第五十話「やさしい時間」①
「はうわーっ! また、わたしババ引いてしまいましたーっ! あーうーっ!」
ロンギヌスの最深部、ユリの部屋と称するVIPルームで、銀河連合軍エース駆逐艦頭脳体でもある初霜ちゃんがガックリとうなだれてる。
あれから……ロンギヌスに戻ってくるなり、皆とも再会して喜び合う暇もなく、急遽予定が変わったとかで緊急出港ってなったのですよ。
おまけに、護衛艦隊にはあのグエン艦隊が付いてくれるって事になって、バタバタと出港。
ルートガイダンスとか、細かい説明とかも何もなしで、急かされるように出港。
買い出しとかもしたかったんだけど、強制キャンセル……。
なお、ユリが開けた艦内の大穴もそのままなんだけど、応急修理の真っ最中。
もっとも、7フロアくらい吹っ飛んでたのに、最下層以外の穴も塞がれてて、充填剤の硬化待ちで立ち入り禁止テープが張ってある程度。
ちなみに、最下層は一番被害甚大で、5mくらいの大穴ができちゃって、流石に応急修理で塞ぐのは難しいからって、上のフロアの通路を閉鎖して、フレーム溶接とかしながら現在進行系で修理中。
屋根まで抜けなかったから、プラズマシャワーとかに襲われても平気。
なお、ユリがオーバーパワーでぶっ放した弾帯は、溶解して構造材と一体化しててなんだか良く解らない塊になってた。
さすがに、悪いことしたなーって反省くらいはしてるんだけど。
ロンギヌスは、これを記念品として、ガラスケースに入れて残すつもりだとか言ってる。
……誰か止めてあげて。
しばらく、無線ネットワークが使えなくなる流域を通るとかで、ネットも繋がらないって話なので、皆でユリの部屋に集まって、オフラインゲームやトランプとかやってたのですよ。
そしたら、唐突に初霜ちゃんが遊びに来ると言うハプニングイベントが発生。
混ぜてあげた所だったのですよ。
んで……初霜ちゃん。
自信満々で参戦したものの……トランプめちゃくちゃ弱かった。
ポーカーフェイスがからっきし駄目なので、アヤメさんとかにいいようにカモられてる。
今やってるのは、古典的なババ抜きなんだけど……。
その前のポーカーは、10連敗くらいになって涙目になってた。
「いやいや、だから……。ババ抜きでババ来たーって言っとる時点で駄目なんやで……」
「そうなのですよ……。確かに一枚もカード捨ててない時点で、もうババ引いたなって誰でも解りますけど、そんな露骨に顔に出してたら、絶対勝てないのですよ!」
ユリ達はもう勝ち抜け済み。
勝負は最終局面……カードはあと5枚を残すのみ……。
アヤメさんの持つ三枚のどれかがババと言う解りやすい状況にも関わらず、初霜ちゃん……迷わず、ババ引いたのです。
この状況……当たりのババ以外を引けば勝ち抜け確定なんだけど。
外れて、ババ持つとその時点で敗色濃厚……。
なお、アヤメさんは如何にも取って欲しくなさそうな感じで、一枚だけカード引っ込めて、それがババだったと言う落ち。
初霜ちゃん、騙されたっ!
「はうわっ! 確かにそうです! コホン……ここは落ち着け……冷静になるのです。勝率は66.6666666……%! この確率ならむしろ、統計上外れる確率の方が高いですっ! この勝負、我が方が圧倒的に有利っ! このわたしも武人……不退転の決意でこの最後の勝負に挑みます……いざ尋常に勝負っ!」
カッコいい感じでキメてるところ、申し訳ないけど。
……その計算、間違ってるような……。
むしろ、66%の確率で負けが確定するってのが正しい計算なのです。
有利どころかとっても不利っ!
「初霜ちゃんって、顔に出るどころか、口に出しちゃてるからねぇ……。まぁ、ここで言っても始まらないし、いっそ自分もカード見ないでシャッフルした方がいいんじゃないかしら……? その方がよほど勝ちの目があるんじゃないかな?」
「なのですよ。そうすれば単純な確率勝負になるから、余程勝機がありますよ!」
33%の勝率が高いかどうかは、微妙なところだけど。
戦いってのは、一桁%でも勝てる時は勝てるのですよ。
足りない分を引き寄せるのは、積み重ねた努力と、諦めない根性!
