第三十九話「ユリのトリガーハッピーセット」②
「んー、実戦って……確か、宇宙でまともな実戦なんてもう何年も起きてないんやなかったっけ?」
アヤメさんが不思議そうに返してくる。
確かに、銀河連合でも公式には、小競り合いレベルの戦争しか起きてないって事になってるのです。
もっとも、実際はあちこちで利権衝突の解決手段としての紛争……お互い戦力を派遣しあってのルールある戦争みたいなのは起きてるし、殲滅戦一歩手前のハードな抗争なんかも起きてるのです。
この辺は、シリウス連合とかがよくやってる「宇宙騎士試合」……と称する超大型戦闘艦同士の一騎打ちとか。
企業間抗争での「合同試作兵器実弾演習」とか……。
前者は、半ばエンターティメントみたいなスポーツマンシップに則った試合で、ルールもガチガチで死人も出ない割と平和的な紛争解決手段ではあるんだけど……。
後者は、一言で言えば限りなくガチ戦争。
ニコニコ顔で両者堂々と決戦予定の星系に、自重しない勢いで兵器と人員を集結。
演習と称するガチ戦闘を行い勝った方が、この星系の利権は総取りとか言って、情けも容赦も無用、ルールもあるようでない双方本気の戦争……。
ちなみに、ルールとしては「民間人を巻き込まない」「惑星兵器とかは使わない」「有人惑星やステーションなどへの攻撃は禁止」「白旗掲げたのは、なるべく撃たない」「救難要請にはなるべく応えよう」
……そんなもんなのです。
無人兵器ばかりなら、人死にや怪我人も出ないけど、無人兵器だけで圧倒できるほど、戦場ってのは甘くない。
当然ながら、有人兵器もそれなりの率で参戦するから、そんな誰もが無傷で戦死者ゼロ何てなる訳がないのですよ。
ちなみに、エスクロン宇宙軍がよくやってるのは、圧倒的に後者の方。
最近はもっとタチが悪くなってるけど、基本はこのパターン。
勝てば、自社の技術と軍事力の優位性を相手に知らしめることにもなるから、当然交渉は一気に有利になる。
銀河連合ってのは、エーテル空間にしか戦力を保持してない上に、国家間の紛争調停の手段としての常備宇宙軍なんかも保有はしてないので、これら通常宇宙での紛争はもはや見てみないふりをして、不干渉を貫き通してるのです。
要するに、変に肩入れすると面倒だから、知らないところで勝手にやり合う分には知ったこっちゃないって考え方……つまり、宇宙は今日も平和っ!
それが銀河連合クオリティなのですよ。
「……そうでもないのですよ。あっても、ニュースになんてならないのですよ。なんにせよ、出会い頭で最大火力で殲滅ってのは、合理的な話だと思うのですよ」
まぁ、こう言う表に出てこない系の話は、お父さんから聞いた話がメイン。
単なる観光旅行のノリで、観光惑星歩いてるだけなのに、どこそこがやりあったとか、こんな感じの新兵器開発してるとか、色んな情報持ち帰ってるんだから、すごい話なのですよ。
「確かに、そんなもんなのかもしれんね……。じゃあ! いっちょドカンと花火かましたろーっ! いっけーっ!」
先手必勝……4基のミサイル発射ユニットから、初弾として4発の大型ミサイルが投射される。
それは更に4発に分離して、更に目標付近でもう4発に分かれる。
つまり、この斉射だけで……64発もの小型ミサイルを撃ち込んだことになる。
現実の亜光速爆雷の爆散円のように亜光速で弾片がバラ撒かれるなんてのよりは、マシだと思うけど。
発想としては似たようなところがあるのです。
更に、オプション装備の次弾即応装填システムで、即座に次弾発射可能状態にして、即座に第二波射撃!
ひとまず、全128発の飽和攻撃。
即応分は撃ち切ったから次の装填まで、軽く五分くらいかかるけど、ひとまずこれで構わない。
でも……これで損害が与えられるほど、簡単な相手じゃないのですよ。
実戦だったら、開幕ミサイルはこの10倍くらいの勢いで撃ち込むので、この程度全然うっすいのです。
さすが、相手もよく見てる。
多弾頭式のハイマニューバミサイルのアウトレンジ攻撃を受けつつあると瞬時に見切った上で、進軍を静止して、密集隊形を取っての全周防御射撃による迎撃を開始する。
……普通に練度高いのですよ。
集団戦にも慣れてる巧みな指揮統制……ミサイル戦術なんてマイナーな戦術なのに、しっかり対抗出来てるあたり、なかなかやるのですよ。
「嘘やろ? あいつら、アレだけ撃ちこんどるのに次々叩き落としとる!」
むむむ、やるのです。
普通のハイマニューバよりもひねくれた機動のはずなのに、確実に落としていってるのが解る。
「頭数の多さを活かす巧みな戦術なのですよ。テトラバックファランクスとも呼ばれてる現実の戦闘でも使われている防御戦術です。ああやって、複数の立体防御陣を組み合わせて、お互いの死角を無くす。降下揚陸作戦においての最終段階……惑星降下時の地上からのミサイル迎撃への対抗手段として、実際に使わる戦術なんですよ」
基本は正四面体の頂点に一機づつ配置するテトラバックと呼ばれる陣形。
頂点を構成する四機が守りを固めて、陣形の内側に取り込んだロングレンジ機が迎撃に専念する……理想の迎撃戦を繰り広げている。
本当は四つくらい並べて、各ファランクスが相互支援できるようにするのが理想なんだけど。
さすがに頭数が足りなくて、二つがやっとらしい。
迎撃の主力になってるのは四機の「アーチャー」がメイン。
あんまり強くない機体だけど、連射力の高い連装レーザーライフルを装備してるようで、命中率もかなり高い。
近接タイプの「ファイター」や「ゴブリン」は防御担当に回ってるみたいだけど、さすがにかなりキツイらしくむしろ、うち漏らしを身体を張って受け止めるみたいな事をやってる。
相手チームの内訳は、ファイター3、ゴブリン3、アーチャー4に、ナイトランス2、SSRに二機は内側で大人しくしてるらしい……多分、温存中。
なんと言うか、余裕って感じなのです。
「凄いわぁ……まるでハリネズミみたいな対空砲火や。あれじゃ、なかなか近づけないやん……」
「問題ないのです。相手の手を休めず一方的な飽和攻撃を仕掛ける……この時点で主導権はこちらのものです。実際、そろそろ射程に入るのに、向こうはこっちを撃つ余裕が無いみたいで、一向に撃ってこないじゃないですか」
ちなみに、このフェルミオン……フリーペイロードを、ミサイルに全振りしたので、まだまだ残弾に余裕はあるのです。
戦闘は火力だと思うのですよ。
ファイヤー! なのです!
