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宇宙(そら)きゃんっ! 私、ぼっち女子高生だったんだけど、転校先で惑星降下アウトドア始めたら、女の子にモテモテになりました!  作者: MITT


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第四十五話「未来へと続くお話合い」③

「……それはどうだかね。君は、戦場で敵として出会ったなら、親兄弟相手でも容赦なく引き金を引いて、戦いの後に涙する……そう言うタイプだよ。戦闘になると、情緒や理性をあっさり切り離して、冷徹な戦闘マシーンになれる……戦士としては理想と言えるだろう。恐らく膨大な数のありとあらゆる状況シミュレーションや、自己暗示による精神操作……その辺りの賜物かな。精神強化プログラム……あの忌避すべく技術がこの時代まで残ってるとは、因果な話だとは思うけどね」


 ……なんで、この人は強化人間の精神強化プログラムまで把握してるんだろ?

 

 深度VRダイブ状態で、一時的に記憶凍結した上で、疑似記憶を植え付けて様々な状況を疑似体験させる……そんな措置……ユリが覚えてる限りでも最低で最悪な強化処置なのですよ……。


 要するに、記憶まっさらな状態にして、ニセの記憶を埋め込んで……家族の死とか、友達との殺し合いやら、裏切り……。

 

 起こるべきして起こった悲劇を止められなかったり、この世の悪を煮詰めたような外道に酷いことされるとか。

 一言で言えば、鬱展開のオンパレードVR体験って感じ?


 もっとも、記憶とかも一時凍結されてるし、VRサーバー直結式だから、現実との違いなんて、行ける所が限られてるくらいの超リアルワールド。

 

 ラグも違和感もなにもないから、精神強化処置中はそれが現実だと思いこんでるのですよ。


 泣いて笑って、怒って……絶望して……。

 そんな精神状態でも任務を全うすべく、出来る最善を尽くす。


 確かに、回数を重ねるごとに任務達成率や成功率は向上していったんだけど。


 それを繰り返すうちに、だんだんリアルでも心が凍りついたようになっていって……。

 いつのまにか、ユリは笑えなくなった……。

 

 ……嫌な思い出なのですよ。


「……悪い。言葉が悪かったみたいだね。その様子だと随分と、辛い思いをしたようだね。あれは、加減を間違えると心を壊す……そう言うモノだ。アタシもその手のメンタルチューニングプログラムの被験者だったから解るよ。けど、エスクロン流はそこら辺のさじ加減が上手かったみたいだね。君を見てるとそう思う」


 ……それは多分、ユリのやらかしのせいなのですよ。

 

 現実回帰するなり、号泣……で済めばいいんだけど、手近な研究者をフルボッコとか、機材ぶっ壊しまくったり色々やらかしたのですよ……。

 

 その場を我慢してても、家に帰るなり部屋に閉じこもって号泣とか。

 話しかけられたりしても無反応になったりとかとか……。


 さすがに、それを見たお父さん達が色々動いてくれたらしく、この精神強化プログラムは幾分かマイルドになった。

 

 特例として、自宅から研究施設へ通ってて、有力庶家のクスノキ家の子女だったからこそ出来た荒業なんだけど……技術者が机の上で合理的に考えたプログラムではなく、極力被験者に配慮した上で最大限の効果を認められるものにって話にはなったのですよ。

 

 かくして、これまでやったプログラムの中で、ユリの暴れっぷりが酷かったようなケースは、問題ありと言う解りやすい指標が出来たので、事前検討でそれなりにマイルドなシナリオにしたり、最初からVRだと認識できるようになって、他の皆はユリほど酷い鬱シナリオは体験せずに済んでると思うのですよ。


 けど、あの精神強化プログラムって、そんな遥さんの時代の頃に原型が作られたような代物だったんだ……。


「……えっと……ユリが色々やらかしたので、幾分かマイルドになったのですよ……。ちなみに、基本的にユリが真っ先に先行試験をさせられてたので、辛い思いをしたのは多分ユリだけだと思います」


 この辺は……自分で志願したってのもある。

 誰かに嫌な役目を押し付けるくらいなら、自分が引き受ける……ユリはいつだって、そうしてきたのですよ。


「……そうか。本当に君は強い子なんだな……。アレは精神強化なんて言ってたけど、精神崩壊の間違いだろってそんな代物だったんだけどね。まぁ、人類も百年単位の時が過ぎれば、それなりに進化するってことかな」


「面白いですね。遥さんのお話だと、ずっと昔にもユリ達みたいな強化人間が作られてたみたいに思えてきます。一応、この強化人間計画はまっさらな状態から、三世代にも渡って少しずつ失敗を繰り返しながら、進化してきたんですけどね」


「人間を薬物投与や機械化し強化した上で、過酷な戦場に送り込む……その程度のことはアタシらの時代でもやってたよ。もっとも、この時代の人達は、戦争のために人間を強化するよりは、無人兵器や再現体を使おうと言う他力本願な発想になってしまうみたいなんだけどね。どうも、そこら辺の発想からして、君達は規格外のようだね」


「……無人兵器だけの戦争じゃ、単純な頭数の勝負になってしまう上に、超AIクラスが相手だと取り込まれてしまったりするので、最終的に勝ち目がないって、エスクロンは思い知ったんですよ。だからこそ、人間そのものを強化して、最前線に送り込む、人と人工知性体の協力の上で、戦う……結局、それがベストなんですけど。そうなってくると、人員損耗の問題が顕著に出るので、損耗を最低限にしよう……それがユリ達強化人間が作られた経緯ですね……」


