第三十六話「ユリちゃん一家の結成式」④
「なんと言うかさぁ……嘆かわしい話だよね。過去に生きてた人々の力を借りて、かろうじてこの銀河の平和を維持しているなんて……。銀河連合も1200億もの人口を抱えておきながら、この体たらくはないでしょ……。他の国とかホント、何やってるんだかねー」
いつの間にか二人の話は、政治談義のようになっているのだけど、二人共、気楽な様子で会話を続けていた。
「確かに、銀河連合最大最古の勢力「シリウス通商連合」なんて、加盟星系や人口はやたら多いのに、全然まとまりないし軍事力も雑魚で、思いっきり戦力外だからね。銀河連合総人口の三割を占める最大勢力のあそこが訳の解らない非武装平和主義バンザイとか言っちゃってる時点で、もうお話にならない……」
「老害大国……まさにシリウスみたいな国のことを言うんだろうね。かつてはアレでも人類の宗主国だったんだよね」
「そうだね……地球退去後、銀河連合評議会の前身、地球連邦議会が設置された関係でシリウス星系はまさに銀河の中心とまで言われていた。それだけに銀河連合評議会への影響力も未だに大きくて、馬鹿にはできない勢力ではあるんだけどね。もっとも、規模が大きいぶん、傘下星系が少しくらいシュバルツに分捕られてても意にも介してないってのは、さすがにねぇ……ある意味、大男総身に知恵が回りかねを地で行ってる感じじゃあるよ」
二人が参照しているデータの表示された空間投影モニターの数はもはやとんでもない数になっていて、支援スタッフたちも遠巻きながら、その様子を見ていたのだけど。
エスクロンの将来を左右するような議論が交わされているのを察して、誰もが緊張を隠せないでいた。
「なるほど、腐ってもタイ……ってところですけど。これは……やっぱりダメダメですよ。二番手の「セブンスターズ・リベリオン」はと……こっちは昔は結構ヤンチャしてたけど、今は落ち目で似たようなもんか……数値データ的には、GDPなんかもむしろ絶賛前年比マイナスで、ボロボロって感じじゃないですか。1-2ダメッシュって……ちょっと笑えないですね……」
「セブンスターズもあそこのリーダーさんに、近日中にCEO就任するから、事前にご挨拶をって事で、ついこないだ非公式会談をしてみたんだけどね。とにかく、パッとしないんだよねぇ……。少しは建設的な話も出来るかと思ってたんだけど、ホントにただの挨拶で終わっちゃって……まさかの三分会談! お互い形式的な挨拶が終わったら、あとはもう何言っても上の空って感じで、終始ダンマリでね……側近が慌てて引っ込めて会談終了。シリウスの代表のトラウス議長閣下の方がまだ普通に世間話とか出来たし、それなりに危機感抱いてるって解っただけマシだったよ」
「レキサス四世でしたっけ? 割とイケメンみたいなんだけど、ナヨナヨしてて、頼りなさそうって思ってたんですけど、やっぱりそんななんだ……。コミュ障説なんかもあったけど、その様子だとマジっぽいね……うわぁ……」
「……初代リーダーのレキサス一世閣下は勇猛果敢でカリスマの塊みたいな人だったらしいんだけどね……もうちょっと長生きしてたら、今頃銀河の勢力図は随分違ったんだろうけど、今となっちゃって感じだねぇ……。あの四代目のお坊ちゃまは、この動乱の時代の一国の元首としてはお話にならない……やっぱ世襲制なんてのは、ダメなんじゃないかって思うよ」
「しかしまぁ、銀河連合の二大国の元首とサシで会談とか、やっぱエスクロンCEOってのは凄い立場なんですね……。そのうち、私もそう言う外交会議に連れられて……とかなるのかなぁ……」
「そうだね。君も銀河連合の各国指導者達や、再現体提督達とも会ってみても良いかも知れないね。今度、君にも遠隔国際会議のオブザーバー参加くらいはさせてあげるよ」
「おおうっ! 私……なんかエスクロンの重鎮みたいじゃないですか!」
「エスクロンの最高精鋭、第三世代強化人間って時点で、もう十分重鎮だと思うよ。実際、電子戦闘やデータ分析のみならず、なかなかの政治的センスや見識を持ってるって事も良く解ったからね。君には、そう言う政治経済の世界についても、色々勉強してもらうとしよう……お互いにね」
「はぁい! アキも銀河経済や政治には興味あるから、お勉強させていただきますよ! でも、現状はなかなか厳しい情勢ですよね。銀河連合の過半数を占める二大国がぽんこつで、三番手のクリーヴァ・ユニバーシティは思いっきり裏切り者……。もうこの時点で、銀河連合の7割半が脱落……。グエン提督や永友提督が嘆くのも無理もないよ……。私だったらやってらんねーってなりますよ」
