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第三十二話「名もなき人々の奮闘」⑤

 770:名前:ホワイトクロック

 

 敢えて、みなまでは言わんよ。

 興味があるなら、銀河共有ネットの公開情報を繋ぎ合わせてみるんだな。

 

 超AI共は、慎重だからな……第二世界についての一般人への情報公開は、出処不明の都市伝説やら断片情報と言う形で、解る奴には解るようにってな具合で進めてるらしい。

 

 実際、割と最近、楼蘭帝国って国が銀河連合に新規加入したなんて、ニュース流れてただろ?

 あれもふざけてるよな……どこにあるのかとか、どんな国かとか一切触れないんだもんな。

 そもそも、新規加入なんて、しれっと言ってやがるが、それまではどうなってたんだって話だっつーのに。

 

 そのくせ、AI共に聞くと隣接異世界の独立国家だの、古代日本をルーツとするだの、バァーっと情報垂れ流し始めやがるからな。

 

 奴ら、聞かれてない事は教えないってのが当たり前だからな。

 だが、ピンポイントに肝を抑えた質問をすれば、奴らは開示可能な範囲なら、いくらでも情報を教えてくれるんだ。

 

 そこを弁えておけば、すぐに裏なんて取れると思うぜ?

 

 771:名前:名もなき紳士

 

 楼蘭帝国……って、何だこれ?

 プロクスター中継港での銀河連合軍との戦闘記録やら、銀河連合軍遠征艦隊の第二世界遠征だの、次々情報出てきやがるな。

 

 つか、この桜蘭社って最近、天然食材使った乾物とかで名前見る会社じゃん……しかもお値段、そこまで高くもないんだよな。

 

 772:名前:ホワイトクロック

 

 ああ、それ……楼蘭帝国のこっち世界との交易窓口法人だな。

 あっちの奴らは、天然食材へのこだわりがあるとかで、高品質の天然食材が格安で手に入るんだ。

 

 我がエスクロンは、天然食材はむしろ買う側だからな。

 向こうにとっては、お得意様って事で割とよろしくやってんだ。

 

 だもんで、エスクロンにとっては、異世界の奴らについては、当たり前の隣人って感覚なんだ。


 その桜蘭の情報だと、敵国の名はシュバルツハーケン帝国。

 ナチスドイツの思想を受け継ぐ、あっちの世界でもとびっきりにヤバい奴らだ。


 773:名前:名もなき紳士


 ナチス・ドイツって言えば、古代戦争……第二次世界大戦でヨーロッパを焼き払ったドイツ第三帝国だったかな。

 とっくの昔に滅び去って、その存在すらも長年タブーとされていたのに、なんで今さらそんなもんが……。


 って……そういや、異世界の国なんだっけな。

 近似異世界ねぇ……なんだか、ややこしいな……。

 

 こいつがその異世界の歴史年表か……こんな情報まで公開されてるのに、なんで俺達、全然知らなかったんだ?


 774:名前:ホワイトクロック


 まぁ、普通に生きてりゃ、こんな異世界人との戦争なんて関係ないだろうしな。

 奴らも、コロニーに直接攻撃を仕掛けたり、有人惑星の地表を焼き払うとかそこまで無茶はやってないからな。

 連中にもその程度の分別はあるらしい。

 

 もっとも、だからと言って、傍観していいような状況じゃないんだがね。

 奴らの戦略は恐ろしく巧妙でな……裏側から手を伸ばして、着々と侵略を進めてやがるんだ。

 

 あのマンジマーク、この所エーテル空間ではやけに大人しくなってたんだが、今度は通常空間に進出して来て、各地の宇宙軍とやりあってるらしい……どうも抜本的に戦略を変更した……そんな感じだな。

 

 どうやってエーテル空間を超えて、こっちの通常宇宙まで入り込んでやがるのかは、未だに判然とせんのだがな。

 いかんせん、通常空間サイドは銀河連合軍の管轄外だからな……銀河連合軍も解ってても手が出せん。


 奴ら、銀河連合軍とマジでやりあっても勝負にならねぇからって、こっちの通常宇宙に直接侵攻を開始したらしくてな……現状、各国の宇宙軍がそれぞれ独自に連中とドンパチやりあってるところなのさ。


