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宇宙(そら)きゃんっ! 私、ぼっち女子高生だったんだけど、転校先で惑星降下アウトドア始めたら、女の子にモテモテになりました!  作者: MITT


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第二十八話「招かれざる訪問者」④

「……馬鹿なの? 死ぬの?」


 思わず独り言。

 あ、このセリフってこう言うときに使うんだ……。


 ものすごーくナチュラルに出たよ。


 イースターⅡから続報として、詳細情報が開示。

 装備の稼動ログと通信記録の羅列なんだけど、精査することで事故状況が見えて来た。


 どうもクシナさん……空間機動歩兵を題材にしたVRゲームでの操作経験をそれなりに積んでいて、初心者とは言えないレベル……むしろ、相当な腕前で地区トップクラスの猛者らしい。

 

 機体自体も趣味が高じて、自前で実機を調達、シュミレーターでの訓練も結構積んでたらしい……。

 

 ……なのだけど、どうも実機で宇宙に出たのは初めてっぽい。

 

 私有地の重力環境下で歩かせたりとか、そう言う事はやってたみたいだけど……。

 宇宙環境では、VRシュミレーション経験があるだけ。

 

 今回もイースターⅡの格納庫にこっそり持ち込んで、あわよくば宇宙に出るつもりで準備してたらしい。

 

 要するにぶっつけ本番……。 

 とは言え、いくらVRで慣れてても、現実で同じに出来るかといえば、そんな事はない。


 あくまでVRはVRなので、意識してないだけで、システム側での感覚補正とか入ってるし、モーションアシストなんかも効いてるから、VR空間でのVR体の身体能力は、かなーり盛られてるってのが、むしろ当たり前。

 

 軍の演習シミュレーターなんかだと、その辺はちゃんと個人の運動能力や反応速度なんかや無意識のクセ、感覚フィードバックなんかもVR体に盛り込んで、生身の身体と変わりないほどまで突き詰めるんだけど。


 VRゲームだと、普通そこまでやらない。


 爽快感とか、ゲーム性とか考えて、一般人よりも強靭な身体や強化人間並みの反応速度のVR体を与えられるようなケースが大半。

 

 感覚フィードバックも痛覚リミッターとか入れるのが当たり前だし、G耐性なんかも生身より遥かに高く設定されてる。

 

 ブラックアウトやレッドアウトも視覚上の制限程度しか再現しないのが普通。

 理由は簡単、痛いのや苦しいのとか、いらないリアリティはゲームには求められないから。

 ……VRゲームなんて、そんなもんなのですよ。

 

 だから、VRのゲーム世界で最強パイロットとかなっても、リアル機体でそのまま無双とか出来るかと言えば、そんな事はまずあり得ない。

 

 クシナさんは……VRゲームのランカークラスの廃ゲーマーだけに、リアリティレベルとかも上げて、初心者とは思えないくらいには手慣れてる感じだったんだけど……。

 

 一瞬のオペレートミス……スラスターを吹かしすぎて、微妙に機体バランスを崩して、回転状態に陥りマニュアルでリカバリーしようとして失敗。

 

 ものの見事に空間識失調状態に陥り、ブラックアウト……。

 

 しかも間が悪いことに、フルマニュアルセッティング……フルマニュアルで、空間機動歩兵を扱えるのは十分凄いと思うけど、セーフティーまでオフにするのははっきり言って自殺行為……。


 確かに、VRゲームなんかだと上級者は、機体側の自動補正の干渉を嫌って、オートバランサーとかGリミッターをオフにして、極限まで機体反応速度を上げるってのがデフォなんだけど……現実でそれをやるとか、どうかしてる!


 VRでは人は死なないって解ってるから、安全マージンとかリミッターを極限まで削るってのは、なかば当たり前なんだけど。

 

 現実の宇宙空間は普通の人間にとっては、一瞬のミスで死んじゃうような過酷過ぎる世界。

 

 だからこそ、オートリカバリーやリミッターみたいな安全機構は文字通り命綱……この人、解ってるようで全然解ってなかった。

 

 そう言うことなのですよ……。

 じゅ、重大事故発生なのですよ! これっ!


