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宇宙(そら)きゃんっ! 私、ぼっち女子高生だったんだけど、転校先で惑星降下アウトドア始めたら、女の子にモテモテになりました!  作者: MITT


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第五十四話「軍神の帰還」③

 ニョロニョロと細長い蛇みたいな見た目のメディカルドローンがコクピット内にやって来て、身体に巻き付きながら各種コネクタをパイロットスーツに接続。


 白蛇なんて呼ばれてるけど、エスクロン宇宙軍どころか、一般的にもお馴染み。

 災害救助訓練や自動車事故とかでも、この手の医療ドローンは割と最前線に投入される。


 エスクロンの市街地には、この白蛇ちゃんの入った医療ボックスがあちこちに設置されてて、けが人や急病人が出ると真っ先にこの子達が出てきて、緊急医療を施すようになってる。

 

 ちなみに、なんでこんな形なのか……。

 緊急医療用途に最適化された結果……としか言いようがないのですよ。


 まずこの細長い形状は、小さな隙間とかでも入って行けて、車両事故や建物の倒壊に巻き込まれた際のけが人に素早くたどり着けるのですよ。

 

 グルリと患部に巻き付くことで止血とか出来るし、骨折とかだとそのまま添え木代わりになったりする。

 当然ながら、医療ナノマシンの注入や点滴なんかも出来るし、見た目の割にパワーもあるし、酸素吸入とかも出来る。

 

 割と万能な医療ドローンで、出来ないことは空を飛ぶことくらいなんて、言われてて、白蛇ちゃんに救われた命も膨大な人数になるのですよ。


 白蛇ちゃんの簡易診断が始まるなり、いきなり鎮静剤が投与される……続いて医療ナノマシンがパイロットスーツ経由で緊急大量投与される。

 

 重傷者向けのグレードワン医療ナノマシンの集中投入……うわ、思ったより重症だ……これ。

 鎮静剤もやなりヤバい投与量。


 本来だったら、痛みで呼吸困難になるとか、気絶してる……それ位の重傷だと判断されたらしい。

 

「……おいおい、傷度クラス2とか……大丈夫なのか?」


 イゼキ大尉が心配そうに覗き込んでくる。

 どちらかと言うと、高濃度鎮静剤の投与から来る酩酊感で、グワングワンなのですよー。

 

「ら、らいじょうぶ……れす? し、白蛇ちゃん、人間用の応急処置とか止めて、強化人間の仕様に合わせたメニューでお願いします」


「ああ、そうか……すまんな。とは言え、生身の人間だったら、こんなの軽くドクターストップなんだがな……。俺としては、しばらく降りて休んで欲しいんだが……」


 イゼキ大尉はそう言うんだけど、ここはまだ降りたくない。

 首を振って、操作グリップを強く握りしめる。


「やれやれ、その様子じゃテコでも動きそうもないな。しっかし、致命傷レベルの傷度クラス1でも活動出来る仕様ってのは、伊達じゃないみたいだな……ったく、本来俺はアンタを止める権限くらいあるんだがな……そんな目をされちゃそうもいかんか」


 イゼキ大尉がメディカルドローンの外部モニターを見ながら、呆れてる。

 けど、コクピットに乗ったままの時点で、再出撃する気満々って理解はしてくれてるらしい。


「この程度、問題ないです。無事に戦いが終わったら、入院でもなんでもするのですよ」


「やれやれ、強化人間ってのはアンタみたいなのばっかりだな。まぁいい……とりあえず、実際にあの化け物とやりあっての感想を聞きたいんだが……。しっかし、この白鴉も実験機って聞いてたんだが、いきなり無茶な使い方してくれたもんだな。記録されてる数値見るだけで、馬鹿馬鹿しくなる数値のオンパレードなんだが」


