第五十四話「軍神の帰還」①
……考えてみたら、無人機バリの機体限界ギリギリの無茶な回避機動連発してた!
ユリはまだ大丈夫だったけど、初霜ちゃん、イナーシャルキャンセラーの範囲コクピット周りに集中とかこっそりやって、思いっきり自分を犠牲にしてたらしいのですよ! 後半、ちょっと楽になってたと思ったら、初霜ちゃんの犠牲の上で……だったのですよ!
うわ、うわ……ゴメンなさいなのですよーっ!
「とにかく、姉さんは一度下がって! そっちの機体コンディションくらい見れてるけど、燃料もないし、被弾してるし、パイロットダメージも洒落になってないじゃないっ! そんなボロボロの状態で、なんでまだ戦おうとしてるのさー!」
言われてみれば……。
ダーナちゃんの言う通り……状態としては、ベイルアウトも考慮するような状態。
「ダーナッ! 気をそらすな! 狙われてるぞ! やらせねーっ!」
ダーナちゃんが一瞬こっちに気を取られた隙に羽から細めのレーザーみたいなのが放たれるんだけど、ダゼルくんの牽制射でその狙いが逸らされたらしく、外れる。
レーザーの推定射線が出てるけど、結構際どかった。
……と言うか、レーザーまで装備してるとか! 近距離戦は駄目だね……これ。
それ以前に、ダゼルくんも半端ないな。
あのレーザー思いっきり初見だったのに、警告間に合ってるし。
「あっぶなー! レーザー装備とか聞いてないしっ!」
「……今の初見だったのですよ! 多分、そこまで接近してなかったから、使わなかったんじゃないかと」
「さすがね……。多分姉さんのことだから、無意識にレーザーの射程外から、削るに徹してたわけね」
……どうだろう、それは?
いずれにせよ、危ないところだったのは間違いない。
「……ひとまず、接近戦は避けたほうがいいかもな。レーザーの射程は約1kmもないようだな……。あまり性能は良くないみたいだな。もっとも、今のタイミングだとダーナも予備照射くらいはもらってるだろうから、気体温度の上昇に注意しろよ……エーテル空間は熱いみたいなだからな」
「ダゼルありー! って言うか、なんなのこいつ? 姉さんが苦戦する訳だよ……機動力とか半端ないし、武装もレーザーと荷電粒子砲に、プラズマグレネードの大規模範囲攻撃? こりゃまた、やっばいのがでてきたねぇ……。こんなの従来機じゃ刃が立たなかっただろうね! てめぇ、んなもん、当たるかーっ! コンニャロー! うりゃあああっ!」
続いて、荷電粒子砲がダーナ機を掠める……さすがっ! 今、撃たれる前に避けてたよ!
「やらせねぇって言ってんだろ! クソがっ!」
ダゼルが一気にドラゴンへ距離を詰めて、レールガンでの牽制射!
口から続けざまに荷電粒子砲を放とうととしてたんだけど、直撃を悟ってキャンセル。
一気に降下して、ダゼルの照準を外そうと複雑な機動を取る。
「はん! 当たるかどうかが解ってるってか! チョロチョロせずに、とっとと死ねや! コラッ!」
けど、ダゼルも容赦なく偏差射撃で狙い撃つ。
立て続けに、背中にヒット。
もう当てたよっ! ダゼルくん、スゴイ!
この子、何気に超勘いいんだよね……ワイルドな野生児って感じだけに!
けど、ドラゴンも痛痒を感じてないようにそのまま降下する。
もっとも、その先にはダーナが回り込んで、ビシバシ当てて行く。
ヤワそうなお腹狙ったみたいなんだけど、やっぱりあんまり効いてないっぽい。
でも、二人共すっごい……流れるような連携……やるなぁ……。
「ちっくしょう! 後ろから撃ってるのに、ほとんど避けやがった! 良い勘してやがるな! イチイチ避けんな! このクソトカゲ!」
「……何アレ? お腹ならヤワそうだと思ったのに、実際はくっそ硬いよ! ちょっと、これってなんなの? ドラグーン級とかってのに似てるけど、全然別物じゃないっ!」
「遥提督の話だと、フェイズ2……黒船の進化種のようです。見ての通り、機動力と防御力がバケモノです。攻撃力も荷電粒子砲を撃って来るので戦闘機程度では当たれば一撃です。攻撃パターンは直射で最大5秒のバースト単射、三連バースト射撃が確認されてます。あとは一発辺りの危害半径推定300mの広範囲プラズマグレネードみたいなのを10個くらいばら撒きます。この攻撃みたら、撃ち込んでキャンセルさせるか、一目散に上空退避で正解です。それと近距離ではレーザーも使うようです。接近戦はなるべく避けたほうがよさそうですね。詳細データ送ります」
「……データ受領。いいね! ここまで戦闘データ取れてるんだ……。ふぅん、限界高度は8000メートル程度……これって、上から攻めれば結構イケるって事じゃん。未知の敵も姉さんにかかれば丸裸だね! それによく見たら、味方潜航艦……水狼? バリバリの特務艦じゃん。こんなのいたんだ……よくこんな状況で生き延びてたね」
「ああ……よしよし、姉さんもちゃんと撤退コース行ってくれてるな。んじゃま、こっから先は俺達が相手だ!! てめぇら、直弟子の名に恥じねぇように気合い入れっぞ! つか、ケリー! お前も来いっ! 見てるだけとかザケンなよ!」
「……僕はバックアップのつもりなんだけどなぁ。観測データとか機動予測データもリアルタイムでそっちに送ってるし、援護もちまちま入れてるよ? それと水狼はどうも潜ってる限りは、ドラゴンの武装はほぼ効かないらしくて、基本的に無視してても構わないってさ。なんなら、ヘイト取って、盾役やってくれるって言ってるよ。さすが……こんな戦いに平然と割り込むって、うちの特務も半端ないね」
うーん、第三世代強化人間のトップクラスと、特務のエース級部隊とハルマ叔父さん。
超頼もしい人達揃い踏み。
これなら、安心してあとを任せられる……よね?
