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宇宙(そら)きゃんっ! 私、ぼっち女子高生だったんだけど、転校先で惑星降下アウトドア始めたら、女の子にモテモテになりました!  作者: MITT


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第五十六話「二国間交渉」⑤

「Tire2……確か、高度な知性と自我を有し、大型戦艦や大規模施設、都市インフラを管制する大規模高度演算力を持つAI……だったかな。そちらの人類が御し得る最高位AIだと言う話だったな……。さすがに我々はそこまで高度なAIは持っていないな」


「そっちで使われてるAIって、こちらで言うところのTire4、5クラスが主流だって話だからねぇ……。あくまで人が主体、AIはその補助、その程度の扱い……レベルとしては、恐らくこちら側の21世紀初頭レベルで止まってるような印象だ。ただ、ヴァルキュリアはこちらのスターシスターズとほとんど同等レベルの高度AIのようだから、それなりに高度なAI技術を持っているように思えるのだけど、その辺りはどうなんだい?」


「ディーター達ヴァルキュリアについては、我々とは別種のテクノロジー体系による産物だよ。まぁ、みっともない話ではあるが、元々は楼蘭由来の技術ではあるのだよ……それも掠め取ったようなものだ。あの国は魂と呼ばれる人の存在の根源に迫る研究を行っていたようでな……ディーターに限らず、ヴァルキュリア達は過去の世界に存在した過去の戦闘艦の意識を引き継ぐ形で生まれた新種の高度AI……そんな風に言われている。もっともその辺りの分野となるとそちらの方が進んでいるのではないかな? 過去の人物を蘇らせる……銀河連合軍の提督たちはそう言う存在らしいじゃないか」


「うん、よくご存知で……。もっとも、その手の分野については、こちらでは超AIによる管理秘匿技術となっていてね。我々でも手が出せないんだ。……なるほど、君達はちゃんと我々への理解を深めた上で戦いを挑んでいたのだね」


「気の長い話だとは思うがね……。少なくとも数百年は前から第二世界の存在を認識し、新天地とする。そう言う前提で連綿と計画を引き継ぎながら、世界の壁を超える術を確立し、人知れず情報収集を行い機会を伺っていたようなのだ。私も……この立場になって、我が国の国家データベースのアクセス権限を授かり、少しずつこの国の裏の歴史を知っていっているところなのだが……この国の闇の深さには、暗澹たる気分になる」


「……なんとも、きな臭い話だね。まるで何者かがシナリオを書いてそれをなぞっていたような……そんな印象を受けるね。くれぐれも君も用心して欲しい……もしも、君がイレギュラーな存在なのだとすれば、危うい立場と言える。まぁ、彼女にとても勝てそうもないと言わしめるほどの猛者である君なら、余程の相手でもない限り、問題はないと思うけどね。しかし、君も本当に惜しみなく情報を提供してくれるんだね」


「構わんさ。国外のものとは言え、閣下は我々の理解者にして、支援者だからな。しかし、良いのか? 今しがた、そちらが提供してくれた情報……かなり高度な機密情報だと思うのだが……。その様子だと銀河連合にも極秘にしているのではないかな?」


「まぁ、そう言うことだね。どうせ、今の銀河連合評議会にこんな話をしても、あまり意味がなさそうだしね。……なにより、エーテルロードを使わないもう一つの超長距離移動手段なんてものが見つかったなんて情報が漏れたら、もうそれだけで、銀河連合が空中分解を起こしかねないし、恐らく超AI達が総出で潰しにかかる……。過去の実績からそれは明らかなんだ。そう言う意味でも危険すぎる情報なんだよ……これは」


「……そこまでのモノなのか? いや、確かにそちらの世界ではコリロードを中立緩衝地帯とすることで、直接国同士が接することが無くなり、安全保障につながっていると言う話だからな。この技術を使えば、その大前提が崩れる……そう言うことか」


「そう言うことだね。今の所、第三航路についての情報は、僕らエスクロン上層部と君等だけの独占情報とすべきだろう……だからこそ、この第三航路の危険性に関しては包み隠さず、そちらにも伝えるべきだと思ったんだ」


