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第三話「宇宙活動部っ!」⑤

「そや、うちらには航宙艦の免許が無いんや……せやから、宇宙活動部っても実は、全然活動出来てないんよ」


 あれー? 航宙艦免許なんて、15歳以上なら取れるはず。

 

 マルバツ形式の筆記試験とVRシミュレーターでの基本操艦試験だけだから、AIへのコマンドワード一式を覚えて、VR教習で基本的なマニュアル操艦が出来るようになった上で、航宙法を丸暗記しとけば余裕。

 

 マニュアル操艦と言っても、上下左右と前後……減速と加速? これが出来れば、問題ない。

 シューティングゲームと変わりない。


 後は、ドッキングベイへの入港と出港……これもタイミング指示くらいで、基本フルオートだから、難しいものじゃない。


 実際のところ、航宙艦の操艦なんて、ほとんどAIの自動操縦任せ、人間サイドは燃費重視で行くか、時間重視で行くかとか、コース選定の決定とかくらいしかやる事ない。


 未知の領域の航行や管制ステーションもないような無人惑星とか、小惑星巡りでもしない限り、出発側と到着側の双方の管制システムとリンクして、航路も管制側と艦載AIが勝手にやり取りして、お任せ航法で黙ってても一番省エネかつ早いルートで、連れて行ってくれる。

 

 ドライバーのやることなんて、AIの提案にGOサイン出すだけの簡単操作だから、子供でも操艦は出来る。


 私みたいなサイバーコネクト所持者なら、文字通り航宙艦を自分の身体みたいに扱えるから、そのハードルは益々低くなる……もっとも、フルダイブコントロールは、クラスAの限定解除免許がいるけど。

 

 ちなみに、一発受験で取れるクラスCは50m級までの小型艦限定。

 このクラスは、惑星重力圏内の飛行や、地上往還くらいにしか使われてないから、取ってもあんまり意味はない……。

 

 クラスBになると、500m未満の中型艦……航宙艦のスタンダードと言われるサイズだから、大抵コレで十分。

 就職なんかでもこれがあると、普通に歓迎される。

 大は小を兼ねるで、小型の地上往還機やエアプレーンも操縦できるから、万人にオススメ。

 

 クラスAは、無制限航宙艦免許。

 km級の大型艦だろうが、戦闘艦だろうが、この免許があれば、あらゆる航宙艦を操艦できる。


 ユリの持ってるのはコレ。

 

 ……あまり、大きな声では言えないけど、ユリは戦闘用強化人間でもあるので、航宙艦の宇宙空間戦闘訓練も受けているし、航宙艦の艦長資格すらも持ってる。


 それも、戦闘艦艇の指揮権限をもつ第一種航宙艦艦長資格ってヤツ。


 この辺の資格って、ユリの場合、この宇宙空間戦闘や大気圏内の空戦において必要とされる三次元空間認識力が飛び抜けて高いとかで、取得推奨……それも「君の将来のためにも」って但し書き付き。


 ……なので、さっさと取る事にしたのです。

 

 この文言が付く文書は、事実上の強制を意味するってのが、エスクロンじゃ常識。

 当然、拒否権はあるのだけど、断ってもろくな事にならないし、取得推奨資格については、社から取得費用がほぼ全額補助される。

 

 ユリは元々、人の頼みやお願いを断れないタチなので、普通にお願いしてくれたらいいのになーと思いながらも、あっさり了承した。

 

 ……なんだけど、実際VRでの宇宙戦闘機の操縦や200m級の駆逐艦の操艦は楽しかったー!

 軍用艦って、操作レスポンスも抜群でセンシティブ系も充実してるし、ハイパワー!


 地上車でいうと、スポーツタイプの車を運転するようなものなのです。

 

 航宙艦の戦闘訓練っても、VRだともうゲームみたいなもんで、隠れゲーマーでもあるユリは、成績自体はとっても、優秀。

   

 その他、推奨資格などは、高校在籍中にゆっくり取ってくれればいいよって話だったんだけど、エスクロン防衛部主催の一ヶ月くらいの軍事教練合宿に参加して、まとめて取ってきた。

 

 実機にも乗せてもらったよ……コクピットに収まっただけで、実際の操作とかは全部VRだったけど。


 VR環境で、km級の巨艦の操艦体験もした。

 宇宙では20mも1kmも大差なかったんだけど、慣性の法則でkm級ともなると、とっても鈍くさかった。


 操艦ドライバーは駆逐艦クラスが一番だって、本職のドライバーも言ってたけど、さもありなんだった。

 でも、スジがいいとか褒められた上に、Aクラスの限定解除試験もあっさりパスだった。

 

 エスクロン軌道防衛艦隊に入らないかってスカウトもされたけど、スペシャルオーダーズの強化人間だって話をしたら、妙に納得されたけど、残念そうにもされた。

  

 なお、この航宙艦免許については、最近航宙艦免許取ろうと言う人がめっきり減ってしまったので、銀河連合全体の方針として、敷居をガッツリ下げて、昔より取りやすくしていると言う話だった……。

