第三十話「ぶんかさい」⑤
「昔は、クオンでも天蓋に花火の映像投影して花火大会とかやってたり、公園で小さなお祭りなんかもやってたらしいんですけど。夜間、騒いだりすると迷惑だって言う人もいるし、エネルギーや資源、お金の無駄使いの助長になるって事で廃れてしまったのですわ。けど、そう考えるとクオンってなんだかつまらないんですわね……。ユリコさんの話を聞いてると、エスクロンの人達が羨ましくなりますわ」
あーうん。
確かに、エスクロンでもそう言う人っていたなぁ……。
環境破壊だの、無意味なエネルギー、資源の浪費って言って、イベント反対って叫ぶような人達。
でも、そう言う場合はきっちり住民投票とかやって、白黒つけて、静かな環境が好きって人はお祭りの会場の近くから引っ越すとか、そんな感じに大抵なる。
その場合の引っ越し代とか、新居の費用なんかも主催者からのお詫び金や公的支援とか出たりするから、大抵丸く収まる。
節約とかエコロジーとか、そんな考えは……そもそも、エスクロンじゃあんまりないなぁ。
水資源はもともと有り余ってるし、水素燃料なんかもエスクロンの主星系はガスジャイアント……それも木星クラスの巨大なのが三つもあるから、全然困ってない。
鉱物資源なんかも、高重力惑星なだけに、重たい金属類が海底にごっそりあるし、レアメタルの類も銀河連合の数ある地球型惑星の中でも指折りの埋蔵量を誇る上に高い発掘技術を持つので、むしろ資源輸出大国でもあるのですよ。
そもそも、資源星系もあちこち山程所有してるから、エスクロン単独でも経済が成り立つくらいには、資源には恵まれてる。
足りないのは……まともな地面や淡水とかかなぁ。
惑星エスクロンって実は柔らかい土ってのは殆どないから、地上での農業とか全然向いてない。
あってもいいとこ、砂浜とかばっかりで、地面は基本的にゴツゴツした岩だらけ。
一応、環境適応した現地固有植物もあるんけど、岩の中にゴリゴリと根を張れるような強靭すぎる植物ばかりで食用には全く向いてない。
そもそも、エスクロンは、全体的に小さな島がポツポツとあるばかりで、大陸なんてひとつもないし、赤道付近の小島群は巨大植物だらけで、まさに秘境。
結局、食べ物に関しては、プラント製の合成食材が大半で、天然食材はむしろ輸入大国だったりするのですよ……。
水も、基本海水由来の精製水ばかり、ぶっちゃけあまり美味しくないので、外国産ミネラルウォーターが割と人気商品だったりもするのですよ……。
「エスクロンとかでも、やっぱりイベントとかでバカ騒ぎって反対する人はいたりしますよ。もっとも、多数決取ると大抵、そう言う人達は少数派になるので、お話し合いの上で静かな海底都市とか、衛星軌道都市コロニーに引っ越してもらうとかそんな感じになるのですよ」
「……それって、民主的と言えば民主的だけど……。要は少数派を追い出すようなものじゃないの……それって、どうなのかしら?」
「大抵、そう言う人達も詫び金とか補助金いっぱいもらえるから、満更でもないって感じで納得してくれるのですよ。少数意見で多くの人達の楽しみをとっちゃうとかそっちの方がおかしいのですよ」
「せやなぁ……静かに節約三昧で、なるべく慎ましくってやっとったら、どんどん狭っくるしゅうなって、つまんなくなる……そんなもんかもしれんよね。テレビなんかもあたしらがちっちゃかった頃は割と普通やったんやけど、ここ数年、どんどんお硬くてつまらん番組ばかりになってしもうたからなぁ……。はっきり言って、全然おもろないわ」
「そうですわね……政府関係のテレビはわたくしも見ますけど、面白くはないですわね。見てると大抵、眠くなるので寝る前とかに見ますけどね。視聴率もだだ下がりだから、抜本的改革が必要なのではって議論はしてるんですけどね」