「なるほどな。第三航路に潜む未知の敵の存在……それも電子的な存在の可能性か。そうなると案外、我々は単に見逃されているだけなのかも知れないな……。そうなると、いつ何がトリガーになるか解らないと言うことか。そうだな……早急に今の状況は何とかしないといけないな。まったく、難題ばかりで嫌になるな……。カイオスのような解りやすい手合を相手にする方が余程、気楽で良かった」


「全く同感だ……見えない敵ほど厄介なものはないからね。けど、見逃されているか……。確かにそうなのかも知れないな。我々には、第三航路の利用許可が降りていない……第三航路にはセキュリティシステムのようなものが存在し、それが起動した。そう言う事なのかもしれないな。ありがとう、貴重な情報に感謝するよ」


「そうか、参考になったのなら、こちらも情報提供した甲斐があったな。色々と借りっぱなしで申し訳なかったからな」


「いやいや、代価は十分に頂いているよ。カイオスの侵略計画の第一段階だった黒船の大群を送り込む計画をこちらに提供してくれたのはかなり大きかった。あの情報がなかったら、こっちも今頃、大変な事になっていたよ」


「すまないな。せめて奴の計画の全容を伝えられればよかったのだが。どうも、その後はひたすら場当たりの出たとこ勝負……こんなものさすがに、予想外だった」


「……戦争ってのは、敵が馬鹿だと、総じて泥沼になる。そう言う意味ではカイオスはなかなか厄介な敵と言えるだろう。けど、ヤツとの戦いも終りが見えてきたからね……。決着は遥提督達に任せるつもりだけど、むしろ、僕らが考えるべきなのは、奴が消えてからのことだね。そっちの世界の黒船も一日も早く駆逐しないといけないんだけど、桜蘭情報によると、その要となるべき最大戦力を持つブリタニアに、不穏が動きが見えているそうだからね。ウラルについても、こちらの世界からは手を引くつもりのようだけど、こちらにはあの国の情報は殆どないからね……不気味な存在ではあるんだ」


「……ウラルと我々は国境を接している上に、国力では向こうが上だからな……。コリドールに戦力の空白を作るようなことがあれば、一気呵成に攻めて込んで来てもおかしくはない。あの国はそう言う国だからな」


「……まったく、どこも混沌としているね。こっちでも何が起きるか解らない。銀河連合も中央と辺境の対立構造が生まれつつあるし、第三航路の情報も他の国に流出したら、色々良からぬことを企む者が出かねない……。何より、一連の戦いで我々がエーテル空間に独自戦力を展開しつつあるのは、中央諸国も知るところになったから、恐らく一気に警戒されることになるだろうし、一度は駆逐したはずの民主主義テロリスト共も復活しつつあるようでね……平和の道は遠いと言うのが実情だよ」


「共に手を取り合い共通の敵と相対する……そう言う訳にはいかないのか……」


「まぁ、古今東西そんなものだよ。事実、黒船と言う共通の敵が現れても、我々の銀河は全くまとまらなかったからね。君達も同様……。なんにせよ外交の基本は遠交近攻……近くの国相手には常に警戒を怠らず、隙あれば足を引っ張る。遠方の国々とは仲良くやって共通の敵の背後を脅かしてもらう……これも基本だからね。結局、人の世ってのは簡単にはまとまることはない……でも、出来る限り、状況をシンプルにしたいものだね。そう言う意味では、シュバルツが敵対一色から友好的な勢力が台頭して、異世界銀河がすっきりしつつある現状は悪くない。この調子で頑張って欲しいものだよ」


「……こちらとしては、ぜひともご期待に応えないと立つ瀬がないな。ゼロ閣下……すまないな、時間を取らせてしまって。こちらとしても、今回の会談……得るものは多かったよ。第三航路についても、もう少し資料をあたって見るし、先史古代文明の遺構についても、調査してみるとするよ。なにか解ったら、連絡させてもらおう」


