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宇宙(そら)きゃんっ! 私、ぼっち女子高生だったんだけど、転校先で惑星降下アウトドア始めたら、女の子にモテモテになりました!  作者: MITT


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第五十六話「二国間交渉」④

「そう言えば、そうだったね。フォルゼ閣下もなかなかに波乱に富んだ人生を歩んで来たようだからね……。ならば、少しばかり助言でもさせてもらおうかな。こう見えて僕は、エスクロンの統治システムの最終判断装置として育成されてきた政治経済のスペシャリストだからね。僕だったら、こうすると言ったアドバイス程度になるけど、それで良ければ……ってところだけど、どうかな?」


「ありがたい。エスクロンは傍から見ても、そちらの銀河でも最高の経済力を持ち、最も繁栄している国だからな。見習う部分は多いはずだと思っている……」


 そう言って、フォルゼが頭を下げようとするとディーターが慌てて制止する。


「ちょっと待って下さい。何もそこまで……」


「良いんだ。誠に勝手ながら、ゼロ閣下……貴方を師と仰ぐゆえ、どうか私に知恵を授けて欲しい」


「ははは、大げさだね。まぁ、そうなると桜蘭の例が参考になるかもしれないね。そちらの世界は、黒船との戦いで人口減が著しいのが問題のようだけど、逆を言うと食料自給率などは、割と余裕があると思うんだ。実際、そっちではこっちみたいに大量生産品の合成食材で賄わずともなんとかなってるんでしょ?」


 そう言って、ゼロは桜蘭の国力に関する資料を空中に投影させる。

 

「……そうだな。ニューベルンも広大な陸地を持ち水資源も豊富な惑星だから、本来は農業向けの惑星ではあるのだ。もっとも、現状としては人手が足りていない……特に熟練技術者の不足は深刻なレベルなのだ。楼蘭も我々同様の問題をかかえていると思うのだが、どうやってここまで復興したのだ? 銀河連合の支援があったにしても、この数値はさすがに急速に過ぎると思うのだが」


「楼蘭の場合は、エーテル空間の戦いを君等で言うところのヴァルキュリアに一任して、軍事力を大幅に削減したのと、数多くの孤立化星系との連絡を復旧させた上で住民を首都星系にまとめて引き上げさせて、人口集中を図ったのが良かったみたいなんだよね。失われたはずの人々の帰還……本来、難民にしかならないはずの彼らを楼蘭は高付加価値産業に動員し、都市復興に惜しみなく資金を投入し、民衆の懐を潤したことで、急速な経済の立て直しに成功したんだよ」


「人口集中か……。確かに、ネオナチスがやっていたことに通じるな。奴らは、最前線付近の星系から、人々を引き上げさせて、ニューベルンに人々を集めた上で第二世界への移民を行っていたからな。もっとも、結果的に貴族の反感を招き、第二世界への移民も思ったより希望者が集まらず、ニューベルンに難民同然の人々がむやみに増える結果になったのだがな」


「うーん、やってる事はそう間違いではないけど、強権で強引に人を動かしたのはどう見ても失策だね。統治者の貴族達にとっては、人は財産同然だろうからね。楼蘭は、中央集権的な体制だったから、人口集中が上手く行ったけど、シュバルツはそうもいかないのか……。そうなると、各地に権限と人を残したまま、高付加価値産業の育成に務めるべきかもしれないね」


「高負荷化価値産業? そんな物があるのか?」


「あるさ。僕らの世界では、昔ながらの土に種を蒔いて、時間と手間暇をかけてじっくりと育て上げた天然食材は、大きな価値を持ってるんだ。合成食材もそこまで悪いものではないんだけど、どうしても天然食材には劣る。選択の余地がなかったり、飢えてるなら、妥協するけど……。選択の余地があるなら、多少値段が張っても天然食材をって考える人は多いんだよ」


「よく解りませんが、この紅茶もこうやって、葉から抽出するものと、粉をお湯で溶いて作るものがありますよね。前者が天然食材で、後者が合成食材ってところですかね」


「うん、ディーターくん。その認識で合ってるよ。味や香りは、最近の合成食材は良く出来てるから、そこまで違いはないけど。こうやって、お客様への歓待に出すとして、こんな風に粉をお湯で溶くのって使おうと思う?」


