第四十九話「チーム・ユリコ出撃!」④
「フォックススリー! フォックススリー! クロウ2……敵機を撃破! 繰り返す! 敵機を撃破! へへっ! 何のことはねぇ……一撃だったぜ!」
全域無線でダゼルの意気揚々とした声が響く。
ダゼル機の前方3kmほど先で、楕円形の警戒機が火達磨になって爆発していた。
「こちら、ケリー。ダゼル機がレールガン狙撃で、直接仕留めたのを確認。初陣勝利だね……やったね!」
「わりぃな! 一番槍は頂いたぜ。つか、今のやつはなんだ? 警戒機となるとアラート出されたかも知れんな」
「問題ないよ。君達の機体を通じて、すでにその一帯は電子的にこのアキちゃんの官制下にあるのだよ。どうやら、長距離滞留型電子偵察ポッドってとこだったみたいだね。浮遊警戒ブイの飛行版みたいなもんだよ。電波発信しようとしてたけど、情報横取りの上で封殺してやったから、お役目果たせず残念無念ってとこだね。ちなみにこの先に母艦の小型空母みたいなのが網張ってるみたい。気付かれて、艦載機を出される前にちゃっちゃと沈めたいところよね……」
「あれか? いつぞやか、姉さんが撃ち落としたっていう電子戦アドバルーンみたいなやつか? だが、戦闘可能性のある流域にあんなのを飛ばすなんて、正気か? 一発掠っただけで落ちたぞ。挙げ句に母艦の所在を逆探で突き止められるとは、愚策もいい所だな。ならば、その母艦……俺達が先行して奇襲で沈めよう。君達を危険に晒すわけにはいかんからな!」
「そうだね。死ぬ順番としては僕らが真っ先に……であるべきだからね。なんだ解ってるじゃないか……じゃあ、行こうか兄弟っ!」
ケリーがそう応えると、二機がエレメント編隊を組むと増速してあっという間に艦隊から離れて先行していく。
その後をスレイブ機の編隊が続くのだけど、明らかに遅れていた。
「縁起でもない話しない。フラン……増速お願い。と言うか、あの二人! スレイブにやらせろって言ってるのに、なんで先陣切ってんのよ……。ちょっと! フォローしてあげて」
「地味に、あの二人……一番張り切ってましたからね。まぁ、男の子同士仲いいし、ここは好きにやらせきましょう。落ちたら落ちたで、私が拾いに行くから、大丈夫ですよ。少なくともアキちゃんよりは戦闘適正は高いし、時々シュミレーターでユリコお姉様に揉んでもらってたみたいだから、並以上には使えるはずです。余計な心配は無用じゃないですかね」
「……そうは言っても、心配なものは心配なんだもん! ああ、リーダーとか引き受けるんじゃなかった。地味にてんやわんやだし、もうハラハラしっぱなしだよ!」
「あははっ、まぁ……送り出されたら、そこから先は自分の腕と仲間だけが頼り。戦闘機乗りってのは、そう言う世界だからね。それより、着艦アプローチも最終段階なんだけど、受け入れ準備大丈夫? シグナルイエローのまま、いつまで待たせるんだよー」
「うわっ! ダーナちゃん、もうそんなところまで! ごめん! シグナルグリーン……いつでもおっけ! えーと……軸合わせおっけー? 船体動揺同期は出来てる? 着艦とかこっちも初めてだから、超緊張っ! なるべく、ミスはしないでねーっ!」
仮装空母アドラステアの背後に黒い鴉一号機が迫りつつあった。
アドラステアの速力は現在30相対ノットと限界近い速度が出ている上に、強風が吹き荒れている……そんな中での着艦となる……。
鴉も20m近い大型機の上に重量級。
失速寸前の速度域で、幅50m……長さも僅か200m足らずの艦体上部飛行甲板への着陸。
21世紀の航空母艦の艦載機乗りでも、こんな条件での着艦となると、ハードすぎて匙を投げる……その程度には高難度の条件が揃っていた。