 もっともそうなってくると、こちとら連携も取れんし、情報交換すらままならん……。

 なんせどこの国も奴らに関しちゃ、機密扱いで、国民にもダンマリってとこも珍しくねぇ。

 

 俺等も潜入工作員の情報やら銀河連合軍の協力者からの情報を取りまとめて、ようやっと敵の根っこが全部一緒らしいって事が解ったくらいでな。

 

 まぁ、こんな有様じゃ、国家連合組んでの共同戦線なんて程遠いわな。

 おまけに敵は高性能ステルス艦なんぞでゲリラ戦仕掛けてくるもんで、ぶっちゃけ旗色悪かったんだ……。

 

 だが、エンジェルちゃんがクオンであのステルス艦とやりあって、返り討ちにした上に、あの後敵艦の鹵獲にも成功してな。


 ネタがバレりゃ、こちとら技術立国でもあるからな……なんとでもなる。


 少なくともエスクロン傘下星系では、奴らの優位性は崩れつつあるんだ。

 エンジェルの知られざる大金星ってところさ。

 

 775:名前:名もなき紳士

 

 俺は……その話信じるね! 俺は天使ちゃんがそのマンジシップを撃破する瞬間を見ちまったし、実際に俺達もその手先と戦ったんだ。

 

 おまけに、銀河共有ネット見てみろ! これでもかってくらい情報が溢れてやがるじゃねぇか!

 これでまだ信じらねぇなんて、言えるわけがねぇよ。

 

 だが、解らんのはなんで、そんなシュバルツだかなんだかって奴らに、天使ちゃんが狙われなきゃいけないんだ?


 それにそんな危なっかしい状況なのに、堂々と天使ちゃんの情報公開しまくって、まるで見せびらかすみたいにして……なんでだ? 理由があるなら、説明してくれ!

 

 これじゃ、まるで天使ちゃんを囮にしてるみてぇじゃねぇか!

 

 776:名前:ホワイトクロック

 

 エンジェルちゃんは、もともと敵に目をつけられてはいたんだよ。

 うちの要人が何人か奴らの人質になってるんだが……その一人がエンジェルの親父さんでな。

 

 もっとも、敵にとっては極めて扱いづらい難儀な人質だから、敵としては親父さんへの脅迫材料としてエンジェルの身柄を欲してたんだ。

 

 だが、それだけに留まらず、あの件をきっかけに奴らに脅威としてみなされたらしい。

 理由はよく解らんが、奴らのボスがエンジェルちゃんの最優先抹殺指令を出したとその親父さんが危険を犯して連絡してくれたんだ。


 777:名前:名もなき紳士


 なんだそりゃ! ふざけんな……って感じだな。

 家族を人質に取ってとか、胸くそ悪いにも程があるだろ……。

 人質に取ろうってだけでも許せねぇのに、抹殺だと?


 断じて否! 言語道断っ! 絶対にゆるせねぇっ!

 

 なぁ、俺らにとっては不本意ではあるんだが……そんな居場所も特定されて、最優先とか言って、執拗に狙われてるなら、そっちの本国にでも匿った方がいいんじゃないのか?


 こんなクオンなんて小国……守りが堅いなんてとても言えねぇよ。

 なんせ、この国の軍事力なんてチンケなもんだ。

 

 まともな宇宙艦隊すら、持ってないからな……そんな異世界の星間国家の軍勢なんか攻めて来られたら、ひとたまりもないぞ。

 

 悔しいが、それが俺達の現実だよ……。

 レーザーガン片手に気張った所で、宇宙戦艦には勝てねえからな。


 778:名前:ホワイトクロック


 ……奴らは国力も戦力も本来、大したもんじゃねぇんだよ。

 

 俺らが調べた限りだと、恐らく通常宇宙に出て来てる戦力は、駆逐艦クラスが100隻にも満たない程度だと推測されている……。

 

 対する俺らは、本国の軌道防衛艦隊の艦艇総数なんて軽く一万隻はいるからな。

 真正面から、艦隊決戦仕掛けてくるなら鎧袖一触でケリつけてやるさ。

 

