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宇宙(そら)きゃんっ! 私、ぼっち女子高生だったんだけど、転校先で惑星降下アウトドア始めたら、女の子にモテモテになりました!  作者: MITT


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第四十九話「チーム・ユリコ出撃!」②

「おお、行った行った! ダゼルも結構やるね! 大丈夫? 加速で気絶とかみっともない事になってないよね? リニアカタパルト2番ユニットも……お、今度は無事だね! 急ぎ回収、緊急冷却及びメンテナンス開始。続いて3番ユニット展開……」


 リニアカタパルトユニットが電磁キャプチャーで艦内に引き込まれて収納されると、同様のリニアカタパルトユニットが空中展開される。


 この方式……要するに電磁力で無理やり空中に固定するもので、安定性はかなり微妙。

 実際、今もゆらゆらと揺れていて、落ち着きがない……これは本来、ピタッと固定されていなければならないのだけど、艦体動揺との同期が取れていないので、この有様だった。


 物自体は、スターシスターズの空母でも採用されていない宇宙空間用のリニアカタパルトをそのままエーテル空間に持ち込んだ代物で、信頼性自体は高いのだけど、やっぱり実機テストを省いての問答無用の実戦投入……。


 離陸については、滑走路を使って加速するより、航宙艦同様リニアカタパルトで打ち出すのが早いと言うことで、この方式を採用したのだけど、第一セットはダーナ機と一緒にまとめてどこかに飛んでいってしまったのだから、笑えない。

 

 なお、普通の人間が乗った機体で運用することは一切考慮しておらず、最大加速は、瞬間的に数十Gもの加速Gがかかると言う代物だった。


 Gキャンセラーを使用して、これなので、無かったら100Gは軽く超えていただろう。


 なお、ダゼル機の射出でも案の定問題が生じたようで、現在格納庫内で液化冷却材をドバドバかけての緊急冷却措置が取られていた。

 

 回収出来ただけ、最初よりは進歩しているのだけど、問題は山積み。


 リニアカタパルトユニットの状態をチェックしていたエンジニアが手で大きくバツマークを示すと、エンジニア達もガックリと肩を落とす。


 けれど、もう一機のユニットについては問題なかったようで、エンジニアが丸を示すと一斉に拍手が上がる。


 結局、艦外に展開していた2基のうち、1基がオシャカになったのだけど、1基は完全に正常動作しきったのだ。

 

 無事だった方は、分解しつつ動作ログを検証し、細かいパーツ状態チェックなどを行った上で、成功要因を探ることになる。


 まるで、使い捨てのような扱いなのだけど、本来このリニアカタパルトユニットは、非常にハイコストな代物で、繰り返し使用する事が想定されている……。

 可動部分も殆どないので、本来は数千回に一回定常メンテを交えつつ年単位で使える……そう言うものなのだ。


 それが一発で壊れる辺り、エーテル空間での運用の難しさを物語っていた。

 

 もっとも、ぶっつけ本番である以上、機材が壊れまくることは織り込み済みで、予備のリニアカタパルトユニットはまだまだ大量にストックされており、多少壊れても問題にはなっていなかった。


「うん? リニアカタパルトの瞬間Gは最高30Gを記録したか……さすがに少々堪えたな。シミュレーションとはやはり違うな……と言うか、電磁加速帯にちょっと引っかかりがあって、危うく機体にスピンがかかるところだったぞ。もうちょっとチューニングが必要だと思う。それに機体も、ものすごくピーキーだな……軽く吹かしただけで、一気にパワーレベルがドカンと跳ね上がる。これは手懐けるのになかなか骨が折れそうだぞ」


「ごめん……リニアカタパルトも試作品だから、データ蓄積が全然足りてないんだよ。ちなみに、多分そのひっかかりって、リニアカタパルトユニットがスパークしてた時かな……」


「おいおい、そんなかよ。まぁ、ダーナの時は一緒にすっ飛んでいっちまったから、まだマシか」


「だねぇ……エンジニアさん達もこんな状態で人を乗せて飛ばすなんて、論外だって怒ってたよ。まぁ、今の所、オーバーパワーでむりくり打ち出して、機体側でリカバリーしてもらってるのが実情。機体の方も生存性を上げるための追加装甲とかベイルアウトシステム、可変翼システムとかで結構な重量になってるし……まさに力技で飛ばしてるようなものだよ。……なんと言うか、酷い出来だよ……これ」


 酷い出来なのだけど、エスクロンの持つ空間戦闘機で、エーテル空間で安定して使えるレベルのものとなると、ゼロスナイパーあたりになる。

 が……しかし、ゼロスナイパーは無人機想定機なので、人間の搭乗を想定していない。

 

