第五十三話「ドラゴンバスター」⑤
スペシャルズ艦隊は……仲間の皆なのは確定。
編成については、どうにもよく解んないけど、多分ワザとぼかしてるっぽいのでそのまま。
水狼については、潜航艦って時点で、空飛ぶ敵とは相性悪いし、基本的には非戦闘艦。
あくまで情報収集が主任務の支援艦艇……武装としては、一応VLS式ウェポンパッケージコンテナを32発ワンセット搭載してて、対地対空兼用の光学誘導弾を積んでるみたい。
ただ、実弾ミサイル系兵器がアレにどこまで役に立つかってなると、微妙。
と言うか、無理しないで欲しいな。
「君らんとこはデータも実績も無いから、戦力評価のしようもないな。もっとも、君の仲間って時点で只者じゃないだろうし、実験機でそんなバケモノみたいな戦闘機が出来てるとなると、その有人機は先行量産試作機ってところか。無人機は……量産機レベルだとすれば、そっちがむしろ本命か? ジェットタイプの超音速機で無人ってなると機動力なら十分勝負になりそうだな」
「……ユリは、その辺りの詳細情報持ってないのですよ」
「まぁ、そりゃそうか。ただ、空の敵相手となると、機体性能的に主攻はそっち頼みになりそうだ。まぁ、長丁場も想定されるから、空母随伴で君らの機体の補給とか考えなくて良いってのは、こっちには好都合だよ。なにせ、そんな規格外の機体……こっちの空母に緊急着艦とかされてもどうにもならん。そもそも、スターシスターズ艦は、ジェット機の運用なんて想定してないからね。大きさだって、ゼロの軽く倍はあるみたいじゃないか……君等、その機体をこっちに回す気ゼロだったんだろ?」
「まぁ、あくまで実験段階ですからね……。スターシスターズ艦やそのテクノロジーの延長ではなく、現代の技術をフルに投入したエーテル空間戦闘兵器の開発実験と言ったところですね。自分達の安全保障は自分達でやる……そんなの当たり前のことだと思うんで、異論はないと思いますけど」
「……エーテル空間は絶対中立ってのが建前だし、その当たり前を許すと銀河連合の秩序自体がが崩壊するんだがね」
「え? そうなんですか……じゃあ、今のは無しで」
「ああ、聞かなかったことにするよ。ただまぁ、君らの本音はそれなんだろうね。エーテル空間の守りはアタシら銀河連合軍だけに任せては置けない……。実際、戦場ではスターシスターズや再現体頼み、兵器開発すらままならない……銀河連合ってのは自分達の力で戦おうともしない惰弱な集団だと思われてるんだろうな」
「……否定はしないですね。だからこそ、私達は介入するんですよ……。もっとも、評議会はエスクロンを止めたくて仕方がないようですね……。けど、強い者が台頭しそうだからと言って、弱者が寄ってたかって足を引っ張るってのはどうなんでしょうね?」
「それも幾度となく繰り返された歴史のひとつさ……。願わくば、君達のその牙が銀河の同胞を食い破る……そんな事にならない事を祈るのみさ。まぁ、羊の群れが獅子を御し得るはずがない……それも事実だ。本来は羊が獅子の領域に立ち並ぶべき……なんだろうな。しかしまぁ、全くのゼロベースで、空母と艦載機をいきなり作ってるとか、やることがイチイチ半端ないな」
「まぁ、海上空母とかエスクロンでも使ってませんけど、割と最近まで宇宙空母とか現役でしたからね。その辺の技術流用ですし、空母なんて基本ドンガラ船だから、いくらでも作れると思うんですけどね……。白鴉も基本的に宇宙戦闘機の設計を流用してるそうですから、開発期間自体はかなり短いですね。おかげで、ユリも空母着艦とか実機でやったことないんですよねー。あはは……」