 こうやって稼動ログを見ていくだけでも、些細なミスから失敗に失敗を重ねて……なんて調子になってる。


 よほど操作に自信があったのか、オートアシストも最低限設定……。

 外部操作も最小限しか受け付けなくて、本人が意識不明の状態だと外部リカバリーも効かない状態……。


 おまけに宇宙用の耐Gパイロットスーツすら着てないから、遠隔意識回復措置すらままならない。

 ナノマシン措置なんかも受けてないから、こうなるともう為すすべがない。

 

 このままだと……死亡事故に至る可能性が極めて高い。

 その事実に気付いて、思わず頭が真っ白になる……。


「と、とりあえず、ユリが落ち着くのですーっ! こ、ここはもう戦場なのですよっ!」

 

 一瞬パニックになりかけるも、コツンとおでこを叩いて、深呼吸ひとつ、ふたつ……みっつ。


 セルフマインドコントロール……ルーティンとも言う。

 ほんわか学生気分から、一瞬で冷徹な戦闘指揮官のそれに切り替わったのを自覚する。


 驚くほど冷静になったし、感覚も研ぎ澄まされて来た。

 多分目つきとかも変わってると思う。

 

『ユリコ様、大丈夫ですか? 実際、極めて危険な状況と言えますが、我々はたまたま事故現場に最寄りだと言うだけの話です。救助義務もありませんし、状況的に自己責任の度合いが強いと断定出来ます。我々が何もしなくとも法的責任を問われることはありません。なお、この場で我々で出来ることは、観測データの収集程度……オリオンⅧは軍用装備なので、生存可能時間も最大12時間ほどと、かなり長時間生存可能です。我々は状況監視と情報収集に留めて、救助作業は、軌道警備艦隊の救難隊に一任し、我々自身の安全を最優先するのがよろしいかと』


 エルトランが冷徹に、現実を告げる。


 状況は、端的に言って、非常によろしくない。

 実際問題、このようなケースでは、民間人が出来ることはそう多くない。


 下手に艦を動かすと、それだけで漂流者のリスクが高くなる以上、よほどピンポイントで至近距離に漂流してこない限り、何もせず監視程度に留めるのが一般的な対応。


 けど、かかってるのは、人の命……救えるチャンスは数えるほどしかない。

 

 その現場に立ち会った以上は、最善を尽くさないといけない。

 

 ユリはただの女子高校生じゃないのです!

 強化人間の本気……今こそ見せるときなのです!


「艦長命令……これより、緊急事態の発生を宣言します。エルトラン、船外の全員を緊急収容。状況は遭難事象の発生と認定……。当艦はこれより遭難救助にあたる。クオン航宙管制局、及び軌道警備艦隊司令部に緊急支援要請……お願いします」


 毅然として、告げる。

 ん……? なんか口調がいつもと違うような。


 ついでに、こっちはこっちでエスクロン本国との緊急回線を開いて、情報共有……支援要請準備を依頼。

 先方からは、即答での支援準備を始める旨の回答あり。


『了解いたしました……艦長。本艦はこれより遭難救助活動を開始いたします。要救助者はクシナ・ハイライン嬢。状況は漂流事故……クオン航宙管制局より、本艦救難活動の許可、及び、救難支援行動を即時実施するとの返信あり。クオン宇宙港に非常事態宣言が発令、並びに軌道警備艦隊に救難隊の緊急出動が発令されました。救難隊を直接、現場に向かわせるか、バックアップとして緊急展開するかの確認が来ております』


「まずは、本艦にて、要救助者の確保を試みます。行動優先権……出来る限り高いものを付与するように要請」


『了解……本艦の行動優先権として、最優先タグSSSが付与されました。これは超法規権限とも言えるものですので、現時点より法的制限はほぼ無き物とご理解ください』


 ……超法規権限なんて、これはまた太っ腹としか言いようがないのですよ。

 

 もちろん、常識的な範囲でと言う制限はあるけど、重力機関のリミットやら、コロニーとの安全距離厳守やら、加速度制限なども無視して構わないと言う事でもある。

 

 状況次第では、武器の使用すらも目をつぶる……そう言うコトなんだけど……。


 ここは、期待されてると思っておくのです。


「了解した。これは、本艦の行動制限は気にしなくても構わないから、全力を挙げて救助を頼むと言う当局からのメッセージだと認識した。同時に本国からもフルスペック行動解禁の指示が出ている……要するに本気出してもいいんだって」


 エスクロン本国より、支援準備が整った旨と、フルスペック……本気でやって構わないとの緊急連絡。


 人の命がかかってるから……と言うのは建前で、ある意味、これは政治的デモンストレーションとも言える。

 逆を言えば、エスクロンの名に於いて、本気で介入する以上、失敗は許されない。 


『そのような理解で構わないかと。救難プランについても、ユリコ様の経歴、能力から、我々に一任するのが最善との判断が航宙管制局より下されたようです。艦長、ご命令をどうぞ』


 クオン宇宙港でも全便緊急発着停止が通達され、寄港便も減速宙域にて待機命令が発令されている。

 

 最寄りの警備母艦から、小型高速艇が最優先でスクランブル発進中……現着まで20分。

 

 けど、20分では遅い……クシナ機の最接近まで残り8分。

 リスクなく救助するとなると、ここはユリ達でなんとかするしかないのです。

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