そして、熱い絆で結ばれた仲間たちとの友情!
21世紀の古典漫画雑誌共通のコンセプトなのですよ!
余談ながら……初霜ちゃんの関わってきた作戦で、生還率2%なんて戦いもあったらしいのですよ。
2%……単純に計算して、50回挑んで49回失敗して沈む。
限りなく無理ゲー。
失敗を前提に成功したら、めっけものくらい。
間違っても全軍の命運をそんなのに託しちゃ駄目。
そんなのやる方もやる方だし、そんな作戦立案する方がおかしいのですよ。
一体どんな状況下で、そんな無理ゲー級の作戦に投入されたんだろうね……。
それに比べたら分は悪くない……と思う。
2%でも0%よりは、よほどいい。
余談ながら、先輩の第二世代強化人間の人達から聞いた話。
長いこと特殊任務に携わってると、作戦成功率二桁行ってれば、なんか余裕って思えるようになって来るんだとか……。
……確率ってなんなんだろうね?
特殊任務業界の闇を見たような思いだったのですよ……。
「あ、こら! お前ら……余計なこと言ったらあかんでっ!」
アヤメさんが少し焦ってる。
確かに、このままだと初霜ちゃん負け確だったんだけど、マリネさんの助言で解らなくなってきたのですよ!
「そ、そうですね……。敵に情報を与えず、敢えて運に賭ける……。実に合理的な作戦ですっ! そして、勝利の女神もまた自らに勝利の命運を託すものにこそ、幸運を授けると言います。ここはまさに勝負時! いざ尋常に勝負っ!」
なんだか、初霜ちゃん……。
無駄にかっこいいセリフを言いながら、カッコいいポーズを決めながら、超真面目な顔してる。
でも、初霜ちゃん……基本的に小学生なみのちんちくりん。
そして、やってる事は背中にカードを回して、念入りにシャカシャカとシャッフル。
それが終わると、三枚のカードを裏にしたままビシッとアヤメさんに向けて、ギューッと目をつぶる初霜ちゃん。
けど、真ん中の一枚だけを少し前に出してる。
ちらっと見えたけど、思いっきりそれがババなのですよ。
いや、だから……なんで、そこで運任せにしないで小細工に走るの?
この子って、勝負勘とか凄いはずなのに……順調に負けフラグ立ててるのです……。
「……これはちょっと考えよったねぇ。その如何にも取ってほしいって感じの真ん中がババってのもありがちだけど。ホントに見てないとなると初霜ちゃんですら、それがババかどうかは解ってないかもしれない……つまり、フェイク! ここは安全に両サイドのどっちかを引くべきだとは思うんやけど……。意表を付いて、両サイドどちらかって可能性もある。マリネのアドバイス……地味に効いとるな。確かにこりゃシンプルな確率勝負やな」
なるほどなのですよっ!
マリネさんのアドバイス……アヤメさんを疑心暗鬼にさせるって効果があったみたいなのですよ。
そこで敢えて、小細工に走る事で勝率を上げてきた。
初霜ちゃんが急に策士っぽく見えてきたのですよ!
「だって、これでストレート負けとかかわいそうじゃない。散々カモってたんだから、少しくらい華を持たせてあげたら? にゅふふ……アヤメさんに罰ゲームかぁ……それはそれでそそりますなぁ」
……罰ゲームとか聞いてないのですよ?
けど、その内容を知ってるアヤメさん……ちょっと顔がひきつってる。
と言うか、皆の空気が露骨に変わった。
お互いをチラ見して、気まずそうな顔になる。
マリネさんは、ご機嫌そのものでニコニコ笑顔。
ああ、うん……そ、そう言う事なんだ……。
次の勝負……ユリもちょっと急用出来たり、お腹痛くなったりするかもなのです!
ひとまず、退路を確保。
一歩で入口側へ下がりつつ、ささっと動く。
「いえ! 勝負に情けは無用っ! さぁさぁ、小細工無用の真っ向勝負! 受けて立ってください! アヤメさん! ちなみにお勧めは真ん中です! いざっ!」
いや、だから……なんで、そう言ういらないこと言うのです?
