお父さんがお迎えに来て、その口から伝えてもらってからだった。
お父さんとの再会では、思わず抱きついて、号泣しちゃった。
なかなか泣き止まなくて、お父さんめっちゃ困ってたし、校門の前でそんな事やってたから、変な噂が立ったりで大変だったのです。
もっとも、最前線で思いっきりバトったのは、あのドラゴンフェイズ2との戦いが最後……。
去年だかに迎えた異世界のブリタニア軍の大艦隊との最終決戦にも、ユリは参戦してたんだけど。
空中戦艦みたいなので、撃てば確実に当たる極レーザー適当に撃ってるだけで、あっさり終わっちゃったし……。
敵艦隊は、それこそ1000隻とか居たんだけど。
味方もオールスター編成みたいな大艦隊だったし、どの艦もエスクロン製の最新兵器でフル武装してたし、異世界楼蘭艦隊なんかも、斑鳩星系でアホみたい強化された化け物艦揃いで、蓋を開けてみれば割と楽勝だったんだよね。
ユリはよく知らないんだけど、異世界の軍勢との抗争も、大艦隊決戦の後はすっかり静かになって、割と平穏無事な情勢が続いてて、むしろ、クオンでの平和な高校生活を無事に過ごしてくれって、あっちこっちから言われて、のんびりお気楽生活してたのですよ。
お陰様で、ユリも人並みの常識を学んで、普通の女子高生としての青春時代ってのを過ごせました。
まぁ、彼氏とか出来てラブラブ~とはいかなかったんだけど、女子高通ってたらそれがむしろ当たり前だからね!
思い出と言っても、皆で地上でキャンプしたり、のんびり温泉浸かりにいったり、カイパーベルトまで遠足行ったり、美味しいものを食べたり、美味しいものを食べたり!
うん、放課後の買い食いツアーとかそんなのばっかり覚えてるなぁ……。
平和そのものクオン星系でゆっくりまったり、楽しく過ごしてるうちに、あっという間に卒業間近。
けど、そんな中、世の中は激動の時代を乗り越えてたのですよ。
黒船と異世界の軍勢との戦いは、ひとまず事実上、終結してる……。
敵対勢力が居なくなって、もう一つの銀河での戦いが有利に進んだことで、黒船の脅威がなくなったからと言うのが大きい。
けれども、ユリ達はこれっぽっちも油断してない。
……何故なら、来たるべき次の戦いのときが近づきつつあるから。
敵の名は「帰還者」と呼ばれてるのです。
簡単に言ってしまえばエーテル空間や、各地に残る古代文明の遺跡の持ち主達。
人類に敵対的かどうかすらわからないけど、戻ってきて何をされるのか解らない以上、それは脅威でしか無い。
それに何よりも古来よりエスクロンに、伝わる偉大なる預言者の言葉。
それは、今の今まで、その尽くが的中してるのですよ。
そして、予言の最終章に記されているのは、この一言。
「その日その時、忘れられた帰還者達が帰還する。我々はその時に、備えなければならない。例え、平和な時間が訪れたように見えたとしても、常に戦の備えを続けなければならない。備えるのだ、絶え間なく」
その予言の日、帰還者達の来訪まで、もう10年もない。
そう予想されていた。
だから、私達もなりふり構わず、史上空前の脅威に備えるのだ。
本日元旦、年が変わった時点で、エスクロンは「銀河辺境帝国」と名を変えて、正式に銀河連合から離脱して、本格的にエーテル空間に戦闘艦を進出させて、自国領域の警戒防衛に当たることになる。
もうすでに、年度は変わってるし、その前段階として作戦行動は粛々と行われており、すでに国内の体制は帝国制へと移行され、クオンに代表される辺境部の関連星系国家群もすでに、銀河辺境帝国に正式参入し、この銀河は新しい枠組みへと組み換えられつつあるのですよ。
そう言う意味では、今日の新年会は、特別な意味があった。
「銀河辺境帝国建国宣言」
新たなる時代の到来を告げる宣言が各国代表に向けて宣言され、全銀河に向けて、その宣言が発せられる事になってるのですよ。
そして、私こと、クスノキ・ユリコはそんな皇帝陛下の背後に立ち並ぶ、銀河辺境帝国軍の最高戦力……帝国近衛騎士団の筆頭ナンバーを拝命していた。
ちなみに、ユリの正式な階位は銀河辺境帝国嚮導近衛騎士ナイトワンと言う厳ついネーミング。
ナンバリングは栄光ある「001」……エースナンバーで、皆に問答無用で押し付けられたんだけど、なんだか名前負けしてる気がしないでもない。
なお、衣装も凝ってて、古代中世騎士のような銀ピカのフルアーマー姿なのですよ。
もちろん、こんなの着て戦場に向かうとか酔狂な真似はしないけど。
……コスプレ? なお、見た目の割に軽いんだけど、とっても動きにくいし、暑苦しい!
