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宇宙(そら)きゃんっ! 私、ぼっち女子高生だったんだけど、転校先で惑星降下アウトドア始めたら、女の子にモテモテになりました!  作者: MITT


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第四十六話「フルコースディナー」⑥

「まぁ、そうですね。実際、ギリギリだったってケースもありましたからね。これは内々に留めておいて欲しいのですが。我々エスクロンは、ユリコがシュバルツの手に落ちた場合は、我が国独自で、シュバルツに宣戦布告の上で、奪回と殲滅作戦を同時敢行する手筈でしたし、実際コードβ……戦時体制移行指令の発令まで行きました。もっとも、宣戦布告直前でそれは回避されて、コードβも即時解除されたんですけどね」


 コードβの件はユリも知ってるのですよ……。

 

 表沙汰にならなかっただけで、全部所、全社員に一斉通達があって、その時点でエスクロンは即時戦時体制に移行したのですよ。

 

 要するにエスクロン本国は蜂の巣をつついたような騒ぎになってて、当然ユリも知ることになったのですよ。


 あとから聞いた話だと、あの文化祭の最中……。

 敵性工作員がユリにあと一歩のところまで近づいてて、現場指揮官が事前規定に基づき発令しちゃったらしいのですよ。

 

 確かにあの時、フォルゼお姉さまもすっごく緊張してて、何かあったってのはユリにも解ったのです。


 なんでも、5kmも離れたところからのスナイパーの超長距離狙撃未遂だったとかで、割と危ういところだったらしいのですよ……。


 向こうは、すでにレーザーキャノンのレティクルに捉えてるから、大人しく引き渡せ、さもなくばこの場で射殺するって、脅迫してたんだって。


 うーん、状況だけ聞くと確かに危うい。

 知らぬ間に、事実上の人質に取られてたようなもので、5kmなんて距離……レーザーなら余裕で当たる。

 

 でも、レーザーって大気中使用だと減衰が激しいから、携行可能な対人レーザーライフル程度じゃ、5kmも離れたところからユリに当てたとしても、延々と直撃くらわない限り、脅威にもならないんだけどなぁ……。

 

 ……ユリに限らず、戦闘用強化人間のソフトスキン装甲をレーザーで撃ち抜くとなると、最低でもレンズ口径100mm超くらいの重レーザーでないと難しいと思うんだけど……、


 どうも本当にそんな重レーザー狙撃をされかけてたらしいのですよ……。

 

 そんな重レーザー装備を運用するとなると、大型ジェネレーターや大容量蓄電セルを搭載しないと間尺に合わないから、手持ち装備なんて論外で、10mくらいの大型車両か、10m級の大型ドローンとか、そんなのが必要だと思うんだけど……。

 

 そんなのをクオン内部に展開とか相当無理があるはずなんだけど、文化祭の大混雑で大型輸送車両とかも来てたから、その辺に偽装してたとか……?


 一応、そんな風に狙撃未遂があったって話や事の顛末について、説明はされたんだけどね。

 結局、こっちが本気になったって悟った工作員が、無条件降伏してきて、穏便に解決したらしい。


 敵の手に落ちた要人奪回ともなると、もう立派な戦争行為だから、宣戦布告の上で奪回ってなるのは解る。

 

 敵のすべてを吹き飛ばす殲滅作戦を決行ってのは、宣戦布告しちゃった以上、もう後に引けないから徹底的にやる……そうなったら、相手の反撃とか待たずに、何もかも消し飛ばすのが最善……これも解る。 

 

 けど、狙撃で事実上人質にされたからって、そこまでやるってのは……ちょっと過剰反応が過ぎたって思うのですよ……。

 

 これが何も出来ないお姫様とかだったら、そんな状況になった時点で詰んでるけど。

 ユリは、強化人間……その状況からの反撃の手段なんていくらでもあるのですよ。


 なんと言うか、煮え切らない話ではあるのですよ……。

 

 別に狙撃手の気配も、狙われてる殺気も感じなかったし……。

 そもそも、スナイパーに狙われても向こうが撃つって思った時点で距離とか関係なく検知できると思うんだよね……。

 

 ……ぶっちゃけ、ユリ自身はあんまり納得はしてないのですよ。

 多分、あの時ユリが解ってなかっただけで、もっと深刻な状況になってたんじゃないかなーって気がするのですよ。

 

 仮に本当に狙撃されてたとしても、ユリならヒョイーンと避けてたと思うし。

 

 レーザーを避けるコツ。

 まずレーザーってのは、光速だから回避なんて不可能って思われてるんだけど。


 あれって、いきなり最大出力で撃てるような兵器じゃないのですよ。

 太陽の光を虫メガネで集めて、紙を焦がすのと一緒で、レーザー照射ってのは、焦点最適化調整プロセスってのがどうやっても入る。

 

 なので、小口径だろうが大口径だろうが、照射直後の0.1秒程度なら、焦点調整ラグで出力も控えめだし、ソフトスキン装甲のAL蒸散被膜層はそのくらいの時間なら、十分耐えてくれるから、その時点でドーンと派手に避ける!

