第三話「宇宙活動部っ!」④
と言うか、こんなのを学校の部活動で所有してるって……むしろ、そっちが気になる。
航宙艦って、コンディションを維持するだけで、維持費とか結構掛かるし、運航コストとかも馬鹿にならないと思うんだけど……補助金とか出てたりするのかな?
「な、なんや……ユリコちゃん、いきなり普通に喋っとるやないけ。……そんな風にも話せるんやな」
……独り言の感じで話してたからだと思うんだけど。
言われてみれば、スラスラ喋ってた。
「……あ、あの……ユ、ユリ……夢中になると……その」
「何となく解ってきましたわ。自分の好きなことや得意分野になると、饒舌になるとかそう言うのですわね。わたくしのお兄様もそんな感じなので解りますわ」
「せやな。エリーのお兄ちゃんドン太君もそんな感じやね。アイツ、普段は目も合わせないのに、アニメやゲームの話になると、めっちゃ饒舌になるもんな」
「……人の肉親に妙な呼び名を付けないでくださる? ちゃんとドルニエお兄様とお呼びください」
エリーさん、お兄さんがいるんだ……。
ユリもお兄ちゃんとか、欲しかったなぁ……。
「ええやん、ドン太君で……。つーか、アイツ人の胸ガン見して、息荒げたりするんで、ちょっとなぁ……」
……あーうん。
殿方には、そう言う人もいるんだよねっ!
とは言っても、ユリは人付き合いが苦手な上に、男の子なんて縁がない。
エスクロンじゃ、そう言う機会全然なかったし、こっちは女子高。
周りには、女の子しかいない……。
そもそも、性的な目で見られるより以前に、好奇の目で見られる方が先だから、ユリとしては、そのドルニエお兄様って人の反応が異常なのかどうかも解らない。
調整技官の人とか、お医者様はユリのことは女の子と言うより、研究対象として見るので、そう言う目で見られた事って、全然ない……。
……でも確かに、このみかんのお姉さん。
胸も立派……男性なら、思わず見ちゃうもんなのかもしれない。
良く解んないけど……ユリは……みかん先輩に比べたら、全然控えめ。
むしろ、こっちのちっちゃい人の方が近いかも……。
チラッチラッと二人の胸を見比べてしまう。
……うん、それでもユリはちゃんと胸の形が解る……ちっちゃい人よりは、むしろみかん先輩に近いと思う。
「……アヤメが悪いと思いますの。そんな胸元をガバっと開けて、アピールしてる方が悪いのです。わたくし達のように慎ましい方が淑女としては望ましい……ですわよね。クスノキさん」
……わたくし達って言った!
えっと、多分ユリのほうがあると思うから、一緒にされるのは……。
思わず、自分のを手のひらで、モニョっと掴んで見る。
うん、手に収まる程度にはあるっ! ちっちゃい人のは……限りなく真っ平ら。
これでは、何処を掴んで良いかも解らない……。
「……ユリちゃんは、一緒にするなって思っとるみたいやで。まぁ、エリーはAAのど貧乳やからな。どや、Eカップのビッグバスト……羨ましかろう?」
言いながら、アヤメ先輩が両腕を組んで、そのご立派な双丘を腕に乗っけてみせる……。
うわっ! それって腕に乗るものなんだ……それにすっごいユッサユサしてるよっ!
揺れてるよ! 揺れてるよ! ユッサユッサだよっ!
うん、アヤメ先輩……ちっちゃい人が名前呼んでたのを聞き逃さなかったよ。
うん、思い出した。
名字は知らない……なんとかアヤメさん。
アヤメ、アヤメ……確か水辺に咲く青っぽいお花だったと思った。
日本語ってことは、漢字の名前もあったりするのかなー。
私の場合は「百合子」……百合の花言葉は「純粋」「無垢」
どっちも当てはまるかどうかは良く解らないけど、悪い意味じゃないのは確かなのです。
でも、アヤメさん……名前忘れちゃってた上に、聞きそびれて密かにどう呼ぶべきか困ってたから、助かった。
もうひとりのちっこい人は、エリーさん?
愛称っぽいけど、ひとまずそう呼んでおこう……。
けど、腕に乗るほどの胸ってのは……。
真似して腕組みして持ち上げてみようとしたのだけど、スカッと空振る。
「…………」
アヤメさんが無言でユリのことを見ている。
ちょっとまって、今のナシ。
「…………」
も、もう一回……やっぱり、スカる。
一瞬乗っかったと思ったら、スルッと抜ける。
ブ、ブラジャー付けてると出来ないのかな? は、恥ずかしいけど、ノーブラになってリトライ……。
背中に手を回して、ブラのホックを外そうとして、二人の視線に気づいて思いとどまる。
いや、これは……そもそも、そう言う問題じゃない……圧倒的、ボリューム不足っ!
