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宇宙(そら)きゃんっ! 私、ぼっち女子高生だったんだけど、転校先で惑星降下アウトドア始めたら、女の子にモテモテになりました!  作者: MITT


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第五十二話「エスクロンの守護女神」③

「た、確かに……現状相手は気づいていないし、その可能性すら考慮していない。確かにこの状況では、その方法が一番です……。けど、なるべく犠牲は出すべきでないと提督からも言われてますし……。あの……沈めずに無力化は出来ませんか?」


 ……なに、言ってんの?

 

 沈めずに無力化って……エーテル空間の戦闘って、ユリも経験ないけど。

 そんな甘いこと言ってて、生き残れるようなものなのです?


「沈めずに……ですか。出来なくもないけど、確実性が無いのですよ。沈めるだけなら、あんな大口径砲に次弾装填済みなら、砲塔基部を狙撃するか、砲口に砲弾放り込めば一発なのですよ。艦の重心点で砲弾が吹き飛んだら、普通に半分になってあっという間に沈みます。要するにあんなの軽くワンパンなのですよ。けど、犠牲を最小限にするために沈めないとなると……かなり、無茶言ってますよ、それ」


 一撃必殺ってなると多分、それが一番早い。

 

 大口径実弾兵器が宇宙空間戦で使えないのは、宇宙のスケールだと、弾速がレールガンでも話にならないくらい遅いのもあるけど。

 

 砲塔と砲弾が大型艦船にとっても、そのまま弱点になるからなのですよ。


 実際、AI戦争で大口径実体弾砲積んだ、5kmくらいあるような宇宙要塞が出てきたんだけど。

 その宇宙要塞は、たった一隻の小型艦の肉薄攻撃であっさり爆沈したのですよ。

 

 その時もやっぱり砲口めがけて、たった一発のレールガン投げ込み。

 それだけで砲弾が誘爆して、砲弾をストックしてた弾薬庫まで火が回って、あっさり吹っ飛んだ。


 やった方も、まさか一撃で終わるとは思わなかったみたいなんだけど、大口径砲の危険性を認識させるには十分だったのですよ。

 

 なので、エスクロンも大戦以降、大型戦艦とか作っても、実体弾兵器としては、中口径や小口径を数揃えて、火力が必要な時は、亜光速機動爆雷を使うって運用に切り替えてる。

 

 クリーヴァの人達は、当然エスクロンのそんな戦訓なんて知らないから、こんな馬鹿みたいなのを作っちゃったんだろうね。


「……そ、そんなあっさり……? けど、確かにその方法が一番合理的ですね……。じゃなくてっ! それ以外の方法はないのですか? あれ……人が乗ってるんですよ! その辺、解って言ってます?」


 ……イマイチ、初霜ちゃんの言いたいことが解らない。

 人が乗ってるから、なんなんだろ?


 クリーヴァの航宙艦も戦闘機も基本的に有人運用だって話はユリだって知ってる。


「無人艦じゃないのなら、人くらい乗ってる……そりゃ、解ります。確かに沈めば乗ってる人は死ぬと思いますけど、それが何か問題あるのです? クリーヴァの人達はエスクロンの人でも無ければ、友好国の人でもないですし、皆軍人なんですよね? それで、死なせちゃいけない理由があるのです?」


 それだけ言うと、初霜ちゃんが絶句する。

 いや、戦争で敵国の軍人殺すなって……そんな聖人君子みたいな真似、出来る人なんているの?

 

「いやいや、敵国の人だって同じ人間じゃないんですか? わたしは人間ではないですし、これまでの戦いで誰かを死なせたことがないとは言えませんけど。もう少し……その……。普通は躊躇ったりするものではないのですか? 永友提督も降伏した人を助けたりするのは、当たり前だって言ってましたし、敵も味方も犠牲は最小限にっていつも言ってますよ」


「そりゃ、降伏したり、助けてーって言ってる人は助けますよ? 国際条約があるので、そんなの当然じゃないですか。でも、あのエベレストに乗ってる人たちは、変な薬キメちゃってるし、殺る気満々です。この溢れんばかりの殺意が解らないのです? 戦場で相手に殺意を向ける以上は自分が殺されても文句なんて言えないのですよ」


 殺意を向ける相手は敵だから、一秒でも早く殺す。

 そうしないと、自分や仲間が殺される。


 そんなの戦場の常識。

 ユリはそうやって、これまで生き延びてきてるのですよ。


 相手が死ぬかも、死なせちゃいけないとか、そんな事考えながら戦うとか……。


 そんな事に意識を取られてたら、どうなるかなんて、結果は見えてる。


 ……死ぬのは自分。


 だから、戦場で相対した敵は、迷わず殺す。

 撃たれたら、撃ち返す……撃たれる前に撃つ。

 

 そこには余計な疑問や個人の思いを挟む余地なんて無い。


 永友提督さんは、戦争のない時代の人だから、なるべく犠牲のない戦争を……なんて、考えを持ってるのかも知れないけど。


 現場の最前線で戦ってきた初霜ちゃんまで、そんな甘い考えでどうするの?