「……皆、気をつけて……ユリは必ず戻りますから!」
……未知の強敵。
装備も未熟で経験も少ない。
それでも、自信を持ってこの場を任せられる。
皆とは、その程度の信頼は培ってきたのですよ。
「ああ、この場は任された! 俺達はいかなる敵が相手でも決して怯んだりはしない! ダーナ姉さん! もいっかい、連携アタックいくぜっ! これ以上、姉さんの手をわずらわすまでもねぇ!」
「おっけーっ! 向こうも戸惑ってるのが解るし! こうなったら、ボクらが仕留めちゃおう! いっくよーっ!」
ダゼルくんとダーナがコンビネーションを組んで、凄まじい機動で立て続けにレールガンを放つと、ドラゴンも次々被弾していく。
と言うか、当てるのも難しいと思ってたのに、サラッと当ててるし。
ダゼルくん……カッコいい! ダーナちゃんもさすが!
ダメージは殆ど入ってないけど、二対一になった事で、ひとまず完全に主導権を奪って、攻撃を封殺できてる。
さっきまでは、防戦一方だったけど、むしろ押してる!
叔父さんも見てくれてるし、これなら、十分時間を稼いでくれそうだった。
やや距離をおいて、バックアップに徹してるケリー機にもデータ送信。
「やぁ、ユリコ姉さん。戦闘データ受領。僕が二人のフォローに徹するから、姉さんも、安心して下がって……ここは僕らに任せてくれると嬉しい。それにしてもさすが、いいデータ取ってくれてるね。敵の限界性能や装備情報をここまで引き出してくれたなら、先発機の役目としては十分だよ」
「まだやれると思うんですけど、余裕のあるうちに下がるのも宇宙戦では基本ですからね。それとゆっくり説明してる余裕がなさそうだったので、二人には言ってませんが。あのドラゴン……ユリを相手にするつもりで戦う……それくらいのつもりでいてください」
ユリがそう告げると、ケリーくんが絶句する。
「……まさか、そこまでの相手なのかい? それはつまり……ノールックでこっちの動きに反応したり、不意打ちなのに避けるとか、そんな感じ?」
「なのですよ。実際、正面、視界の範囲内からだと、まず攻撃が届きません。その代わり、気配を殺してノールックで撃つと当たったりしてたので、ユリと同等レベルの危機察知能力を持ってる可能性は高いです」
ユリだって、見えないところからとか、不意打ちもらったら、どうしょうもない。
あのドラゴンもそこら辺の事情は一緒だと思うのですよ。
「心得た……。一応、その前提で観察して、後方支援群にも情報共有するよ。脅威ランクとしては、過去最高レベルのSSSって銀河連合軍からも通達があったようだからね。ユリコ姉さん、貴重な情報ありがとう。あとは僕らに任せて、後方で見守っててよ……うしろで姉さんが控えてるとなると、僕らもそれだけで安心して戦えるからさ」
「駄目ですよ。ユリも、すぐに戻るのです。ここは、皆と一緒に力を合わせて戦うのです」
「うん、姉さんならそう言うと思ったよ。けど、無理しない。いくら姉さんでも不死身じゃないんだし、危ない事は僕らが引き受けるからさ。とにかく、大人しく下がってくれてありがとう……正直、ここに来るまで戦況モニターしてて、皆気が気がじゃなかったんだよ……間に合ってよかった」
「こっちこそ、助けに来てくれて、ありがとうなのですよ! 最高のタイミングだったから、超嬉しかった! あとで、皆まとめてチューするですよ!」
「……え? それまじ? ……ご、ごめんっ! 僕も前に出るよっ! それじゃっ!」
ケリーくんも飛び出していく。
ダゼルとダーナがアタッカー、ケリーくんがバックアッパー。
昔と一緒なのですよ。
あの三人まとめて相手だと、ユリでも苦戦する。
フランちゃんも入れて、四人がかりとかなると、もうイジメ……。
けど、ケリーくん……ほっぺにチューなんて、もう何度もしてるのに……。
照れちゃって、可愛いのですよ。
「……おいおいおい。ちょっとまて! なんなんだ……こいつら? 軽くニュータイプ級の超反応キメるよう奴らが三人もだと……? それに機体性能も半端ないぞ……。なぁ、エスクロンってのは一体何と戦うつもりだったんだ? どうやったら、こんなバケモノ共をぞろぞろと量産出来るんだよ!」