「あうあう! て、敵ですよね? あの感じだと視線連動型の斥力シールド使ってるっぽかったですね。変態機動と馬鹿スピードですが、捕捉できない程でもないし、攻撃する際に隙があるから、複数機で連携すれば、当たることは当たるみたいです。重くて硬いHSヘビーシェル弾頭辺りを使って、砲身オーバーロードさせた上で至近距離から叩き込めば、多分なんとかなりそうです」


 とりあえず、かなり硬いみたいだけど、運動エネルギー弾でゴリ押し。


 基本的にこの一択だと思うのですよ。

 物理が最強と言うのもアレだけど、固くて重くて早い質量体と言うのは、シンプルに強いのですよ。

  

 荷電粒子やレーザーは早いけど軽いし、強電磁場で曲げられたりするし、荷電粒子はより強いプラズマでかき消せるし、レーザーも鏡面装甲や拡散粒子で減衰出来るし、白鴉の新素材ウラヌスみたいに極端に融点が高い素材だと荷電粒子砲やレーザーと言った熱兵器は破壊効果が薄いのですよ。


 その点、単純な物理衝力は強い。

 飛行体だと装甲を貫徹しなくても、姿勢を崩せるし、普通なら直撃一発で墜落は免れない。


 完全に物理衝力を防ぐともなると斥力場とか、重力シールドとか色々あるけど、ゼロには出来ない。

 どんな強固な装甲だって、衝撃を消し切るのは不可能……。


 将来技術的にありうると言われている、空間作用防壁や次元隔離技術と言った空間そのものを隔絶する……そんな技術でもない限り、物理衝力と言う単純な力を100%防ぐのは不可能なのですよ。


 仮にそれすらも装甲で止めたとしても、今度は中身が持たない……頭なら脳に該当する部分が、胸部なら心臓が衝撃で壊れる。


 だから、あのドラゴンにしても最悪、10mとかまで近づいて、オーバーロードチャージのゼロ距離ショットで、頭なり心臓部を吹き飛ばせばなんとかなると思うんだよね。

 

 戻るまで、色々と初霜ちゃんとシュミレートしてたから、攻略法は見えてきてる。


 戦訓を元に現場で武器を改良して、リトライする。

 これぞ、エスクロン流の未知の敵との戦い方……なのですよ。


「ああ、アンタがスターシスターズの天霧をふっ飛ばしたって話は聞いてるけど、あんな感じか。スザクの開発者がぶっ飛んでたらしいぜ。俺らの業界じゃもう、話題沸騰中! なんでも、連中あれを再現すべくスザクⅤなんてのを開発するつもりらしいぜ。でも、一体何と戦うつもりなんだかって言いたいところだが……実際に、あんな未知の脅威を目の当たりにすると、備えあれば憂いなしって思っちまうよな」


 そういや、一発でおしゃかにしちゃったアレの残骸。

 わざわざ本国からエンジニアさんがやって来て、大事そうに持って帰ってたのですよ。


「実戦では、信頼性にまさるものなしなのですよ! スザクって凄いんですよ? パワーチャージ率300%でも爆発しなかったんですから! 出来れば、あんな感じで溜め撃ちチャージショット撃てたら、良いんですけどね。そうすれば、硬い敵もパカーンと撃ち抜いてワンパンなのです!」


「おーい、皆……白鴉の主砲「穿うがち三式」の緊急改装案が来たぞ。現状、150%のパワーリミッターを倍の300%で撃てるようにいじっとけってよ!」


 え? 違う……。

 そうじゃないのですよ!


 けど、それくらいでないとキツイ気もするし……。

 やれるなら、お願いしちゃいたいところ。


「イヤッホォオオオーッ! 無茶振りキターッ! けど、いいですね! 硬いなら、溜めてぶち抜けチャージショット! なんと言うかロマンですなぁ……そうなるとF型ベースで行きますか。当社比三倍ってなると、弾速軽く二万超え……反動パネェからイナーシャルキャンセラーも寿命度外視で行かないと無理っしよ!」


