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宇宙(そら)きゃんっ! 私、ぼっち女子高生だったんだけど、転校先で惑星降下アウトドア始めたら、女の子にモテモテになりました!  作者: MITT


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第三十五話「黄昏時の逢瀬」①

 ……空が黄色く染まっていくのを見つめながら、私はその喧騒を離れた所で見つめていた。

 随分と遠くに来てしまった……そんな思いが去来する。


 敵の通信回線へ送った降伏の意を示す文書への回答は早かった。


 即時での作戦中断と降伏の受け入れの確約。

 ユリコちゃんから離れた上で、雑踏からも離れ、指定の場所でそのまま待てとの指示。

 

 敵はこちらの予想通り、私の強制排除を実行する直前だったらしい。

 もっとも予想外だったのは、シュヴァルツへの正式な宣戦布告と本格攻勢までも同時に実施される所だったと言うこと……。

 

 ……全く危ないところだった。

 

 そこまで覚悟を決めていたというのも驚きだったが、彼女がそこまで重要視されていたと言うのも意外だった。


 だが、やはり恐るべきはエスクロン……。

 要するに、その宣戦布告をきっかけに一気呵成に全面攻勢に移り、徹底的にシュバルツ殲滅を実施するつもりだったのだろう……。

 

 そうなっていたら……我軍の将兵の多く、そして罪もなき民までも灰燼に帰していたのは、間違いなかった。

 

 なにせ、シュバルツの上層部も情報部もエスクロンが正面切って、仕掛けてくる可能性はないと判断しており、エスクロンの全面攻勢に対する備えは皆無に等しかったのだ。


 そんな無警戒の状態で、全力での反撃を受けていたら……。

 少なくともこの世界に展開している各地の我軍や、植民政策で進出しているシュバルツの一般市民は皆殺しの憂き目に会っていたかも知れない。

 

 人質も取っているし、銀河連合自体の方針は、極力戦争を避けたいと言う意思が見え見えで、各星間国家も、シュバルツとの正面からの戦争は避ける方針だと判断されていた。


 当然、紛争状態にあるエスクロンも仕掛けてくると言っても、せいぜい小規模紛争程度で矛を収めるだろうと言うのが情報部を含めた大方の予測だった。

 

 実際は……その予想は完全に的外れだった。


 エスクロンは、やる時はやる……そう言う国なのだ。

 それも徹底して……敵に対しての容赦も躊躇もしない。


 人質も銀河連合の意向もお構いなし……同胞たる人類相手ですら、幾度となく紛争と言う手段を平気で選び、エーテル空間での戦争にもむしろ積極的に割り込んでくる……その程度には好戦的なのだ。


 ぬるま湯に浸かり続けてきた腑抜けた他の星間国家とは、明らかに異質。

 シビアな判断も容赦ない決断も、当たり前のように下す戦闘国家。

 

 我々は虎の尾を踏むところだったのだ……。

 

 クリーヴァも事あるごとに、エスクロンは危険だからあまり手を出すなと警告していたのも当然だった。

 

 上層部も事の顛末を聞いたら、衝撃を受けるに違いなかった。

 恐らく、私を処分するどころではなくなるのは確実だろう。

 

 改めて、私の判断は間違っていなかったと痛感する。

 

 もっとも、降伏し虜囚の身となった以上は、私の運命は敵の手に委ねられる。

 無事に帰れる保証はない……だが、後悔はない。

 

 今の私の心にあるのは、深い安堵感……それと寂寥感。

 何よりも、静かなる怒りだった。


「……よぉ、フォルゼさん。ありがとな……おかげで、この平和な光景を守る事が出来たぜ。素直に感謝の意を示そうじゃないか」


 メガネをかけて顎髭を生やした知的な風貌の禿頭の男が、敬礼を寄越しながら、まるで散歩でもするかのような気軽な調子で隣に来ると無造作に座り込む。

 