「そうだね。こんな情勢にも関わらず、ちゃんと前を向いて最前線で人類の為に戦い続ける彼らは、まさに英雄と呼ぶにふさわしいだろうさ。だからこそ、彼らの頑張りに報いるためにも、我々も出来ることをやる。銀河連合の半数以上が戦う前に脱落しているからと言って、我々まで諦めてしまったら、本当に駄目になってしまうよ」
そう言って、ゼロも少しだけ厳しい顔になる。
その様子を見て、アキちゃんも少しだけ真剣な顔になるのだけど、すぐにまた笑顔に戻る。
「ですねー。ホント、うち以外の銀河連合諸国って、真面目にやる気あるのかって感じですからね。むしろ、シングルプラネットの小国群の方が余程危機感持ってるんじゃないですかね。もっとも、人口比一割勢、永遠の4番手のはずの我が「エスクロン・エンタープライズユニオン」は、通常空間軍事力ではダントツトップ、保有クレジット総額、潜在資源保有量、科学技術でもナンバーワン、エーテル空間保有戦力もトップ。なるほど、うちの強さってのがよく解りますね……貿易額は圧倒的黒字、むしろ銀河の富を吸い上げてる側ですね……。おまけに、いつのまにか資源星系数がめっちゃ増えてるじゃないですか……。どんだけ買い漁ってたんですか?」
アキちゃんの並べた各数値はどれもエスクロンの国家機密情報なのだけど。
それについては、ゼロは何も言うつもりはないようだった。
「うちは資源輸出大国でもあるからね。重水素燃料なんかもうちのは純度が他と桁が違うから、もう引っ張りだこなんだよ……。ガスジャイアントとクズ惑星しかないハズレ星系だって、売りに出てたらリミット突っ込んで即買い……それだけの話だよ。その代わり、他から天然食材とか手作り工芸品とか、低純度資源なんかもジャンジャン輸入してるし、工業品の最終アッセンブリー工程とかは、現地法人任せにしてるんだから、それで勘弁してもらいたいんだけどね」
「あのー、そのせいでシリウスとかって、中世みたいな暮らししてる人がいっぱい増えてるらしいんですが、そこら辺はどうお考えなんですー? シリウスの没落って絶対、私らエスクロンのせいって気がしますよ。と言うか……シリウスのローカルニュースとか見ると、なんか経済侵略者とか合法的侵略国家とか、酷い言われようなんですけど、あ、どうぞどうぞ、入手したてのこのシリウスの最新情報……見たってください」
「シリウスのローカルニュースって……シリウスとは、相互ネットワーク接続協定結んでないのに、さらっと情報抜いてきちゃったのね……。さすがというかなんと言うか……おぅ、各星系の生産物データだの、戦闘艦配備数とかまで……これって、普通にシリウスの国家機密情報なんじゃ……。どれだけ深いところまで行ってきたの?」
「なんか、思いっきりガバガバですよ……シリウスのローカルネットワークセキュリティって……。プロテクトウォールなんて三世代は古いし、暗号化システムとかエスクロンでは、時代遅れだからとっくに使用禁止になったK2暗号なんて未だに使ってるし……。AIシステム群もいいとこ、ティア3相当くらいしか使われてないみたいですよ……これは、さすがにちょっとねぇ……」
「ア、アキちゃーんっ! 出来ればなんだけどさぁ……勝手に他国へ不法ネットワーク侵入は止めてね? エスクロンじゃ、ハッキングで情報抜かれてもあんまり問題にならないけど、シリウス辺りだとバレたら、国際問題になるから」
「ふふふ、バレるような下手は打ちませんって! まぁ、ご所望とあればいくらでも、どこのだろうが情報抜いてきますよ。けど、シリウス傘下星系が農業惑星だらけになってる件、これらのデータからも明らかなんですが、それについてのご意見を是非、お願いします! 兄上!」
「やれやれ、君には敵わないねぇ……確かにバレなきゃ、済む話なんだけどね。まぁ、そうだね……昔ながらの畑仕事ってのも、牧歌的でいいんじゃないかな? そこら辺は、みんな好きでやってるし、手間ひまかけた天然食材が貴重品で、いいお金になるのも事実だからね。人それぞれって事で……。のんびり農場生活送ってる人達も、太陽衛星とか輸送艦とか色々買ってくれてるしね。その辺は持ちつ持たれつだと思うなぁ……。侵略国家云々は……むしろ、君ら競争原理って言葉知ってる? って言いたいね。バカ高い関税掛けてセーフガードとかやるよりも、技術開発や産業興伸とか軍事力増強……その辺、もっと真面目にやればって思うんだけどねぇ……。実際、ネットワークセキュリティのガバガバさとか聞いちゃうと、暗澹なる気持ちになるよ……」
