第三十一話「出会いはいつも衝撃的に」①
……五分も待たずに、返信が帰って来た!
『イイハナシダナー。全然おーるおっけー! 費用も補助とかケチなこと言わないで、こちらでまるっと全額負担するから、合宿参加希望者全員、特別待遇でエスクロンにご招待するって言っちゃっていいよ! うちのロンギヌスなら、今のエーテル空間情勢でも安心安全の旅を約束できるし、人数なんて100人単位だって国賓待遇でまとめて面倒みちゃうから! エスクロンはクオンの若い子達を全力で応援するよ!』
なんとも、とっても軽い調子の返事。
……良く解んないけど。
おーるおっけーらしい。
けど、そのメールはCEO直筆シグネチャーなんてので締めくくられていたのだから、もうビックリ!
「えっとですね……。エスクロンのCEOさんから直接回答もらっちゃいました。なんでも、渡航費用と滞在費、免許所得費用諸々エスクロン政府全額負担で、参加者には国賓待遇を約束するとかなんとか……おまけにエーテル空間の渡航便もロンギヌスがクオンにまでお迎えに来るって……」
「エスクロンのCEOって……それっ! 国家最高責任者なんじゃないですか! なんでそんな人が……。それにロンギヌスってエスクロンが鳴り物入りでエーテル空間に就航させた超巨大艦ですよね? ……そんなのが、わたくし達みたいな一介の学生の為に出迎えに来るっていうのですか?」
「よ、よく解んないんです……確かに、CEOさんって、ユリの管理責任者メーリングリストに名前が入ってはいたんですけど……。とにかく、CEOの直筆署名入りって事は、これ……国としての国際確約みたいなもんなのですよっ!」
CEOの直筆での署名入りってのは、こんな軽いノリのメール返信だったとしても、そう言う効力があるのですよ。
この時点でエスクロン側は、クオンの学生達の国賓待遇での受け入れを国際的に表明したも同然なのです。
これを反故にするのは、国としてあり得ないので、エスクロンは絶対に約束を守るのです……。
「こ、こうしちゃおれんわ! エリー! 展示室へ戻るで! こりゃビックニュースやろ! ちまちまメールなんぞでやっとれん! いそげーっ!」
アヤメさんがバタバタと駆け出していく。
エリー部長も苦笑するとあとを追いかけていくので、ユリも一緒に行くのですよ!
部室の外に出ると、もう二人は随分先を走ってる……そんなに慌てなくてもいいと思うんだけど。
ユリも急いで、二人を追いかけようと駆け出そうとする。
と思ったら、廊下の曲がり角から不意に人影が……。
慌てて急ブレーキ……ぶつかるー! って思ったけど、素早い身のこなしですっと避けられる……今度は転ぶって思ってたら、横合いから手が伸びてきて、ふわっと優しく受け止めてもらえる。
結構な勢いで突っ込んでっちゃってたんだけど、ギュッと抱きしめる感じであくまでソフト、くるっと一回転させることで、衝撃も完璧に殺して受け止めてもらえたのですよ。
「ご、ごめんなさーい! 大丈夫ですか!」
抱きしめられたまま、顔を上げると、トレンチコートを着たきれいな顔立ちをした男の人。
思いっきり、胸にダイブする形になってて、向こうもとっさに抱きとめてくれたらしかった。
傍から見たら抱き合って、見つめ合ってるような感じで……。
これはいわゆる角ドン! いわゆる出会いのテンプレなのですよ!
けど、今のフヨっとした馴染みあるとっても柔らかい感触……? ん? ん?
「ああ、驚かしてすまないね。お嬢さん……廊下は走らないって、そこにも書いてるあるよね。気をつけなよ」
そう言って優しく笑いかけてくれる……。
まさにイケメン……思わずドキドキしちゃうくらい。
でも……今の感触って……ん? んー?
「あ、はい……ごめんなさい。えっと、部外者の方ですよね? ここは部活棟で、部外者は立ち入り禁止なんですけど……」
ユリは、この学校の生徒も先生、出入りの業者に至るまでパーソナルデータを全部記憶してるのですよ。
この人は……該当なし、外部の人なのは確か。
角から出てくるときも、キョロキョロしてたから迷子さんなのかも。
ここって、慣れないと迷うんだよね……。
「ああ、そうなんだ……どうりで、人気がないはずだ。そうなるとこれは私の方が悪かったようだね。改めて謝罪しよう……すまなかったね。でもちょうど良かったよ……さすがにここは始めてでね。実は仲間ともはぐれてしまった上に、すっかり道に迷ってしまったんだ……。ここ一体何がどうなってるんだい? なんで私はこんな地下にいるんだろう……一階に居たつもりだったんだけど。急ぎでなければ、道案内を頼んでもいいかな? 一人では外に出れる気がしないんだ……我ながら困った話だよ」
確かに、この部活棟って、プレハブブロックを組み合わせたなんて、手抜き建築で、おまけに増築に増築を適当に重ねたらしく、立体的にごちゃごちゃ入り組んでて、もう訳が解らない構造になってる。
案内板やフロア表示も古いのと新しいのが混在してるから、当てにしてると普通に迷う上に、ボタン一つでブロックが上に行ったり下に行ったりするので、日によって構造が変わるとか、まるでわざと迷わせようとしてるとしか思えないのですよ……。
新入生は絶対に迷子になって最悪遭難する……なんて言われてて、ユリも最初は部室にまっすぐたどり着けなくって、アヤメさんに迎えに来てもらったりしたのですよ……。
でも、自分の間違いを素直に認めて、子供のユリに頭を下げて謝罪する。
……うん、普通にいい人……常識ある大人って感じなのです。
こう言う人になりたいなぁ……って思うのですよ!