「ああ、このホットラインはいつでもオープンにしておくよ。最後に……これは個人的な事なんだけど、礼を言わせてもらうよ。僕の妹分……ユリコちゃんに優しくしてくれてありがとう。いつか、また会いたい……そう言っていたよ」


 そう言って、ゼロが手を差し出すと、フォルゼも固くその手を握り返す。


「……こちらこそだ。私も彼女のおかげで目が覚めたようなものだからな。出来れば、直接会って礼を言いたい……そう思っていたのだが、なかなか遠そうだ。ひとまず、共にお互いの銀河の平和のために! ……では、また会おう! 同志よ!」


 フォルゼとディーターが揃って、胸の前で拳を握る古代ドイツ式の敬礼捧げると一礼……ゼロの答礼と共に、回線が切断される。

 

 ゼロも現実回帰する。

 目を開ける……具体的にはそれだけだった。

 

 一切の補機やコネクタ無しで、自在に自前のVR空間を構築し、自在にダイブする。

 それも、ゼロの持つ能力の一つだった。


 ……いつもどおりの執務室。

 遠く潮騒の音が聞こえるだけの白い空間。


 傍らのソファには、夕凪が座り込んでいて、コネクタと補機を外していっているところだった。


「ゼロ閣下、お疲れ様っす。なかなかに有意義な会談だったようっすね」


「夕凪くんも接続ホスト役、ご苦労さま。……君もモニターしていただろうから、一応聞くけどどうだった? 彼女達についての感想は……」


「あっしに聞くんすか? まぁ、シュバルツ……ドイツの連中は実直かつ、精密機械みたいな連中っすからね。向こうの連中で、あんな風に人に懐いて、笑ってるところを見たのは初めてかも知れないっすな。もっとも、味方としては、まだまだ力不足は否めないっすな。あっしも色々上には上ってもんを見てますからなぁ」


「それは仕方ないさ。向こうはようやっと足場を築いたばかりなんだからね。けど、フォルゼ閣下のおかげで敵の後方支援は断ったようなものだ。このまま、人質を奪還して、正面決戦にでも持ち込めれば、シュバルツ戦はカタが付くだろうさ。けど、それで終わりじゃないようだからね……多分、長い戦いになるだろうね」


「なるほどっすな。まぁ、簡単に戦が終わっては、あっしらも食いっぱぐれますからなぁ……」


「正直でよろしい。君も忙しい中、ここまでご足労いただき、すまなかったね。向こうに返したディーター君を連絡手段に使うと言うのは、当初の計画通りだったんだけど、こちらのスターシスターズで、口が固くて僕の本国招聘に応じてくれるとなると、君達くらいしか心当たりもなくてね」


「いえいえ、こうなってくるとあっしもすっかり、エスクロンのお仲間って感じっすなぁ」


「うん、共鳴通信の有用性は君達自身が認識している以上のものだからね……。多分今後は、これがかなり重要な戦略的価値を持つだろうからね。悪いけど、そう簡単に手放すつもりはないからね。今後とも宜しく頼むよ」


「頼まれたっす! いやぁ、なんか照れるっすなぁ……じゃあ、次のミッションが待ってるんで、あっしも失礼するっす。しっかし、今日はここも静かなんすね。いつものおチビちゃん達やイケてる金黒兄さん達は揃っておでかけっすか?」


「……皆は、我らが女帝陛下のところかな。そう言えば、今日退院だったっけ。うん……これから、ちょっと賑やかになるかな……なんなら、残るかい? ちょっとした打上会をやるんだけど」


「ああ、そう言うのはご身内だけで楽しくやってくださいよ。あっしみたいな兵隊、場違いってもんすよ……けど、ゼロの旦那もそう言ういい顔が出来るんすな。見直しましたよ」


「……ん? ああ、そうか……僕は笑っていたのか。自分で気づかないとかまったく、どうかしてるね」


 そう言って、ゼロは沈みゆく夕日を眺めると、改めて嬉しそうに笑った。

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