第二十六話「ユリちゃん、メイドになる」③
「皆さん、どうかされたんです? あ、とりあえず着替えますね。これって試着用レンタルなんですよね? かってに調整とかして良かったんですかね……?」
「大丈夫……。この衣装って試着してみて、丈が合わなかったり、サイズ調整とか必要なら業者に送り返して、再調整してもらったり、別のに取り替えてもらうってシステムなんだけど……。その様子だと、ユリちゃんいれば、わざわざ送り返す必要なさそうだからねー」
「そ、そうね。後は……その格好で、ユリコさんがウェイトレスさんの仕事とか出来るのかって事よね……。当日は男の人も来るから、男の人相手でも、ちゃんと対応出来るかどうか……そこ大事だけど、どうなのかしら?」
冴さんとっても不安そう……。
そして、ユリは……と言うと……。
「……あ、あんまり、自信がないのですよ……」
断言しても良い……きっとカチコチで面白おかしいことになるのですよ!
「じゃあさ、今日の部活はエトランゼ号でって先輩言ってたよね? なら、度胸付けに宇宙港まで、そのカッコで行くってのはどう? 私も付き合っちゃうよ?」
「あ、いーねー。習うより慣れろ! それとも見るのではない感じろ……だっけかな?」
「見られるだけで、感じてどうするのよー。やーねー、リオっち」
「ちょっ! そう言う意味じゃないしーっ! と言うか、マリネ……そのカッコだと、普通に痴女なんだけど。一緒に行くのはいいけど、ユリちゃんに頼んで、もうちょっと大人しいデザインにしてもらおうよ……」
「だ、大丈夫よ! 今は生パンだけど、見せパン履けば……」
マリネさんの下着、エッチすぎるのです。
なんだか、堂々と腰に手を当てて胸張ってるけど、もう丸見えなのです。
本人が良くても、お友達としては……止めるべきなのですよ。
と言うか、痴女って……そんなのを着せられる方の身にもなって欲しいのです!
「えっと……キリコ先生、ジャッジを……公正なる裁きを願います!」
冴さんがキリコ姉に裁定を丸投げっ!
でも、無難な判断だと思う。
「……まずマリネ、貴女は即刻ジャージにでも着替えなさいっ! さすがにそのカッコで教室出るのは、駄目! ユリコは……そうね。この引っ込み思案には、他人から注目されるってのは、それだけでもいい薬になると思うから、そのまま連れ出すのは、一向に構わない。ただし、交通手段はトラムなど公共交通機関を使うこと! まぁ、あたしもついて行くから、変なのに絡まれたとしても、対処は任せなさい!」
「ええっ! 学校指定ジャージでトラムとか、ある意味罰ゲームじゃないですかーっ! 見せパンなんて、見せてなんぼなんだから、別にいいじゃないですかー」
「そんなスケパン……見せパン違うでしょ! そもそも乙女は、肌やら下着やらは絶対防衛圏とすべきよ……。何より、校則でもスカートは膝丈までって書いてるでしょ? マリネも人の身内にあんまり、変なちょっかい出してんじゃないよ? この子、純真なんだからさ……解ってるでしょ?」
……キリコ姉が怖い顔で笑いながら、マリネさんのこめかみを拳でグリグリと。
あれ……! 超痛いやつなのですっ!
「わ、解りましたから、グリグリしないでくださいっ! 許してーっ!」
そんな訳で、ユリは……メイド服着て、トラム乗ってゴーッ! ってなったのですよ。
……いつもどおり、校門を出ると無人タクシーが止まってる。
百合に気付いたのか、今朝会ったばかりのお兄さんが出て来る。
どうも朝からずっと丸一日、張り込んでたらしい……た、大変なのですよ。
「やぁ、ユリコちゃん。お帰りなら、お友達共々乗ってくかい? と言うか、妙なカッコしてるみたいだけど……何事?」
気を利かせてくれたのか、もう一台の警護車両もすっと停車。
……冴さん、何となく気まずそう。
「に、兄さん……。ユリコさんの護衛担当って話は聞いてたけど、わざわざ、現場に出なくてもいいのに……」
「そう言うなよ。就任初日なんだから、現場に出て空気感を感じたり、警護対象とのコミュニケーションを取るとか、そう言うのって基本なんだぜ?」
「あ、冴さんお兄さんだ! おお、馬子にも衣装! 前に比べたら随分オシャレになりましたね」
「そうね。もっとも相変わらずの太鼓腹は残念だけどねー」
「これでも、頑張ったんだよ? ああ、暇ならお茶でもどう? 奢るよ! 経費で出るっていうからさ」
「そう言うことは、黙っとくべきだと思うよ。だから、兄さんはモテないのよ……」
冴さん、身内にも容赦ない。
「お兄さん、十分カッコいいですよ。でも、これからトラムで宇宙港まで行くのですよ」
そう言うと、お兄さんの顔が引き攣る。
「え? トラムとかマジで?」
「ああ、治安維持局のお兄さん。悪いね……ちょっとユリコの精神鍛錬も兼ねて、このカッコでトラムにでも乗せようかと思ってさ。警護上の問題とかあるとは思うけど。はっきり言って、この子に大仰な護衛とか無用だと思うから、気楽にやってよ」
「ああ、ほ、保護者の方でしたか。ああ、いや……その。我々にも立場があるので……。解りました! 先行して、爆発物警戒、不審者確保などの上で万全の安全を確保致しますので! それではっ!」
お兄さんが大急ぎで車両に乗り込むと、こんなに居たのかってくらいのパトロイドが続々と道を通過していく。
急な予定変更……公共交通機関の利用での移動。
まぁ、確かになりふり構わなきゃ、電車とかトラムに乗った相手を暗殺とか誘拐とか、警護車両に乗って移動してるに比べたら難易度は格段に落ちると思う。
今頃、統合指揮AIは警備計画の大幅修正で、悲鳴あげてると思う。
それでも、制止とかしない辺り、お見事として言いよう無いんですけどね。
とりあえず……皆さんの犠牲に報いるためにも、ユリもこのメイド服が普段着だと思って、男の人の視線とかに慣れるのですよっ!
今回、短め……書き溜めなし、新作執筆と同時進行なので、こんなもんです。
次回、掲示板回です。