早く脱ぎたいんだけどなー。
「ユリちゃん……じゃなくて、ナイトワン卿。キョドらない! 晴れの大舞台なんだから、せめて最後までカッコよく決めようよっ!」
隣りにいたナイトツーこと、アキちゃんが小声で注意してくれる。
うん、基本的に黙って立ってるだけだし、リハーサルだって何度もこなしたんだけど。
やっぱり緊張するぅううううっ!
「……りょ、了解だよ。アキちゃん……じゃなくて、ナイトツー……了解! ビシッ!」
カッコよく敬礼決めたつもりなのに、近くに居たダーナちゃんやフランちゃんが肩を震わせてる。
……笑われてるし! と言うか、二人共プルプルしてちゃ駄目なのですよ……。
「それでは、以上を以って建国を記念すべく挨拶としよう。それでは最後に乾杯の音頭を取らせていいただき、帝国の新たなる門出に祝福を! プロージット!」
やがて、長々とした皇帝陛下の演説も終わり、乾杯の音頭と共に、祝杯が上げられ、一斉にグラスが割られる音が響き渡る。
グラスもったいないと思うんだけど、これもお約束なんだとか。
プロージットって、一応乾杯って意味なんだけど、グラスを床に叩きつけて割る習慣なんて、別にないってシュバルツの知り合いのおねーさんも言ってた。
でもまぁ、不退転の決意を告げると言う意味もあるらしいので、この場でこれは多分正しい。
いわゆる様式美なのですよ。
なんにせよ、ユリ達もこれでようやっと一息つける。
会場は鳴り止まない万雷の拍手に包まれている。
新しくデザインされた惑星エスクロンと銀河系が重なったようなシンボルマークに、E・F・Uと記された国旗がデカデカと掲揚されて、新国号が巨大空間モニターいっぱいに表示される。
「Empire of Frontier Universe」
未開宇宙の帝国と言う意味なんだけど、銀河辺境帝国の正式な国号でもある。
苦々しい顔をしてる人達もいるけど、多分シリウスとかセブンスターズの関係者。
銀河連合艦隊司令部の人なんかもやっぱり、仏頂面。
この瞬間……銀河連合の理念でもあった全人類がひとつになってと言う言葉が有名無実化した。
昨日までは、移行期間と言うことで、書類上では銀河連合所属だったけど、日付が変わった時点で正式に離脱となった。
今現在、この銀河系は、銀河連合と銀河辺境帝国と言う2つの巨大星間国家に分かたれたことになる。
たぶん、これは銀河連合の終わりの始まりだったと、歴史データベースに記録されることになるだろう。
会場はそのまま、立食パーティみたいな感じになって、ユリ達は一旦バラけつつ、会場警備と称して、豪華お料理をつまみ食いしつつ、プラプラと練り歩きつつ、招待客の皆さんと立ち話をしたり、自己紹介したりとかしていく感じ。
ユリ達は、個人名ではなく役職名で一般的に紹介されてるから、ユリは帝国嚮導近衛騎士ナイトワンと名乗らないといけないのです。
ちなみに、嚮導ってのはリーダーを意味する言葉で、ユリは皆のリーダー……親玉さんなのですよ。
もっとも、そんな立場だけど、実際の所、限りなく名誉職。
実務は、当面免除するとかで、割とお飾り状態……。
近衛騎士団の会合とかも何度か遠隔参加してるけど、君は黙ってていいからねって言われてるから、いつもにこにこしながら、見守るだけ。
裏でゲームとかやったり、漫画読んでても怒られたりもしないお気楽リーダーでした。
さすがに今日は式典だから、直接参加しない訳にはいかなかったけど、代表スピーチもアキちゃんがやってたから、やっぱりお飾り……。
スピーチの内容は、ユリの言葉って事になってたけど、そんなことはない。
もう、アキちゃんがリーダーでいいんじゃない?