 ……けど、それでなんで、常勝無敗なんて出来てるんだろ。


 ああ……そっか。


 スターシスターズの子達って、あくまで黒船を相手にするって想定なんだっけ。


 人間の相手ってなると必然的にこうなっちゃうのか……。

 ……これはユリの判断ミスだ。

 

 人間相手の戦場に、人間相手に戦い慣れてないコを連れてきた時点で失敗……。

 そう言うことなのですよ。


「……う、上手く言えませんけど。とにかく、問答無用で皆殺しはやめましょう! お願いします!」


 ユリとしては、ここは問答無用でドッカンと吹き飛んでもらうべきって考えが正しいと思うんだけど。


 初霜ちゃんは、そこは譲れないみたい……そうなると、こっちが妥協するしかないのですよ。


「わ、解ったのですよ……。でも、沈めず無力化となると……次点でジェネレーター狙いかな。ただ、あの大きさだと一台だけってこともないし、蓄電セルも大きいのを積んでると思うので、一撃で無力化とかやっぱり無理ですよ。ボイラー狙いで水蒸気爆発誘発できれば、被害甚大になるけど……それだと余裕でいっぱい死にます。正直、一撃必殺と大差ないです。要するに相手の被害に比例して、多くの人が死ぬ……そう思っていいでしょう」


「……それは解ります。わたしだって、戦闘艦艇を自在に操って戦うスターシスターズの一員ですから。けど、わたし達は人を守ると言うのを第一義に作られてるんです。その守るべき人を撃てって言われると、どうしても躊躇ってしまう。ユリコさんにはそう言うのがないってのは解るんですけど……。そこをなんとか、なりませんか?」


 ……初霜ちゃんの思いは解る。


 人を守るため……それがこの子達の存在意義。


 ただ、その「人の定義」の範囲がこの子達は、銀河人類全部ってなってるんだろうね。

 そこは解る……銀河連合軍なんだから。


 ユリ達エスクロン人とは、そこからしてもう違う。

 

 だから、ユリは初霜ちゃんの考えが良く解らない。


 ……と言うか、内乱鎮圧や味方の造反を想定してない銀河連合軍の体制に問題があるんだよね……。

 スターシスターズにしても、そんな、あらゆる人を守る……なんて、基礎論理なんて持ってると、その人同士が争い始めたら、もうその時点で躓く。

 

 だからこそ、星間国家間の争いとかには首を突っ込まないって暗黙のルールがあった……そう言う考え方もある。

 

 ……多分、この話は何処まで行っても平行線……。

 お互い価値観が根本的な部分で違うのだから、交わる事は決してない。


 けど、こう言うときにどうするかってのは、解る。


 相手の価値観を変えるとか、自分の価値観を押し付けるとか、そう言うことはしちゃ駄目なのです。


 相手の価値観を理解し、譲れる所と譲れない所を明白にする。

 その上で、お互い妥協出来る結論を出す……これがエスクロン流の交渉術なのですよ。


 ここで議論になってるのは、エベレストを問答無用で沈めるか、最小の犠牲での他の攻略法を見出すか。


 最善案が駄目なら、次善プラン。

 まぁ、そうなると一緒に考えようってのがベストだよね。


 もっとも今の所、どう考えても誘爆狙いで一撃必殺以外の選択肢なんて無い。


 あの大きさだと、白鴉のメインウェポンの70mmレールガン程度じゃ、他の何処を撃っても大して効かない。


 ジェネレーター周りも一応弱点だとは思うけど。

 砲が生きてる限り、ドンドン撃たれて火山の噴火口みたいになりそうだし、なにより一撃で潰せないと天霧も吹き飛ぶ……。


 遥提督もこの有様はなに?