「ですよね……。でも、銀河連合も圧倒的多数勢がこんな調子じゃ、お察しって感じですね……。アドモスさんなんか、完全に地上世界捨ててるし……。これで第二世界の連合国家群との全面戦争ともなったら、相手が戦争慣れしてる分、厳しい展開は避けられない……か」
「アキちゃんには、細かい説明要らないみたいだね。まぁ、その辺が僕がCEOとして予定を前倒しして、起用された理由のひとつなんだよ。平和な世の中だったら、僕らみたいなのはお呼びじゃなかったんだけど、今の銀河連合は我々エスクロンが気張らないと、まとめて総崩れになりかねない……そんな情勢なんだ。先代CEO含めたエスクロン重役会も、僕ら第三世代強化人間にエスクロンの舵取りを委ねるという英断を下した。僕らはその期待に応えるべく、持てる力をフルに使って最善を尽くす。そうだね……面白くなってきたって言う所かな」
「はぁ、それに含まれちゃってる我が身を嘆くか、或いは誇りに思うか。どうあっても避けられそうもないしね。なんにせよ、大変勉強になりました! お忙しいところわざわざ、長々とお付き合い頂きありがとうございました……ゼロお兄ちゃんっ! しかたありませんな……アキも兄弟姉妹を助け、人類世界の助勢となるべく、微力ながら兄上にお力添えいたしますぞ……! なんてね」
「いやいや、僕も君とのお話……大変有意義だったよ! ありがとうっ! そんな風にちゃんと言ってもらえるとやっぱり嬉しいね。お、アキちゃん……チャンネル667を見てみなよ。我らが姫君の晴れ舞台の告知やってるみたいだよ。深夜のクオンでエスクロン地上軍の平和の祭典祝賀パレードに、ユリちゃんの乗ったエトランゼ号が同行……多分、これ順番が逆だと思うんだけどね」
「エトランゼ号? この艦ってAI大戦のエース武勲艦じゃありませんでした? ユリちゃん……こんなのを配下に従えてたんだ……。こんな頼もしいハイスペック艦が乗艦なら、宇宙での戦いなんて、どのみち敵なしだったんじゃないかなー」
「エトランゼ号と言えば、クスノキ・ヨシミツ……AI大戦の最終局面にて、エスクロン本星のアイランドセブンへの融合弾攻撃を捨て身で阻止した知られざる大英雄の駆っていた艦ですね。ユリコ姉さんのお祖父様に当たる方です……閣下は、ご存じなかったので?」
いつのまにか、そこに居たのか、黒髪と金髪のよく似た顔立ちの少年達が執務室の大型モニターの前で、正座で並んでいた。
なお、言葉を発したのは金髪の少年の方で、黒髪の少年はモニターに食い入るように熱い視線を向けていた。
「それは初耳だねぇ……。融合弾攻撃は「万古」が大半を宇宙空間で撃墜して、数発撃ち洩らしがあったけど、大気圏内での要撃に成功したって話なら聞いてるけど……って! ダゼルとケリー! 君達、いつ帰ってきたの? せめて、制服くらい着替えなよ……」
「つい、先ほどでございますよ。同期の仲間達から、ユリコ姉さんがテレビに出てるって知らせが来たので、大画面で見なければと思い、着替える間も惜しんでここに来た次第。ゼロ兄者……何をされているのでしょうか? まずは正座でしょう! いいから、こちらに来て共に正座でユリコ姉さんのご尊顔を拝みましょうぞっ!」
「僕らが敬愛するユリコ姉さんの晴れ舞台……。これは深夜零時が楽しみだね! ダゼル! どうも、皆にも招集かかっているようだし、これはユリコ姉さんを皆で応援……そう言うことですね? ゼロ兄さんもなかなか粋な計らいをしてくれますね。僕も皆と会えるのが楽しみです」
「にしし、兄上よ……そう言うことなのですよ。すまないけど、例の掲示板ROMってましたので、大方の事情、知ってましたので、ちょっと一計謀らせてもらいました」
「はぁ、君達……どれだけ、ユリちゃん大好きなの? けど、ダゼルにケリー! 二人共学校から帰ったら、僕の護衛官としての業務があるんだから、せめて警戒装備あたりに換装して欲しいんだけどさぁ……」
ゼロ青年も呆れたように、背後から声をかけるのだけど、少年達は、ちょうど始まったユリちゃん紹介特別コーナーを見逃すまいと、モニターの前に釘付けになりながら、解ってますと言いたげに手を振って応えるだけだった。
「あははーっ! まぁ、そうなるよね。ダゼルもケリーもユリお姉ちゃん大好きですって公言してるような子達だしね。ちなみに、他の子達も皆、早速もらった特権フル活用して、続々とCEOのお屋敷に向かってるみたいですよ。これいいですね……国内移動に際しての公共交通機関の最優先利用権なんて……ホントにいいんですか?」
