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宇宙(そら)きゃんっ! 私、ぼっち女子高生だったんだけど、転校先で惑星降下アウトドア始めたら、女の子にモテモテになりました!  作者: MITT


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第五十六話「二国間交渉」②

「スターシスターズは、皆そう言う思いで戦っているものが多いんだ。楼蘭でも同位体との邂逅は総じて、両者にとっていい結果をもたらした事がほとんどだったようでね。まぁ、君の場合、ちょっとした賭けだったんだけど、上手く行ったようで良かったよ。そちらのシュバルツ艦隊の子達もたぶん、同じ方法で上手くやれると思うんだけど、どうかな?」


「他の者達はどうかは、私からはなんとも……。ただ、少なくとも……我が同位体との邂逅を通して、そちらの世界と争う事の無意味さは悟りましたね。だからこそ、シュヴァルツをあの男の手から解放し、無意味な戦争を止め、民衆を圧政から解き放つと言うフォルゼ閣下の理想に共鳴いたしましたし、その守り手と言う役目を担うことには、誇りを持っております」


「そうか……。古代ドイツ第三帝国の末裔を自負する我々としては、光栄に思うべきだな」


「はっ! フォルゼ閣下……こちらこそ! であります」


 ディーターの様子を見ながら、ゼロも満足そうに笑う。

 

 銀河連合に於いては、スターシスターズ達が今の時代の人間達に、こんな風に忠義を誓うなどと言う光景は全く見られないのだから。


 現代人のあまりの不甲斐なさに、半ば呆れられているのが実情だった。

 

 ……共に戦場に立つ覚悟。

 それが彼女達に信を問う最低条件なのは、ゼロも解っていた。


 実際、フォルゼはすんなりディーターの忠義を受ける立場になっている。

 それは彼女が最前線を躊躇いなく征く生粋の戦士だからこそ……なのだろう。


 だからこそ、今回、エスクロンの強化人間がエーテル空間でスターシスターズ達すら歯が立たないような難敵相手に一戦交え、撃破に導いたのは、大きな進歩として受け止められるだろうとゼロも確信していたのだった。


「うん、悪くない関係を築けたようでなによりだ。もっとも結局、ディーター君は最後まで最低限の情報しか教えてくれかったけどね……。艦体データすらよこそうとしない辺り、徹底していたからねぇ……。けど、その様子だとフォルゼ閣下と引き合わせたのは正解だったようだね。カイオスや他のヴァルキュリアにバレないように君を帰国させるのはそれなりに苦労したけど、君も大変だったでしょ?」


「まぁ、ちょっとした大冒険と言ったところでしたね。情報を提供しなかった件については、釈明は致しません……。そこは、騎士たるものの誇りというものがありますので……。安々と祖国の軍事情報を漏洩する訳には参りませんでしたから、当然と思ってください。もっとも、常識レベルの我が国の情報については、惜しみなく提供させていただきましたので、それでご容赦いただければ……」


「いやいや、その常識的な情報こそ、僕らにとって値千金の情報だったからね。どんな暮らしをして、何を考えているのか解らない異星人相手の交渉なんて、難儀な話だけど……。そちらの一般市民の生活が見えるようなナマの情報……それがあるだけでも、交渉も俄然やりやすくなるんだ。それこそが僕らが欲しかった情報だったんだよ。戦争を終わらせるには、まずはお互いを理解することが必要だからね」


「……ゼロ閣下は、やはり傑物のようだな……。その言葉の意味……私は解るような気がするよ。ティーダーも向こうの銀河の人々や同位体と触れ合ったことで、色々と思うところはあったのだろう? それこそ、ナチス・ドイツの幻想を振り払えるほどに……」


「……ええ、我々の抱いていたナチス・ドイツへの思い入れは、閣下のおっしゃるように幻想に過ぎませんでした。過去の栄光やしがらみよりも、今を生きる人々の為に戦う……それが本来の我らの使命だったと言うのに……。盲目的に、ナチス・ドイツの後継者を称するだけの者達に従う……そんなかつての自分達を恥じ入る限りです」


「そうか……。君の同胞達も君のように、新たなる時代を迎えつつあるシュバルツの騎士として、轡を並べる日が来ると良いね。なによりも、良き主君に仕えられる事を誇りとすると良いよ……。フォルゼ閣下は、僕が思った通りなかなか出来た人物のようだからね」


「はっ! ありがとうございます!」


「まったく、そちらに借りばかり出来てしまっているな。それと、カイオス達の虜囚となっているタイゾウ殿達の件についてだが……。なんとかそちらにお返しすべくこちらも手を尽くしたのだが、我軍のコリロードの空間戦力となるべき、ヴァルキュリア達は未だそのほとんどが恭順していない上に、タイゾウ殿達はそちら側の宇宙に移送されているようで、我々の手が及ばなかった……。少し前は、こちらから接触も出来ていたのだが、今回の一件に先んじてカイオス達と正式に袂を分かった事で、連絡のすべも失われしまったのだ。どうやら、かなり厳重に囲い込んでいるようでな……」