 堂々と姿見せた上で拳銃突きつけあって睨み合いとか、そんな状況にした時点でもう失策は明らか。


 銀河連合軍に堂々と歯向かう訳がないとか思って、調子乗ってたとかそんなだったんじゃないの?

 ……そう言うのって、想定が甘いっていうのですよ。

  

 端的に言って、今の状況はキツい。

 このキツい状況下で誰も犠牲を出さずに、事態を収められたら、それは理想だと思うけど。

 失敗したら、かなりの犠牲が出てしまう……上手くやれていたら、死なずに済んだ人達が。

 

 ……戦場で優先すべきは、戦略目標を達成する事もだけど、味方の損害を増やさない事。


 冷徹な言い方だと「効率よく味方を死なせる指揮官こそ名将と呼ばれる」……そんな言葉だってある。

 一人を犠牲に百人、千人を救うって考えだってありだ……要するに優先順位を付けるのですよ。

 

 そうやって、考えると敵の兵隊の命なんて、優先順位としては最下位、ワースト、圏外でいいくらい。

 

 運良く生き残ってた人を助けるとか、降伏して助けを求められた時点で助けるとか、そんな程度の扱いで良いと思うのですよ。


 ……でもまぁ、それはユリ達の感覚だから、それを初霜ちゃんに押し付けるのはない。

 

 でも今回は……無慈悲にエベレストを一撃で沈めるのが最善……。

 ここはそれを正直に言って、納得してもらうしか……ないのかな?

 

「……ごめん。色々考えてみたけど、他にいいアイデアは浮かばないのです。初霜ちゃんこそ、なにかない? 要するにあの大砲を無力化して、副砲の一斉砲撃を止められるなら、何でも良いんだけど。こっちの武器は70mmリニア、敵の意識外の一撃を放てる。この条件で何処まで出来るか……そう言う話なんですよ」


「大砲を無力化した上で、遥提督を撃たせない……この時点で目標がふたつ……これは同時に達成する必要がある。いえ、犠牲を最小と言う条件を付与すると三つ……。それをたった一発の砲弾でまとめて解決……確かに、かなりの無理を言ってます……ね」


 無茶振り……なのですよ。

 一発の砲弾で出来ることは、ひとつ。


 あれやこれやって欲張っても、全部取りこぼす……なんて結果にもなりかねない。

 

「そうなのですよ。こう言う時は……優先順を付けるべきなんです。最優先とすべきは民間船団への攻撃を防ぐこと。それに対しては、大砲の破壊。それさえ出来れば、その時点で民間船団を攻撃するすべが失われますから、そこは納得してもらえると思います。後の二つは……遥提督は軍人ですし、最悪切り捨てるという選択もありですし。敵の命も同様……これがユリの考えです」


「……冷徹なんですね。けど、解ります。解るんですけど……」


「宇宙では……何かを切り捨てないと皆、死んでしまう……そんな状況だって発生します。現状、全ては救えません……そこは解ってください」


 それだけ言うと、初霜ちゃんも俯いて押し黙る。

 記憶操作の上で、現実だと思い込んだVR訓練でも実際にそう言うのを経験したことがある。


 外宇宙圏での亜光速航行中、遭難者と遭遇。

 けれど、帰路につく途中で酸素還元システムが故障。


 予定外の員数、救出のためのコース変更。

 誰かを切り捨てないと、酸素不足で全滅が確定する。


 そんな状況シミュレーション。


 ユリが取った方法は、人員に優先度を付けて優先度の低い人達の切り捨て。

 まぁ、結局土壇場で自分も切り捨てられる側に回って、デッドエンド……だったんだけどね。


 とりあえず、起きるなり施行責任者にビンタかまして、大泣きした。

 実際にはやりたくないけど、起きうる話だなとは思った。


「はい。ユリコちゃん……そんな風に理詰めで追い込まない……冷たい方程式……だったかな? その議論、アタシも混ぜてくれよ。アタシはその最悪、切り捨てられる側なんだからさ。まぁ、それについては文句なんて無いけどね」


「……は、遥提督! すみません……聞いてたんですね」


「まぁね……結局、君は来ちゃったんだね。一応……ようこそ戦場にって言わせてもらうよ」


 不機嫌そうな遥提督からの直接双方向通信。

 あれ? これって不味くない?


