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宇宙(そら)きゃんっ! 私、ぼっち女子高生だったんだけど、転校先で惑星降下アウトドア始めたら、女の子にモテモテになりました!  作者: MITT


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第五十一話「静かなる戦い」①

 ケスラン中継港。

 ひときわ高い管制タワーの上部構造体が要塞砲艦エベレストの砲撃で消し飛んだ。


「……こちらはクリーヴァ戦闘艦隊司令、ガラ・カレギオ少将である。ケスラン中継港を不法占拠している民間船舶の船主達に告げる。今のは警告である。ただちに出港し桟橋を明け渡せ。さもなければ、次は無差別砲撃の上で強制的に排除せざるを得ない。当方は30分しか待てない。速やかに出港し、この流域より退去せよ……繰り返す、30分の猶予を与える……速やかに、この場から退去せよ。以上である!」


 冷徹な警告が全周波数帯で通告される。

 この警告をエスクロン軍事顧問団の団長クスノキ・ハルマ特務大佐は黙って聞いていた。


「……団長。奴らは本気のようです……。幸い管制タワーからは総員退去済みで、人的被害は出ていませんが……。あの要塞砲……恐らく、一発撃たれただけでも、民間船程度ではあっけなく壊滅します。ここは全船に退去を命じるか、あるいは総員退艦を指示するしかないかと」


 幕僚の一人からそう告げられて、ハルマ大佐も大きくため息を吐く。


「現状……CEOからの指示は不退転の意思を示せとのことだ。だが、猶予を区切ってきたか。それも30分……増援のスペシャルズの到着はどの程度かかるか?」


 初老といえる年齢の年配の軍人。

 白いひげと白髪の鋭い目つきの武人そのものと言った雰囲気。

 

 クスノキ・ハルマ大佐は、非公式の派遣軍事顧問の一人であり、これまでクリーヴァやシュバルツ相手に幾多もの非公式戦で、後方指揮官として参戦した経歴を持つベテラン軍人だった。


 しかしながら、そんな彼をしてもこの局面は難局と言わざるを得ない状況だった。


「スペシャルズからの回答は、現着まで後一時間はかかるとのこと。やはり、急造故にトラブルが多発している上に、案の定あちこちで進路妨害工作を受けているようで、進軍速度が落ちており、予定以上の時間がかかっているとのことです」


「……そうか。だが、当初予定ではもっとかかるはずだったのだがな。それを一時間とは彼らもよくやっているということだ。それと確認だが、ロンギヌスはどうなっている? 間に合わないことは承知しているが、所在を知りたい」


「ロンギヌスは……こちらへ向かうルートに乗ったようですが、位置関係上、最短コースを取ったとしても、8時間ほどかかる見込みです。もっとも、あちらは始めから敵への威嚇の見せ札ですからね。現状、ロンギヌスは優先度SSのVIP護送任務に就いている関係上、こちらに向かっていると向こうに信じさせれば、十分でしょう」


「なるほどな。だが、このルート……どうみても、暗黒流域を通るようだが。随分と危険な真似をしたのだな。問題はないのか?」


「はい。この暗黒流域は、ご覧の通り途中で二股に分かれていますからね。一方はエスクロン本国方面、もう一方はこちら……ケスラン方面に繋がっています。ロンギヌスはケスランに向かうように見せかけて、実際は本国帰還のコースを取る予定だと聞いています。それに護衛艦隊として辺境艦隊のグエン提督の艦隊が就いてますので、こちらはまず問題ないでしょう」


「なるほど、辺境艦隊のエース級艦隊が護衛に就いているとなると、敵も軽はずみに手出しも出来まい。このルートだと敵へのプレッシャーにもなって、ロンギヌスの安全も確保出来る……一石二鳥だな。グエン提督と言えば、辺境艦隊最強の猛将と名高い人物だが、なかなかに賢明な方でもあるようだな。そうなると、問題はむしろ我々か……」


「そうですね……現状は、あまり良い状況ではありません。まさか、30分後に総攻撃開始とは……敵も嫌なタイミングで時間を区切ってきたものですね……」


「ああ、先程交渉した際は、もう少し余裕があるように思えたのだがな。無茶を押し通せる確信を得たのか……或いは、これ以上引き伸ばすと必敗する……そんな要因が新たに出て来たのかもしれんな」


