第三十八話「スタークラスターオンライン」③
まずは、通信モードを全隊モードへ設定変更。
と言っても、クシナさんは漂流中なので半ばモニターだけ。
チームの皆には、すでに概要を説明済み。
これは限りなく、ライゼン工業高校のイマザワさんとの相談タイムなのです。
「全隊コール……皆さん、聞こえてますか?」
「こちら、クシナ。聞こえてるわ……ありがとね。事実上、試合終了だけど、最後までモニターはしてるし、必要に応じてアドバイスとかもさせてもらうわ」
「クシナさん、とっても心強いのですよ」
「こちら、イマザワ……感度良好。要するに作戦会議だね?」
「はい! えっとですね……当初の作戦では、第三高校チームが先行し、奇襲でフラッグシップを拘束し、二の矢としてライゼン工業高校チームが支援砲撃を加え沈める予定でしたけど。状況が変わりましたので、作戦を変更します」
一応皆からは作戦立案については、全権委任と言う言地はもらってるのです。
ここは、フワッとでなく、ビシッと勝利の道筋を示して、ムードと流れを変えるのです。
リアルと違って、VRのユリは皆と能力値はほぼ一緒。
ユリ一人が頑張っても勝てるようなものじゃないのです。
ここはひとつ、皆と力を合わせて、難局を乗り切るのです!
「そうだね……。すまないけど、僕らは敵フラッグシップへの攻撃については断念せざるを得ない。あの戦力がまとまって行動してるとなると、さすがに勝ち目がない。一応、クシナさんを拾おうかと思って移動中なんだけど……。割と派手に流れていったみたいで、ちょっと追いつくのは難しいかな」
「戦闘機動中に狙撃されたんで、勢い付いちゃってましたからね……。多分、このまま場外へ流れて、自然退場になると思います。イマザワさん、私のことはもうほっといて下さいな。この状況で回収なんてやっても多分意味はないです」
「なのですよ。ひとまず、イマザワさんは現宙域から離脱。亜光速ブースターで一気にこちらの指定ポイントへ移動し、然るべき後に隠蔽待機としてください」
「やっぱ、無理かぁ……。クシナさん、ゴメン……回収は断念するよ。でも、隠蔽待機? これは……敵の突撃予想コースからも全然外れてるじゃないか。重力風の凪ポイントだから、隠蔽待機には都合がいいけど。こんな離れた所では相互支援もままならないと思うんだけど……僕としては、フラッグシップチームとの合流が最善って思ってたんだけどね」
「重力風の影響を考慮すると、そこが最適な潜伏場所なんですよ。位置関係的に敵も興味を持ってないようですから。今後の基本戦術としては、フラッグシップを囮として、敵を引き付けたところで、イマザワくん達が敵のフラッグシップを後背……もしくは側面から奇襲。一息に沈めてもらいます」
「なるほど。けど、敵もバカじゃない。恐らくフラッグシップには相応の護衛が付いてるはず。正直言って、僕のチームは練度が低いからね。能動攻勢となるとちょっとキツイかもしれない」
「ですよね? なので、ここは思い切って囮はフラッグシップ単独として、こちらの直掩機も全てイマザワくん達に預けます。これなら敵も一気に勝ちを決める為にフラッグシップに全戦力を投入するはずです。どうでしょう? デストロイヤー単騎なら、ケルベロス二機で十分撃破できるかと思います」
「え? ちょっと待った! ユリちゃん、さっきと話が違うよ!」
「マリネ……。余計な口は挟まない。確かにイマザワさん達のチームって、機体は「エルフィ」が主力だし、全員初心者揃いなのよね……。私達はユリちゃんへのサプライズで、このゲーム皆でこっそり練習してたから、それなりに戦えるんだけど……」
そう言うことだったのですよ。
割と最近まで、このスタークラスターって、星系ローカルサーバー限定で運営してて、プレイヤー数も少なくてとっても微妙だったんだけど。
開放政策に伴い、銀河共有サーバーの接続開放が実現されて、派手にCMやったりタイアップアニメやらコミックとかで、クオン売り込み大攻勢を始めたのですよ。
その関係で、今クオンでは、若い世代を中心にちょっとしたブームになってる。
んで、ユリもやってるから、皆もやってみないって声をかけたら。
実は皆、クシナさんに誘われて、こっそり前々からローカルサーバーで練習してて、やる気満々だったと言うオチなのです。
で、今回旅の行程で暇な人達一緒に遊ぼうって声掛けしたら、クシナさん達とイマザワくん達が乗ってきてくれたのです。
他の高校の子達もそれぞれチーム組んで、好きなようにやってるところなのです。
「皆さん、ごめんなさい……私がしくじったばかりに……。せめて、うちのチームメイトを何人か逃がせれば良かったんだけど……。こうなってくると戦力配分が重要よね……。ひとまず、イマザワくん次第って感じだから、君が決めると良いと思う。ユリコさんもイマザワくんに負担をかけることになるから、納得行く答えを出せるようにしたのよね?」
エリーさんとアヤメさんが驚いたような顔をしてるのです。
クシナさんって、こう言うときに素直にごめんなさいとか言わないタイプなんだろうな。
ドジっ子のクシナさんだって、成長するのですよ。
そこら辺は、最近仲良くなったから解るのです。
「そんなところなのです。今回、イマザワくんは初めて一緒にチーム組んでるから、どのくらい出来るのかとか、チームメイトの能力とかもユリにはよく解らないのですよ。だから、どちらに転んでも構わないのですよ」
「お気遣いありがとう。そうだね……順当に考えて、いくら巡航艦でも敵の攻勢を一手に受けて、無事に済むとは思えない。ユリコさんが相当ハイレベルのプレイヤーだって話は聞いてるけど、限度がある。何より、直掩機まで奇襲に回して、フラッグシップが無防備となると、敵も罠だと感づいて警戒されると思う。僕としては……そうだな。直掩機はそのままにして、奇襲は僕らだけで行う。これがベターだと思う」
「了解なのです。イマザワくん、カッコいいのですよ?」
「あはは、君に言われるとなんだか照れるね。まぁ、僕のところのチームメイトの技量はお察しだけど、そこら辺はなんとかするよ。エルフィは隠れてこそこそ忍び寄る戦術なら得意だから、この役目にも向いてると思う。ところでこの戦術……なんだっけ? 鉄床戦術だったかな? 確か古くは紀元前のアレキサンダー大王が好んで使っていた戦術だったかな」
うーん、イマザワくん……男前だよ!