「ちょっと待て! サラッと言うな! そこ超大事! 着艦テストもまだって、泥縄もいいとこだろ……! ぶっつけ本番で空母着艦を決めるってのか!」
「まぁ、そうなりますね。大丈夫ですよ……オーバーランしても、電磁キャプチャーの投網で無理やり回収とか出来るんで、問題ないですよ。宇宙空母の着艦とかそんな感じじゃないですか」
最悪、宇宙空母方式で失速寸前でギリギリまで寄って、電磁キャプチャーでひっ捕まえるって方法でもなんとかなると思うのですよ。
その手のノウハウならエスクロンは十分持ってる……エーテル空間でどこまで通用するかが問題なんだけど。
片道切符状態で、有人機実戦投入するほど、エスクロンの技術者も馬鹿じゃないから、そこは心配なさそう。
「……まぁ、無重力の宇宙じゃ甲板に着艦とかむしろ曲芸だしな。アタシらの頃も母艦帰還時には、カーボンワイヤーネットで引っ掛けて、パイロットだけ先に回収とかそんなだったな……。そう考えると、合理的ではあるのか」
「ご心配なく……なんとかなりますよ。細かいことは気にしない……。アレも足りない、コレもない。それでもやるしかない。実戦なんてそんなものでしょう? 一応、宇宙戦闘で洗練された技術を応用してるから、そんなクリティカルな問題なんて起きませんって……」
「解っちゃいるけど、アタシですら不安になってくるよ。実際問題……戦闘機隊も三桁くらい来援来そうだから、派手にやられるだろうが、フッドなんかもいるからギリギリなんとかなるだろうさ。ちょっとド派手にやられる覚悟が必要かもしれないけどね」
「……えっと、こっちの試算だと無策で挑んだ場合、損耗率7割8割は覚悟すべき……なんて言ってますけど、ちょっとド派手にとかそんなレベルじゃないんじゃ……」
ユリと遥提督の会話をモニターして、後方で試算してくれたらしい。
数値的には、壊滅的被害……そんな感じなのですよ……。
軽く全滅って言うのですよ……それっ!
「やはり、そんなものか。まぁ、逆を言えば、2割、3割くらいは生き残るってことだろう? 再現体の乗った旗艦さえ沈まなきゃ、スターシスターズ艦自体はいくら沈んでも問題ない。幸いデフコン2だからな……援軍も呼べばいくらでも来る。最悪、コイツほったらかしてアタシらがさっさと撤退したって、問題はないんだよ……。数日もすれば、全軍集結くらいの勢いで戦力も揃うだろうからね……それがアタシらの強みだ。そう言う訳だから、君もエスクロンもここでこのまま引き上げてもらっても一向に構わない。それは恥でもなんでも無いさ」
いやいやいや、問題大アリだと思うよー?
……たった一匹で遥さんとユリを翻弄するようなバケモノ。
そりゃ、ユリは初陣の新兵ちゃんで、いきなりこんなギリギリとかちょっと自信なくしかけてるけど……。
けど、こんなバケモノを後続の増援部隊に押し付けて、数任せで落とすって……。
まぁ、戦略としては間違ってないけど、ここは踏ん張りどころだと思うな!
実際、エスクロン側からは撤退の指示は出てない。
なにせ、これは銀河連合軍にエスクロンの技術力と戦力をアピールする絶好の機会。
多分、上の方ではそう言う判断が下ってるはず。
と言うか、スターシスターズのレシプロ機であんなの相手なんて、三桁いたって無理!
