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第四十一話「オフラインなひと時」④

「なんなんですか? これ……どれもこれも辺境艦隊トップクラスの精鋭艦隊ばかり……ホント、何事? って感じなのです」


『……そうですね。ネタバラシをすると、今回、我がロンギヌスは辺境艦隊へ色々と新型装備や補給物資を提供する予定だったのですよ。当然ながら、辺境艦隊でも有力な艦隊はその手の話には敏感ですからね。大規模襲撃の可能性についても先方は念頭に置いた上で、合同訓練と称して、ここに集まっていたんですよ。細々と説明するよりも、本件の詳細情報を転送しますので、ご精査ください』


 ……情報転送。

 結構、高めの機密指定情報っぽいけど、いいのかなぁ?


 ロンギヌスからの提供情報によると、このES639中継港で、エスクロン主催の新型装備の辺境艦隊への横流し会が開催される事になってて、辺境艦隊の精鋭が皆、ここに集まってたみたいなのですよ。


 黒船にとっては、悲劇なんだけど、300匹規模と言う割ととんでもない数の大群にも関わらず、そこまでの騒ぎになっていないのは、相手が悪かった……この一言に尽きるのです。


 現時点での作戦参加艦隊総数はおよそ120隻。

 

 今のエーテル空間戦闘艦の戦闘力って、この一年くらいで劇的にハネ上がってて、黒船との戦力比は三倍の数までなら対応できると言われているのですよ。


 それに今回湧いてきたのは、カテゴリーCと呼ばれる比較的旧型の黒船でも弱っちい奴ら。

 カテゴリーAの新型種に比べたら、どってこない。


 そう考えると、むしろ楽勝の戦力差。

 バラバラであっちこっちにいる辺境艦隊が100隻単位で集まるとか本来レアなんだけど。


 今回は、辺境艦隊の主力でもある駆逐艦関係の新型装備の横流しがメインなので、雑多な駆逐艦隊とかがごっそり集まって来て、こんな数になってたみたいなのですよ。

 

 なお、これは銀河連合評議会や銀河連合艦隊司令部には、一切無許可の闇市的なもの。

 

 名目上は、官民共用中継港で偶然ばったりロンギヌスと出くわして、補給物資を融通してもらうと言うことになっているのですよ。

 

 もっとも、エスクロンのエーテル空間兵器開発部と、辺境艦隊の最前線各艦隊とは司令官レベルでの繋がりがあって、こんな風に補給と称して寄港したどさくさで、自社開発の新兵器を供給し、見返りに辺境航路の安全保証と実戦データのフィードバックを受けると言う仕組みになってるのですよ。


 一応、本来の予定ではロンギヌスが先に到着して、荷物を降ろして倉庫にしまい込んで、それからバラバラと各艦隊が受け取りに来る予定だったみたいなんだけど。


 皆、我先にやって来ちゃって、停泊する場所も十分あるからって辺境艦隊大集合状態になってたらしい。


 まぁ……これは本来ならば、常に千隻単位でエーテルロードを駆け巡ってた民間船が色々と自粛したりとかで航行数が激減してたから、場所が余ってたってのもあるみたいなのですけどね。


 守備対象が減ってた辺境艦隊も大規模襲撃の予兆を知って、主要戦力の大半を集めるというなかなかに大胆なことをやってのけたのですよ。


 要するに、現場の再現体司令官達は、現実認識能力に乏しい中央司令部を半ば見限って、スポンサーと称して、お金や物資を横流ししてくれる辺境の各星系府や武闘派企業と手を組んで、独自に戦える体制を構築しちゃってるって事なのですよ……。


 そこら辺の取りまとめも辺境星系へ強い影響力を持ち、銀河トップレベルの高い技術力を持ち、豊富な物資を手にしているエスクロンの仕業。

 

 もちろん、中央司令部や評議会も黙ってないとは思うんだけど、うるさ方には鼻薬と……そう言う悪どい真似もエスクロンはしれっとやってのけるので、最近はもう黙認状態。


 相応の戦果も出してるので、要らない口出しをして火傷するくらいなら、もう黙っとくのが一番って中央の人達も皆、思ってるみたいなのです。

 

 なにせ、お金もらっちゃった以上は、払った側に訴えられたり、マスコミにリークなんてされたら負け確定。


 黙認するだけで、お金がっぽりもらえちゃうからって、皆ダンマリを決め込んでる。

 欲深い大人ってのは、いつの時代もそんな調子なのですよ。


 実際問題、かつては辺境艦隊も補給物資とか艦隊運営予算なんかも中央から提供されてたから、常に顔色伺う必要があったのだけど。

 

 最近では、辺境艦隊側も戦術指揮能力に難はあるものの、卓越した軍政能力を持ち、兵站職人なんて異名を持つ永友提督が辺境艦隊の後方支援を一手に担っていて、補給物資も潤沢に揃い、装備も中央艦隊を凌駕する最新鋭が揃えられ、質、量の両面で銀河最高レベルと言って良いほど充実してるみたいなのですよ。

 

 それらを支えている企業も我らが「エスクロン・エンタープライゼス」を筆頭に、銀河連合随一の武闘派流通商社「アドモス」、保有エーテル空間商船数1000隻超の最大手流通企業「ミケネコ運輸」。

 

 重水素タンカー運用の最大手「GNストラック社」、通信産業のトップシェア「サーベイ・インテリジェンス」。

 大手コンビニ流通会社の「ファミリア・ソサイアティ」や民間軍事企業「スターウルフ」「オーパル・コンバット」「イルムガスト・ファイターズ」と言ったバリバリの実戦派PMC。