でも……謎なのは、この人……カッコは男の人なんだけど……女の人だよね?
一応、生体スキャンとかしてみたんだけど、判定結果は女性。
いわゆる男装の麗人?
あちこち身体を機械化してる様子から、どうもユリと同じ強化人間っぽい。
もちろん、怪我や病気で、手足を機械化するとか心肺機能を強化するなんてのは、エスクロン以外でも普通に皆やってて、そう言うのはサイボーグ……なんて言われても居る。
けど、始めから機械化を想定して、遺伝子改良したデザイナーベイビーをベースに身体の50%を超えるほどの機械化や脳強化を施すような強化人間となると、さすがにエスクロン人くらいしかやってない……。
この人の場合……換装率はこの様子だと7割位……後付でここまでは普通やらない。
脳神経強化措置も入ってるから、反応速度もユリ達と同レベルくらいだと思うし……カテゴリー的には強化人間と思って良いのですよ。
でも、ユリも同じ第三世代の子達はともかく、第一や第二世代の人達のプロフィールとかって良く知らない。
……名前とかは一応公開されてるから解るけど、基本パーソナルデータやスペックデータはユリのセキュリティレベルだとアクセス許可がおりてないから、良く解らないのですよ。
特務の人なんかになると、内外含めて居ない人扱いされるから、ますます解んないと思う。
この人の外観からエスクロンの市民データベースに照会をかけても、該当なしの表示……となると、特務の人っぽい。
むりくり強制ハック仕掛けて、調べるって手もあるけど、さすがに特務情報をユリが知っちゃうのはよくない!
味方にも知られてない秘匿性が、特務のキモなんだから、ユリは知るべきじゃないのですよ。
けど、特務の護衛が付いてるって話は来てたから、この人が何者なのか……もう結論出たも同然なのですよ。
なるほど、ユリの先輩さんなのですよ!
要するにお仲間さんなのです!
「はい……なのです! あの……道案内は構わないんですけど、その前にちょっと聞いていいですか?」
「ああ、なにかな?」
「……なんで、女の人なのに男の人のカッコしてるんです?」
そう告げると向こうは引きつったように固まる。
そのまま、ちょっと怖い顔で壁ドン体勢!
あたりを見渡して、ユリ達しかいないことを確認するとズイって顔を近づけてくる
「……何故、それを? 隠し立てするならタダでは済まさないぞ?」
あわわわっ! お、怒らせちゃった……確かに、いきなり生体スキャンとか非常識だったかもーっ!
「ご、ごめんなさーいっ! さっきぶつかった時、お胸さんがフヨっと……それで、気になって思わず生体スキャンを勝手にやっちゃいました……マ、マナー違反ですよね? 大変、失礼しましたぁっ!」
そう言うと、男装の麗人さんは自分の胸をしげしげと見て、ため息をつく。
「そ、そうか……さすがに、いくら貧相だからとは言え、今のはさすがに誤魔化しきれないか。もしかしたら、皆にもバレてるのか? 言われてみれば思い当たる節も色々と……。いや、それよりも生体スキャンだって? このコロニーでは女子高生が何の装備もなくそんな真似を出来るのかい? スキャナーなんて持ってるように見えないんだけど……」
「ユリは……特別なのですよ。ご存知かもしれませんけど、ユリも強化改造人間なのですよ。でも、今は民生用仕様にダウングレードしてるから、普通の子よりちょっと重たくてハイパワーだったり、色々便利な機能がついてるってだけなので……本来のスペックからしたら3ー40%くらいかな? あ、あの……お姉さんも同じ強化人間なんですよね? 先輩なのです!」
「……エスクロン……強化人間……まさか君が?」
なんだか、驚いたような顔をするお姉さん。
うーん? 護衛対象のパーソナルデータ見てなかったのかな?
けど、護衛任務で対象に必要以上に感情移入するといざという時の決断が鈍ったりするから、敢えてパーソナルデータは見ないで、接触も行わない……そんな話も聞くのですよ。
何も気づかなかったふりをして、さらっと流しちゃったほうが良かったのかなぁ。
フォルゼ艦長……こんな所でユリちゃんとばったり!
前回登場時は、そんな事これっぽっちも匂わせてませんでしたが。
この人、こう言う秘密がありました。
GLタグに偽りなし!




