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宇宙(そら)きゃんっ! 私、ぼっち女子高生だったんだけど、転校先で惑星降下アウトドア始めたら、女の子にモテモテになりました!  作者: MITT


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第五十一話「静かなる戦い」⑤

「……ま、まぁ、そう言われてしまうと、21世紀を知るものとしては、ぐうの音も出ないのだがね。ただ、もののついでに国一つ滅ぼすって、それってどうかと思うよ? 一応、アタシはその感覚は理解出来なくもないけど、それって今の人類にとっては、些か異常と言うか、警戒を抱かざるを得ないと思うね」


「そうか? 半端なところで矛を収めるからこそ、遺恨だの怨念だの、くだらん話になるんだ。戦争ってのはやる以上はオール・オア・ナッシング……跡形もなく、滅ぼすか、滅ぼされるかだろう。だからこそ、我々は余程の理由がない限り、戦争を仕掛けたりはしない……仕掛ける以上は徹底的にやる。そう言うことだ」


 ちなみに、敵対国家による強化人間クスノキ・ユリコの誘拐捕縛は、余程の理由なのである。

 

 要するに、相手が国家レベルだろうが確実に中から粉砕するだろうから、被害が拡大する前に攻め込んで、ユリコの無法を曖昧にする……無茶な理屈ではあるのだが、エスクロンの上層部はそう言う認識でいるのだから、始末に負えなかった。


「……そんな調子で迫られて札束で殴られたら、妥協もしたくなるだろうな。クリーヴァのヴァリヤーク総帥は意外と現実ってもんが見えているのかも知れないな。って言うか、君等ヤバい! マジでヤバすぎるぞっ!」


「今の時代……むしろ、他の人類が異常なだけだと思うのだがな。百年単位の平和に飼いならさせれて、度し難いほどまでに脆弱化してしまった。その辺りは、銀河連合軍の再現体である君達の方が解っていると思うのだがね。君も無能なクセに仕切りたがりな総司令部に振り回されているのが、いい加減うんざりしたクチなのだろう?」


「まぁ、それは否定はしないさ。なにぶん、銀河連合の価値観の根底は、共存共栄と現状維持……要するに停滞だからな……争いごとに向いていないのは致し方ない。明日も今日と同じ一日が来る……永遠に平和な日々が続けばいい。そんな人々の切なる願いの賜物……そう思えば、そう悪いものでもないと思う。そして、そんな平和な日々を守ること……それがアタシが二度目の人生でも、戦場に身を置き戦い続ける理由だよ」


「君はこっちの業界では相応の有名人なんだが、その行動理念だけは不可解だとは言われていたな。だが、その理由が垣間見えた気もするよ。残念ながら、その理念は我が国では、理解しがたいものではあるのだがね。商売ってのは立ち止まったら死ぬ……そんなものだからな。だからこそ、我々は停滞を否定し、人類の進歩を加速させるのだよ」


「変革と進歩、未来への備え……だっけかな? 競争と革新を続け、進化の道を邁進する。けど、それは争いを生むだけだ。我先に進む者達は、相応に世界に歪みを生む。そして、いつの日にかその歪みにその身を砕かれることになる……それもまた歴史が証明している」


「まぁ、そうかもしれないな。もっとも、我々はその歪みにすら備える……そう言う考え方もありだろう? どのみち君になんと言われようと、我々は変わらないだろうな。それこそ、戦い敗れて、滅び去るその日まで……。君の信念は解るが、もう少し現実を見て、柔軟性を持つべきだとは思うがな……」


「悪いけど、この理念はアタシとしては、何があっても譲れないんだ。例え、長い年月の果てに、いびつな形となってしまっていても、人類世界が600年の平和を実現せしめたのは、その崇高なる理念故にだ。そして、その理念に未来を託したアタシらの理想は、誰であろうと否定されたくはないっ!」