 

 自動車から宇宙戦艦まで色々作ってる重工業製造の「グレイス・インダストリアル」や生鮮食品製造ファクトリー大手の「ナチュラル・ファーマーズ」なんてのも名を連ねてる。


 なお、ミケネコとアドモス以外は、エスクロンの子会社だったり、筆頭株主だったりと、要するに関連会社と言っていい企業ばかり。


 これら、銀河連合軍辺境艦隊のバックアップ企業は軽く三桁は行くのですよ。


 この辺の企業の取りまとめもエスクロンが担当してるのです。

 

 なんで、そこまでエスクロンがエーテル空間の安全保障に熱心なのか。

 その理由は簡単で、辺境流域はもともとエスクロンの庭で、黒船の襲来で一番被害被ったから。


 最初の頃は、民間人は引っ込んでろって言われて、色々我慢してたけど、多数派のシリウスさんとかセブンスターズさんは、自分らの領域に被害があんまり出てないからって、黒船対策に熱心じゃなかった。

 

 そんな訳で、評議会もお花畑のホンワカパッパで全然駄目。

 

 その下位組織でもあった銀河連合軍司令部も無駄に人員が多くとっても鈍くさくて、指揮系統もハッキリしないような戦時向けの組織とはとてもいい難い組織構造で……。

 

 黒船襲来の報告があってから、出撃命令まで一週間とかありえないような対応を連発。


 そんな黒船との戦争で一番割を食ってたのは、辺境艦隊の再現体提督さん達。

 

 本来、流域パトロールなどが主任務で、小型艦ばかりの偏った編成の艦隊と貧弱な装備で、司令部はまともな命令すらよこさない中、なかばなし崩しで相互協力しつつ、グダグダな戦いをこなし、いくつもの艦隊が壊滅し、戦死者も続出。

 

 祥鳳なんて指揮官を失って、露頭に迷って野良空母になってたなんて話をしてたくらいで、もうグッダグダ。

 

 そんな状況でもめげずに頑張って戦う永友提督とか、グエン提督などの姿を見て、いい加減付き合ってられるかとばかりにエスクロンが本気出して、総力をあげて辺境艦隊の支援を開始した。


 最初は、試行錯誤の連続でソロソロ、コソコソとって感じで支援して、エーテル空間の戦争の勝手もよく解らなくて迷走しまくってたんだけど。

 

 エリコお姉さまとかが頑張ったことで、思った以上の成果が出て、前線司令官達との信頼関係も構築できて、色んな所を巻き込みながら、大々的な支援体制を構築。


 今では、すっかり中央の影響力を排除して、辺境独自の体制が出来あがってしまったのですよ。


 うーん。

 銀河連合も危ういんだけど、銀河連合軍もちょっと危ういかも……。

 

 けど、その辺りは誰もが思ってることのようで、最近は中央艦隊の提督さん達も実戦研修と称して、一部艦艇を辺境へ出張させたりしてるらしい。


 実際、第24艦隊あたりはその典型。

 

 中央艦隊は、戦艦とか空母みたいな大型艦艇が主力で中央の影響力をモロに受けてるから、辺境への手出しは控えめにしてるらしいけど。

 

 入れ代わり立ち代わり、色んな艦艇が出張ってきて、実戦経験を積んだり、新型装備を融通してもらって、中央艦隊にも横流し配備とかして、辺境艦隊に遅れを取らないように頑張ってるらしい。


 確かに、これは悪くない……こうする事で共に戦う意思を示せるし、微妙なエリアでの共同作戦時にも連携が取りやすくなる。

 

 実際の戦場ってのは、一度も一緒に戦った事のない味方同士が上手くやれるほど甘くないから。

 

 第17艦隊も本来は中央司令部の直轄艦隊なんだけど、艦隊司令官のコーウェイ中将って人が筋金入りの軍人さんで、始めから独断で艦隊を自由に動かせる権限を与えられていて、そもそも中央の言うことなんて聞かない人なのですよ。


 で……この人も元はと言えば、エスクロン宇宙軍にいて、エスクロンで30年も前に起こった暴走AI戦争にも参加してて、商船改造武装艦とかで真っ先に黒船相手に戦ってたような実戦派軍人。

 

 要するにエスクロン宇宙軍のOBなので、話も早かったのですよ。

 

 銀河の一割勢力と言われながらも、その実最強とも言われる星間連合国家エスクロンが全面的に辺境艦隊のバックアップを始めてから、こんな感じになってきてるのですよ。


 この辺は、クリーヴァ事変があった辺りから、露骨になってきて、最近は銀河連合軍司令部ってほとんど仕事してない。


 どうも色々と裏で悪さしてたり、仕事してない寄生虫みたいな人達が追い出されることで、組織改革も進んでるみたいで、前に比べたら随分マシになってきてるみたいなのですよ。


 これは自浄作用と言うよりも、何か裏で動いてる人達がいるみたいなんだけどね。

 

 ……そんな訳で、以前に比べたら銀河連合軍も相当にパワーアップしてる。

 

 昔だったら、そんな黒船300匹の大群襲来なんてなってたら、全軍挙げての総力戦で、二桁くらいの中継港が壊滅するとか、それくらいの騒ぎだったのですよ。


 でも、今の戦況は……もはや単なる掃討戦。


 精鋭艦隊の来援から一時間もしないうちに、大型種とか主力が壊滅して、まだ三桁くらいは生き残ってるけど、早々と帰り支度に移ってる艦隊も居て、ホントに余裕だったみたいなのです。

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