第二十六話「ユリちゃん、メイドになる」②
そんな事をやってると、キリコ姉が大きな荷物を二つも抱えて、教室に入ってくる。
「おーい、お前ら……レンタル衣装とかうちのクラス名義で、届いてたんだけど、あれか? 文化祭か? まだ二週間もあるのに、気が早いな……もう、クラスの出し物も決まったんだってな」
「あ、それ……もしかして、試着用の衣装ですか? 思ったより早かったんですね」
「みたいね……。あら、これって……エスクロンの総合レンタル業者、エルハート社……。航宙艦から人材派遣、衣装に事務用品、何でも貸しますって……手広くやってて、業界最安値って評判のとこじゃない……。なかなか、いいトコ目を付けたのね」
「ネットで調べたら、そこが一番安くて、早いみたいだったんで、そこに頼んだんですけど、星間輸送便は色々あって、本数大幅削減中で軽く一週間から一月はかかるって話だったんで、早めに頼んどいたんですけど……」
冴さんが、不思議そうにしてる。
確かに、今の情勢……流通網が混乱してるから、個人向け星間通販とか、本来だったら三日以内に届くんだけど、今は最低一週間……一ヶ月後とかそんなのも珍しくない。
衣装レンタルとかだと、クオンでもって思ったけど……でも、クオンって服飾系ダメダメなんだよね。
お高いくせに、質に関してはエスクロン製と比較したら、二段階くらいは落ちるのですよ……。
「まぁ、そうね……。そこら辺は色々あって、改善してるのよね……。ユリコなら知ってると思うけど」
事情を知ってるキリコ姉が苦笑しながら、ユリに視線を送る。
まぁ、そう言うことなのです。
あれから……エスクロンは朝凪、夕凪を筆頭に自前で養ってる艦艇群を中心に、独自の護衛艦隊を仕立て上げて、ロンギヌスの試験航行ついでに、大規模船団引き連れて、各所で星間輸送便も引き受けつつ、銀河各地を派手に航行中なのですよ。
相変わらず、エーテルロード情勢はコードイエロー当たり前で、あっちこっちの要所がクリーヴァ社の人達に不法占拠されてて、グッダグダなんだけど……。
空気を読まず、大規模艦隊を編成し、好き勝手に我が物顔で航行するロンギヌス便のおかげで、どちらかと言うと自重という形で、停滞気味だった銀河の物流も随分改善してて、これを機にエスクロンと仲良くしたいと言う国が続々と名乗りを上げてるとかなんとか……。
なんと言うか……転んでもただでは起きないを地で行ってるよね……。
ちなみに、クオンはエスクロンから、優先物資供給先の指定を受けているので、現在進行系で唸るような物資がジャンジャン送り込まれてるらしいし……この手の個人輸入なんかも割とすんなり届くようになってるし、続々とエスクロン資本の業者が参入してきてる。
長年の鎖国政策で半ばガラパゴス化してたクオンの既存業者や企業では、強大なエスクロン資本にはとても太刀打ち出来そうもないから、今後、クオンをエスクロン資本が席巻する事になると言うのは、もはや既定路線……。
これが、エスクロン流経済侵略……。
もっとも、クオン自体がクリーヴァを隠れ蓑にした異世界の侵略軍の浸透を受けていたのは、確実な様子ではあるので、それに対抗する……一種の戦争……と言えなくもないのですよ。
「せんせー。勝手に納得しないでくださーいっ! 何がなんだかわかりませーん!」
マリネさんが抗議中……。
「ニュースじゃ、そんな話やってなかったんだけどなぁ……。ユリコさん、なんか知ってるの?」
ユリは……大体の事情を知ってはいるのです。
でもどうも、クオンの旧体制派みたいなのが、未だにマスコミ業界の主流を占めてて、色々と情報統制して抵抗の構えを見せてるようなのですよ……。
別に口止めとかもされてないんだけど。
皆に自分で考える力を養ってもらうためにも、裏事情の情報提供は最小限にすべきだと思うのですよ。
それに……抵抗勢力側も情報の発信源がユリだと解ったら、攻勢を強めてくるのは確実。
ただでさえ、耳目を集めるプロパガンダ要員でもあるのだけど、必要以上に注目を集める存在にはならないようにしないといけないのです。
「うーん? ニュースにならないだけで、銀河連合内でも色々な事が起きてるのですよ……。クオンの従来マスコミは全然嘘ばっかり並べ立ててるんですけどね……。銀河ネット情報とか国外のマスコミとかの情報規制も徐々に解除されてるみたいだから、自分で色々調べてみても良いかもなのですよ」
端的に言うと、クオンの一般人達に提供される情報はとても偏ってて、特定系列の銀河広域チャンネルが存在しないことになってたり、特定キーワードの検索除外だの……情報操作されてたのは明白なのですよ……。
けど……何が正しくて、何が間違ってるか。
そこら辺は、やっぱり自分で判断するべきなのですよ……。
黙って、降りてくる情報を鵜呑にするだけとか……そんな調子じゃ、皆お馬鹿になっちゃうのですよ。
「なるほど……。他人の話を鵜呑みにするのではなく、自分の目と耳でなるべく、多くの情報に触れて、その真偽を判断しろと……。確かに、私達クオンの住民って、これまで外の世界の事に興味を持たず、何となく言われるがままになってたとかそんなでしたからね……。けど、今の動乱の世の中……そうも言ってられない。私達も学生だからって、甘えてちゃいけないってことですかね」
「まぁ、そう言うことね。あたしらは結局、余所者……エスクロン人だからね。価値観も違うし、皆の知らない事も知ってるし、どうしても身内贔屓とかしちゃうのよ……。だから、ヒントくらいは出すけど、答えは敢えて言わない。ユリコもそこら辺は、解ってるみたいね」
さすが、キリコ姉……ユリの言いたいことをちゃんとまとめてくれた。
「……解りました。納得です……」
「うん、冴ちゃん委員長、さすがだね。まぁ、ユリコも色々難しい立場だからね……けど、皆と出会ったことでこの子も見違えた。今後もこの調子で色々と揉んであげて欲しい。まぁ、この話はこれでおしまいでいいよね?」
「そうですね。と言うか、衣装届いちゃったから、とりあえず5限目のホームルームは、二人の衣装合わせでもしましょうか!」
冴さんがそう言うと、会話を聞いてた他のクラスメートからも、賛成の声が……。
ユリの意見は、一切聞かれなかったのですよ? 問答無用なのです!
