第三十二話「名もなき人々の奮闘」⑥
788:名前:名もなき紳士
大佐さんアンタ、熱いねぇ……嫌いじゃないぜ?
つかエスクロンの軍人って意外とノリ軽い……?
いつもこんなんなの? 軍人って言えばもっとクソ真面目な印象あるんだけど。
789:名前:ホワイトクロック
俺ら、伊達にお祭り民族とか言われてないよー?
エスクロンの軍人っても、どいつもこいつも概ねこんな調子だよ。
戦争なんて、マジにやるよりお祭り気分でやるに限るってのが俺たちのモットーだからな。
助っ人外国人の入隊だって、いつでも歓迎よ? 給料めっちゃいいし、休みも多くて割とホワイト待遇、一緒に銀河の平和を守ってみないかい? なんてな。
ととっ、おしゃべりしてる間に、特務関係者データベース照合結果が来たな……と。
おいおい、該当なしってどう言うことだ?
メディックねーさん、特務の強化人間ってこっちに何人くらい来てんだ?
790:名前:メディック
はいはい、こちらメディックねーさん。
もういいや、こっちもこれで行く。
だから、特務情報は本来極秘なんだって……。
まぁ、私が知ってる限りだと大尉ちゃんと、対サイボーグ戦闘小隊の臨時隊長……この二人だね。
どっちも第二世代強化人間のエース級、特務の生え抜きよ。
けどまさか、三人目がいるっての? そんなの聞いてないよっ!
私らメディック関係者の所って、救護対応のために一切の例外なく作戦参加強化人間の仕様データを寄越すって決まりになってるから、そんなのありえないんだけど!
791:名前:ホワイトクロック
ケルベロス……対サイボーグ戦闘小隊長からも、至急電が入った。
『否定』の一言だけだが、同世代の野郎ですら、知らねぇってなるとやっぱり……こいつはくせぇ、プンプン臭うぜ。
つか、こりゃ、ちょっとばかりやべぇ状況かもな。
おい、最寄りのソルジャー、屋台ストリートに誰かいるか?
エンジェルの隣の浴衣美人さんに、背後から生体スキャンやってくれねぇかな……。
ほぼクロなんだが、念のために最終確認を取る。
感づかれたら、一気にまずい事になるかもしれんから慎重にやれ。
平服組も総員、現作業を中断し屋台ストリートへ急行っ! 急げっ!
792:名前:ソルジャーG
任せてくれ……実はエンジェルちゃん見かけたからって、こっそり尾行してたんだ。
百合女子ソルジャーも一緒だ……まぁ、アベックに偽装してるから、簡単にゃ気付かれねぇだろ。
現在距離は約20m……5mくらいだっけかな? 生体スキャナーの有効範囲って……。
パッシブタイプだから相手に感づかれる可能性はないんだが、スキャンにちょっと時間がかかるからなぁ……。
やっべぇ、ドキドキしてきた。
こ、こう言うときはどうすりゃいいんだっけ?
793:名前:百合女子ソルジャー
わ、私に聞かないでよ……。
つか、なんで私がアンタなんかと……。
だから、キョドんなよ……任務なんだから、しっかりやりとげろっての!
ちゃんと腕も組んで、それっぽくしないと怪しいだろ!
うらぁっ! もっとベターっとくっつけっつのっ! 何なら、揉むか? ああっ?
794:名前:名もなき紳士
……なんか全然、羨ましくない件について。
エスクロンの兵隊ってのも、大変なんだな。
落ち着かないなら、素数でも数えれば良いんじゃないかな?
と言うか、俺までドキドキしてきた。
まさか、浴衣美人さんが……敵?
天使ちゃんと一緒なんて、それヤバすぎんだろ!
795:名前:ソルジャーG
助言、ありがとう。
13……17、19、23……ホントに落ち着いてきたよ。
見た感じ、どっちも普通にお祭り楽しんでるって感じなんだがな……。
うん、大丈夫……ほとんど、目の前だが勘付かれた様子はない……。
よし、ここだ……入った!
……暫し待つ。
この瞬間が長い……よしっ! スキャン成功!
ってあっぶね! スキャンし終わった瞬間、気が抜けたせいか勘付かれた?!
796:名前:百合女子ソルジャー
うげげっ! どっちも揃ってギュンって感じで振り向いたっ!
なにっ! あの超反応……! 振り向きながら、もう身構えてるとか、どっちも半端なくね?
