第四十三話「めぐり逢い運命」②
もう、この時点でルルカさんの事も、詳しく調べちゃいけないって解る。
この調子だと、下手につつくと、また誰も知らないような大物超AIが出てきて、忠告とかされる流れになるのですよ……。
「エリヌダス」は身内みたいなものだから、多目に見てくれたけど。
他のドゥームガードあたりが出て来たら、本気でヤバい。
いくらユリでも銀河連合の超AI達に目をつけられるなんて、御免被りたいのですよ。
それにしても、なんだか良く解らないけど。
映像がグラグラゆらゆらとやたら落ち着きがない。
前の方にバイクみたいなのに跨った女の子が居て、大量の空間投影モニターの映像では、爆発やら弾幕やらが見えてる。
……ルルカさん、あなたはどこにいて、何やってるのです?
「ああ、ちょっと騒々しいのは気にしないでくれ。おーい、天霧! これ背景変更ってどうやるんだっけ? あ? それどころじゃないから、シートに座ってろって……ごもっとも、よいしょっと」
そう言って、カメラの向きが変わって、簡素なシートと殺風景な鉄板むき出しな壁に背景が変わると、ルルカさんがシートに収まる。
なんだか、遠雷みたいな音とかキンコンカンと金属音とか聞こえてるけど、本人は軽く首をすくめた程度で至って平静。
……ユリ解ってきたのです。
多分、これ……思いっきり戦闘中。
……それもエーテル空間戦闘艦のCICの中っぽい。
確か、最新鋭の駆逐艦辺りでこんな感じのをテスト導入してるって話も聞いてる。
そう言えば、さっきロンギヌスも言ってた。
辺境艦隊の大艦隊が黒船の大群と戦ってたって……。
このムービー……思いっきり現在進行系で戦闘中の艦内なんじゃ……。
ルルカさん……貴女は一体何者なのです?
「うん、色々とお察しかも知れないけど、アタシにとっては、ここが日常なんでね……。まぁ、やかましいのは気にしないくれ……慣れると案外心地が良いものだよ? 多分、君もご同類だろうから、このまま話を続けても問題はないだろう。さて、私から君へのメッセージだけど、君とアタシの戦績はちょっとこっちが負け越してるからね。スタークラスターで長らく引退状態だった君の復帰……心から祝福をしたい! っておいっ! 天霧……お前、何やってんだ? また直撃食らってるぞ! だから、突っ込み過ぎだって言ったんだ。左舷弾幕もっと派手にっ! 弾ケチってんじゃないぞ? ああ、もうっ! ちょっと貸せっ!」
……唐突に席を立ってフレームアウト。
音を聞いてるだけで、何が起きてるかとか理解できちゃうだけに、この豪胆さが信じられない。
それに思いっきり艦名まで出してるし……。
推定、駆逐艦天霧……公開情報ダミーしかない最高機密レベルの特務駆逐艦。
おそらく……最前線で黒船の飛行種の猛爆撃の真っ只中。
うん、前の方にちらっと見えた空間投影モニターにも黒船の飛行種がガッツリ写ってた。
レールガンとかもバンバン撃ってて、さっきからビシバシ被弾中。
……間違いなく激戦地の真っ只中にいる。
「……よぉーっし! さすがアタシ……だいぶ片付いたな。それにやっと後続も追いついてきた。ひとまず、こんなもんでいいかな……。天霧っ! このまま、緩旋回しつつ戦線離脱を図るぞ……。悪いけど、あとはよろしくやっとけ」
どうやら、一段落ついたらしいのですよ。
ユリも意味もなく息を止めてて、深くため息を吐く。
皆は、何が起きてるのが解らなくて、不思議そうにしてるけど。
これは要するに非日常の極み……戦場の真只中で撮られたムービー。
これが最戦線に立つ戦士……くそ度胸とかそんなもんじゃない。
地獄の戦場を日常とする本物の古強者。
この人、半端じゃないって思ってたけど、ガチ軍人さんだったのですよ!