 

 と言うか、照準用のマイクロパルスレーザー照射の時点で、ユリなら検知出来るから、向こうのFCSのターゲット移動予測を超える動きで遮蔽物に隠れるとか、最悪フルパワーで地面ぶん殴って、即席塹壕でも掘れば重レーザー相手でも回避余裕なのですよ。


 実際、だだっ広い野原で、重レーザー砲戦車を潰せとかきっついミッションシュミレーションとか、クリアしてるし……。


 もっとも、流れ弾に他の人が当たったりしてたら、大変だっただろうし、重レーザーの流れ弾がコロニーの外壁に当たったら、それだけで外壁に穴が開いて大変なことになってただろうから、その辺りを考慮すると経験が浅くて、強化人間のスペックを理解してない指揮官とかだと、詰んだって判断しちゃうかも知れない。


 なんにせよ、未遂で済んでよかったと思うべきなのですよ。


 ちなみに、コードβ発令は全国規模での抜き打ち演習だったと言うことで、すでに片付いてるのですよ。

 銀河連合にも、その説明で強引に納得させたらしい。


 基本的に、エスクロンでは、月イチペースで様々なシナリオで非常事態対応訓練が抜き打ち実施されるので、皆も慣れたものなのです。

 

 なお、コードβ発令想定訓練の判定評価はパーフェクト。

 結果的にエスクロンは、30分で戦時体制に移行できるってことが証明されたのですよ。


「……まったく、30分で戦時体制へ移行可能とか、過去のどんな国家でもそんな芸当は不可能だったんだけどね。君らの言う備えの一環だとは思うけど、そんな所に喧嘩を売るなんて、狂気の沙汰だと思うよ。そう言う意味では、それは抑止力として機能しているから、正しいと言えるだろうね」


「むしろ、いつでも喧嘩売ってこいってのが、我々のスタンスなんですけどね。本来ならば、ユリコの捕縛命令なんて出された時点で、報復として相手の有人惑星のひとつふたつ焼き払ってるところですよ。我々はこれでもかなり自重はしていますし、我慢に我慢を重ねているんですよ」


「なるほどね……。つまり、エスクロンはユリコさんをそこまで重視してて、万が一の時は、武力奪還も辞さない……そう言う覚悟だったと。本当に見上げたものだよ……タイゾウさんは敵地の草として機能してるから、無理に奪還する気もないってのは解ったけど、ユリコさんはそうでもないと。彼女の価値は他ならぬ君達こそが誰よりも解ってるってことか。なら、アタシの苦言なんて言うまでもないね。もしかして、例のデュラハンとやらもその辺りで繋ぎが出来たってとこなのかな?」


 なんだか、本国の皆さんに謝りたいくらい。

 

 そこまで、ユリのことを大事にしてくれてて、いざって時は、戦争吹っかけてでも助けようとしてたなんて、ユリも知らなかった。


 にも関わらず、クオンに残るって選択を快く受け入れてくれて……CEOさんや他の重役幹部の皆さんには、感謝の言葉しか出ないのですよ。


 これは、将来高校卒業したら、最前線で大暴れして恩返ししないと! なのですよ!


 もちろん、VRテストパイロットも今まで以上にやるのです!

 正月休みも返上したって構わないのですよ。


 ユリ、今まで以上にやる気に満ち溢れてるのですよ!


「……その辺りはご想像にお任せしますよ。ユリコもごめんね……情報提供は最小限にした方が囮として不自然じゃなく動いてくれそうだったし、コードβ発令の背景も全て伝えるにはちょっと問題があってね……。あの説明で納得はしてないって解ってるんだけど、今はそう言うことにしておいて欲しいの」


 確かに……フォルゼお姉さまの件とか含めて、色々思う所はあるのですよ。


 けど、ユリも深く考えないっ!

 ユリはお気楽でいろって言われてるから、これでいいのですよ。


「ユリもその辺の事情は解るのですよ。だから、深くは追求しません。その時が来たらって、言われてますからね。ユリは本国の皆さんの思惑に黙って従うのですよ」


 さり気なくだけど、エリコ姉さまに例のエリヌダスからのメッセージを匂わせてみた。

 それだけで通じたようで、エリコ姉さまも真剣な表情になる。


「ああ、うん。そう言う事なのよね……。ユリコの扱いもそのうち変わるだろうけど、今はとにかく、あまり深く考えずに、普通に暮らしてて欲しいの……。せめて高校を卒業するまでは……だったわよね? そこはなんとしても実現する! 絶対に……だから!」


「でも、良いのかなって思うんですけどね。ここに居る皆さんは命懸けで最前線に立ってるんですよね? ユリはまだ子供ですけど、立派に戦えます。だから、戦況が厳しくなったら、いつでも……」


「はい、ストップ。悪いけど、ここにいる全員の総意として、君を戦場に立たせるなんて事は絶対に許さない……。確かに君が戦場に出てきたら、素晴らしく頼もしい存在になるだろうけど、あくまで君は未成年……所詮、お子様なんだよ。お子様は安全な所でのんびり学生生活でも送っててくれればそれで良いんだよ。これは多分、全員一致で思うところ、言わば、切なる願いだと思うんだけど、どうだろう?」