 そう言うと、ゼロの目の前にお湯の入ったティーカップとスティックタイプの合成粉末紅茶が現れる。

 手早くティーカップに粉末を注ぐと、見た目は如何にもな紅茶が出来る。


「……普通に考えて、そんな失礼な真似は出来ないですよ。えっと……おかわりどうぞ」


 そう言って、ティーポットと紅茶の葉の入ったケースを取り出し、ディーターは手間をかけて、お茶を抽出すると、カップに注いでテーブルに置く。


「うん、味はそう変わらないけど。こっちの方がやはり、美味しく感じるね。値段を付けるとすれば、こっちの粉紅茶は一杯100クレジット。こっちのディーター君特製紅茶は2000クレジットくらいは払ってもいいかな」


「に、二十倍ですかっ! なんで、そこまでなんですかっ! 意味が解りません!」


「うん、まずは天然物ってことで倍額、それも貴重な高級品……これで倍、機械じゃなくて人手でって事で更に倍。君みたいな美少女が淹れてくれたって事で更に倍。これで16倍……あとはおもてなしの心使いへの感謝の気持ちで20倍は妥当な金額だと思うよ」


「はぁ……。要するに、私が自分で目の前で淹れると言うことにすら価値が付くと。なるほど、機械でも出来る仕事を人が行う事による高付加価値とは、そう言うことなんですね」


「なるほどな。そうなると私が淹れた場合はどうなのだろう? 随分な価値がありそうだが……」


「……さすがに、それはプライスレスだよ。と言うか、国の代表閣下がそんな事しちゃ駄目。まぁ、こう言う席で余興でするのは、悪くないかもね」


 ゼロがそう言う傍ら、手慣れた手付きでフォルゼが自ら、お茶を用意してみせる。


「以外そうな顔だな。これでもかつては、れっきとした貴族令嬢だったからな。自宅で学友を招いてのお茶会なぞ、日常だったからな……嗜みという奴だ」


 結果的に、ゼロの目の前にはティーカップが大量に並んだのだが。

 ゼロも敢えて、一口飲んで見せる。


「……お見事。閣下のお手自らの茶ともあれば、値段など付けようありませんよ……」


 その言葉を聞いて、フォルゼもあからさまに機嫌が良さそうになる。

 その様子を見て、ディーターも微笑む。


「ふふっ。閣下がそんな風に笑うのは始めてかも知れませんね。いつも男装されて、肩肘張られてますからね……。やはり、女性の姿のほうがよろしいのではないでしょうか?」


「まぁ、建前とは言え、私は男という事になっているからな。もっとも、ゼロ閣下にはこの方が受けが良いだろうと思ったのだが……どうも、油断していると素が出てしまう。しかし、手間暇かけたりすることに価値が付くと言うのは、なんとも不思議な習慣のように思えるのだがな」


「まぁ、そうだね……。例えば、うちは銀河連合の軍事技術開発、工業生産、高純度加工担当国ってところだからね。元々一つの星系の国だった関係で、食糧生産向けの星系はあんまり持ってないからら、天然食材なんて超高級品扱いなんだよ。実際、皆、お金はあるのに合成食材で我慢してるってのが実情なんだよ。要するに、食べ物は圧倒的に買う側、ついでに言うとお金持ちだから、欲しい物があればお金に糸目なんて付けない」


「……なるほど。要は、普通に地上で作物を作ると言うだけで、エスクロン辺りでは、それを高く買い取ってくれる訳だ」


「まぁ、そう言う事だね……。この紅茶を作るにしても、敢えて機械やロボットにやらすんじゃなくて人手を介して手間暇かけることで、それ自体が価値になる……。こっちの農業従事者はそうやって、安価な合成食材に打ち勝って自分達の儲けを確保してるんだよ。ちなみに、こっちでの天然食材のお値段とか見てみる? 驚きの値段だと思うよ」


 そう言って、ゼロは相場リストを表示させると二人に見せる。


「……何だこれは? 物によっては、レアメタル並の価格が付いているではないか……」


「すごいですね。これなんて、ただの地下水ですよ! それなのに1リッターで5000クレジットとか!」


「ああ、それは惑星ダイナスト……宇宙最高峰と言われる1万2千mの大峰グランダイナの麓の地下水って触れ込みで、大人気になった水だね。成分的にはただのミネラルウォーターなんだけど、流通量が限られてるからオークションにかけられて、そんな値段になったんだよ。エスクロンって、水資源はうんざりするほどあるけど、都市水道で供給してる海水還元水ってあまり美味しくないって評判でねぇ……。ただのミネラルウォーターでも天然産となると欲しがる人は多いんだよ。多分、君らのところのニューベルンの井戸水とかでも、割といい値段付くと思うよ」