イマザワくんチーム単独で奇襲に回すのは、かなり不安だったんだけど。
この様子からすると、ちゃんとフォローアップの策があるっぽいのです。
それに、戦術理論とかも解ってる感じで、ユリが思ってた以上にデキる人みたいなのです。
今の銀河連合って、戦争に縁がないから、こう言う古代戦術理論とか知らない人が多いくらいなんだけど。
古代地球の歴史に興味持って、自分なりに調べて知識にしてるってのは、素直に凄いと思いのですよ。
とりあえず、艦艇系ってとにかく白兵戦には弱いから、最低でもリオちゃんくらいは居てほしいなぁ……って思ってたのでちょっと助かっちゃったのです。
「御名答なのです。フラッグシップを囮に使い、敵を足止め……隠蔽状態からの奇襲で敵本隊の後背を突いて、一気に勝負を付ける……使い古された戦術ですが。こう言う風に相手が優勢で一塊になっている状況では、これが極めて効果的なのですよ。ひとまずイマザワくん達は、現状予備兵力としますけど、本作戦のいわば切り札なんですよ?」
「なるほど予備兵力か。確かにこちらの想定通りにことが運ぶとは思えないし、待機指定されたポイント……この何もないマップで唯一と言っていい凪のポイント。もしも、敵のデストロイヤーが逃げに転じた場合でもこの凪の周辺に出来た重力加速帯を使う為に近づいてくる可能性が高い……確かにユリコさんの言うようにこの戦い……僕らに懸かってるね。うん、ここはひとつ望むところだと位は言っておくとするよ」
実際の宇宙空間にもこう言う重力の流れってのはあって、こう言う重力の淀みみたいなスポットはあちこちにあるのですよ。
その影響自体は微々たるものだけど、こう言う戦闘時には、そんな微々たる影響が意外と侮れないのですよ。
「そうなると、私達はフラッグシップの護衛で決まりね! 間違いなく激戦区になるわね……リオちゃん、マリネ、覚悟は良いかしら? ちょっとここは練習の成果の見せ所よ?」
冴さん。
実は、隠れゲーマーだったらしく、ローカルサーバーで結構前からプレイしてたらしいのです。
マリネさんとリオちゃんも割と冴さんに引き込まれた感じだったんだとか。
もうちょっと早くユリも言えば良かったのですよ……。
「上等だねっ! これまで、あんまり出番なかったから……頑張るよー!」
リオちゃん……確かに、割とこれまで出番なしだったのです。
「だねー。よっし! アタシも頑張るぞーっ! ユリちゃん、アタシが守ってやるから安心しな! なんてね!」
マリネさんもそこそこの腕。
なんでも、リオちゃんにボッコボコにされて、悔しかったらしく頑張って練習したらしい。
ちなみに、マリネさんと冴さんは、航続距離を犠牲にして防御を重視した迎撃機と言うカテゴリーに入る機体……パトロクロスを選択。
この機体、Cクラス機体の割に割と強力なんだけど、フラッグシップから離れるとすぐ燃料切れで動けなくなるから、運用としては、拠点防衛か旗艦護衛に使うってのが定番。
実体剣と盾と、荷電粒子ライフルを装備した遠近両用機。
「ナイトランス」の重装甲版みたいな機体なんだけど、癖も弱点も少なく使いやすいと評判なのですよ。
リオちゃんはもともと身体スペック高いし、格闘技なんかもやってたとかで、イマザワくんと同じ白兵戦特化型の高機動機「ケルベロス」に搭乗中。
PSって、格闘経験者とか身体スペックが高い人が乗ると相応に動きが良くなるし、人型に拘る理由も本来それだったりするのですよ。
と言うかそもそもが陸戦用パワードスーツの発展型なのです。
軍事用途としては、閉所白兵戦を想定した個人戦闘モジュールと言う位置づけになるのです。
もっとも、宇宙空間戦闘で宇宙用パワードスーツなんか出しても、足がおそすぎて使い物になんてならない。
そこで、宇宙空間での戦術機動能力を付け加える為に、亜光速巡航ブースターを増設……基本コンセプトはそんな感じなのですよ。
要するに、パワードスーツ歩兵をロケットにくくりつけて、大型戦艦とか防衛拠点を無傷で制圧すべく、片道切符で投げ込むようなもの……なんとも乱暴な兵器だったりするのですよ。