もう薙ぎ払えで一掃される未来しか見えない……。
「いやぁ、そう言うわけにはいきませんって……。ここで退くとかありえませんからねー!」
「解った……でも、気をつけろ。プラズマ雲の下にいるから安心してるようだが、どうも大凡の位置を捕捉されているみたいだ……。ドラグーンは君の真上付近を定点周回機動で旋回中……何で索敵されてる解らないからな。パワーを絞って、音も消した上でなるべく低空をまっすぐ飛びながら、時々ランダム機動も入れるんだ……。こちらからも牽制射を撃つ。その隙に逃げろ!」
遥提督からの警告。
ユリの方にも映像が転送されてるんだけど、分厚いプラズマ雲の上でグルグル回ってる。
上空に意識を向ける……こちらも捕捉。
「存外わかりやすいね……これならっ!」
と思ったら、感づかれた! 殺気がこっちに向いたのが解る!
失敗した……プラズマ雲の下に潜ってたのに、正確な射撃が三連射で襲いかかってくるのが解る!
一発、二発目は回避成功! こっちの反応速度が上回ってた。
けど三発目……正確な偏差射撃。
機体に衝撃……掠めたようで、翼の先端部破損及び異常加熱警報……。
「……ッ!」
あっぶな! あっぶなーっ! 超耐熱性の新素材だったから、持ったようなもの。
直撃もらったらとか、考えたくないのですっ!
「だ、大丈夫かい? 今、モロに当たったように見えたんだが……」
「気のせいです! 心配ごむよーっ! 逃げます! 逃げますよーっ! 援護お願いしますっ!」
危ない危ない……変に心配させると、また追い出されちゃう。
被弾箇所は一見問題なさそうだけど、熱伝導でみるまに機体温度が危険域に……ダメージ・コントロール……緊急機体冷却システム起動。
高熱のエーテル空間でも効率よく放熱出来るように、機体各所に網目のように張り巡らされたヒートパイプで効率よく熱を機体各所へ分散、それでも放熱しきれない分はヒートシンクを兼ねた放熱翼へ集中させる。
正面から見るとX字状に見える放熱翼を出すと、機体温度もすぐに下がっていく。
デメリットとしては、放熱翼はフラクタル構造なので、実質表面積はかなり広い。
当然、空気抵抗が一気に増えるので、速力が落ちて、機動力も激減する。
他にも熱反応の増大で見つかりやすくなるって問題もあるのですよ。
もっとも、この辺は宇宙に比べたら、全然楽。
宇宙は真空だから、熱処理ともなると、熱を冷却剤に移してバシューって放出する感じ。
当然、冷却剤が尽きたら、オーバーヒートが待っている。
それより今はとにかく、まっすぐ飛んで距離を取る!
こんな加熱状態で機動空戦とか冗談じゃない。
もっとも、追われても余裕でふりきれるってのは空戦では、圧倒的に有利!
数発ほどのドラゴンの荷電粒子砲を軽く避けきって、一気に距離を離す。
こっちも不意打ちでもなければ、そう簡単には当たらないのですよ?
それにしてもさすが、エリコお姉さまの作品……。
エーテル空間の超音速機ともなると、熱処理が重要になるってのを解ってて、ここまで高度な空冷式熱処理システムを組んでたとか、相変わらずソツがないのですよ。
「……一瞬たりとも油断出来ないって解ったろ? 油断してると君だってあっさり死ぬぞ。しかし、やはりプラズマ雲も関係なしで捕捉するのか。駆逐種の時もそうだったけど、どうにも索敵方法がよく解らんのよな……アイツら」
「ユリは油断なんかしてません! 今のはうっかり不用意に注意を向けちゃったから……。ううっ! でも、こんな防戦一方なんて……くやじいっ! 初霜ちゃん、相手の機動予測とか出来ませんか? 無策で戦っててもジリ貧なのですよっ!」
白鴉も大概チート機なのに、それでもおっつかないって、どゆこと?
何より、相手に当たらないし、当たってもあんまり効かないとか……。
ついでに、プラズマ雲越しに平然と撃ち抜いてくるとか意味が解んない。
あれって、ユリの専売特許じゃなかったのです?
何このチート! こんなんけしかけるとか、クリーヴァやりすぎなのですよ!