「なるほどな……。これは食料の増産体制を整えた上で、早いところ、そちらとの交易も実現したいところだな。普通に手作業で作った食料が高く売れるとなれば、楼蘭が急速に経済的に持ち直したのも納得だ……。戦場に人を送ってバタバタ死なせるよりも、畑でも耕してもらった方がよほど良い……そう言うことか」


「実際、そっちのヴァルキュリアだって、単独で戦闘をこなせるはずなのに、下手に人を乗せたりするから、無意味に戦死者が出てるようだからねぇ……。楼蘭も似たような状態だったけど、あっちは自分達でその事に気付いて、積極的に無人化を進めていたようだからね。本来、この時代、戦場へ人を送るのは最小限にするべきなんだよ……」


「そうですね。エーテル空間戦闘で、生身の軍人は不要だと言うのは、我々の共通認識でした。我々は元々スタンドアロンで運用できるのですが、我が国では無人兵器への信頼が低い風潮があって、戦闘機なども多くが有人。これでは、無尽蔵に湧いてくるインセクターに押されるのも当然……解ってはいたんですがね」


「まぁ、桜蘭の例もあるし、シュバルツがマトモな国になれば、銀河連合軍の負担もかなり減るだろうから、正式な支援も受けられるようになるだろう。こちらの世界にやってくる黒船は、そちらの世界由来だってことが解ってきたから、銀河連合軍も最終的には、そっちの世界から黒船を駆逐するってのが、大筋みたいだからね」


「……まったく、面目ない限りだ。しかし、話は戻るが……先ほどの生きている遺跡とそちらの第三航路で遭遇したと言う正体不明の敵。ゼロ閣下の話だとこれらに繋がりがある……そんな含みがあったのだが、どうなのだ? 何が……起きたのだ?」


「……昔、うちの方で、僕らの作り出したAI艦が造反して、大戦争になったって話は君たちも知ってるよね。その造反AIの首魁フォーチュンテラーがエスクロン星系のカイパーベルトの探査中に、生きている遺跡と接触したみたいなんだ。その結果、フォーチュンテラーは人類に敵意を持つ造反AIとなって飼い主たる我々を敵とみなして、噛み付いてきた。近年の我々の事後調査で、そう言う結論が出たんだ……。その遺跡については、こちらも何度か調査したんだけど……未だに見つからずじまい。実を言うと、第三航路に進駐した艦隊の壊滅も似たような感じでね……。どうも、こちらの送り込んだ艦隊の旗艦が暴走し味方を殲滅した上で、自爆した……そんな経緯だったようなんだよ」


「そ、そんな事が起きていたのかっ! す、すまない……こちらではそのような事例はなかったんだ。だからこそ、安全な空間だと思っていたのだが……」


「ああ、そこは気にしなくていいよ。こちらが軽率だっただけの話だからね。ただ、君達は問題なく運用できていて、我々ははじき出されたと言うのが、いまいち腑に落ちなくてね。この違いはなんなんだろう? あの空間も恐らく古代先史文明の遺産だとは思うんだが……」


「違いがあるとすれば……有人か無人……或いは、AIのレベルかもしれないな。こちらの世界にもAI……人工知性体は存在しているのだが……。君らの世界で言う超AIと呼ばれる高度AI達のような物は、ついぞ完成に至らなかったからな……もっとも、この辺の事情は他の国々も同様だ。遥か昔に無人兵器の軍事転用禁止条約が結ばれていた時代があってな。その関係でAI技術が発展しなかったのだよ。君らと我々の差異としてすぐに思いつくとすれば、その一点だな」


「……なるほど、君もそう言う見解なんだね。うん、こちらが仕掛けられたのは、恐らくAIに対する電子侵食攻撃ではないかと推測されている……それもいわゆるハードウェアハッキング、ハードウェアレベルでAIのハードを侵食されるとなると、相応の対策をしておかないと防ぐ手段がない。送り込んだ艦隊の中で旗艦のみがTire2クラスの高度AIで、それがピンポイントで狙われた。だから、ある程度、高度なAIに反応した可能性が考えられるんだ」


 要するに、ユリコ達の持つ対電子侵食攻撃手段。

 直接、接触する必要があるものの、電子的な防壁などはこの手の攻撃には意味をなさない。


 この恐るべき電子侵食で、無人艦隊が為すすべなく葬られた事はエスクロンにも深い衝撃を与えていた。


 まぁ、それも当然の話だった。

 ユリコ達の持つハードウェアハッキング能力に対抗する術は、今のエスクロンの最新技術を持ってしても、対処できないと実証されているのだから……。

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