 もっとも、奴らは正面から戦おうとせず、あちこちでこそこそと逃げ隠れしまくって、勝てる戦いしか挑んで来ねぇんだ。

 それ故に、そんな程度の戦力でも十分脅威になっているんだ……腹ただしいことにな。


 だからこそ、敵の目がエンジェルちゃんに向いてるって状況は、むしろこっちとしても好都合ではあるんだ。

 

 敵の狙いがはっきりしてるってのは、守る側からしたら断然やりやすい……神出鬼没でバラけて攻めて来てた奴らが、ターゲットを絞ってくれてるんだからな。


 こちとら、やる事はシンプル……エンジェルに手を出す奴らを片っ端から潰す……実際、楽な仕事だったぜ。

 

 むしろ、敵は自分達のアドバンテージを自分から放棄した……そんな状況でもあるんだ。

 

 それに、何より本人の希望もあってな……彼女はこのクオンが気に入ったみたいでな……。

 高校卒業までここで暮らしたってのが本人の希望であるし、御家族からも要望されてるんだ。

 

 そんな訳で、迷惑だとは思うが、当面ここでの生活を楽しませてやってくれんかね?

 

 先任曹長も言ってたが、彼女はこっちに居た頃は機械人形みたいな娘だったんだが……このクオンでちょっと普通の女の子として生活しただけで、まるで別人みたいに普通の女の子みたいになったんだ。


 だからこそ、そのささやかな願いを叶えてやりたい……まぁ、俺らの身勝手な理屈じゃあるんだがな。

 

 779:名前:名もなき紳士


 ……クオンって、なんもねぇシケたとこなんだがな。

 クラスメートの子達の優しさや、クオンの大地の風の心地よさが彼女を変えてくれたってのなら、それはむしろ誇りに思うべきだよな。


 ったく、いい話すぎて泣けてくらぁっ!

 

 こりゃ、俺達も気張らねぇとな……。


 780:名前:ホワイトクロック


 なにげに、お前らだって、彼女がクオンに留まる理由になってると思うぞ。

 惑星クオンじゃ、ずいぶんと歓迎してくれたみたいじゃねぇか……地上で会った人達は皆、優しかったって言ってたらしいぞ。


 781:名前:名もなき紳士


 くっ! 天使ちゃん……俺らのこともちゃんと見ててくれたんだな!

 その言葉を聞けただけでも、十分だ。

 

 まったく……やりがいあってたまらんぜ! 

 いいだろう……こいつは命を賭けるに値する……!

 

 俺は最後まで戦い抜くぜっ!

 

 782:名前:ホワイトクロック


 うんうん、君、カッコいいねぇ……痺れるぜ?

 

 言っとくけど、俺らこう見えても、エスクロン宇宙軍でも選りすぐりの精鋭なんだぜ? 

 奴らとのドンパチみてぇな荒事は俺達が引き受けるから、あんま無理すんなよ? 


 なんせ、現時点での成果は、俺達の予想以上だったからな。

 

 敵の工作員やら、暗殺者やらはもう入れ食い状態。

 治安維持局の厳重過ぎるガードと、俺らんとこの特務の腕利き共が、片っ端からガンガンとっ捕まえて、情報も抜きまくり……連中がクオンに忍ばせた諜報戦力はもはや壊滅状態で息してねぇからな。

 

 挙げ句に、色々小細工カマして、エンジェルの動きを封じて、最新鋭艦で止めを刺すつもりだったのが、ソレすらエンジェルは看破しやがったからな。

  

 結果的に、衆人環視の中で秘蔵だったはずのワープドライブ艦なんて、お披露目しちまったし、強化人間なんてのまで送り込んできやがったからな。

 

 これまで謎だらけだった敵の化けの皮が次々剥がれていってるって寸法さ……。

 

 783:名前:名もなき紳士

 

 何とも不憫な奴らだな……要するに、天使ちゃんにちょっかい出す度に、ボロ出していってやがるのか。

 たった一人の女の子が異世界の侵略者の侵攻計画を破綻させつつある……そういう事なのか?