 反対隣にも若い女が同じように座り込む……おそらく、サイボーク。

 けれど、赤い十字のワッペンを胸に付けて、非武装の様子から、非戦闘員……救護兵か何からしい。


 救護兵は割と力仕事だと聞いているから、強化サイボーグの救護兵なんてのは我々の軍でも珍しくない……この辺の事情は異世界だろうと似たようなものらしい。


「始めまして……私はアルカ・イスマ軍医少佐です。先程お話させていただいた者です。良かった……物分りのいい人で! あ……拘束しようとか、そんな事考えてないから、楽にして……この人は、一応隊長さんだから同行したってだけだから、事情聴取はむしろ、私が担当する予定……周囲にも一応兵が待機してるけど、むしろ人払い要員とかそんなのだから、気にしないで!」


 のほほんと言った調子でアルカ少佐が笑いかけてくる。

 私の降伏の申し出に対して、まっさきに彼女が対応をしてくれて、作戦中止の意見具申までしてくれたらしい。


 一応士官らしいが、堅苦しくするなと言いたいらしい。

 周囲には、明らかに強化サイボーグが数人、他にも厳つい男達が人壁を作って、一般人の視線を遮っているらしい。

 それなりに厳重な囲いではある。


「尋問……とは言わないのだな。そちらは総指揮官のトキシロ大佐だったかな。直接、顔を合わせるのは初めてだが、私からも感謝の意を……。我が名はフォルゼ・クラウト・フォン・バンクツアート。シュバルツハーケン帝国宇宙軍少佐だ……普段は男の姿をしているのだが。まぁ……なりゆきでこんな格好をしている。おかしくないかな?」


「俺は、トキシロ・ユウジロウ……エスクロン社国宇宙紛争処理課、地上戦闘第三部部長……要するに宇宙軍の揚陸戦隊って事だ。ちなみに階級は大佐相当だな……うちはこれでも民間企業って建前だからな。色々とややこしいんだ」


「……銀河連合有数の武装国家が、民間企業と言い張っているのか……これはまた。だが、国の形態というのは様々だからな。要するに、私に解るように説明してくれたのだろう? わざわざ、すまないな」


 そう言って、軽く頭を下げる。

 しかしながら、国家レベルの民間企業だったと言うのは、我々も初耳だった。

 いや、その程度の事も理解せずに、闇雲に紛争を仕掛けていたのだ……我々は。


 つくづく、愚かしい争いをしているのだと痛感する。


「思ったより、礼儀正しいんだな……。シュバルツの奴らは、ド汚ねぇチンピラみたいな兵ばかりって聞いてたんだが、マトモなヤツもいるって事か。フォンってのはあれか? 古代ドイツ帝国の貴族を示す名だったかな。ちょっとライブラリ記録を検索したら、そんな記載が見つかったんだが。それであってたかな?」


 なるほど、この男も半サイボーグと言ったところらしい。

 

 網膜投影モニターに、無線オンライン情報支援システム。

 パッと見、生身に見えるのに大した技術だった。


「その認識であっているよ、大佐殿。私はバンクツアート伯爵家の当主でもあるからね。帝国貴族は帝国騎士と同義であるのだが、私はそれを誇りにしている。フルネームの名乗りに同様フルネームの名乗りで返せるような奴は嫌いにはなれんよ。答えられる範囲でという但し書き付きだが、聞きたい事があるなら、何なりと聞くが良い……だが、場所を変えたほうがいいのではないかな? ここは少々人目に付きすぎる」


「そうだな……なら、ちょっと歩くか。俺もアンタみたいにいい女は嫌いじゃないぜ? その浴衣……古代日本の民族衣装なんだが、なかなか似合ってるな……せっかくいい女なんだから、普段は男装なんて勿体なくないか?」


「我が国では、本来女が戦地に出る習慣はないからな。男尊女卑が徹底しているのだよ……。バンクツァート家は帝国上級貴族ではあるのだが……。本来、世継ぎとなるはずだった男達が全員戦死して居なくなったから、長女の私が兄の名と家督を継いで軍に入隊したのだ。そうでもしないと歴史ある我がバンクツァート伯爵家はお取り潰しとなっていたからな。それではさすがに祖先に申し訳ない」


