第五十七話「満天の宇宙(そら)の下で」⑤
「あ、そうそう。クシナさんから、クオンに戻ったら、合同降下キャンプやりませんかって、お誘いが来てるんですよ。お二人共どうでしょう? 他の高校の方々からも是非お願いしたいって頼まれてるんですけど、アヤメはどう思います?」
「アタシは構わんと思うで……。せやな、アタシらは経験者やし、頼りにされるってのも悪かないわ。ユリちゃんはどうなんや? あ、言っとくけど、連中宇宙に出れない代わりに、VRで練習とか、テキストとか読み込んで、色々知識仕入れたりとか、割と熱心にやっとったらしいから、最初の頃のアタシらよりはマシやと思うで!」
……うん。
エリーさんとか、沸騰してるヤカン素手で掴もうとしたり、酸素タブレット直火に投げ込んで、焚き火のはずが大炎上とかやらかしてるしね。
極地キャンプとか無茶せずに、最初はトコロザマキャンプ地区とか安心安全な所で、入門編って感じにやれば、人数多くても問題なんて起きないのです。
「ユリは、構わないと思いますよ。クオンの地上世界もすっかり安全な場所になってるみたいですからね。ダンさん達からもトコロザマキャンプ地区で、年越しキャンプイベントやるって、メール来てましたよ」
……なんだか、年末年始の惑星クオンは大賑わいになってるみたいなのですよ。
どうも、昔降下キャンプやってた人達同士が、サクラダ高校の文化祭で相互ネットワークみたいなのを作っちゃったみたいで、第一回のイベントとして、年越しキャンプやるって告知したら、ものすごい人数集まっちゃったんだとか。
ちなみに、今日は12月30日。
てっきり、年始年末は病院でって思ってたけど、ギリギリで退院できた。
嬉しい誤算だったのですよ。
「……アイツら、もう惑星クオンの地上に降りてるみたいやな。なんか、ムービーがアップされとるで……これなにやってんやろな?」
アヤメさんが携帯端末を見せてくれる。
ダンさんとシュワさん、それにスナダさんがお餅つきやってる様子が映ってる。
「……お餅つき? 古代日本の年末イベントのひとつなのですよ……! しかも、これ天然のもち米から作ってますよ! ええっ、しかも機械じゃなくて、人力で餅つきとかどれだけ本格的なのです?」
うわっ! いーなーっ! いーなーっ!
お餅と言えば、お正月にしか食べられないレア料理!
それも天然もち米製なんて、エスクロンでもそうそう手に入らないのですよ!
「なんや、向こうも楽しそうやなぁ……。あれ……これ、長谷川先輩もおるし、バーガー屋の店長さんとかもおるわー」
「なんだか、見知った顔がいっぱいですね。皆さんも楽しそうですわねぇ……。良いお年を……ですって!」
ムービーの背後には、OBさんとか中学生っぽい子達とかもいっぱいいて、大賑わい。
例のたこ焼き屋さんとかも、長蛇の列が出来てて、店長さんが嬉しい悲鳴あげてる……。
「まぁ、うちらも明日は海遊びしとるとこでもムービーにしてアップロードしてやるわ。絶対、羨ましがられるで!」
色々あったけど、皆……笑顔。
ユリ達ものんびり楽しく年末を過ごして……。
年が明けたら、色々とユリも忙しくなるのですよーっ!
「……やっほーっ! ユリちゃん……来ちゃった!」
唐突に、頭の上から声がかかる。
……アキちゃんだった。
「……アキちゃん、ようこそなのですよ!」
「ふふふっ、そろそろ、アキのお相手もして欲しいなぁ……。隣に一緒に並んでいい? 砂浜でお昼寝? 気持ちよさそうだねー」
アキちゃんも隣にボフッと寝っ転がって来る。
「にゅふふ、砂浜って昼間の予熱が残ってて、微妙にポカポカ温かいし、こうやってると夜空眺めてても、首も疲れないから、楽ちんなのですよ」
「エスクロンの夜空なんて、見慣れてると思うんだけどなぁ……。あ、解った……対空監視? 相変わらず、心配性だねぇ……。ここの防空網は、宇宙空間までカバーしてる完璧な布陣なんだからさ。島の周辺の警護も、チビちゃんズとダゼル達がバッチリ固めてるし、各警護ユニットの定時連絡も異常なしのログでいっぱい、多分、宇宙で一番安心安全だよっ!」
……アキちゃんも、基本的にユリと同類。
アーミー思考なのは、仕方ないのですよ。
「対空監視とかそう言うのじゃなくて……。夜空の星を眺めてたのですよ。こう言う無駄っぽい時間もお友達と一緒なら、大事な時間になるのですよ?」
「ああ、そっか……。うん、そう言うものかもしれないね……。けど、そうなると悪い事したかも……。実は時間稼ぎも限界っぽくって……その……」
なんだか、遠くの方からドドドドドッって足音が聞こえてくる。
高速熱源体接近中! 時速約百km近い猛スピード!