ちょっと気まずい……アヤメさん、なんでそこですっと目線を反らすの?
……エリーさんが隣に来ると、ポムっと頭に手を乗せられて、コクコクと頷かれる。
お互い無言だけど、なんか気持ちが通じ合った……なかーまっ!
一緒にするなとか思ってごめんなさいっ! ……ユリ、そっち側でした。
「ユリコさん、今度、一緒にランジェリーショップ行きません? 小さい方が可愛いのが多いんですのよ」
実に穏やかな笑顔を浮かべたエリーさんに、力強く頷く!
女の子同士でランジェリーショップとか、実は憧れだった……。
自慢じゃないけど、下着とかお母さんチョイスしか持ってない。
エリコお姉さまは、機能重視で野暮ったいのばっかりだし、キリコ姉は黒くてキワどいのばっかりだから、どっちも参考にならない。
ついでに言うと、二人共、胸もお尻もおっきい……間違いなく、あっち側の住民。
そこには、手を伸ばしても届かない、広くてふかーい境界線があった……。
……でも、サイズはいいんだよ……ユリの場合、これからだと思うし。
けれど、運動の授業の前のお着替えの時に知った事実。
クラスの皆は、なんだか、とってもオシャレだった!
女子高だから、皆、扉とカーテン閉めた程度で、教室で一斉に着替えだしたんだけど、皆フリフリだったり、カラフルだったり、すっごい可愛くて、オシャレ……中には、スケスケの子もいたり……。
とにかく、カルチャーショックッ!
ユリは……なんだか、とっても安っぽい白一色で、フリフリも飾りっ気もなんも無いヤツ。
……あれだ、アニメや漫画で、背景で見切れてるモブキャラ女子とかが履いてそうなヤツ。
下着なんて、他人に見られることなんてないから、なんでもいい……そう思ってたんだけど、ここは女子高。
あんな風に皆で、お着替えとかあるし、教室の隅っこでお互いのを見せっこなんかもやってたりする……。
制服は皆、一緒である以上、差異が許される下着にこそ、こだわるべし!
下着こそ、女子高生のオシャレの真骨頂。
それに気付かなかったユリは、まさにモブキャラっ!
名誉あるエスクロンのエリート候補、スペシャルオーダーズ……それが……モブだなんて……。
……なんと言うか、自分の女子としてのポンコツさを思い知らされて、ちょっと絶望したのです。
ああ言う、可愛いのってどこで買うんだろうなぁ……って思ってたら、下着専門店ってのがあってそこで買ってるような事を話してた。
じょ、情報収集は完璧なのですっ!
耳ダンボ状態で、他の子達の話、盗み聞きとかしてないしっ!
けど……ユリに出来たのは、そこまでだったのです。
実際、行ってみたら、一人でってのは、すっごく敷居が高かった。
ネット通販も……実物のサイズとか実際着たらどうなるか、物が届くまで解らないって難点は昔から変わってない……キリコ姉と同居してるから、頼んだのがバレたら、また変なのを着せられる……そう思ったら、この選択肢も微妙。
もう、モブキャラでいいやって、半ば諦めてたんだけど……お仲間のエリーさんと一緒ならっ!
モブ下着から卒業っ! したいっ! まさに女の見栄って奴なのです。
「エリーさんっ! 行きましょうっ! 今からでもっ!」
思わずその手を握って、ブンブンと振り回す。
「お、思った以上の食い付きね……。いいわ! このわたくしが最高に素敵なのを選んで差し上げますわ!」
はいっ! ユリは……エリーさんの事、大好きになれそうですっ!
思わず、その手を握りしめたまま、キュッと抱き寄せる……。
「エリーさん、お手々……ちっちゃっ! それにすべすべっ!」
胸の間にガッツリ抱え込む……もう離さないんだからっ! お友達ーっ!
「……い、意外と……人懐っこい子なんですのね。うふふ……イイコ、イイコですわぁ」
なんだか、頭ナデナデされてるけど……悪くない。
えへへ……ちょっと嬉しい。
「せやな、仲良くなれたようで、ええ感じやな。どうや? ユリちゃん、下着買いに行くのはいつでも付き合ったるから、良かったら、今からこの「エトランゼ号」見に行かへんか? ユリちゃん航宙艦免許持ちって聞いてるで? それもあって、うちの部に誘ってみたんやけど……」
「そ、そうね。その事をすっかり忘れかけてましたわ……。実を言うと、この航宙艦……わたくし達には、宝の持ち腐れ状態なんですよ……」
エリーさんの手を抱きかかえたままだった事に気づいて、慌てて離す。
それにめちゃくちゃ近かった……もうちょっとで顔と顔がくっつくくらい。
エリーさん、何故かちょっと顔が赤い……。
「宝……持ち腐れ?」
その言葉に思わず、小首をかしげてしまう。