 なにより、状況は中途半端な戦力ではなく、出来る限り最高の戦力を求めていた。

  

 かくして、無理にゼロスナイパーを有人機仕様に改装するより、完成したての試作機と試作艦を投入……となったのだけど。


 そのしわ寄せは、現場にまとめて来ていると言うのが実情ではあった。


「試作型の新開発ハイパワープラズマジェットエンジン……。ゼロスナイパーのブースター用の物と比較して3倍の推力……。こんなハイパワーなエーテル空間戦闘機、前代未聞らしいじゃないか。こりゃ、一般人や通常の戦闘AIの扱える機体じゃないな。強化人間でもなければ、あっという間にブラックアウトで終わりだろ」


「と言うか、ベースになってるのが、ユリコ姉さんの無茶振りに全力で応えたって噂の「白鴉」ってお化け戦闘機だからねぇ……。これでも扱いやすいように、かなりデチューンしてるって話だよ」


「まさにユリコ姉さん好みの機体って訳だな……。あの人、空間戦闘ではパワー至上主義みたいな感じだから、納得の出来だ……。しかし、まさか強化人間のこの俺がここまで苦労させられるとは……もう少し習熟訓練の時間が欲しかったな」


「泣き言は言わない約束だよ? このアドラステアもただの輸送艦を改装して、対空砲とかリニアカタパルト付けた仮装空母だしねー。案の定、あっちこっちでトラブルや不具合起きてるから、直しながら動かしてるような有様なんだよね……。ちなみに、着艦時には装甲も残存武装もパージした上で、電磁キャプチャーで無理やり甲板に引っ掛けての着艦になるから、そのつもりで……と言うか、実機での着艦テストもまだだったんだよね……。無人のリモートコントロール着艦実験は、試作機一機潰して大失敗だったしね……」


「いやぁ、何もかもが酷いもんだ……ここまで来るとむしろ、笑っちゃうね! けど、ボクはそんな下手くそな着艦はしない自信あるけどね。これでも宇宙機動兵器のスペシャリストだもん。この機体の機動特性もあらかた把握できたし、重力環境下の空母着艦くらい一発で決めてみせるよ。成功データがあるなら、後はそれを解析トレースするだけの簡単なお仕事だから、ここは一つ最高の見本ってものをお見せするよ」


「自信過剰は命取りだよ? 機体の予備だってあるし、装備類は遠慮なく使い潰して構わないって言われてるし、予備の機材は大量に積んで来てるから、とにかく安全第一でお願いします。それと私が一応現場の最上級ナンバーって事でリーダーに命じられてるから、命令には従うこと! あと、あっちこっちに乗ってるエンジニアさん達は、自分達は居ないものとして扱ってもらって結構とか言ってたけど、ちゃんと無事に帰してあげないとだよね。だから、みんなも無理や無茶は禁物! いいね?」


 なお、エンジニア達にはCEO命令として、退艦命令が出ていたのだけど。

 艦や機体が未完成状態のまま、実戦に投入されると言う状況を、彼らのプライドと良識が許さなかった。

 

 かくして、彼らは命懸けになることを承知の上で、現場に残るという選択を自主的にしていたのだった。


 もちろん、アキ達強化人間もその行動に反対していたのだけど。 

 現場のエンジニアの長がこのまま出したら、現場に到着する前に、確実に自滅するから最後までやらせろと言い張って、結局アキ達も折れてこうなった。

 

 実際、その判断は正解で、アドラステアもアスクレピオスも問題が次から次へと発生し、鴉も調整、調整、また再調整……そんな調子で、完成度としては話にならないレベルなのだった。


 おまけに、アキの居るCICはともかくとして、戦闘機類が格納されている格納庫やリニアカタパルト周りは開放式の為、中にまで100度近い熱風が吹き荒れている。


 本来なら、リニアカタパルトも密閉式の電磁加速砲の砲弾のように機体を打ち出す方式を採用する予定だったのだけど、その方式だとチューブ口径をかなり大きく取らないと途中でひっかかって機体が大破すると判明したので、急造の宇宙船の加速用リニアカタパルトを用いる方式に、仕様変更したばかりだったのだ。


 結果、射出口から吹き込む熱風が格納庫に広がるようになってしまい、格納庫は灼熱地獄となっている。

 

 そんな真っ当な人間が生きるのも難しい劣悪な環境の中、今もリアルタイムで少しでも完成度を上げて、実戦投入前に問題点を解消すべく、今も多くのエンジニア達が耐熱装甲服に身を固めて、危険な作業に従事していた。