……寝てる場合じゃない! 慌てて身体を起こして身構える。
「フランちゃん? え? なんて勢いで……」
例えるなら、フルスロットルのバイクが突っ込んでくるくらい。
ユリ達強化人間……それも戦闘用なら、それ位のパワーあるけどさ!
「アヤメさん、エリーさん……そこで寝てると危ないです! ユ、ユリちゃん……ここは、二人の盾になってもらっていい? 退避とかもう無理だし!」
……良く解らないけど、フランちゃんの全身全霊体当たりっ! 来るっ!
軽く五十mくらい離れてるのに、地面を蹴って飛び上がりながら、砲弾みたいに突っ込んでくる!
あ……これを受け止めるとか、無理っ!
ハンドサインでアキちゃん達を射線から退避させる。
さすがアキちゃん、二人の手を引いてしゃがませると、シールド展開してガッツリガード!
アキちゃんも戦闘向けじゃないのに、割と手慣れてる。
こっちは、ギリギリまで粘って、横っ飛びで回避っ!
盛大に砂煙を上げながら、フランちゃん顔から砂浜に行った!
「……だ、大丈夫?」
フランちゃん……盛大に砂浜に潜り込んで、見えなくなってる。
「ユリコお姉さまぁ……! なんで、避けるのです! 酷いですわっ!」
……割と何事もなかったかのように、フランちゃんが砂の中から、飛び上がって、くるくると空中で回転して、綺麗に足から着地する。
でも、顔から頭の上まで砂まみれ……。
「だって、フランちゃん、戦闘義体じゃないですか……。そんなのまともに受け止めたら、ユリだってパワー負けするのですよ!」
……実は、現状慣らし運用中だから、パワーリミット入ってるのですよ。
多分今のユリは、最大出力でも最大出力の3割程度……フランちゃんのジャンピングタックルなんてもらったら、軽くふっとばされるのですよ。
そうなったら、高確率で病院へUターン!
今度こそ、病院のベッドの上でお正月を迎えることになるのですよ。
けどまぁ、この距離ならフランちゃんのタックルくらいなら、いなせるのですよ。
半身にして、身体の力を抜いて、迎撃体制に入る。
「……にゅふふ。まさに漁夫の利。ユリちゃん、つーかまえた!」
……不意の背後から抱きしめられた。
振り返るとマリネさんだった。
「マリネさん! いつの間に……」
……全然、気配感じなかったのですよ!
いつの間に、そこに居たのか……戦闘モードのユリですら解らないとか……。
……前々から思ってたけど、マリネさんって割と気配消しの達人。
お父さんにだって、匹敵するんじゃない? これ。
「……嘘、ユリコお姉さまがあっさり後ろ取られるとか、その子……結構ヤバいんじゃないですか?」
フランちゃんが驚愕してる。
と言うか、ユリもびっくりなのですよ。
「そ、そう言うこともあるのですよ」
「そ、それに……マリネさん……でしたよね? 貴女、ユリコお姉さまのどこを触っているのです?」
マリネさん……とってもナチュラルにユリの胸をもみもみ中。
「どこって……ユリちゃんのおっぱいタッチだけど? これ、挨拶みたいなものだもんねーっ! 」
そう言って、マリネさんが自分の胸をぎゅっと押し付けてくる。
いつものことと言えばいつものことだし、敏感な所は一応避けてくれてるから、変な声出たりはしないんだけど。
フランちゃんの前でこれは、ヤバいのです……。
「……あ、挨拶? ユリコお姉さまの尊いお胸を揉みしだくの……が……? こ、この私ですら許されないのに、どこの馬の骨とも知れない小娘が……」
フランちゃんがうつむき加減で、プルプルしてる。
あ、これ……本気でヤバい。
色々あって、半端なとこで更新停止してましたが、一応再開です!
明日分で、一旦区切りです。
その後は、後日談編となります。