おいっ! ズラかるよっ!
幸い、前にいた見知らぬ横幅広めな一般人が壁になってくれたみたいで、まだこっちは見られてない。
さっさと立て! 今のうちににげるよっ! って、いねぇしっ!
797:名前:ソルジャーG
やっちまった……思わず、とっさにあの兄さん、盾にしちまった。
な、なんか、ビクンビクンってなってたけど、アレ大丈夫だったかな?
なお、自分、全速力で撤退中!
798:名前:百合女子ソルジャー
このばっかやろーっ! ツレほっといて一人で逃げんな!
って言うか、あの人……ブッ倒れちゃってるけど! ほっといていいの?
799:名前:盾男
き、気にするな……二人共、俺のことなんぞ、気にせず捨て置け。
俺も天使ちゃんの跡をつけてたんだが、いきなり振り返られて、すっごい怖い目で睨まれた……。
邪魔しちまったのは多分、俺の方だ……。
お、思わず身体固まって、アヘ顔晒してビクンビクン状態……。
つか、アベックソルジャーズ、どっちも逃げ足早いな……本当にもう居なくなった。
でも、天使ちゃんに助け起こされて、ごめんなさいされた。
メイド服姿も可愛かったけど、浴衣姿も超可愛い……。
まさか、こんな至近距離で拝めるなんて……ありがたや、ありがたや。
俺のパンツは犠牲になったが、尊い犠牲だったと言えるだろう。
股間がやけに冷たいぜ。
てか、今の……マジで撃たれたか何かされたと思った……。
い、生きてるって素晴らしいっ!
800:名前:ホワイトクロック
マジ、すまんかったーっ!
アベックソルジャーズ……お前ら、なに思いっきり一般人巻き込んでんだ!
801:名前:百合女子ソルジャー
私、悪くないと思いますー! 盾男くん、ごめんなさーいっ!
って言うか、天使ちゃんマジおっかないっ! スイッチ入ると、あんななんだっ!
802:名前:ソルジャーG
すまねぇ! 本当にすまないっ! 許せ!
大将っ! データ送信も終わったぞ……ミ、ミッションコンプリートッ!
803:名前:ホワイトクロック
グダグダじゃねぇかよ……まったく。
ああ、盾男くん、校舎裏の駐車場に、迷彩柄で赤十字マーク付けたうちのメディック車が止まってるから、隊服でも支給してもらって着替えるといーよ。
詫びって訳じゃないが、今なら、迷彩服の巨乳メディックさんが優しくお着替え手伝ってくれるよ?
……そんな訳でメディックさん、一般人、それも名誉の負傷者ってとこだから、ひとつご配慮頼むよ。
804:名前:メディック
了解、了解……さすがに一般人巻き込んじゃったなんて、こっちも気が引けるからね。
怪我しなくて良かったー。
しゃあない、特別サービスくらいしますかね。
盾男くん、いつでもいらっしゃーいっ! きれーなおねーさん達が可愛がってあげるわよーっ!
805:名前:盾男
ありがたい……メディックさん、お世話になるっす-!
って、ホントに良いのかな?
806:名前:ホワイトクロック
気にすんな! メディックさん、すまんが頼むわー。
スキャンデータ受領解析完了っと……。
ったく、本国サーバー経由だとデータ転送くっそ重いなぁ……って、なんだコイツ?
強化装備の規格がどう見ても、うちとぜんぜん違うぞ……むしろ、さっきのサイボーグ共と同じ規格のパーツ使ってやがるのか……。
こいつはもう決まりだ……。
くそっ、なんてこった……総員に告げる。
緊急事態発生、エンジェルがルシフェルに捕われた。
想定ケース20! それも「赤の場合」だっ! くそったれ……最悪のパターンじゃねぇか。
エンジェルにも相手が何者かくらいわかんだろ! なんで、そんな至近距離まで近づけさせた上に、ユルッユルに油断してんだよっ!
807:名前:メディック
……相手が同じ強化人間って事は気付いてると思うけど。
あの子、特務の情報持ってないから、味方だと思い込んでるのかも。
普通に考えて、強化人間ってエスクロン限定だから、そう思うのがむしろ当たり前じゃないかしら。
いかんせん、腹芸とか出来るような性格でもないから、相手の口車に乗せられて、自分から情報漏らして騙されてる……?