200mの大型艦艇と言えど、空の視点ではまるで豆粒のようなもの……これをぶっつけでこなすのは至難の業のはずだった。
「おっけーおっけー、艦体姿勢も安定してるから、全然許容範囲内。ガイド・ビーコンコネクテッド。電磁キャプチャー誘導波の受信も確認。シールド圏内に突入したから、風も止まってる。これならもう大丈夫。高さよーし、横軸よーし! 速度合わせ問題なし、風向きも微風向かい風のまま良好、重力変動値も許容値範囲内……。アキちゃん、操艦不慣れって割にはいい感じに落ち着いてるよ? 甲板障害物とかないよね……このまま行くよー!」
「だ、大丈夫だよっ! 電磁キャプチャー牽引状態に入ったのを確認。機体制御……パワコン権限受領。ううっ、永友艦隊の祥鳳さんとか、戦闘中にひとりでこれ全部やって、何十機もいる機体の同時制御とかやってるんだよね。こっちは外部支援システムとか、サブ演算ユニットいくつも増設して、目一杯バックアップ受けてても、いっぱいいっぱいなのに……! ダーナちゃん! どんとこいだよ! いらっしゃーいっ! 私の胸の中に飛び込んでこーいっ!」
その言葉に答えるかのように、ダーナ機がアドラステアの甲板にフワリと着地すると、真っ直ぐに滑走し、甲板の半分ほどの位置に正確に停止して、機体ロック状態になる。
「アキちゃん、すてきー! 優しく抱きとめてもらっちゃったぁ……。まぁ、空母飛行甲板に着艦とか余裕ですよ。どう? ハーフマークきっかりに着地。と言うか、こっちはまだまだ全然余裕あるから、重水素ペレット交換して、リアクター再調整して、弾薬とか詰んだらすぐに出るよ。このままホットアイドルのまま、即時出撃でいいよね?」
「了解、了解。補給作業と艦内移送作業はサブシステムとエンジニアさん達に丸投げっと。機体の着艦データも理想値が取れたから、次はかなり楽ができそうだよ。ととっ、ケリーとダゼルが敵艦とエンゲージ……ううっ、後方官制ってキツいね。けど、どんどんこっちの管制をAI君達が引き取ってくれてるから、少しは楽になってきたかなぁ……。一応、なんとかって元宇宙空母の戦術AIとかも付けてくれたんだけど、最初は勝手が違ってイマイチだったけど、こっちの管制作業のデータとか過去データ使って、もりもりレベルアップしたみたいで、色々手伝ってくれるようになったから超助かってるよ。ダーナちゃんも百点満点の見本ありがとーっ!」
「AI達に物教えるのって、とりあえずやってみせるってのが一番だからね。ユリ姉さんもロンギヌスで似たようなことやって、あっさり手なづけちゃったらしいよ。着艦プロセスとかも本来、艦と機体側の管制AI同士で相互リンクしてやってもらうってのが一番安全だからね。人間だと刻々と変化する環境情報をリアルタイムで反映とかとてもおっつかないし、ワンミスアウトだから、熟練者でも危ないのには変わりないからねー」
「なるほどね。率先して人間がやることやって見せれば、AIはそれをマネッコして最適化してくれる。そう言うもんだからね。けど、ケリーもダゼルも空間戦闘初陣にしてはなかなかやるね。軽く直掩機蹴散らして、母艦もあっさり炎上。派手にやってるねぇ……って言うか、これって私達の初交戦事例なんだけど、なんか、サクッと終わってミもフタもないって感じだねぇ……」
「こちとら、エスクロンの科学技術の粋を集めた最新鋭、最高精鋭部隊ですからね。ダゼル、ケリー! そこまででいいです! トドメは私がやります。少し動きに無駄が多かったですよ……それに空戦なんかやるからもうフェルゲージがイエローラインです。直ちに帰還を……アキさん、アスクレピオス先行します。ダゼルとケリーのスレイブ機の管制をこちらにください」