「はいはい、まったくアキは慎重だね……。では、鴉一号機、そろそろ帰還します。ダゼルとケリーも気をつけてね。ここ風も強いし、狭い通路だから次元境界面が割と近いから、大気状態や重力係数がかなり不安定……オートバランサー任せにするんじゃなくて、ある程度先読みの上でマニュアルで機体制御しないと駄目だよ。いきなり風に煽られて失速とかなったら、本気で死んじゃうからね……」


「……了解、了解。鴉三号機ケリー……出るよ!」


 続いて、三号機も射出される……さすがに三回目ともなると、射出ラインも安定して危なげなく飛び上がっていった。


「……オッケー。今のはいい感じだったね……。エンジニアさん達からの注文で、ちょっとリニアカタパルトの出力下げて、射出角上げてみたんだけど。かなり、いい感じだったみたいだね。ケリーくん、お上手ー!」


「ああ、ちょっと事前に色々シュミレーションで試したんだけど、今のパターンが割と成功率高かったんだよ。でも、なかなか上手く行ったみたいだ。スレイブ機射出も今のパラメーターでやるといいんじゃないかな? 初期加速段階で機体にスピンを掛けたほうが安定すると思ったんだけど、案の定だったよ。普通の人間だとスピンしながら加速なんて、耐えられるものじゃないけど、僕らなら許容値範囲内……今のは多分、成功例と思って良さそうだから、解析に回すといいよ」


 ケリー機は、リニアカタパルトを抜ける前からスピン状態に入っていた。


 結果的に、加速も安定しスピン状態も絶妙なエンジンパワーコントロールとジワジワと広げたウィング展開も噛み合って、完璧な発進を成功させていた。


 サラッとやってのけたのだけど、並大抵の腕で出来ることではない。

 まさに、強化人間の面目躍如と言ったところだった。


「ありがとー! エンジニアさん達も良い数値が取れたって喜んでるよ! テストフライトならこれでミッションコンプだけど、残念ながらこれは始まりに過ぎないのだよ……。ゆめゆめ忘れるべからずだよ」


「そうだねぇ……前途多難だけど、なんとかしようか。では、ダゼルとエレメント組んで先行する。情報支援、それとスレイブ機射出と誘導管制はよろしく!」

 

 ケリー機が安全圏まで離れると、今度は続々とスレイブ機と呼ばれる無人制御機が立て続けに打ち出されていく。

 

 こちらに関しては、完全無人制御機。


 ケリー機でかなり良い射出パラメーターが取れたこともあって、安全マージンをギリギリまで切り詰めた上で、間隔を開けずにスレイブ機が展開されていく。


 問題だらけだったリニアカタパルトも、回数をこなすごとに安定していってるのが傍目にも解る。

 今この場で仮装空母アドラステアは、進化しつつあるのだ。

 

 スレイブ機と呼ばれる機体もこれもまた異様なシルエットで、空飛ぶ二等辺三角形と言った形をしていた。


 有人型の鴉との違いとしては、コクピットブロックが省略されており、可変翼も省略されて、装甲も簡略化されており、Gリミッターなども付いていない。

 

 武装も機体同軸70mmリニアキャノン一門のみながら、この砲は、エスクロンのデビュー作といえるエーテル空間迎撃戦闘機「Kamikaze」の時代から、「大佐」のアドバイスを受けながら、熟成を重ねた物なので、信頼性は極めて高い。


 この砲は、ゼロスナイパーでも採用されており、長距離狙撃戦闘機と言う極めて特殊な運用を実現しており、エスクロン式のエーテル空間戦闘機のデファクトスタンダードと言えるものでもあった。


 機体性能的には有人型よりも高く、何より軽量で構造的にもシンプルなので、とにかくしぶとい機体で、ある程度の自律戦闘もこなせるようにはなっているのだけど……。


 シュミレーション上ではダーナはもちろん、ダゼルやケリーに一蹴されており、完成度はいまいち高くない。

 

 それでも、最終的にレシプロジェット機と言うハイブリッド仕様みたいになってしまったゼロスナイパーとの比較となると、キルレシオは3:1と悪くない数値が出ており、エスクロンはこの機体を完全に次世代型制空戦闘機と位置づけており、これから長い時間をかけて熟成させるつもりだったのだ。


 けれど今回、初の実戦投入となる強化人間達の意見を採用する形で、せめて目一杯高性能な機種をと言うことで、この未完成機を投入させていた。


 仮装空母アドラステアの搭載機は、この先行試作型のスレイブ機が18機ロールアウトしており、有人機も予備機も含めて6機が完成していたのだけど、それら根こそぎ全機搭載していた。


 急造も急造なのだけど、エスクロンの置かれた状況がそれらを投入せざるを得ないと判断させたのだ。

 

 虎の子の強化人間達の実戦投入についても、本人達の強い希望もあり、それが最善だと誰の目にも明らかだったから、合理的な判断の上……での事だった。

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