第四十七話「美味しく焼けましたーっ!」③
「確かに、あの人達って、ちょくちょく一緒に行動してくれてるけどさ。私も色々やりすぎて、中央からはかなり煙たがられてるから、最近は控えめにしてもらってるんだけどなぁ。けど、いざって時に中央がまるで頼りにならなかったのも事実だからねぇ……。結局、いざって時に頼りになったのは同業者や個人的な信頼関係のある人達……そんな人達とのお互いの助け合いが一番頼りになるって、私も思い知ってしまったんだ。そりゃ、イザって時に自分達の独断で動ける体制だって作りたくもなるでしょ」
「……たしかにね。アタシらも銀河連合軍の指揮系統から外れた独立部隊として活動するようになってから、むしろ、かえって気楽になったからね……。今の銀河連合軍はまともに戦争出来るような組織じゃないよ……。あの宇宙モグラ共の言う事真面目に聞いてたら、何もかもが手遅れになってしまう。色々問題あるのも事実だろうけど、当事者意識ってものをもって、利権とか見栄なんて脇において、とにかく真面目にやってくれって思う。アタシはそう言うのにうんざりして、アウトロー化しちゃったんだけどね」
「そうですね……。我々エスクロンも評議会の意思決定とか待ってたら話にならないから、合法的な範囲で少なくとも自分達の領域と国民だけは意地でも守ると言う観点で、独自行動を起こさざるを得なくなってると言うのが実情ですよ。まぁ、エスクロンは少数派の銀河の異端児と言うのは昔からなので、やってる事はあまり変わってないんですけどね。いっそ除名処分とかしてくれないかって、上層部じゃよく言ってるみたいですよ」
「まぁ、エスクロンさんがアタシらの支援に動いてくれてるってのは、大助かりだよ。やっぱり、国家レベルの組織が動いてくれると、戦果だって桁違いだ。今回なんていい例だろう。アタシらだって実働戦力となると乏しいから、助っ人として動くのがせいぜいだからね。まぁ、毎回歓迎はしてもらえてるから、この助っ人行脚も間違った事はやってないと思ってるけどね」
「ははっ! そりゃ、歓迎だってするよ。今回もだけど、ここ一番って時には、毎度必ずと言っていいほど、いいタイミングで助太刀してくれるんだからさ……。銀河連合の上層部は、遥くんの出奔にお冠で、部外者に勝手に手出しさせるなって騒いでるけど、前線の指揮官連中は皆、君の味方だと思っていいよ。こないだも名指しで宇宙海賊扱いして、討伐命令とか出てたけど、皆、聞かなかったことにしたらしいよ」
「……そこまでやられてたのか、あの宇宙モグラ共も自分らの無能を棚に上げて何やってんだかね。……けど、そう言ってもらえると、ありがたいね。結局、アタシには、こう言う小勢を率いてのピンチヒッター役ってのが向いてるみたいだからね。大艦隊を率いたりとかなんて、面倒が多いから、そう言うのは永友提督達にお任せする所存だよ」
「ああ、前線指揮や細かい戦術はダメダメだって自覚はあるけど、後方支援や艦隊運営なら任せてくれよ。まったく……せっかく遥くんみたいな戦略と戦術面で有能な指揮官だっているのに、それを有効活用できない上に冷遇するとか馬鹿な話だよ」
「まったくだ。戦争ってのは大局を見て、先手先手を読んで駒を動かさねぇと勝てねぇだろうに。まぁ、俺らは俺らで勝手働きの挙げ句に勝っちまってるからな。上がアレだけ無能でなんとかなってる辺り、やっぱ超AIだの目に見えない力も働いてるんだろうな……。だが、それ以前に俺達を強くしてるのは、お互い轡を並べて共に戦い苦労を共にした……戦友同士だからってのもあるだろうな!」
そう言って、永友提督の肩をバンバン叩くグエン提督。
なんか、痛そうな音してるのですよ。
「そ、そうだね、こう言う人と人の繋がりや、信頼ってのが戦場では一番当てになるからね。だから、私は共に闘った皆を労うために、せめてものご褒美って事で、毎回食事会に招待してるんだよ」
「いやぁ、お気遣いありがたい限りだよ。実際、ここまで美味い食事なんて、こっちじゃ、なかなかありつけないからね。悪くないご褒美だよ。むしろ、いつでも駆けつけようって気にもなる……まったく、上手いね」
「そうだなっ! 俺も永友ちゃんから頼まれたら、嫌とは言わねぇぜ? しっかし、永友ちゃん! 俺、大満足だぜ! やっぱ、肉料理ってのはこうでなくちゃいけねぇよ。さすが解ってるな! もう、俺の中では永友ちゃんは五つ星シェフだぜ?」
遥提督もグエン提督ももう手放しで絶賛。
永友提督……この人、なんでエーテル空間の最前線で提督なんてやってるんだろ?