 これは逆鱗に触れてしまったな……ハルマも自らの過ちを認める。

 銀河連合軍でも頭一つ飛び抜けた戦略眼と天才戦術家……人類世界の守護者となり得る無類の将帥。


 その行動理念が垣間見えた瞬間だった。


「まぁ、何事もなく人類世界が平穏ならば、それでも良かったのだがね。明らかに今の状況に適応出来なくなっているのが実情だろう。ただ、我々も君達の価値観は否定しない。我々は他者の価値観を尊重するし、助けを求められたら、喜んで手を差し伸べる。だからこそ、それなりに上手く共存できてるのだと思うがね」


 他者の価値観の尊重。

 それは、エスクロンの理念でもあるのだ。


 それは商業国でもあるうちに、自然に芽生えた理念で、それがあるからこそ、エスクロンは他国からも自然と受けれられる存在となっていたのだ。


「……なるほどね。エスクロンも銀河の異端児にして、銀河最強レベルの強大な国力を築き上げているのに、なぜ問題や摩擦を起こさず共存できているのか、不思議に思ってたんだけど。君達は他者の価値観を否定せず、常に尊重する。その上で共存を図り、上手くやって来た。なるほど……人類統合体インテグラルの亜種のように思ってたけど、連中とはそこが決定的に違うのだな。ありがとう、実にいいことを教えてもらったよ」


「どういたしまして、とでも言うべきかな。我が国の理解者が増えてくれることは喜ばしい事だと思う。だが人類統合体と言う単語には聞き覚えがあるな。確か我が国の建国史書に出て来る古代連合国家の名だな……「木星及び外宇宙人類圏統一連合体」の略……だったかな。史書によると我が国は、その人類統合体から袂を分かった者達が、預言者の残した預言書の記述に従いこの惑星エスクロンに辿り着き建国したと言う話だ」


「……こいつは驚いたな。アタシだって、そんな話知らないぞ。まさかとは思うが預言者……カール・ミラー元帥の名に聞き覚えはないか?」


「……ないな。我々が伝え聞いているのは、我々の祖先は志半ばで果てた預言者の残した言葉に従い、当時まだ未知の空間だったエーテル空間に飛び込み、過酷な旅路の果てに、預言書に記述された座標にたどり着き、約束の地エスクロンに定住することになったと言う話だ。その後、2300年代になってから、エスクロンの開祖達はエーテル空間に再進出し、銀河連合と接触を持ち、迷わず迎合の道を選んだと言う話だ。いかんせん、500年も前の話である上に、出所の良く解らない昔話のようなものでな。国民ならば誰でも知ってる話ではあるが、人類統合体については、一般的には伏せられている名称だな。実際、銀河連合の記録には、その名は残されていないからな」


「そうか……そんな事が。悪い……今挙げた預言者の名は忘れたほうが身の為だと思う。伝えられていない情報ってのは、相応の理由がある……そう言うものだ。解るだろ?」


「ああ、職業柄……君の持つ21世紀後半の知識には大いに興味があるのだがね。私も君に伝えていない情報はあるし、幸い秘話モードだからな……誰も聞かれては居ない。今のは聞かなかったことにしよう。ただ、私の話はエスクロン本国のデータベースはもちろん、子供達の初等教育で教えられているエスクロンでは常識レベルの話ではあるのだよ。まぁ、そうなると我々は君の仇敵たる人類統合体の末裔と言う事なのだろうが……君にとっての敵とみなされるのかな?」


「いや、過去の遺恨を未来に持ち込むほどアタシも狭量じゃないつもりだよ。それに人類統合体もアレは一言で言えば、地球連合に対抗する……この一点で太陽系各地から集ったあぶれ者達の寄り合い所帯だったからね。その……預言者は、むしろ穏健派の代表格で、過激派達が無茶しないように敢えて片っ端から受け入れて、懸命に取りまとめていた苦労人だったよ。実際、当人と直接話をしたこともあったが、共存と和平の道を探りつつも、自らの運命を悟っていたような素振りだったな。一言で言って、イイ奴だったよ。絵に描いたような聖人君主……もしも、彼が長生きしていたら、もう少し違った歴史になったかも知れない。だが……結局、預言者は和平交渉中に地球連合の和平の使者共々、過激派の凶弾に倒れた……。そこから先は……想像付くだろ?」