「せやなぁ……ぶっちゃけ、あんなの誰も見取らんのやないかなぁ。なにせ最近、銀河共有ネット経由で、他の国の番組なんかも見れるようになったんやけど、そっちの方が全然面白いからなぁ……。クラスの子達も皆、銀河共有ネットのテレビ配信ばっかり見とるって言うとったよ。それに、ゲーセンやムービーシアターなんかもバタバタ潰れてしもうたしなぁ……。あたしら、なんでこんなんになってしもうたんやろなぁ」
……圧倒的娯楽不足。
なんだか良く解らないけど、クオンの人って、勤勉なんだけど、ものすごくつまらない生活を送ってるようなって思ってたんだけど、やっぱりそんなだったらしい。
アヤメさんも言うように、最近、クオンの若い子達の間では、解禁された銀河共有ネットのテレビ配信がとっても流行ってるようで、必然的に他の星系の情報ってのも入ってくるようになって……。
皆、他の星系はもっとゆるいし、なんだかとっても楽しそうって話がよく出てるらしいのです。
無駄を省いてエコロジー。
贅沢はやめて、勤勉につつましく。
なるべく徒歩や自転車で行ける範囲を生活空間にして、公共交通機関の利用も最小限に。
クオン社会の共通スローガンらしいんだけど。
このコロニーに感じてた閉塞感や閉鎖性は……結局、そう言う話でもあったのですよ。
「そうですね……。わたくしも経済学を学ぶ中でいろんなケースを調べてみたのですが。エーテル空間での戦乱がきっかけで未曾有の不景気が起こったそうなんですけど。その中で、企業国家のエスクロンだけがやたら好景気でそれをきっかけに一気に躍進した……なんて話があったそうなんですよね」
「それ知ってるのですよ。他の星系は物資の流通が途絶えたり不安定になる事で、節約とかエコロジーに熱心になってたんだけど……。エスクロンは真逆の方向、臨時ボーナスを皆に配ったり、お祭りとかバンバンやって、銀河連合艦隊にドカドカ投資や技術支援したり、未開惑星や他所の国の資源惑星なんかを買い取って、開発しまくったりとかしてお金じゃんじゃか使ってたのですよ」
銀河連合の各国は、基本的にどこも余ってるものを売って、足りないものを他所から買い付ける。
いわゆる輸出入でその経済が成り立ってる。
だからこそ、輸出入が途絶えると、どこの国もある程度、自前……それも自国星系内で賄わないといけなくなって、必然的に省エネとかエコロジーとか、無駄をなくすとかそう言う話になってしまったのですよ。
確かに、無駄をなくすとか省エネとかは悪いことじゃないんだけど。
無駄を無駄と決めつけて、必要最低限を突き詰めていくと、どんどんつまらない世の中になっていって、景気も悪くなる。
しかも、これってじっくりとジワジワと来るから、住民側は割と自然に慣れていってしまって、誰も気付かない……そんなものなのですよ。
んで、気がつけば皆ケチケチして、余裕のない生活ばかりになって、お買い物も少しでも安いものをとかなるから、物を売る側も儲けが少なくなっていって、お給料も下がって、働いても働いても皆、貧乏とかそんな調子になってしまう。
そうなると、観光とか娯楽産業はどん底になって廃れていく。
皆外食控えて、夜は動かないとかなると、外食産業や二十四時間営業を売りにしてる産業も廃れていく。
かくして、ものの見事に不景気スパイラルに突入……ってなるのですよ。
黒船の襲来で、銀河連合全体の雰囲気が暗くなって不景気サバイバルに突入していく中、エスクロンは、元々資源の自給率も高かった上に、銀河連合有数の科学力と独自軍事力を持ち合わせていたことから、自力で黒船をふっとばしたりしながら、自国の傘下星系を中心に独自ブロック経済を確立することで、全体的に引きこもっていく傾向にあった銀河連合諸国と真逆の方向性で対応したのですよ。
あちこちで暗いニュースが流れる中で、これだけは譲らないって勢いで、月イチペースで派手にお祭りやったり、長期休暇や臨時ボーナス配ったり、政府レベルで皆、元気出そーぜと未曾有の景気対策を実施したのですよ。