「……やはり、そうか。こちらもこれまでのように家族との定期連絡を取ることすら出来なくなっている上に、向こうの外交チャンネルがダンマリでね。結局、カイオス奇襲の情報が最後の連絡になってしまったよ……。奴らにとっては、タイゾウ氏達人質はもはや手放せない切り札になりつつあるようで、ガードが格段に固くなってしまった。正直、これはかなり危険な徴候でもある……。相手も不利な情勢にあることは解ってるから、疑心暗鬼になってるんだろう。つまり、我々の間に成立していた暗黙の信頼関係が崩壊したって事だね……」


「……これまでは、我々のような穏健派が居たから、ネオナチスの無茶や非道を押し留めていたのだが……。分裂したことで、奴らは完全に歯止めが効かなくなっていると言うことか……。すまない、我々が軽率だったかも知れないな」


「まぁ、一概にそうとは言えないかな……。結局、状況としては、膠着状態だったからね。それが動いたのは歓迎すべきではある。むしろ、一気に連中を追い詰めることが出来たからね。もっとも、人質が危険な事には変わりないから、あわよくば、そちらに保護してもらえればと思っていたんだが、ちょっと考えが甘かったようだね」


「……本来ならば、我らが総力を挙げてカイオス達の手から奪還するのがスジなのだが……。我々も未だ力不足なのは、否めないのだ。一応、こちらにも有人型のコリドール空間戦闘艦は何隻かあるのだが、ヴァルキュリア相手では恐らく相手にならないだろう……その辺りはディーターとの仮想演習で思い知らされたよ」


「有人艦と我々では、装備はともかく、ソフトウェアレベルでの能力差が大きいですからね。アグレッサー役としての感想ですが、同じ駆逐艦だと最低、3倍の戦力で当たらないと脅威にもならないでしょう。もっとも、カイオス達の数的主力の無人艦のZ100番系はさしたる性能ではないので、有人艦でも十分戦えると思いますが……。銘持ちの22番までの駆逐艦は腕利き揃いですし、大型艦クラスも猛者揃い……武力という面では、向こうが上なのは致し方ないです。なかなかに厄介ですね」


「いっそ、綺麗に全滅でもしてくれれば良いのだがな……。そうすれば、造艦廠を押さえている以上、再建するだけでまっさらな状態で復帰してくれるから話も早いのだが。……もっとも、今の状況でコリドール空間に戦力の空白を作るわけにも行かない……なかなかに難しい状況だよ」


「エーテル空間は、今の我々にとっては最上位レイヤー層の位置づけだからね。あの空間を制する者こそが、銀河を制すると言っても過言じゃない。カイオスが地上世界やニューベルン星系に固執せずに、あっさり手放したのは、それもあるんだろうね」


「……そちらの銀河では、だからこそ敢えて、どこの国のものでもない中立地帯化したと言うことか。実際、そうするのが賢明なのだろうな」


「まぁ、中立と言っても完全じゃないけどね。実際うちなんかも本星系の中継港付近は要塞化してるし、近隣ゲートの星系も完全に傘下に置いてるから、事実上の不法占拠状態になってるよ。厳密には、そう言うのも許されないんだけど……。今の情勢はどこも中継港は自力である程度守れないといけないからね。中継港の武装化もだけど、近隣流域に監視網を設置したり、艦艇戦力の配備も黙認されてる状況ではあるんだ」


「いずれにせよ、我々が国としての安定を手にするためには、コリドール空間の戦力拡充の上での平定が最低条件ということか……。まだまだ道は遠いな」


「こちらも、戦力提供くらいしてあげたいところなんだけど……。そっちのコリロードへ行く手段が限られている上に、我々も未だエーテル空間の戦力は発展途上なのが実情だ……。クリーヴァの勢力圏内に、シュヴァルツへ繋がるゲートがあるのは確実なんだが、連中……自分達の領域への立ち入りだけは頑として拒んでいるからね。連中もそこは譲れない一線らしくてね……。それに先の件で我々が勝手に独自戦力を持ち出したことがバレて、評議会もおカンムリでね。しばらく大人しくしてないと、風向きがよろしくないことになりそうなんだ」


「そうか……そちらも色々大変なようだな。いや、気持ちだけでも十分だし、文句など言える立場ではないからな」


「まぁ、こっちの切り札を使えば、完全にカイオスとシュバルツ艦隊の息の根を止める事も出来るのだけど……。やはり、人質がネックだなぁ……。人質を安全に救出するとなると、どうやっても地上戦が避けられないからね。一応、遥提督……銀河連合軍の特務部隊の提督が独自に人質奪回プランを計画しているみたいだから、当てにはしてるんだけどね」