「ちょっと初霜ちゃん! 直接リアルタイム通信とかダメダメなのですよ!」


「ああ、ステルス機相手に双方向通信とか居場所がバレるって話だろ? 実はこの通信……初霜と天霧の共鳴通信と言う独自通信機能に相乗りする形で行ってるんだ。これはいわば点と点同士で繋がる……そんな未知のテクノロジーの通信システムなんだ」


 チラッと初霜ちゃんの様子を見ると関心したように知らなかったーみたいな様子で、聞き入ってる。

 まぁ、ユリも自分の身体の機能とか理屈……全部把握とかしてないし、解るような気はするよ。


「君の白鴉についてだが、観測可能ないかなる手段を用いても現時点では居場所の特定は不可能だ……まったく、音すらも逆位相フィールドでかき消して、音響探査すらほぼ無効にするとは、とんでもない機体だな。君達は、エーテル空間の戦争の針を何年分進める気なんだい?」


 うん、白鴉ってのはそう言う機体。

 

 コンセプト的には、一撃離脱型の超遠距離狙撃機。


 武装はシンプルに70mmリニアキャノンと40mm対空レーザー二門だけ。

 ステルス機能で隠蔽状態で相手に気付かれる前に、超高速で忍び寄って一発撃って反転離脱。


 大気圏ジェット戦闘機では必然的に発生する爆音すらも、逆位相音響フィールドでほぼ無音にすることで、音響探査すらも利かない……まぁ、さすがにゼロには出来ないんだけど、最小限には出来る。


 高性能集音器使って、ノイズパターン分析を繰り返せば、おおよその居場所は割れると思うけど……デビュー戦でいきなり発見される可能性はまずないと思う。

 

 エンジンフルパワーとかやると、さすがにプラズマ粒子が派手にばら撒かれるから、即バレするけど。

 パワーを絞れば、ほとんど目立たなくなるから、問題ない。


 敵にとっては、文字通り訳も解らない所からいきなり撃たれて死ぬ。

 

 ユリの考えた最強戦闘機なのですよ! 

 欲を言えば、主砲をもっと強力かつ、長射程の実弾砲にしたかったんだけど。


 これ以上、大口径化すると機体自体を大型化しないとバランス取れないし、反動もイナーシャルキャンセラーで殺しきれなくなるから、この辺りが今の技術的に限界なんだとか。 


「で、なんでしょう……ユリがここに居て悪いですか? 子供だからってミソッカス扱いとか、ユリだって怒ります! ユリは子供である以前に、エスクロン最強の強化人間なのです! 帰れって言われても絶対帰りませんからねっ!」


 ……遥さんも悪気ないって解ってるけど。

 ミソッカス扱いした挙げ句、この体たらく。


 ユリもちょっと怒ってるのです! はっきり言って、お説教モノの大失敗なのですよ!


「思った以上にお冠のようで……実際、色々やったからなぁ。ゴメン、すまない……アタシも君が子供である以前に本物の戦士だと言う事を失念していたよ。その戦士の誇りを無視して、ただの子供扱いしたのは、たしかに申し訳なかった。君も知ってると思うけど、君の叔父さんからも色々と言われてね。古参の意地を見せるとか、エラそうにタンカ切った挙げ句に、このザマだ……アタシも正直反省してる」


 いつになく殊勝な感じの遥提督。

 でも、すでに叔父さんがガツンと言ってくれたか何かしてくれてたみたいで、露骨にしょげてる感じ。


 叔父さん、怒ると怖いからね。


「……わ、解ってるならいいのです! とにかく、ユリはもう好き勝手にやるのです! 要するに、あの大砲をぶっ潰せばいいんですよね? あんなのユリの手にかかれば、ワンパン轟沈なのですよ!」


 そう言って、コクピットでジャブジャブストレート! ユリのやる気は満々なのです!


「まぁ、そう慌てない。初陣で血気にはやる新兵ヒヨッコじゃあるまいし。そうだな、せっかく来たんだ。ここは軽く奇跡でも起こしてもらおうかな。アタシからの課題だ……ここはひとつ、敵も含めて、誰も死なずまとめて救う最高のエンディングでこの場を収めてみてくれ……もちろん、アタシも協力するし、誰かを切り捨てるってのなら、このアタシが犠牲になるってのもでも構わないよ」


 ……はい?

 この状況で誰も殺さず、敵も含めて犠牲ゼロって……。


 遥提督まで何言ってるのです?

 

 ちなみに、天霧はとっても正直者らしく、モニターの後ろで必死な形相で手をバツマークにして、両手を合わせて拝み倒してる。


 ああ、うん……犠牲になるの反対って事なのですね。

 ……主人思いのいい子なのですよ。

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