 

 782:名前:ホワイトクロック

 

 そう言う事だ……。

 それとこのクオン星系は、今や奴らとの戦いの最前線だからな。

 その中心になってるのが誰かなんて、今更言うまでもねぇ。


 近いうちに実施される俺達の降下揚陸作戦……惑星上の敵性戦力掃討もその一環だ。

 

 こっちも前々から買い取ってた資源衛星を拠点にガンガン宇宙戦闘艦を現地生産しながら、大規模宇宙艦隊を編成中でね……奴らの拠点は恐らく、外宇宙領域にあると見て間違いないからな。

 そう遠くないうちに、奴らをクオンから叩き出してやるよ。


 もっとも、お前等クオン人も油断すんなよ? ボンヤリしてるとヤバいことになるからな。

 

 奴らの搦手は巧みだ。

 気が付いたら、外堀埋められて食われちまう……そんな事例、既にあちこちで起こってやがる。

 

 実際、ここの前政権も相当やばい奴らだっただろ? 実のところ、お前ら結構危ないところだったんだぜ。

 

 783:名前:名もなき紳士


 確かになぁ……。

 前政権の政策って、不景気街道まっしぐら、管理社会バンザイ……みてぇな感じの馬鹿げた政策ばかりだったからな。

 

 おまけに、俺らも選挙行っても世の中なんて変わんねぇ……なんつって斜に構えて……。

 挙げ句、クソみてぇな議員ばっかり増えていっちまったからな。

 

 気が付きゃ、クオンもすっかりクソ詰まんねぇところになっちまって……惑星降下なんて始めたのも、退屈で窮屈なコロニーを飛び出したくなったから……なんだよな。


 俺達惑星キャンパーって、そんな奴らばっかりなんだぜ。

 

 784:名前:名もなき紳士

 

 そうだな……俺も似たようなもんさ。

 だが、そこで出会った仲間達、命懸けの冒険っ! 

 

 どこまでも駆け抜けていけるあの大地っ! 

 

 人間ってさ……自由でないといけないんだよ。

 管理された家畜みたいな生活とか、冗談じゃねぇっ!

 

 785:名前:名もなき紳士

 

 そうだな……。 

 考えてみりゃ、俺達も天使ちゃんを無実の罪に陥れようとした政府の奴ら相手にやりあったしな。


 一歩間違えたら、俺等も犯罪者だったかもしれないけど、あん時は全員そんなもん、一切お構いなしって感じだったからな!

 

 786:名前:名もなき紳士


 まぁ、あれで流れ変わったからな。

 勢いに乗った治安維持局と司法局がタッグ組んでの、シンカイドウなんて、政府大物議員の逮捕劇!

 

 あれで、政府の提出しようとしてた自治警備局の関連法案は丸潰れ。

 内容まで、リークされて、どう見ても市民の弾圧組織って事でもうフルボッコ!

 

 挙げ句に、永友提督の来訪での政府一丸引きこもりとか馬鹿やらかした上に、絶妙なタイミングで貴族会が決起して、ジ・エンド!

 

 考えてみりゃ、一連の流れのきっかけ作ったのって、もしかして俺らなのか?

 なんだ……俺らも結構やるじゃん。


 787:名前:ホワイトクロック

 

 そう言うことだぜ? お前らの勇気とガッツが、エンジェルの無実を証明して、軌道警備艦隊やら、治安維持局の奴らを動かして、流れを変えたんだ。


 もちろん、俺達も含めたいろんな奴らの思惑や偶然、タイミングってもんもあっただろうがな。

 

 この星にもお前らみたいな気概ある奴らがいて、男気ってもんを見せてくれたって事実はデカいんだぜ?

 俺達もその男気を買ったからこそ、ここに居る……そう言うわけなのさ。

 

 これが黙って、大人しく現状を受け入れるような萎びた奴らばかりだったら、俺達でもどうしょうもなかったんだぜ?


 実際、そんな調子で奴らの植民惑星みたいになっちまってる星もいくつもあるからな。

 

 いいか? エンジェルを守る事は、クオンを侵略者から守る事にも繋がってるんだ。

 それを忘れるなよ?


 まぁ、自信を持ちな……俺達は、正義の味方なんだからな。

 

 正義は……必ず勝つっ! なんつってな!

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