「我々から見たら、必勝……ではありますね。一体、何が起きたのでしょうね。ですが、奴らに脅威を感じさせたとなると……まさかスペシャルズの来援が露呈したのでしょうか? 確かに、スペシャルズは軽く数年先を先取りしたレベルの最新兵器と宇宙軍最高のパイロットやドライバーを集めた精鋭部隊だと聞いていますが」


「かもしれんな……。実際、進軍中に妨害工作を仕掛けられるほどだからな。敵も我々が銀河連合軍にも極秘の上で、強力な戦力を育成している事はとっくに気付いているだろう。だが、それでも敵が後も慌てる要因にはなりえないと思うのだが……」


 ……実のところ、クリーヴァを焦らせているのは、ロンギヌスとユリコの存在だった。


 ロンギヌスに触接を行っていた深深度潜行艦については、あれから、ユリコの指示で実施された鉄板ぶち込み戦術で、エーテル流体面の奥底深くに葬り去られたのだが……。


 スターシスターズですら探知はもちろん、対抗手段も無いはずの深深度潜行艦があっけなく撃破されたことで、ロンギヌスにユリコが同乗していると、シュバルツも確信したのだった。

 

 そして、そんな凶悪な戦力すらもエスクロンは投入した。 

 その情報をシュバルツより得たクリーヴァは、大いに焦り、この短絡的な脅迫に出ていたのだった。


 要するに、ゴリ押しでもなんでもいいから、決定的な既成事実を作らないと何もかも台無しにされる。

 その思いが彼らから、冷静さというものを奪い去っていたのだ。

 

 もっとも、この場にそれを知るものは誰も居なかった……。


「せめて、2時間……それだけ時間があれば、こちらの勝利は揺るぎなかったでしょうに……」


「敵も馬鹿ではないということだ……戦場で「たられば」は禁句だ。どうせ言っても詮無きこと。……敵もこちらの戦力が揃ってしまえば、一気に不利になると解っているのだろう。だからこそ、ああも焦っているのだ。だが、こうなると敵も本気で撃ってくる可能性が高い。30分後こちらが退く素振りを見せねば、向こうは本当に撃ってくる……そう思っていいかもしれない。万が一そうなると、犠牲も相当出るだろう……。だが、30分では船団の退去も総員退艦もとても間に合わない。それくらい向こうも解っていると思いたいのだがな」


「……団長。いかが致しましょう? いっそ、こちらの戦闘艇総掛かりでエベレストに一戦挑む手もあるかと。向こうの戦力もエベレスト以外はスターシスターズ艦の粗悪模造品や黒船もどきばかり、PMC各社の戦闘艦を合わせれば、こちらも50隻程度は戦力になるでしょう。数的にはこちらが有利なので勝機は十分あるかと」


「馬鹿を言うな……50m級戦闘艇や武装商船程度ではあの巨艦……歯牙にもかけられまい。まさか、あんな物まで投入して来るとはな……奴らの覚悟を完全に見誤っていたな。だが、ここは正念場だ……せめて、軽率な真似だけはしたくないものだ」


「……必ずしも勝つ必要はないかと、時間稼ぎの遅滞戦闘なら十分可能です! 司令……ここは戦えるもの全てに戦闘命令を! 我らの意地と覚悟を見せつけてやりましょう! 民間船団の士気を問題にしているのであれば、それは問題になりません……彼らもまた、この場は戦うべきだと主張しているのです!」


 ……これは、事実ではあった。

 この場に集った民間船団は、基本的に志願者しかいない。


 エスクロンの軍人が搭乗した武装艇やPMCの戦闘艦などもいるが、大半はミケネコ運輸所属の武装商船で、個人事業主の武装商船もかなりの数が含まれている。


 エーテル空間の流通に関わる者としては、海賊まがいの行為を繰り返し、臨検と称し法外な通行料や関税をふっかけてくるクリーヴァのやり方には、誰もが反発していて、その支配領域が日に日に拡大していく現状に対して、腹に据えかねるものがあり、一矢報いる機会とばかりにハルマ達の呼びかけに応えて、集ってくれていたのだった。


「いや、それは許可できない。仮に勝ったとしても多大なる犠牲の上でとなるだろうからな。この場は可能な限り、双方犠牲無く終わらせるべきなのだ……。このようないたずらに戦力を積み重ねていく方法では……取り返しがつかないことになる……それでは駄目なのだ……」