「そうなると機体バランス調整も入れないとってなるから、作業工程ヤバいけど……70mmリニアが効かないんじゃ、これはしょうがないか。難敵相手、無理くり現場改装で乗り切る。まぁ、王道対応だな。イナーシャルキャンセラーは、こうなったらもう……並列二台のタンデムで積みましょうや! ログ見たか? 機体限界に対して全然容量が足りてねえんだよっ! パイロット殺すぞこんなじゃっ!」


「そうするか……確かにタンデムでないと機体もパイロットもヤバい。当然、稼働時間がますます減るけど、そこは今回は増槽の搭載と蓄電セルの大容量化で誤魔化すしかないな」


「……黒船フェイズ2……噂には聞いてたけど、かなりヤバいね。けど、うちらが居たのが運の尽きよね。おまけにエスクロンの守護女神と白い怪物実験機「白鴉」! あのアグレッサーのエース格の子達や、CEOの秘蔵っ子達も軽くバケモノだったけど、この子はそれ以上……! うちらってどんだけなのよー! モニターしてたけど、あれは人類の乗り物なのかって思ったわ……」


 女性エンジニアさん白目剥いてる……。 


 エンジニアさんの手元の端末にユリの空戦機動が再生されてるんだけど、ドラゴンの連撃避けながら、ギュンギュン凄い機動をしてる。


 こ、こんなだったんだ……。

 ドラゴンの機動も凄かったけど、ユリも大概だった。


 ちらっと横目で見ると、ウェポンラックからボロボロになった初霜ちゃんが引っ張り出されて、ストレッチャーに乗せられてる。


 ちなみに、初霜ちゃんは……。

 ウェポンラック内で、派手にシェイクされて、もはや大破レベルのダメージ受けてた。


 戻る途中、様子がおかしかったから、遠隔診断依頼したら、マシンドクターからドクターストップ宣言。

 スターシスターズの緊急修理とかさすがに解んないとかで、とりあえず安全地帯で安静にしててってなった。

 

 一応、ハーネスとかで身体固定してたし、エアバッグとかも入れてたはずなんだけど、気休めにもならなかったらしい。


 例えるなら、全速力の大型輸送トラックにドッカンドッカン撥ねられまくったようなもの……。

 

 よく……頑張ったと思うのですよ。

 

 と言うか……ごめんなさーいっ!


 さ、さらば! 戦友っ!

 あとで、アイス奢るのですよー!

 

「えっと……サブコンはどうしましょう。初霜ちゃんが代わりにやってくれてたんですけど、あの有様ですから……。一応、独力でも飛ばせるから、大丈夫ですけど!」


 あんまり大丈夫じゃないけど、そこは大丈夫って言っとくのですよ。

 フルマニュアルとか、大変そうだけど……やるしかないのです。


「……それは心配ない。実は志願者ならぬ志願AIが名乗り出てきててな。もうそろそろ、圧縮データ転送も終わるんじゃないかな? おーい、無事に機体に入れたなら返事してくれないか?」


『……転送シーケンス及び基幹プログラム展開完了いたしました。皆様、ご協力ありがとうございました。ユリコ様、水臭いですなぁ。戦地に赴くのであれば、この私に一声かけてくれれば、宇宙の彼方だろうが、よろこんで馳せ参じたというのに……』


 コクピットに響く、馴染みのあるイケボ機械音声。


「エ、エルトラン?!」


『はい。ご存知かもしれませんが、この私もエスクロン製AIの端くれでして……。同胞ネットワークにてユリコ様が戦場で戦っているとの話を聞きつけて、居ても立っても居られずかつてのツテを頼って、此度の戦……老骨ながら参戦志願させていただきました。よろしければ、ユリコ様の傍らでお手伝いをさせていただきたいと存じ上げます』


「……超頼もしいんだけど、これって問題ないのです? 白鴉って機密レベルマックス級なのですよ?」


 ぶっちゃけ白鴉の機密レベルは最高国家機密級。

 

 なにせ、たった一機で戦局を変えうる戦略級兵器指定されちゃってるくらい。

 