「ああ、上級社員専用の高速エアプレーンの優先利用や、バレットライナーの貸し切りだって、出来るはずだよ。少なくとも国内移動については、完全フリーパスだと思ってくれ。言っとくけど、君達の権限はこれから、どんどんマシマシになるからね?」
「わーい、ご飯どこでも食べ放題権とか付いちゃったりして! じゃあ、早速噂のVIP用エアプレーン使わせてもらおっと! ゼロお兄ちゃんもちゃんと正座して、皆で一緒にユリコお姉さまの晴れ舞台を見ましょうよ。もしかして、お仕事忙しいですか?」
「あー、そんなの僕も見るに決まってるじゃないのっ! えっと、業務設定……しばらく邪魔しないでちょうだいモードに設定っと! もうすぐ17時だし、今日のお仕事もうおしまいってことでいいやっ! ダゼルにケリー! 僕も仲間に入れてよっ!」
そう言うと、青年も背広を脱いで、いそいそとダゼルとケリー少年の間に割り込むと、無造作に肩を組む。
少年達も一瞬困惑したようにするのだけど、同じようにゼロの肩に手を回すと楽しそうに笑いあう。
モニターの向こう側でその様子を見ていたアキちゃんも、嬉しそうに微笑むと、通信を切った。
SF的な余談資料!
銀河連合の人口比。
シリウス……360億(30%)
セブンスターズ……300億(25%)
クリーヴァ……240億(20%)
エスクロン……120億(10%)
その他諸々……180億(15%)
こんな感じです。
銀河連合の総人口は1200億くらいで、シリウスとセブンスターズの二大連合国家が過半数を占めてます。
セブンスターズは停滞した宇宙に革命をとか言って、シリウス傘下の星系をごっそり削り取って、バラバラだった辺境の諸星系をそれなりに、まとめ上げたまでは良かったんですが。
盟主のレキサス一世が早逝してしまって、宇宙革命は頓挫……以降、パッとしないままだったりします。
シングルプラネット勢ってのは、一星系一国家単位の小国勢で、クオンなんかも本来この一角で、かつてはエスクロンも単一星系国家だったので、この範疇だったりします。
元々は銀河連合黎明期に開拓された惑星で、長い間王政の国だったんだけど、ある時期を境に企業国家化してしまって、その辺から一気に有名になりました。
クスノキ家などに代表される名家と称する貴族が生き残ってるのも、実は王政の名残だったりします。
銀河系の恒星系総数は2000億個くらいと言われてますが。
エーテルロードが繋がってて、利用価値のある惑星があって、人が住めるような星系となると、かなり厳選されるので、
数としては、2-3000個程度で、それぞれに数百万ー10億人くらいが暮らしてると言う前提で計算してます。
クオンは……人口50万程度のミニマム惑星国家です。
規模的には、八王子市とかそんな感じです。
やはり、快適な惑星は皆住みたがるので、人口分布も割と偏りがちで、惑星エスクロンあたりになると軽く四十億くらいの人口があります。
エスクロン本星は、海洋惑星なので、あっても四国くらいの島しか無いので、
海上、海中都市が主な居住区となっていて、企業中枢となっているアイランドワンの周りには、ものすごい数の衛星都市があります。
ちなみに、エスクロン自体は、エスクロン星系だけで人口の半数以上を占めると言う特異な星系連合国家でもあります。
この辺は、元々は単一星系国家だったのが、資源星系とか買い漁って、施設管理のために自社員(国民)を出向させたり、支社建設みたいなノリで、勢力範囲が広がっていった関係でこんな風になってます。
最近は、自分からエスクロンの傘下入りを希望する星系国家とかが増えてきたので、急激に人口も増えてたりします。
ちなみに、ゼロの言う所のハズレ星系とかは、何気にめちゃくちゃいっぱい持ってます。
他は、ガスジャイアントとかあっても、エスクロンから買った方が安くて質もいいしってんで、あまり需要がなく、新規星系の開発権入札とかなると、エスクロンの独壇場だったりします。
ちなみに、存在は知られてるんだけど、エーテルロード繋がってないから手つかずって星系も結構あったりしますが、そのうち着くだろーってノリで無人亜光速探査艦とか送るとかそんな程度の扱いです。
セカンドは、全銀河の人口全部足しても100億くらいなので、本来ならば話にもならないくらいの国力差があります。
もっともこれは、あくまで人口比からの比率なので、
総合的な国力比ともなると、ガラリと変わって来ます。