「ホンマや! この距離なら普通は、ロングレンジレールガンや対艦ミサイル辺りを撃ってくるんやけど、自分達を守るので必死……みたいな感じやな。それになんや……ドンドン密集していっとるみたいやな」
「それだけ余裕が無いんです。本来、レールガンの散弾対策でもっと機体間隔を空けないといけないんですが、狭めないと陣形維持出来ないんですよ。アヤメさん、ここでミサイル全弾撃ち尽くして構わないので、このままミサイル攻撃を続けてください。そろそろ、リロード完了の頃合いです。続いて第3波第4波。それに中距離ミサイルの射程にそろそろ入る頃です。そっちも全弾発射でお願いします」
伊達に防空ミサイル巡航艦じゃないのですよ。
ミサイル兵器は、遠中近とガッツリ揃ってるのです。
おまけに、ミサイルの誘導プログラムをカスタマイズしてあるので、まっすぐ素直に突っ込んでいかないで、周囲をグルグルグネグネと周回して、排煙による煙幕を張りつつ、突然カックーンと曲がって突っ込んでいくようにしてあるので、敵も戸惑ってるのです。
言ってる矢先から、ゴブリン一機撃墜。
ミサイルの誘導プログラミングも群体制御アルゴリズムを仕込んでるので、一箇所切れたらそこに集中するようになってる。
たちまち、そこに殺到されそうになって慌てて、SSRの一機ヤマトが前に出て、2丁拳銃みたいな感じで応戦してる。
そんな事やってるうちに、こっちはリロード完了。
「アヤメさん! 次弾装填完了なのです! 次々、いくのです!」
「よっしゃ! 次、かましたるわ!」
第三波、第四波……お代わり発射。
それを見た相手ももうむちゃくちゃに乱射して必死の迎撃戦を繰り広げている。
総計256発……第一波と第二波分はまだまだ大半が射程外でウロウロしてるだけ。
そろそろ、余裕なくなってきたらしいのです。
このゲーム、有視界での射撃戦や白兵戦が主流だから、この手のレーダーレンジでの遠距離ミサイル戦なんてのはめったに起きない。
一応、ミサイル迎撃の専門機とか、迎撃ミサイルポッドみたいな装備はあるんだけど。
皆使わないから、使われないという罠。
このチームはそれなりに対抗できてるだけ、随分とマシ。
やっぱり、巡航艦での飽和ミサイル戦術は強力なのですよ。
なんで、こんな強力なのに、誰も使おうとしないんだろう。
ボタン一つで相手は死ぬとか、そんなのつまらないとかそんな話も聞いたけど。
ソリッドを使った独自アルゴリズムとか、迎撃対策とか結構奥が深いし、残弾制だから、使い所も難しい。
索敵能力や光学観測での分析能力なんかだって、要求されるし……。
実のところ、フェルミオンだってあんまり強くはない。
評価ランキングだと、下から数えたほうが早いくらい。
なにせ、……フェルミオンの対艦用兵装は大口径レールガンと二門のレーザーキャノンくらいしか無い。
駆逐艦よりはタフでしぶといけど、同じくらいの口径のレーザーキャノンを二門装備したレーザー艦なんて呼ばれる駆逐艦もあって、それが二隻もいれば多分、余裕で負ける。
同じ巡航艦のストーム級辺りと撃ち合ったら、火力差で普通に撃ち負ける。
戦艦クラスだともっと無理。
もっとも、主砲としてレールガン一門装備と言うのがミソで、この大口径実体弾砲のおかげで、一対一ならデストロイヤー相手なら、余裕で勝てる。
「……もう敵の陣形むっちゃくちゃになっとるな! でも、一機だけ団子から抜けてきたっ! コイツめっちゃ早いで!」
唐突に、ファルシオンだけが突出して来てる。
正面から来てたハイマニューバミサイルが反応して、真っ直ぐに向かって行くのだけど、それらを立て続けに撃ち落として、巧みに回避しながらまっすぐ突っ込んできてる。
うん? ここは単騎で突出しないで、一緒に迎撃するべきだったと思うんだけどなぁ。
いくらなんでもこっちも無限には撃てないんだから、ここは踏ん張りどころだと思ったんだけどな。
実際、ファルシオンが抜けたせいで迎撃網に穴が出来て、また一機ゴブリンが爆発してる……。
ファルシオンの利点、高機動が完全に潰されてるから、イラッとしたのかも……なんだけど、これはちょっと悪手だとしか思えない。
短気は損気……浮いた兵を真っ先に狩るのも戦場のセオリーなのですよ!