って言うか、エベレスト……何かもう傾いて沈みかけてるし! 護衛艦もどれもボロボロ……。
でも、もうしらないっ! ユリは悪くないっ! 止め刺さないだけありがたいと思え!
「……も、もうしばらくお待ち下さい。今、天霧さんと共同して、観測データを取ってます……。いけない、もう追いつかれてますよ……来ます!」
初霜ちゃんの警告! けど、今のはなんとなく解った!
言われるよりも早く放熱翼は収納済み……一気に加速して、回避!
荷電粒子砲の残留プラズマがかなり後方でキラキラ輝く。
ムカムカッ……やられっぱなしでいられないのですよ!
そのまま、カウンターアタックを仕掛ける!
その場で、逆噴射で急減速をかけて、オーバーシュート!
逆噴射スラスターのベクトル操作で、瞬時に機首を真上にいるドラゴンに向けて、プラズマ雲越しに単発砲撃っ!
「これでどうっ?」
「あそこから反撃して当てただとっ? 思いっきり腹にヒット……こいつは傑作だ……思いっきりくの字になってたぞ! けど、そうやって衝撃を逃して、シールド形成して逸したのか? 残念ながら、風穴を開けるほどじゃなかったようだ……」
……半ば盲撃ちだったけど、当たったらしい。
名付けて、びっくりバーチカルスピンショット……VRシミュレーションではこの手で幾隻ものスターシスターズを葬ってきたのですよ……ふっふっふーっ。
普通に考えて、オーバーシュートさせた航空機がいきなり真上とか真下向いて、撃ってきたりとかしない。
皆、大抵そうやって油断するから、そこへドカンと当てる裏技なのですよ。
もっとも、縦向きのスピンショットとか流石に無茶だったらしく、そのまま機体がグルングルン回ってるけど、エンジンパワーやサイドスラスターを調整して、すぐに止める……おお、視界がグルグルしてるよ。
ワンパン決めた所で、次は追い打ち!
機体が上向きになった瞬間を狙って一気に加速して、プラズマ雲の隙間を抜けて一気に上昇!
スピン&ファイアで牽制射を混ぜつつ、ドラゴンの上に回り込む。
空戦の基本……相手の上を取る。
理由は簡単……重力圏下では上に登るほうが、下るよりしんどいから。
下降時に速力に重力加速度を足せるってのは、案外馬鹿にできないのですよ。
もっともエーテル空間って、上空登るとプラズマ雲が殆どないから、遮蔽物無しで戦うことになるし、艦艇からの支援が届きにくくなるから、キツイんだけど。
それでもやっぱり、基本は上を取る……なのですよ。
ドラゴンも、やっぱりそれなりの重量があるようで、上昇時には重力に引っ張られて、動きが重くなるし、下降時は行き過ぎるような挙動を示すこともあるようだった。
この重たいものが動きにくいってのは、宇宙のような無重力空間でも適用されるから、大きくて重いは機動力も低くなるのは、当たり前。
これは如何に化け物じみた加速が可能でも、どうすることも出来ない物理の法則なのですよ!
だから、上昇下降を繰り返して上下に揺さぶりをかけるってのが、有効だと思ったんだけど。
やっぱり、それなりに効いてるらしい……見るからに動きが鈍い。
エンジンカットで機体方向を斜め後ろに向けて、再度砲撃!
ちらっとこっち見て、力場っぽいのを生成、また逸れる。
あ、解った!
……砲弾目視して、バリア張ってとか、そんななんだ……これ。
目視不可のプラズマ雲越しとかだとさっきみたいに、クリーンヒットしたりするのは多分そう言うわけなんだろう。
ドラゴンも加速! 上を取られていることでの不利を悟ったのか一気に急降下して振り切るつもりらしい!
……無駄なことを。
こっちもそのまま、上昇姿勢でエンジンカット。
自由落下状態になる直前に機首を真下に向けて加速して、追撃っ!