お正月の間は、こっちにいるけど、お正月明けには高速便でクオンに戻る予定。
冬休みが明けたら、何日か学校行って卒業式まで、週に1回、2回学校に顔だして帰るだけになる。
部活も三年生は引退だけど、エトランゼ前に行けば大抵誰かいるから、割とちょくちょく顔出す予定。
ちなみに、エトランゼは、主管AIのエルトランがこのところ忙しくて出ずっぱりなので、代役として「エルトラン2」って、エルトランが後継として育成してた若いAIが管制してくれるようになってる。
後輩ちゃんたちにも可愛がられてて、デレデレしてたりとなんとも可愛らしいのです。
腕前はまだまだ若いから、微妙だけど……エルトランが凄すぎるだけ。
エルトランは老骨ですが、とか言いながらも、これから迎える激動の時代に向けて、先任AIとして後進育成に励んでる……むしろ、割とお世話になってるのですよ。
ユリが正式に高校卒業するまでは、現場仕事は一切やらせるつもりはないらしく、ユリが帝国近衛騎士団に正式に着任して、本格稼働するのは4月以降を予定している。
まぁ、その4月辺りからこの銀河は、激動の時代を迎えるだろうし、情勢次第では名誉職なんて言ってられなくなると思う……。
とりあえず、会場をプラついてると、色々と声をかけられる。
もっとも来る人来る人、顔見知りだから、普通に名前呼ばれる……ナイトワンとかコードネーム、全然意味なくない?
「やぁ、ユリコちゃん、久しぶりだね! まったく、なんだい……その愉快なコスプレは」
そうユリのことを呼ぶのは、やっぱり顔見知りの一人。
「……遥提督さん、今の私はユリコちゃんじゃなくて、帝国嚮導近衛騎士ナイトワン卿なのですよ。なので、ユリコちゃんとか言われても、誰のことなのー? なのですよ!」
遥提督。
銀河連合軍と帝国宇宙軍は、現状は袂を分かってるんだけど。
帝国としては、いい加減銀河連合には付き合いきれないから、離脱しただけで、別に本格的に銀河連合軍と敵対するつもりとかは全然ない。
だからこそ、銀河連合軍の上層部幹部や有力な艦隊司令と言った大物には、ちゃんと正式に招待状を送って、今回の式典にも参列してもらっているのですよ。
遥提督もそんな一人……招待客リストはすべて把握してるから、来てるのは知ってたのですよ。
という訳で、今日は遥提督もお客様の一人なのです。
「ああ、悪いね。けど、あたしらにも建国式典の招待状送ってくるとか、なんとも律儀だね。この調子だといつ我々に、エスクロン……じゃなくて、銀河辺境帝国への侵攻命令が下るか解らないってのに……。やれやれ、評議会のエスクロンいじめは度が過ぎてるとは思ってたけど、キミらも思い切り良すぎだろ……」
ちなみに、遥提督は割とレアなフリフリな青いナイトドレス姿。
背中と鎖骨がガッと出てて、頭に青いバラのコサージュとか付けてて、めっちゃ女子力高いカッコしてる。
無骨なフルアーマーユリとは対照的。
ユリもフリフリドレス着て、思う存分食べ歩きたかったのです……。
それでは、エピローグ回です。
時系列を何年かすっ飛ばして、
エスクロンが銀河帝国を名乗るところからになりますが。
あくまで、エピローグなので、物語はこのまま一旦終りを迎えますが。
全部で5万文字分くらいあるので、もうしばらくお付き合い願います。