 これがチキンレースだと看過した上で、持てる戦力を投入し、敵の心をへし折る。

 それがゼロCEOの取った戦略であり、最善の選択……誰もがそう思っていた。


 だが、それは同時に敵を追い込んでいく事にも通じる。

 窮鼠猫を噛むという言葉の通り、敵を追い込みすぎると思わぬ反撃をしてきて、手痛い痛手を被る結果になる。


 ハルマとしては、もう少し敵に余裕を与えた上で、痛み分けに近い結果に持ち込む方が無難に済むと考えていて、意見具申もしたのだが。

 

 CEOや最高幹部会の理解を得るには至らず、その意見は却下とされたのだった。


「何を臆病なことを! 我々は奴らにさんざん苦汁をなめさせられています。そろそろ、反撃の時です! 我々の後ろにはスペシャルズがいます。それに本格的な交戦となれば、あのロンギヌスも参戦するやも知れません。たとえ、我らが敗れても心強い味方が居る以上、勝利は我々のものです! 戦いとは、例え緒戦で敗れても、最後に味方が立っていれば勝ち……違いますか!」


 もうひとりの若い幕僚が声を荒げる。

 道理を脇において、如何にも血気にはやっている辺り、まだまだ若いとしか言いようがなかった。


「……スペシャルズとロンギヌスか。そうだな……あれらの実力を持ってすれば、あの程度の艦隊、容易く撃破出来るかも知れない。だが……いずれにせよ時間が足りない。今求められているのは、今ある戦力で奴らをこの場より追い返す手段なのだ、誰か、何かいい案はないか?」


 そう言って、ハルマ大佐は一同を見渡すのだけど……誰もが押し黙ったままだった。


 そんな都合の良いアイデア……誰も思いつかないというのが実情だった。

 ハルマ大佐もこの状況を打破するとなると、何も思い浮かばなかった。

 

 そもそも、無血でこの紛争を終わらせる手段として、この圧倒的多数の民間船を集めた上での接近拒否戦略を取ったのだ。

 

 だが、それが通じる相手だと言うのは、ただの思いこみ……願望だったと言うことはハルマも嫌というほど思い知った。


 あくまで、無血解決にこだわりつつ、この場で出来ることがあるとすれば、もはや無条件撤退あるのみ……。


 それは解っているのだが、状況がそれを許さない。


 これがチキンレースのハッタリ合戦だと断定した上でのCEOの不退転の指示は、この状況下では適切だとハルマ大佐も認めている。


 中継港を抑えられると、その時点で向こう側の惑星国家は時間の問題で無条件降伏せざるを得ない。

 星々の繋がりを絶たれるというのは、そう言う事なのだ。


 だからこそ、ハルマ達は民間船をかき集めて、桟橋をオーバーフローさせて事実上、利用不可能とすることで時間稼ぎをしていたのだ。

 

 だが、それはあくまで相手が民間船に手を出さないという不文律を守る事が前提になる。 

 相手のほんの気まぐれで、桟橋に停泊している民間船など簡単に一掃されるのが現実だった。


 そうなってはもう取り返しがつかない。

 

 恐らく銀河最大規模の内戦へと発展し、中央のシリウスやセブンスターズもどう言う動きをするか解らない。


 今の銀河は、人口比率で見ればエスクロンは一割程度の弱小勢力ではあるのだが、総合力では銀河最強と言っても過言ではない。

 

 当然ながら、かつての銀河の盟主シリウスあたりからは色々と恨まれているし、セブンスターズも同様。


 もっとも、セブンスターズの国家元首は判断も出来ないような未熟な者だから、国家レベルでは何もしてこないだろうが、保守的思考を持つ各星系の領主達となると話は別で、平和ボケでまとまりもない中央が、反エスクロンでまとまられると、厄介なことになる。


 クリーヴァとの戦い自体は、なんとでもなるだろうが。

 間違いなく別の問題が発生する……現状の激突は回避すべきなのだ。


 そして、それはクリーヴァもまた同様。


 正面から挑んでも勝ち目がないからこそ、彼らは全力で正面決戦を避けて、搦手を駆使して立ち回っているのだ。


 だが、相手は後先を考えられない程度には追い詰められている。

 追い詰められた末に、その不文律を越えようとしているのは明白だった。

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