そのおかげで、暗いニュースの流れる中でも、皆、大丈夫きっとなんとかなるよってお気楽精神を維持する事が出来て、そこまで不景気にならずに済んで、むしろその経済力を背景に勢力を拡大……まさに転んでもタダでは起きないを地で行ったのですよ。
景気ってのは、要するに皆の気分の問題。
世の中が暗いニュースばかりの時や、不景気なときこそ、派手に騒いでお金使って、盛り上がる。
そうなると、自然と景気も良くなるのですよ。
暗いニュースが流れる中で、こぞってバカ騒ぎとか……不謹慎だとか、真面目にやれとか言う人もいたけれど、下を向いてても良いことなんてひとつもないのですよ。
景気が良いところには、自然とお金が集まってくるので、エスクロン関連企業はどこも株価爆上げ。
銀河連合株式市場上位銘柄の大半がエスクロンの関連企業だってのは、あんまり知られてないけど、紛れもない事実なのですよ。
株価が上がると、当然ながら資金に余裕が出来るので、給料アップとか事業拡大、研究開発への増資とどんどん先にすすめる。
引きこもって、なるべくお金を使わないとか、内部留保の溜め込みとかやってると、どんどんマイナスになっていく。
今、クオンが直面してる問題ってのは、要するにそう言うことなのですよ。
「実際、こんな高校の文化祭程度でこんな人が集まってるもんなぁ……。うちらも入場料取ったり、お金取ってムービー上映とかやってたら、儲かってたかもしれんね! もったいないことしたかなぁ……いっそ、校庭にエトランゼを引っ張ってきて展示とかやっても良かったかもしれんね」
「それとっても盛り上がりそうですね……。来年はそれで行くのも良いかも知れませんわね」
「エルトラン……ああ見えて、結構目立ちたがりだから、多分ノリノリで引き受けてくれると思いますよ。エトランゼって地上走行モジュールもあるし、あの大きさだから道も通れると思いますよ。いっそ今夜のうちに宇宙港から引っ張ってきて、明日はエトランゼの展示会ってのも出来なくもないかも……ちょっと、エルトランに聞いてみるのです」
「ま、マヂかいな……言ってみるもんやなぁ……」
……エルトランとコンタクト。
概要送信の上で、返答待ち。
『ほほぅ、この私を見世物にするのですか? いえいえ、悪くないですよ? 私、ユリコ様の活躍で、注目の艦と言った調子なので、宇宙港管理AI群からは、すでに許可が降りました。明日という事ですと……ふむ、治安維持局と交通管制局からは、深夜時間帯の移動で艦長搭乗の上であれば、問題ないとの回答です。ユリコ様は大型車両の運転免許もお持ちなので、地上走行モジュールの使用も問題ありません。居住区管理センターからは、騒音規制の問題をクリアすれば問題ないとのことで、条件付き許可が降りましたね。あとは各部署の人間の監督官の最終許可待ちと言ったところなのですが、如何でしょう?』
……さすがと言うべきか。
話してる矢先から、各所とやり取りしてさっさと許可を取り付けてしまったらしい。
元々計画都市の上に航宙艦を他のサブ宇宙港へのブロック単位での移送すると言った状況は想定されているから、中枢ブロックのみの移動であれば、道路の荷重強度なども問題なし。
数箇所ある曲がり角は歩道の障壁シールドの一時解除と交通規制で対応するらしい……この辺は、治安維持局と交通管制局側にて対応。
大型車両の運転免許も……地上降下揚陸演習で、地面に降りたらそのままキャタピラ出して大型戦車代わりになる装甲揚陸艇の操縦やらされて、その時一緒に免許ももらえたから、問題ない。
と言うか、すでに移送プランが出来上がってて、ユリ宛に届いてる……。
普通、こんなあっさり許可なんて降りないと思うんだけど、そこら辺はクオンコロニーでもトップクラスのキャリアを誇るエルトランだけに、この程度の要望あっさり通ったらしい。
さすがなのですよーっ!