遥提督……言い方。
と言うか、第三世代強化人間も定期アップデートでこつこつ改修してるから、基礎スペックに関しては、ユリも含めて割と横並びなのですよ。
三人が駆ってるのは、デチューン量産機だから、一対一ならハイエンド機の白鴉に乗ってるユリが有利だけど、三人いれば戦力比としては軽く10倍くらいのはず。
いちいち大騒ぎするようなものでもないと思うのですよ。
「……皆、ユリの自慢の戦友なのですよ。遥提督……これより、クスノキ特別少佐は、補給と損傷補修のため、戦線離脱します。許可を願います」
「あ、ああ、これならなんとかなるな。一応、奴らはアタシが仕切ってもいいんだよな?」
「大丈夫なのですよ。皆、腕利きだから、上手く連携もできるはずです。後はよろしくなのです!」
「おつかれさん! ははっ……さすがに、あのレベルに三人も雁首並べられたら、アタシの出る幕じゃないかも知れないが……後は任せろ!」
遥提督に見送られて、こっちは一時撤退……戦線離脱を開始する。
コネクト要請が飛んでくるので、受領。
仮装空母「アドラステア」……皆の母艦みたいなのですよ。
距離500km……音速で20分くらいの距離だから、かなり近くまで進出してるらしい。
巡航のマッハ2なら10分程度の距離……こんな近くまで母艦出してていいのかな?
けど、母艦が近いほうが飛んでる側としては、落ち着く。
着艦誘導プロセス開始……自動化してるみたいで、ガイド・ビーコンに呼応して、機体側に自動着艦プラグインがダウンロードされ、勝手に機体が遠隔操作され始める。
……母艦誘導に乗ったし、安全圏まで退避できたみたいなので、省燃費巡航モードへと移行。
可変翼も空気抵抗最小化モードへ移行。
表面円滑化により、風切り音も低くなった……。
各種シールドや隠蔽システムもオフ。
……皆と違って、こっちは簡易フライトスーツだから、ちょっと暑い。
コクピット環境……気温70度とかなってるけど、クーラー最強……涼しくなってきたし、気密状態も問題なし、メットも脱いでお団子にしてた髪も解く……うぁ、髪もビチョビチョだ。
ついでにハンカチで顔を吹くと、カピカピになってた鼻血が顔からペリッと剥がれてく。
ユリは強化人間だけど、血も涙もあるのですよ。
他の問題箇所は……ありゃ、左目のフォーカスが合わない。
なんか視界が霞むし、時々視界にノイズが入ると思ったら、度重なる過重Gで眼球ユニットに軽微の損傷が出てるみたい。
なんか、軽く頭痛がすると思ったら、これかぁ……。
応急処置実施……大丈夫、この程度なら問題ない。
パイロットに必要なこと……オンオフ切り替えをしっかりやる。
そして、戦場だろうが、休める機会があるなら遠慮なく休む。
オートパイロットでの母艦誘導中なんて、絶好のサボりチャンスなのですよ。
最低限の周辺警戒だけやって、グローブも脱いで、パイロットスーツの胸元もはだけて、なるべく楽な格好になる……案の定、胸とか血腫だらけ……。
うわ、手の甲とかも酷い……。
そのうち消えるだろうけど、やっぱインナーグローブくらいは付けとこう。
危なっかしいエーテル空間で素肌晒すとか、生身の人間だったらかなり危険だけど、ユリならそんなに問題にならない。
……塹壕籠もって制圧爆撃中とかも、やること無いからお昼寝タイムだったけど、アレに比べたらこんなの全然、快適なのですよ。
ついでに、パイロットスーツの給水システムでドリンクを飲む。
初陣明けとか、食べ物も飲み物もとても喉通らないって聞いてたけど、喉からからだったから、冷たくて超美味しい!
初霜ちゃんが静かだけど、ウェポンラックが熱々になったら、武器が変形したり、爆発したりしかねないから、ちゃんと冷却システムもある……たぶん、サウナ状態にはなってない。
察したように、ご心配なくー! とか、テキストメッセージが返ってくる。
前方から、巨大芋虫みたいな変なのが来る……と思ったら、フレンドタグ。
高速巡洋艦アスクレピオス。
またぞろ、知らない兵器登場! なのですよ!