話を聞いてる限りだと、むしろ後方の総司令官とかに向いてる気がするのですよ。
存在感ゼロなんて言われてる銀河連合軍の総司令部の人達なんて、軽く一掃しちゃって永友提督を銀河連合軍の総司令官にでも祭り上げて、エスクロンが総力を挙げて支援すれば、こんな戦争あっさり終わっちゃうんじゃないかな……。
けど、ままならないのがこの銀河の情勢。
なんとなくだけど……ユリもこの銀河人類の一員として、永友提督さん達への一助になるように、何か少しでも出来ることをやりたいなって、思い始めたのです。
具体的に、何をすればいいかは良く解らないけど。
手の届く範囲で良いから、出来ることを何かやるべきなんじゃないかな。
そんな風に思うのですよ。
とまぁ、そんな調子で……。
接待お食事会も歴戦の提督たちに囲まれながら、お腹もいっぱい。
色々ためになる話も聞けたし、こんなすごい人達に守ってもらってるんだなぁって……改めて、実感できたのですよ。
……さて、宴もたけなわ。
そろそろ、お開きって雰囲気になってきたのですよ。
「わーい! プリンなのですっ! ユリ、大好きなのです!」
デザートなにかなって思ってたら、プリンが出て来たのですよ!
バニラアイスと生クリームの乗ったプリンが並んでて、超かわいい!
「これはまた、提督にしては随分と気が利いたものが出てきたね。しかも、随分といい素材を使ってると見た。これって、天然の卵とミルク使ってるでしょ。合成品とは訳が違うよ!」
プリンを一口食べた遥提督の感想。
ユリは……濃厚っ! こんな二文字感想しか出てこなかったのですよ……。
「ううっ、永友プリン……コンビニでも売ってるから、ユリも時々買ってるんだけど。あれより、数ランク上って感じなのですよ! トロトロで濃厚でキュンキュンなのですー!」
「はっはっは! うちには、スイーツにうるさいのが居るからね……ちょっと、本気を出させてもらったよ。そもそも、私は本職パティシエだよ? スイーツこそが本業……コンビニ売りのは、コストや生産性との兼ね合いで色々妥協したけど、これは妥協一切なしのパーフェクトプリンだからね! 卵はシリウス系の惑星コストラのぴよぴよパークの絶品黄金卵。ミルクは大佐御用達のエスクロン本星のコロニー牧場、フェザー牧場の最高級品! もっと褒めてもらっても構わないよ!」
永友提督、渾身のドヤ顔!
けど、文句なんて一つもない……これはプリンの王様なのですよ!
ちなみに、フェザー牧場はエスクロンでも有名なコロニー牧場なのですよ。
衛星軌道コロニーまるごと全部が牧草地になってて、乳牛を放し飼いにして、重力係数から気温まで完璧に管理しつつ、限り無く自然環境肥育に近づけるべく、合成餌じゃなくて、本物の牧草を与えて、長い時間をかけて育て上げる……そんなパーフェクト牧場なのですよ。
昔は、コロニーの一角に牧場作ってほそぼそとやってたんだけど、例の大佐さんがフェザー牧場のミルクを絶賛して、定期的に買い付けにくるようになって……。
『私の一日は、フェザー牧場の一杯のミルクに始まり、就寝前の一杯のミルクに終わる。そして、何より急降下爆撃から生還しての一杯はたまらない……これはまさに至高の一杯と言えるだろう』
そんな渋い声の独白から始まるCMがきっかけで全銀河レベルで大ヒット。
事業拡大で、コロニーまるごと牧場にして、無重力環境での天然ミルクは、古代のエースパイロットも唸らせる絶品って評判で、大人気商品になってるのですよ。
「……まったく。永友ちゃんパーフェクトだぜ! 別に甘いものは好かんけど、こいつの美味さは俺でも解る! おまけに、コーヒーも天然物の良い豆使ってやがるしな! あんまりにウメェもんだから、ついつい葉巻にも手が伸びちまうぜ! ってな訳で一服失礼するぜ!」
言いながら、グエン提督が葉巻を蒸すんだけど、煙が出ないみたいで、キョトンとしてる。
「グエン提督……未成年の前で葉巻とか駄目ですよ。なので、その無煙電子葉巻にすり替えておきましたよ」
「遥ちゃん、やるねぇ……いつのまに。やれやれ、葉巻も自由に吸えねぇとは、世知辛い話だねぇ」
「コロニーや宇宙船内では、火気厳禁なのでタバコなんて、今どき誰も吸ってませんよ。グエン提督も禁煙するのですよ。せっかくイケメンなのに、煙たいと女の子に嫌われちゃいますよ?」
「ははっ! こいつは一本取られたな。けど、煙も出ねぇのに葉巻吸ってる気にはなってくるな。遥ちゃん、これはどっから入手したんだ?」
「それ……コンビニとかに普通に売ってますよ。なお、ニコチン、タールはゼロ。揮発性の高いニコチン疑似物質が含まれてるので、タバコと似たような感覚を得られるそうですけど、基本的には錯覚なので、無害なファッションアイテムの一種だそうです」
「……なんだそりゃ。要するにタバコもどきってことか。まぁ、レディもいらっしゃるし、我慢してやるよ」
そう言って、くわえタバコならぬ、くわえ葉巻でニヤリと笑うグエン提督。
イケメンは何をやってもサマになるのですよ。
そんな訳で、色々と難しい話もあったけど、大満足のお食事会が終わり、ユリもロンギヌスに引き上げ。
皆の所に戻るのですよー!
ちゃんちゃんっと。