「そう言う計画があるなら、詳細が分かり次第、こちらにも情報共有してくれないか? 微力ながらも力添えくらいはさせてもらう。それと……確認なのだが、例の彼女は無事だろうか? 今回の件にも彼女が関わっていると聞いて、出来る限り、彼女の手助けをしたかったのだが……。我が力が及ばず、奴の自由を許してしまった。慚愧に堪えない……」


「ご心配には及ばない。彼女は無事だよ……。カイオスの乗ったシルバーサイズに目前にまで迫られたとの事だけど、逆に撃沈し返り討ちにした。彼女本人も負傷して、危うかったみたいだけど、うちの古参AIとコンビ組んで、きっちり撃破してくれたよ。カイオス本人直々の奇襲は我々も予想外だったのだけど、さすがとしか言いようがない」


「なんと! 先の戦いでカイオスが戦死したと言う話を聞いていたが、彼女が仕留めたと言うのか……。まぁ、直に相対した私が言うのもなんだが、当然の結果だな」


「ははは、当然の結果と来たか。高く評価してくれてありがとうって言っとくよ。ああ、そうだ。フォルゼ閣下……確認なんだけど、ディーターに託させてもらった例のウイルスボットをそちらの国内ネットワークに仕込んどいてもらえたかな?」


「ああ、それについては滞りなく実施された……。奴が我が国のあちこちに仕込んでいたあの男の人格バックアップデータは、我が国のネットワーク上から、すべて根こそぎ破壊し尽くされたようだ。もっとも今回に限っては、復活を許してしまいそうだがね……。どうやら、ロストナンバーズのレプライザルがあの男のバックアップを隠し持っていたようで、さすがにそこまでは潰しきれなかった。まったく、ありとあらゆる星系の至るところに、奴のバックアップデータが仕込まれていたようでね……。あの男の生に対する妄執を垣間見た気がしたよ」


「……思った以上だったね。ホント、タチの悪いウイルスみたいな奴だな。どおりでいくら殺してもキリが無いわけだ……こっちの世界でも似たようなものでね。アレのバックアップデータは汎銀河ネットワーク上に拡散され、至るところに仕込まれていたんだよ。だが、それらもすでに駆逐され、ヤツ自身、すでにシュバルツでは社会的に抹殺されたようなものだからね。あと一息で完全に抹殺できるところまでは行っているはずだよ……力技だけど、不死者を殺すのも不可能じゃないって、実証出来そうだ」


「……不死者を殺す矛盾……か。奴の所業については、調べれば調べるほど、怒りが湧いてくる。口にするのも憚るほどの許し難いものばかりだった……。ヤツ一人で一体何人の人々が犠牲になった事か……あれはお互いの世界のためにも確実に討ち滅ぼすべき、明白な悪だ」


「全く同感だよ。しかし、ヤツ自らが公開処刑として、君に決闘を挑む流れを作った上で、正々堂々戦い返り討ちにする……か。なんともお見事な手際だったようだね。心から称賛させてもらうよ……我々も奴を倒すために、様々な方策を練っていたのだけど、どうしても足りなかったのがシュバルツ側の協力者だったんだ。その最後のピースを君が担ってくれたのは、僥倖だったよ」


「なに、あの程度……誇る気にもならんさ。なかなか、いい装備を揃えていたが、白兵戦闘に関してはただのド素人……彼女のような底知れなさは感じなかったし、技量にしても稚拙なものだったよ。おまけに、ちょっと不利になった程度で、惨めに命乞いをする始末……。所詮は、安全なところから、弱者をいたぶる……結局、それしか能のない単なる殺人狂だったのだろうな」


「……殺す以上は、殺される覚悟でいる。戦場の当たり前なんだがね……。いずれにせよ、アレはどちらの銀河にとってもただの害悪だ。そろそろ、然るべき報いを与えてやるべきだろう」


「そうだな……。しかし、事実上の不死者……再現体を殺す為の拡散性ネットワークウイルス……あんなものを実用化していたとは恐れ入る。我が国のコンピューター技術はそちらよりも随分遅れているからね。これがインフラ破壊などに応用されていたら、一瞬で全土が壊滅していただろう……つくづく恐ろしい話だ。貴国と本格開戦となっていたら、どうなっていたことやら……。かつての上層部は、世界の壁を超えて攻めてくるはずもないとタカをくくっていたようだが、あの時点で開戦していたらと思うとゾッとするな」


「僕らは、そのつもりだったんだけどね……。まぁ、君の良識が君の祖国を救った……そう思っておきなよ。実際、あの時は、こちらも覚悟を決めるしか無かったからね……。まったく、あの時の見目麗しき刺客がこうやってシュバルツの代表となって、腹を割って話し合う機会を持てるとは……運命ってのはつくづく解らないものだ。お互い、ほんの少し選択肢を間違っていたら、こんな時間も持てなかったのだからね」


 ゼロCEOが芝居がかったような仕草とともに、そう言って片目を瞑りながら笑いかけると、ディーターとフォルゼは、お互い顔を見合わせるとどちらかともなく、クスクスと吹き出し始める。

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