 重力機関ブースター載せれば、何気に宇宙戦闘機としても使えるから、エーテル空間を通常エンジンでカッ飛んで、ゲート剥き出しにしてあれば、そのまま通常宇宙へ。

 

 その上で、そのまま敵惑星に殴り込み……とか、古のシューティングゲームみたいなことも、理論上不可能じゃないのですよ。


 中継港のゲート施設をピンポイント爆撃でゲートむき出しにした上での直径50mの輪っかくぐりとか結構シビアな条件付きだけど……。


 要するにエーテル空間という緩衝地帯を無視して、敵対星系の中枢まで侵入できる。

 これはその気になれば、星系国家を瞬殺できると言う意味でもあるのですよ。


 まぁ、こんな技術が完成レベルまで行ってるってのは、絶対に公になってはいけない。

 最悪、全銀河を敵に回す可能性すらあるのですよ。

 

 そんな機体の管制AIともなると相応の格のAIでないと何かと問題になるんじゃ……。


「ああ、そこらへんは問題ないな。このエルトランって、エスクロンのAI社会でもトップクラスに有名なヤツなんだぜ。かつてのAI戦争の英雄の駆ったハイエンドバトルシップ……エトランゼ号の管制AI。……はっきり言って歴戦の強者だ。格で言えば、現役のAI共はどいつもこいつも拝み倒して道を開ける。そんな感じだろ?」


「いえいえ、私なぞ所詮は前時代の老兵……厚かましいとは思いましたが……。皆様むしろ歓迎いただき恐縮の限りです」


「謙遜すんなよ……ったく。最新鋭の重力圏下戦闘機にすんなり馴染んじまう辺り、並大抵のAIに出来る芸当じゃねぇぞ。聞けば、どこぞの田舎星系で余生を過ごしてらしいんだがな。アンタと縁があるから、助っ人として参戦させろって、ゴリ推ししてきやがったんだと。そう言う事なら、命を預ける相棒としては適任じゃないかな?」


「……なのですよ! エルトラン……機体慣熟は十分ですか? かなり癖の強い機体なので、簡単じゃないですよ?」


『はい、ユリコ様が来られるまでの間、時間圧縮シミュレーションにて、白鴉の慣熟訓練は完了しております。重力圏下戦闘機ともなると、さすがにエトランゼとはかなり勝手が違いましたが。私も成層圏空戦の実戦サポート経験くらいはありますからね。いつもどおり完璧なるサポートをお約束させていただきます。しかしまぁ、エスクロンの最新技術の粋……「白鴉」。なかなか荒削り、かつ無茶な機体ですな。これを御するの簡単ではありませんでした。しかしながら、AI戦争の頃より格段に技術も進歩しているようで……隔世の感がありますな』


「だろうな。なんせ、シミュレーション上では、こいつ一機でスターシスターズの空母空戦隊をまるごと相手取れる……いわばバケモノだからな。敵は鴉三機がかりでも足止めがやっとみたいだが。アンタと白鴉、エルトラン卿ならやってくれそうだな」


「……大丈夫なのですよ! じゃあ、三分以内に換装と補給、出撃準備をお願いします!」


「……ん? 三分……ちょっと待て! ああ、いい……やってやるさ! てめぇら! 気合い入れろ! ラストオーダーだ! 三分で仕上げろっ!」


「三分って! うぉおおおっ! アイサーっ!」


「ハードルいちいちエゲツねぇ! けど、それに応えてこそ、エスクロン特級エンジニアってもんだ! やってやる! やってやるぜーっ!」


 ……ちょっと無茶ぶりだったのですよ?

 メンテロボのさらなる追加増援がやって来て、もうユリの足元はワヤワヤになってる。


 どうも、本気で三分で仕上げるつもりみたいなのですよ。


 さすが、エスクロンエンジニア、最高精鋭チームなのですよ!

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― 新着の感想 ―
[一言] 最終決戦に向かう全力投入感がでていて、次回がとても楽しみになります。 BGMは何が似合うか悩みどころですが、やはりSW?
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