「いやぁ、ホントはゆっくり落ち着いた所で、メッセージムービーを撮りたかったんだけど、アタシもなかなか忙しくてね……。まったく、せっかく人がお膳立てしてあげたのに、皆、詰めが甘いんだから……。まぁ、100隻規模のエーテル空間戦闘艦での複数艦隊合同作戦は、テストケースとしては、まずまずの成功ってところだけど……。一番ヤバいラスボス取り逃がしてどうするんだっての……これはちょっと減点だね! まったくっ!」
良く解らない愚痴っぽいこと言ってるし。
説明を要求……しちゃいけないか。
察するに、包囲殲滅戦の最中……人知れず戦線離脱を図ろうとした中枢艦を単騎追撃、足止めしてたとかそんな状況らしい。
恐らく、その動きに気付いた他の艦隊の援軍が来て、後はお任せって感じで離脱した。
戦略目標を制定して、その目標のために自分が率先して動いて、戦果にも拘らず、潔く味方に譲る。
戦場の火消し役としては、この上なく優秀……。
「っと、そんな事はどうでもいいか……。聞けばなんだか、君への挑戦権を賭けた自主トーナメントなんてのが開かれてるらしいじゃないか。当然ながら、私も参加する。そうでないと盛り上がらないだろう? ……ただ、どうもチーム戦らしいからね。私もソロプレイヤーだから、ここは一つトーナメントを通じて、見どころのある奴らを集めた上で君たちに挑戦するとするよ。当然ながら、私の挑戦受けてもらえると信じてるよ。メッセージは以上だ……君との再戦、楽しみにしてる。それでは……戦場で会おう! バイバーイ!」
そう言って、ムービー終了。
思った以上に強烈な人だったのですよ。
「……な、なんだったの? 今の……なんか、銀河連合軍の人っぽかったけど」
「ユリも良く解らないのですよ……でも、これは逃げるわけにはいかなくなったのですよ」
成り行きなんだけど。
これですっぽかしたら、今度は本人が直接乗り込んで来そう……。
ああ、そっか……ユリが勝ち越してたのか。
そりゃ、挑んでくるよ!
あの人、めっちゃ負けず嫌い……そう言う人だからこそ、ランカーゲーマーにもなる。
……ユリもなんだけどね!
「まぁ、あたしは付き合ったるよ。どっちみち暇やしね。皆はどうなんや?」
「なんだか、大変な事になってしまってますけど。大丈夫! 今日はちゃんとお昼寝してたから、まだ眠くないですわ」
昨日はエリーさん、ものの見事に寝落ち。
VRなのに、寝るとか器用なことやってた……突然、エリーさんが動かなくなっちゃって、VR体も死んだように漂いだしちゃって……。
慌てて、ログアウトして部屋に入ったら、気持ちよさそうに寝てた。
VR中って、脳に刺激が加わり続けるから、普通は寝落ちってあり得ない。
脳が入眠状態になるような場合だと、システム側でログアウト勧告が出て、自動ログアウトがかかるんだけど。
システム側で検知される前に唐突に寝落ちしたら、ああなるらしい。
さすがのユリもびっくりしたのですよー。
「私は、全然オッケーよ! 美味しいアイスですっかり目も覚めたし、エエもの見れたしね……うひひ。ユリちゃん、相変わらず美乳ですなー」
マリネさん……何を見たかとか……みなまで言わないで欲しかった。
思ったよりもガッツリ見られたことに気付いたら、急に恥ずかしくなってきた。
思わず、胸ガード体勢……た、確かに透けてるしっ!
で、でも……平気だもんっ!
マリネさん、ユリの身体で見てないところなんて、多分無いし。
体育前のお着替えで、パンツまで降ろされるとかしょっちゅうなのですよ。
ユリもやられたら、やりかえしてるから、そこら辺は、お互い様なのですよ。
ちなみに、マリネさんは太ももの内側が弱点なので、サワサワすると腰砕けになっちゃうのですよ。
おまけに、そうなるとびっくりするほど、可愛い声を出すのですよ。
もう、あの声聞くだけで、ユリもドキドキしちゃうのです。
「私もまだまだ行けるよー。けど、これはちょっと面白いことになってきたね!」
「そうだねっ! 珍しくユリちゃんがやる気みたいだし、今のおねーさんちょっと良かったかも。私もお近づきになりたいなぁ……」
マリネさん、ユリというものがいながらっ! って言いたい。
でも、解る気がするのですよ。
年上女子の魅力……ユリもちょっと目覚めちゃったかも……なのですよ。
勝ったら、何かお願いとか聞いてくれるかも……なのです。
何がいいかなぁ……。
あ、いい機会だから正式にお友達になってください……とかでも良いかも!
「皆、良くやるわね……。けど、逃げたとか思われるのも癪だから私も付き合うわよ」
冴さんもやる気十分!
かくして、皆と一緒に今度は「最強」ルルカさんとの決戦! なのですよーっ!
サクラダ高校、地上活動部やるのですーっ!
盛り上がってまいりましたーなのです!