「そいつはまた難儀な国なんだな……。うちで、そんな事言ってたら、女共の反乱が起きるぜ? なぁ、アルカ少佐」


「ですねぇ……。ぶっちゃけ宇宙軍の主要戦闘員の半分以上を敵に回しますよ。まぁ、うちの隊は男性比率が高い方ではありますけどね。なにせ、空間戦闘はともかく、地上戦ともなるとやっぱ、力仕事ですからねぇ。そう言うのは殿方に頑張ってもらわないとですね。ちなみに、エスクロンにもそちらの貴族に近い名家の方々もいるんですけど、女当主なんて、別に珍しくないですよ」


「羨ましくなる話だな。我が国では女に生まれた時点で二級市民……要するに奴隷扱いだからな。もっともインセクターや他国との長い戦乱で、男どもがバタバタ死んで、男女比がおかしくなってきているから、ぼつぼつ例外も出ているのだがね。私なぞいい例だ……。上級士官は貴族でないとなれないと言う決まりがあるのだが、そのおかげで上級士官も足りなくなっているのだ。なにせ、男が足りないのは貴族も同じでね……貴族が居なくなると、各地の統治者も上級士官も足りなくなる……必然だ。おかげで私のように、女の身で家名を継ぎ、戦地へ赴く者は少なくない……皆、不本意ながら女を捨てて、男装して戦地に赴いているのだが、やはり問題が多すぎて、皆辟易しているよ」


「うわぁ……なんだか、ドン引きだわ……それ。まさかとは思うけど、航宙艦とか宿舎に女性専用スペースや女子トイレがないとか、シャワーやお風呂も混浴とかそんなだったりするの?」


「そのまさかだよ……建前ではそんな男装の女士官なぞ、存在しない事になっているからな。当然ながら、間違いもよく起こるし、婦女暴行なども起きている。もっとも相手は士官で大抵貴族だから、そう無茶をする奴はいないがな……。上官が部下を斬った所で正当な理由があれば、問題視はされないからな。誰だって命は惜しい……そんなものだ。だから、シャワーなどは男共が気を使ってくれたりはするがね。もっとも、女性の服を着てはいけないだの、肌を見せるなだの、胸を目立たなくさせろだの……うんざりするような規則だらけで、もれなく、政治将校なんて見張り付きだ」


「政治将校ねぇ……。これか? 古代地球のソヴィエト連邦って国の風習……なのかね。共産党の威を借りた政治将校ってお目付け役がいたとかなんとか。逆らうと師団長や艦長クラスでもその場で粛清されることもあったって……なんだそりゃ。って言うか、そうなるとアンタもこのまま戻ったら、ヤバいんじゃねぇか? もし、このまま亡命を希望するなら、悪いようにはしねぇぞ?」


 どうやら、この男……このまま歩きながら、立ち話で話を続ける気らしい。

 この交渉は極めて政治的な交渉だと思うのだけど……口調も砕けた調子でなんとも調子が狂う。


「なに、心配には及ばない。いい加減うっとおしくなってきたので、ここに来る前に政治将校殿は軽く叩き斬って、宇宙葬にしてやったからな。これで通算3人目……そろそろ、お咎めのひとつくらいありそうだが。我がバンクツァート家は、貴族院に多大な影響力を持つからな。ナチス党といえど、簡単には処分はできん。なにより、建前上は部下の一人だったからな……。実際、作戦失敗の原因を作った張本人なのだから、粛清したところで文句は出まい。それに、我が宇宙軍ではよくある話さ。戦闘中に何故か政治将校殿だけが戦死するのだ……理由は想像つくだろ?」


 そう言って、笑うと大佐殿は膝を打って笑う。

 まったく、なんと言うか……諧謔かいぎゃく趣味というものが解っている御仁のようだ。

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