しばし、迷ってアヤメさん。
真ん中のカードを抜くと見せかけて、右端のカードをすっと抜き取る。
……カードをチラ見して、バサッと山に放る。
「……悪くない勝負やったで。最後はあたしも賭けやったけど、悪いね……勝たせてもろうたで!」
アヤメさん、ドヤ顔でガッツポーズ!
そして、そのまま最後の一枚を初霜ちゃんに見せつける。
初霜ちゃん……涙目になりつつ、その一枚を抜くとペアになったカードを山に置き、最後の一枚を手にうなだれる……。
敗北に打ちひしがれるロリっ子スターシスターズ。
……ちょっと可愛いのです。
「……ま、また負けたのですよーっ! く、悔しいですーっ! なんでーっ!」
本当に悔しそう……。
でもね……。
要らない小細工してなければ、1/3の確率で勝ててたのですよ?
今のは、まさに必敗。
ユリが相手してても、あれで真ん中は取らないのですよ……。
「……初霜ちゃん、惜しかったねー。じゃあ、罰ゲーム行ってみようか!」
マリネさんがニヤニヤ笑いながら、初霜ちゃんの背後に回ると腰のあたりをサワっとやると、初霜ちゃんの履いてたスカートがスットーンと落ちる。
「はうわっ! ええっ! どれだけ早業なんですかっ! と言うか、いきなり何してくれてるんですか、マリネさんっ!」
泣きっ面に蜂って感じで、本気で涙ぐんでる初霜ちゃん。
内心で、ごめんなさいって言いたいんだけど。
ここでマリネさん止めると、ユリに来るから……犠牲になってもらうのですよ!
えーと、戦いにおいては犠牲はつきものでー。
尊い犠牲になってもらったとか、そんな感じで……。
とりあえず、目があったけど、ビシッと敬礼っ!
なんで? って感じの顔して、初霜ちゃんからも答礼。
「うふふ……最初に言ってなかった? 敗者は脱ぐ……それが私達、宇宙活動部のトランプ勝負の鉄の掟なのよっ! いわゆる罰ゲームって奴かしらね……。まぁ、勝負に負けたんだから、ここは潔く受け入れて欲しいわね。と言うか、ロリっ子パンツかと思ったけど、意外と大人なのねー」
なお、そんな鉄の掟は無いって言っておくのですよ。
ちなみに、初霜ちゃんのパンツは、黒でフリフリのお飾りいっぱいの割とゴージャスな感じパンツなのです……ぶっちゃけ、似合ってない。
けど、解るのですっ!
ユリもゴージャスフリフリパンツとか履くと、それだけでちょっと大人の女になった気分になるのですよ。
黒とかだと、体育の時クラスメイトからも大人じゃーんって言われるし、街中で知らない男の人の前でチラリしちゃった時も、お子様パンツのときよりもダメージ少ないのです。
たとえ、ユリにも劣るお子様寸胴ボディでも、オシャレパンツで大人の気分。
そう言う年頃なのですよ……うん、うん。
解る、解るなのですよ。
「聞いてないですよっ! ああーん! 返してっ! スカート返してくださーいっ!」
初霜ちゃんがぴょんぴょん飛び上がって、スカートを取り戻そうとしてるんだけど。
マリネさん、つま先立ちになって目一杯上に持ち上げてるから、全然届いてない……。
本気出せば、天井ぶち抜き大ジャンプ位できると思うんだけど……。
敢えてそれをしない初霜ちゃん、優しい子。
人間との付き合い方ってもんを解ってるのですよ。
「駄目よ。私……女の子脱がすのが趣味なのよ……。と言うか、君……ちっこいのに黒のレースとか大人っぽい下着履いてるのね……いいじゃん! こう言うギャップ萌えがたまらないのよねー」
ちなみに、初霜ちゃんまだセーラー服の上とかスカーフとか残ってるのに……。
真っ先にスカート剥かれて、パンツ丸出しにされてるのですよ。
なお、マリネさんルールの厄介な所。
どれを剥かれるかは、マリネさん次第と言う恐ろしいルールなのですよ!