「あはは、フランちゃんもそろそろ、我慢できなくなってきた? んじゃ、ユーハブコントロール。ダゼルとケリーは即時帰還……って、ケリー機被弾してるじゃないっ!」
「ああ、対空砲が掠っただけだよ……問題ないよ。当たらないに越したことは無いけど、装甲掠めるくらいなら無視した方がむしろいいんだよ。ユリコ姉さんの戦闘機動ってそんな感じだしね。でもさぁ、フェルゲージ7割で帰還というのはさすがに慎重すぎやしないかい? 軽く空戦機動をやっただけで、一気に半分近くまで減っちゃったよ……この機体、あまり燃費が良くないようだね」
「そこら辺はハイパワーと引き換えにってとこだね。ハイチューン機って、こう言うのありがちなんだよねー。でも、空間戦闘で連戦なんて、よほど追い詰められてでも居ない限り普通やらないよ。一戦やったらさっさと引き上げるってのが当たり前。弾薬も燃料もギリギリまで使い切るなんて、崖っぷちの戦闘好き好んでやるもんじゃないよ。何のために動く航空基地でもある空母が随伴してると思ってるの? それより、空母着艦……慣れないと思ったよりキツいから、覚悟しといたほうがいいよー? 失敗すると思ったら、さっさとベイルアウトしちゃっていいから……。後続の支援艦隊として、夕凪と朝凪が追っかけて来てるはずだから、救命ボードでビーコン出して漂流してればそのうち拾ってくれるよ」
このメンバーでは最高の空間戦闘の経験値を持つダーナが二人の指導に入る。
なんだかんだで、ダゼルもケリーもこのダーナには頭が上がらない。
「あーうん、僕……シミュレーションでは、減速しすぎて失速して、慌てて吹かしたら、思いっきり空母の艦尾に突き刺さっちゃって、母艦沈めてるんだよね……。実はあんまり自信ないんだ」
「うむ、俺もだ。甲板に降りるタイミングや機首角度。あれはかなりシビアなようだからな……。俺はランディングギア出し忘れて、胴体着陸の末に甲板上で爆発炎上だったぜ」
「前言撤回……二人はもう全自動野放しでの着艦を推奨。私、オカマほられたくない……さすがにそれは電磁キャプチャーでもフォローできないよ。速度超過でオーバーダイブされたほうがまだマシだよ!」
「ボクもワンワンスタイルで後ろから……とか、ちょっとねぇ……。けど、顔が見えなくて、襲われてる感がイイって話も聞くよ……うひひ」
「ダーナちゃんお下品です……何の話をしてるんですか……まったく」
「じょ、女子の下ネタは、か、感心しないぞ……」
「一応、これオープン回線なんだけど……いきなり、なんて話をしてるんだか……」
「にひひ……古来から戦場に出ると滾るって言うじゃない? 女の子だって一緒だと思うよー。あ、二人共これ終わったら、昔みたいに抱き枕にしてあげようか? なんなら、二人まとめて両隣で私がダブル腕枕ーってのもいいかも、逆ハーレムってのもいいよね。でも、昔と違って二人共立派になっちゃったから、いきなり獣になっちゃったりしてー」
「うわー! アキちゃんなにその美味しそうなシチェーション! いーなー! でも、ボクはやっぱり一人づつがいいかな。背中からギュッと抱きしめられて、後ろから激しく……」
「あーこらこら、こっちで会話もモニターしてるんだから、真面目にやってちょうだい。と言うか、君等軽く一戦こなして、さっきからヤバそうな状況の連続なのに、なんでそんなお気楽なの? 僕もだけど、後方作戦司令室の皆……緊張しすぎて、揃って死にそうになってるんだけどさ……。それに君等に付き合ってるエンジニアさん達も、エグい環境で命懸けで頑張ってるんだからさぁ……」
唐突に後方からの通信。
ゼロCEOの呆れた様子の強制割り込み通信が入ってきていた。