「……そうさな。悪いが、戦場ってのは、命知らずの大の大人の特等席なんだぜ。戦場にお子様の居場所なんてねぇよ……。そんな訳で、ガキは引っ込んでろって言わせてもらうぜ!」


 ……グエン提督さん。

 ちょっと怒ってる……怖いのですよ。


 思わず、エリコ姉さまの後ろに引っ込むのですよ。


「グエン提督は口は悪いけど、私もそこは同感かな。我々は所詮、遥か昔を生きた古代人の亡霊のようなものだ。この未来世界にもさしたる思い入れはないけど、君のような子供がこの銀河の為に戦う気概を見せてくれてると、そうも言ってられない。君達の生きる世界、子供たちの未来を守るための戦い……そう思うと、俄然やる気が出るよ。そんな訳で、私も敢えてこう言わせてもらおう、戦場に子供はお断りだよってね」


「さすが、英雄と名高いお二方だねぇ……なんだかんだで、意見が一致するってのはいつものことですね。まぁ、アタシも同感なんだよ。君はアグレッサーとして、スターシスターズ達へのこの上ない刺激となってくれてるし、膠着しつつあった第二世界との戦いにも多大な影響を与えてくれた。この様子だとある意味、突破口を開いてくれたのかも知れない。となると、次はこっちの番だ……子供を矢面に立たせるなんて、いい面の皮だからね。ねぇ、コーウェイ中将、それにエリコさん。この場で我々に誓ってくれないかな? 彼女を戦場に立たせるなんて事だけはあってはいけない。そうなったら、さすがのアタシも怒るよ?」


「そうだな。私もそんな事になったら、本国には猛抗議するし、私の権限の及ぶ範囲で全力で阻止するだろう。このような若く有能な者こそ、後方にいるべきで、最前線で戦うのは、私のような老骨や君達のような命知らずの再現体であるべきだ。エリコくん、そう言うことだから、本国にも我々の意思はしっかり伝えてくれよ。私はエスクロン宇宙軍のOBではあるが、立場上は銀河連合の将帥だからね。私も本国からのお願いは聞くし、便宜も図るが、これだけは譲れないというラインはある。そこは弁えて欲しいものだ」


「はい、閣下のお言葉は必ずや。ちなみに、私個人としては、皆様の意見に大きく同調いたしますね。私としては、ユリコはエスクロン本国の厳重な保護下に置きたいのですが、彼女自身がクオンをえらく気に入ってしまって……高校卒業まではクオンで過ごさせると言う事で内定しているんですよ」


「なるほどな……。これは、私の個人的な提案なのだが、辺境艦隊の重要防御拠点にクオン星系も入れてはどうだろうか? 戦略的にはクオン星系は交通の要所からも外れているから、本来戦略的な価値は薄い星系なのだが、違う意味で戦略上重要な要所となったと思うのだが」


「そりゃ確かに違いねぇな……。カイオスのクソ野郎はとにかく執念深いからな。そう言う事情なら、大いに納得だ。コーウェイのダンナ、俺は賛成だぜ? なんなら、クオン星系を俺達の根城にしたって構わんぜ? 聞けば、割と飯が美味いところらしいじゃねぇか」


「私も賛成だね。惑星クオンの地上にも行ってみたんだけど、あそこは恒星スペクトルも地球に近い上に、じっくり時間をかけて、テラフォーミングを進めたおかげで、土も肥沃で、あそこで採れた天然食材はかなり品質がいいんだ。あんな素晴らしい星をシュバルツみたいなならず者に分捕られるなんて、我慢がならない。それにユリコくんのお友達も皆、いい子だったからね。ああ言う子達を守ってやりたい……。心からそう思うよ」


「ふむ、両提督に異論はないと。その様子だとエスクロン側も色々裏で動いてるようだが、万が一クオンの中継港が陥落したりすると、極めて大きな問題が発生する……それは事実なのだろう?」


「そうですね。通常宇宙側ではすでに百隻単位の我々の宇宙艦隊が展開出来るようになりそうなんですが、エーテル空間側は、表立って守りを固めるのは難しい状況ではありますね。今の所、定期的にロンギヌスを寄港させて、無人戦闘艦やPMCを配備したりはしてるんですが。我々のエーテル空間戦力はまだまだ未熟ですからね……」


 エーテル空間上での戦力不足……。

 地上や宇宙の戦力なら、間違いなく銀河最強のエスクロンも、エーテル空間の戦力については、まったくもっておもちゃみたいな戦力しか持ち得ていないのが実情なのですよ。


 他の国に比べると、銀河連合軍にエーテル空間用の兵器や装備を提供してる関係で、元々の技術力が高度だから、格段に進んではいるのだけど。


 肝心な兵器プラットフォーム……戦闘艦艇やその運用となると、全く銀河連合軍には及んでないのですよ。

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