……そんな訳で。
マリネさん共々、ユリはメイドさんに変身なのです!
ちなみに、お着替えはカーテンの裏で済ませましたのです。
さすがに、皆が見てる前で堂々とお着替えは……しませんっ!
「うにゅー。これでいらっしゃいませとか、恥ずかしすぎるのです……」
ユリ……教室の隅っこでしゃがみガード中なのです。
「ユリちゃん、なんでそうなるかなぁ……マリネを見習えば?」
「そうよっ! 普通に可愛いじゃない! ちゃんと立って、背筋も伸ばして……」
マリネさんに無理やり立たされる……。
けど、スカートがめちゃくちゃ短くて、前かがみでないとユリのおパンツがこんにちわするのですっ!
これ、スカートの意味ないっ!
後ろから見たら、もう全開……なんだけど。
どうすればいいの? これっ!
「うーん、さすがにスカート短すぎるんじゃないかしら? それになんだか、おヘソまで見えてるし……。これって、こんなだっけ? ネットのカタログでは、もっと普通にロングスカートだったような……」
「ふっふっふ、アタシとしては、あんな野暮ったいロンスカとか無いって思ったし、やっぱユリちゃんに着せるとなると、コレくらいでないとね……。正式発注前に別デザインのにすり替えておいたのよ!」
「……マリネって……時々、すごいお馬鹿だよね? 自分も着るのに……ホントにそんなエロエロしいコス着て、いらっしゃいませー御主人様! とかやるの?」
マリネさんも、スカートギリギリアウトなのです。
ユリのしゃがみ視点だと、もうおパンツがっつり見えてるのです。
今日のマリネさんパンツは薄ピンク……相変わらず、スケスケでお尻とかお肌がスケて見えてるのです……。
「駄目なのですっ! これじゃ、下着姿でお外行くのと変わりないのです!」
「確かに……マリネはともかく、ユリちゃんには酷かな……」
「な、なによっ! それじゃアタシがおかしいみたいじゃないっ!」
「あっはっは。でもまぁ、さすがにこれは怒られそうだから、不許可だねぇ……。ユリコ、それ……エスクロン製のナノマシン生地だから、お前ならある程度調整出来ると思うんだけど? なんか、こないだそんな新機能がついたとか言ってなかったっけ?」
キリコ姉の冷静な一言。
言われて、気がついた……確かに、これ。
タイプSL9のナノマシン繊維生地……。
ナノマシン繊維生地自体は、生地の自動修復機能とか、自動洗浄機能とかそんな感じの用途で既存の技術ではあるのだけど……。
このSL9規格の生地は、それをさらに機能拡大した最新技術の粋みたいな代物。
このタイプのだと、特定パターンでのパルス電流投与でナノマシンの自己増殖作用で、瞬時にデザイン自体を変えたり、丈を調整とかそう言うことも出来る。
本来、専用ハードウェアが必要なんだけど、ユリの新機能でエスクロン規格ナノマシンの制御機能があるので、問題なくエミュレート出来るはず。
とりあえず、立ってるだけでパンチラ待ったなしの太もも丈から、膝丈に調整。
まるで見えない縫製機が生地を仕立て上げているように見る間に生地が膝まで伸びていく。
足首近くまでのロングスカートが本来のデザインなんだけど、そこら辺は妥協していつもの制服スカートくらいの丈にするのです。
寒々しいお腹もがっつりガード……。
「……むっふっふー! 防御力アップなのですよ!」
これなら、大分マシ……ユリはオシャレさんなのです!
「おお……すごい、そんな事が出来るんだ……! これはこれで、悪くありませんなぁ……。あ、頭の所……白い髪にブルムだと、埋まっちゃってるね。もしかして、猫耳とか出来たりする? こんな感じで!」
リオさんからの注文。
猫耳のコスプレしてる女の子の写真を見せてくれるので、その猫耳カチューシャを参考に、頭の所のホワイトブルムを黒い猫耳に変形っ!
「出来たのですよっ! 可愛いのです?」
せっかくなので、手袋も肉球手袋に変形っ! ユリもそれくらいサービスするのですっ!
「そ、そうね。そっか……露出高ければ良いってもんじゃないのね……。と言うか、その猫耳とそのポーズヤバいっ!」
「ふふふ、せっかくなので、サービスなのです!」
そう言って、手首をクイクイっと曲げてポーズ決めたら、一斉にパシャパシャとカメラで写真撮られる。
……マリネさんが、ハンカチで口元を抑えて、ゼイゼイ言ってて、冴さんも赤い顔してポカーンと見てる。
ユリ、サービス過剰だったのかな?