 ハルマも遥提督の言葉に息を呑み、思わず辺りを見渡していたほどだった。

 けれど、好奇心のほうが勝り、思わずその話を続けてしまった。


「……和平交渉中に自国の穏健派代表諸共、その席自体を吹き飛ばす……か。その時点で信義も何もなくなる……。互いを糾弾しあっての絶望的な殲滅戦争の始まり……そんなところか。確かに正史から抹消もしたくなるだろうな……。まぁ、この話はこれでいいかな? 興味が無いと言えば嘘になるが、むしろ君のほうが色々とボロを出しそうだ。こんな場ではなく、ゆっくり落ち着いた席で色々と聞かせてもらいたいものだ……お互い色々発見があると思うのだが、どうかね?」


「ああ、すまない。そうだな……いずれにせよエスクロンの動向はこの銀河の命運を左右しかねないほどだからね。個人的なツテが出来るのは大いに結構だ。こうなるとそっちの若旦那……CEOとも正式会談でもする価値はありそうだな……ハルマさん、そこら辺なんとか都合つかない?」


「そうだな……ああ、CEOからの緊急メッセージが届いている「遊びに来るなら、いつでも歓迎する」とのことだ……。恐れ入ったな……あのお方の前では、秘話回線など何の意味も無かったか。すまないがそう言うことだったらしい……」


「……こりゃ、アタシも泳がされてたか? まったく、あの兄さん……つくづく、とんでもないな。エスクロンの強化人間ってのは、バケモノしか居ないのかね。それと、この情報もお兄さん情報みたいだけど……共有出来てるかい?」


「……ロンギヌスがシュバルツの新型深々度潜航艦を独自撃破しただと? 周辺護衛はグエン艦隊……あの精鋭が安々と抜かれて、止む無くロンギヌスが直接動いたということなのか?」


「いや、そもそも深度350とか……そんなところの潜航艦を探知するすべも無ければ、攻撃する方法もない。敵としても、絶対に発見されないことを前提に、攻撃する意思もない触接のつもりだったんだろうな」


「……これは間違いなくユリコの仕業だな。ああ、私は別に驚かないがね……だが、そうなると敵にもユリコの所在が知れた可能性が高いな……」


「そこが問題だ……。こんな非常識な真似をやってのけるなんて、銀河広しと言え一人しか居ないだろう。当然ながら、敵もそれに気付く。そして、ユリコちゃんはこの現場を目指しつつある。なるほど、クリーヴァの現場とトップのちぐはぐな対応……。案外、これが原因か? まったく……なんで、大人しくしてられないんだろうな……あの娘は……」


 ハルマも遥提督とやり取りしつつ、本国照会した所、全軍宛の緊急情報が飛び込んできていた。


『コードデルタ発令。ロンギヌスとシュバルツ所属の新型特殊潜航艦が交戦の末、敵潜航艦を撃破……報復攻撃の可能性あり、全軍警戒態勢に移行の上で、指示を待て。なお、奇襲攻撃の際は独断にて反撃にて、些かの問題なし』


 銀河連合で言うところのコードイエロー。

 デフコン3……エスクロン本国では、一気に警戒レベルが向上したようだった。


 恐らく敵が付けた触接艦なのだろうが、初見で深度350mと言うそれまで誰も想定すらもしていなかった深度の新型艦を撃破する。


 確かに、それをやってのけたとなると、敵もユリコの存在に気付くだろう。

 それに、報復攻撃の可能性も……なにせ、この場合先に撃ったのは、エスクロン側……と言う解釈も出来る。

 

 なんとも軽率な真似をしでかしたものだと……そんな風に思うのだが。

 ……同時にその理由も容易に予想できてしまった。


 敵も攻撃手段がない以上、近づいても反撃されないからと調子に乗りすぎたのだろう……撃破時点の相対座標はロンギヌスの至近距離と言える距離500mまで接近していたようだった。


 この距離まで近づかれると、大型艦は成すすべがない。

 ロンギヌスほどの巨艦でも核魚雷辺りを使われると、一撃で沈みかねない。

 

 敵意を持って、そこまで近寄ったとなると、あのユリコが黙っている訳がなかった。

 敵に対しては、寄らば切る……ユリコはそう言う信念で生きているのだから。


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