と言うか、こっちでも会話とかモニターしてるけど、むしろ思いっきり懐いちゃってるような感じなのよね。
これはちょっと厄介な状況になったね……。
でも、力づくとか、あまりお勧めできないわよ……状況的にシビア過ぎる。
とにかく、ここはもうちょっと様子を見た方が良いと思うわ。
808:名前:ホワイトクロック
そうは言っても、こうなったらもう力技しかねぇだろ……。
こんな状況で力づくで、強襲奪還なんてやったらヒデェ事になるってのはもちろん、解ってるさ……。
だが、いつルシフェルが一変して、エンジェルに危害を加えるか解らん。
何より、そこらの一般人を人質になんて取られたら、それこそこっちは打つ手が無くなる。
相手がその気になる前に不意打ちで仕留める……もう、それしかねぇだろ?
809:名前:メディック
そうね……こうなる前に何とかすべきだったんだろうけど。
いかんせん、こっちも情報共有に問題があって、色んな部署がてんでバラバラに動いてたからね。
特務との協力だって、向こうが半ばおせっかいで接触してきて、現場レベルでの呉越同舟って感じだったし……。
それに何より、エンジェルに与えてる情報が少な過ぎたのよ。
あの子は何も知らなさすぎる……敵が何なのかすら解ってないかも……。
810:名前:ホワイトクロック
……やれやれ、これでも俺らエスクロンでも有数の実戦部隊のつもりだったんだがな。
何ともお粗末……グダグダじゃねぇか。
特務の秘匿性と、エンジェルの精神的な未熟さが完全に裏目に出ちまったってこったな。
いや、この辺は……やっぱ子供だから仕方ねぇよな……。
普通の女の子として、暮らしてりゃ、勘だって鈍ってくるだろうしな……。
だからこそ、俺らがしっかりしねぇといけなかったのに、みすみすこんな状況に……。
クソッタレッ! どうりゃいい……考えろ……最善の選択は……。
811:名前:謎のお兄さん
やれやれ、こりゃ僕の出番かな。
状況はモニターしてたから、すでに把握してるよ。
……交戦規定コードβを発令する。
ここでエンジェルを持っていかれたら、一気に情勢が悪化するからね。
もはや、手段を選んでいられる状況じゃなくなった。
すまないが、そう言うことだよ。
まぁ、こう言う難しい判断をする為に、僕みたいなのがいるんだからね。
責任の所在がどこにあるかと言われたら、それは僕であるのは間違いない。
僕も君達も、己が責務を全うするだけの話だ。
それでは、存分にやりたまえ。
健闘を祈るよ。
812:名前:ホワイトクロック
交戦規定コードβ……全面戦争って事かい。
慚愧に堪えんが……こりゃもう、やるしかねぇって事か。
総員に告げる……現時刻を以って、交戦規定コードβが発令された。
そうだ、総力戦用意……武装も解禁だ。
恐らく、奴の出迎えの母艦辺りが近くに来てるはずだからな。
エグザバイトを戦闘モードへ移行の上で迎撃体制に入る!
コロニー周辺警戒中の護衛艦も同様だ……艦載機隊にも至急スクランブルをかけろ!
そうだ……コイツはもう戦争だ!
だが……これだけは言っておく!
ボスはああ言ってるが、この場にてこれから起こるすべての事象の責任は俺が取る!
これは現場の意地ってやつだっ!
ケルベロス隊……仕事の時間だ。
隠蔽装置で姿を隠して、可及的速やかに展開し、エンジェルを奪還せよ……。
障害となるであろうルシフェルは最優先で排除しろ……手段は問わない。
スナイプ隊も直ちに偽装解除……アンチマテリアルライフルの使用許可を与える。
ああ、レールガンを使え……レーザーなんぞ、どうせ効きゃしねぇだろ。
例の助っ人さんにも手伝ってもらえ。
エンジェルにも現在状況を知らせた上で、コードβを付与し、フルスペックでの戦闘行動を開始させる。
その上で、狙撃隊による掩護射撃を実施するから、ケルベロスは、エンジェルと呼応してルシフェルを一撃で仕留めろ……。
手加減なんて出来る相手じゃねえから、そのつもりでやれ。
ソルジャー各員は、大至急全員集合!
屋台ストリートからの一般人避難誘導及び保護を実施せよ。
手はずは、事前想定シミュレーションF81でやる……訓練通りやれ。