 

 合格率もクラスCなら98%、クラスBでも80%……さすがに、クラスAともなると、だいぶ下がるけどそれでも50%とそこまで難関じゃない。

 

 今どきの航宙艦は、ほぼAI任せとは言え、AIはGOサインを出す操艦ドライバーがいないと、何も出来ないので、航宙艦ドライバーが要らなくなる……なんてことはあり得ない。

 

 ちなみに、エーテル空間航行艦の操艦免許も、銀河連合では大盤振る舞い状態ではあるんだけど、エーテル空間は今の所、とっても危ないところなので、原則未成年には取らせてくれない。


 なにせ、エスクロンですら、エーテル空間航行関連免許については、一切の例外規定を設けてない。

 ……実際、エーテル空間ではバタバタ殉職者が出ており、そんな危険な事を子供にはさせたくないと言う割と真っ当な判断が下された……そう言うことらしい。

 

「……免許……取らないの? 割と簡単……」


 私がそう言うと、二人共揃ってため息を吐く。

 

「それが出来れば、苦労しないんですけどね……」


「……クオンでは、航宙艦免許は18歳以上にならないと取れへんのよ。あたしら、揃って早生まれだから、18になる頃にはもう卒業間近やからなぁ……」


 生徒データベースによると、アヤメさんは、1月生まれ……エリーさんは3月生まれ。


 私は4月生まれ……あれ? この三人……皆、16歳で同い年? エリーさんなんて、誕生日が一ヶ月も違わない。

 

 同い年なのに、この発育具合……アヤメさんが如何に規格外なのか、よく解るね……。


「銀河連合の規則では、航宙艦免許は15歳以上で取れるって事になってるし、最近若い人に取って欲しいとかで、補助金出したり、広報とかもやってるくらいなんですけどね。クオンでは、その流れに逆行して、惑星条例で18歳以上にひきあげられてしまったのですよ。子供に危険な宇宙空間労働をさせることになりかねないからって……」


 ……意味わかんない。

 

 子供でも免許が取れると、宇宙空間での労働に就かされるって……そんなの労働させる側に問題があるのであって、免許取る側には関係ないじゃない。

 

 エーテル空間のは、事実上の戦場なんだから、まだ納得できるけど。

 通常宇宙空間なんて、技術的にも枯れきってるし、ここ何年も大きな事故も起きてない。


「……理不尽、理不尽っ!」


 思わず、足をバタバタさせて、誰ともにでもなく抗議する。

 

 理不尽なことには理不尽って言わなきゃ駄目だよー!


「せやな……。うちらもそう思うんやけどね。大人達が勝手に決めたことなんで、あたしらには、どうすることも出来んのよ」


「クオンは、18歳未満は参政権もないし、文句言ってもしょうがないんですよ」


 むー。

 なんだかんだで、ここは外国なんだなーと痛感する。

 

 エスクロンじゃ、妙な決まりが作られそうになったからって、学生がクラス単位で団結して、あっちこっちで連携して反対集会とか開いて、撤回させたりとか実際にあったからね。

 

 妙に団結力が強い国民性だから、子供だからって侮ってると、全土運動まで発展したりする……だから、エスクロン人は子供だからって、いい加減な説明とかはしない。

 

 むむむ……根性ないな……クオン人。

 と言うか、保守的、回帰主義的な所があるとは聞いてたけど、そんな理不尽がまかり通るなんて……。

 

 ユリ、珍しく怒ってます……プンスカッ!


「まぁ、そんな訳でな……。うちらじゃ、どうにもならんけど。ユリちゃんなら、「エトランゼ号」だって自由にのりこなせるんやろ? とりあえず、入部の件は仮入部って事でかまへんから、どうや? 考えて見てくれんかなぁ……」

 

 ……そう言う事なら、もう否応は無かった。

 

 アヤメさんの言葉に、首を振ると黙って、サラサラと今日の日付と名前を書いて、最後の生体認証シグネチャー……拇印を押して、にっこり笑顔。

 

「……入る」

 

「ユリコさん……!」


 エリーさんが嬉しそうに抱きついてくる。

 

「やっぱ、ええ子やったんやなぁ……ありがとうなっ!」

 

 アヤメさんが後ろから二人まとめて、ギューっとしてくれる。

 

 わっ! わっ! 二人共スキンシップ激しいっ!

 

 でも、悪くない……なんて思ってたら、ぽすんと頭に重たいのが乗っかる。

 ……アヤメさんのお胸様。

 

 こ、こんな重たいのか。

 片方だけで推定約1kg……ペットボトル二本分。


 キリコ姉が肩こるとか言う訳だ……それがダブルで……お、重たい……。

 

 思わず、首が斜めになる。

 

「……オホン、アヤメ……それ、どかしてあげてくださいまし」


「あ、ゴメン。あはは……わ、悪気はないんやで」


 うん、知ってた。

 ユリも何事もなかったかのように、笑顔ニッコリ。

 

 人間スルー力って重要なんだと、思った。

 もげろとか、思ってないよ……ぜんぜん。

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