 生身の身体での宇宙戦闘について……実戦を経験して、エスクロンが学んだことは、宇宙では人間は簡単に死ぬって、単純な事実だったのですよ。


 装甲の向こうは真空の宇宙……被弾しようものなら、航宙艦の艦内なんてあっさり地獄になる。

 

 宇宙服と言っても、あまりに防護力を重視すると自由に動けなくなるし、視界も悪化する。

 なので、宇宙戦闘用の宇宙服の防御は最低限にすることがほとんど。


 そもそも、被弾して宇宙戦闘艦内をプラズマが駆け巡るような状態になると、どんな防護服もほぼ意味をなさない。

 肝心な中身の人体があまりに脆弱だから。

 

 AI大戦の後半は「フォーチュンテラー」側が人間を直接的な脅威として、兵器の破壊よりも乗員……人間を無力化することに重点を置いてきたから、死傷者が続出することになったのですよ。

 

 エスクロンはその辺りの関係で、戦傷者の機械化による救命や、任務によっては簡単には無力化しないように予め身体改造や機械化をするとか……。

 

 そう言う技術が発展したのですよ。

 

 強化人間ってのは、それらの技術の発展応用で、子供のうちから身体自体を強化して、強化された身体を当たり前のように運用し、過酷な宇宙戦闘でも高い生存率と戦闘力を発揮出来るように調整した……要するに、兵器なのですよ。


「まぁ、宇宙みたいな過酷な環境でド派手な戦争経験してると、自然とそんな発想にもなのるか……アタシらの時も同じでね。アタシらの頃の宇宙戦闘でも、双方無茶な戦術機動をする無人機が主流だったからね。10G程度で音を上げる真っ当な人間なんてお呼びじゃなかった。君等同様の宇宙戦闘用ボディに換装した強化人間同士が人外レベルの技を凌ぎ合う……そんな感じだったね。もっとも、君らと比較したら技術的にも稚拙で、問題だらけだったんだけどね。今のアタシも有機合成体の身体なんだけど、最初は戸惑ったよ。人工身体のはずなのに、ほぼ完璧に人体を再現してるんだからね……。まったく、再現体とはよく言ったものだよ」


 再現体の合成技術は……超AIの管理する秘匿技術で、エスクロンもそこまで行ってない。

 もっとも、基本的に戦闘向けではなく、生存性と人体の再現性を重視してるらしい。


 もっとも、その精神の再現率はその人物だと思いこんでるAIなんて領域を軽く飛び越えてるんだけど……。

 エスクロンの科学技術陣もそこだけは、理解の範疇を超えてるとか言ってるらしいのです……。


「……遥さんは……。その……再現体ってのがどんな技術かご存知なのですか?」


「一応……ね。一般的には、AIに過去の人物の行動記録データやプロフィールを学習させて、疑似人格再現を行った有機アンドロイドだと認識されてるようだけど……。まぁ、詳しくは話せないけど……。アタシはアタシなのは間違いない……実際、封印指定情報なんてのを生の記憶として引き継いでるのはそう言うことなのさ」


「生の記憶……ですか? 確かに過去の人物の記録データなんて、そこまで正確なものは残ってないはずですよね……。けど、ほんの僅かな記録データでも最新の連想補完アルゴリズムを使えば、全体像に迫ることは出来る……そう言われてますけど、それとは違うんですか?」


 公開されてる歴史データベースの記録なんて、個々の人物のデータなんてたかが知れてる。


 時代時代の国家元首とか、様々な分野で名を残した人でも、幾つかの業績や残した言葉のひとつふたつとか、そんなものなのですよ。


 ちなみに、連想補完アルゴリズムってのは……遠くからの光学観測だと単なる丸にしか見えない小惑星や光年単位の距離の恒星系の惑星の映像から、ほんの僅かな明暗差とか、類型データを元に情報を補完することで、解像度を上げていって、正確な形を再現する……そんな技術なのですよ。

 

 飛行機の羽根の残骸とかから、元の飛行機の形を復元させるとか、それ位のことは簡単にできる。

 

 要するに、似たような形状サンプルデータを大量に揃えて、最適化を繰り返すことで、元のデータの形状近似値を再現する……そんな感じ。

 

 そんな手法だと、似ても似つかないものになると思われがちだけど、なんだかんだで、こうなるのがベストってのは、ある程度決まってるので、かけ離れた結果にはまずならない。

 

 最近は、その手法で僅かなデータさえあれば、かなり正確な再現が出来るとのことで、色んな分野で使われるようになってる技術なのですよ。


 再現体の人格再現もそのような手法で行ってると言うのが、エスクロンの技術者の仮説だったんだけど。

 遥さんの反応からすると、どうも見当違いだったような……。


「うーん、そりゃ違うな……。アタシは、人格再現AIじゃなくて、天風遥本人さ。それだけは間違いない……人を人たらしめるのは、実はそこなんだよ。己が己であると誰に指摘されるまでもなく認識出来る……。確固たる自我に目覚めた時点で、再現体は有機アンドロイドではなく、過去の個人の再現体となるんだ。言ってる意味、解ってるかい?」


 なんだか、よく解んないロジックなのですよ。

 早い話が言ったもん勝ち……? って事なのかな。

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