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第二十五話「ユリちゃんの通学路」③

「そうですね……。確かに治安維持局のAI達は、割と早い段階でユリに何かあるとエスクロンとの関係がヤバいことになるって思ってたみたいで、かなり早い段階でガチガチな警備体制にしてくれてましたね……。あれって、お兄さん達は関与してなかったので?」


「もちろん、随時報告は来てたし、AI達にゴーサインを出すのはうちの監督官の仕事だからね。むしろ、政府側が色々イチャモンを付けてくるもんで、板挟みって感じ? 俺の上官も胃に穴が空きそうだとかいつもボヤいてたよ。まぁ、今後はこっちも堂々とやれるから、少しは気楽になったよ……まったく、君も大変な立場だと同情するよ……」


「ユリは、強い子なのでこれくらい平気なのですよ。いつもご苦労さま……なのですよ!」


「どういたしまして。うん? そろそろかな? まったく……直線距離だと1kmくらいなのに、10kmも迷走してからとか、念入りにも程があるよ……いつもこうなのかい?」


「戦時において、定期輸送や警戒パトロールなどを行う際は、ルートを固定しないってのが基本なんですよ? 同じ時間に同じルートを使って……なんて、罠を仕掛けろって言ってるようなものなのです。ユリが通学路がワンパターンだと危ないのですって助言したら、こんなになっちゃったんですよ」


 まぁ……実は、軽い気持ちで言った結果が……これ、だったりする。

 確かにワンパターンは良くないって言ったけど、ここまでやれなんて言ってない……。

 

 AIってのは、どうもやることが極端で、やる時は、徹底的にやる……そんなもんなんだけど、自分から言った手前、無下にも出来ない。

 

 ホントは、15分前には、教室にって思ってるんだけど、今はすっかりギリギリってのが通例なのですよ……。

 今日も閉門5分前……余裕を持ってとは言い難い。


「……そうかい。まぁ、AI達ってのはそんなもんだしな……。ユリちゃんの息が詰まらない程度に、この厳重過ぎる警戒体制も程々にするように言い聞かせとくよ。じゃあ、いってらっしゃい。ああ、冴にもよろしく言っといてくれなっ!」


「はぁい、いってきます~! なのですよ」


 お兄さんを見送って、校門をくぐろうとすると、上空警戒機からのアラート!

 背後から高速で接近する人影あり……。

 

「ユリちゃーんっ! おっはよーっ!」


 振り向いた瞬間、どーんと抱きつかれっ!


 避けるのは簡単だったんだけど、避けたら相手が大変なことになるから、敢えて避けず、真正面から受け止めてみた!


 けど、助走をつけての全身全霊ダイブはさすがに、強烈っ!


「マ、マリネさんっ! おはよーなのですよーっ!」


 バランス取りは完璧……人一人の体当たりでも、ユリは微塵にも揺らがないし、衝撃吸収も完璧なのです。


 笑顔で、突っ込んできたマリネさんを抱きとめきった!


 けど、さすがに衝撃力をゼロには出来ず、マリネさんの安全のため、運動エネルギーを回転運動に変換し衝撃を中和する。


 ……要するに、マリネさんの脇を抱えた状態で、ぐるぐるとぶん回す……マリネさんも別に始めてじゃないから、割と平然としつつ、三回転ほどして軽く足から着地。


「おおお、目が回ってる……ユリちゃん、相変わらず、足腰強いねー。まさか、私のタックルをこんな風にあしらうなんて……」


「やっほーっ! ユリちゃん……マリネ、そんな全身全霊で抱きついて……。ユリちゃんだから、平然としてるけど私とかだったら、腰とかグキって言って、軽く潰れてるよ?」


「リオさんも、おはよーなのです!」


 後ろから駆け足で追いかけてきてたリオさんにも挨拶しながら、お手手ターッチ!


「そこはそれっ! なにせ、安心と実績のユリちゃんだからねっ! ふふふっ、相変わらずイイ身体してますなぁ……。と言うか、相変わらずスリムね……ホント、羨まけしからん。アタシなんか、こないだのキャンプで付いた脂身がまだ取れないのに……」


 言いながら、胸に顔をスリスリされて、さりげなーく、お腹をモミモミと……。

 胸はともかく、お腹は……プニって無い……と思う。


 これでも、リハビリ中に腹筋とか筋トレ頑張ってたのですっ! 余計なリザーブは大幅削減済み……なのです!


「少しはダイエットとかしたんですー! マリネさんも腹筋鍛えて、エクササイズなのです!」


 ロンギヌスの運動ルーム……それもエスクロン仕様の重力5割増し環境での筋トレリハビリ。

 

 地味にしんどかったけど、身体のあちこちに溜め込んでた余計なデッドウェイトの排除と言う嬉しい誤算があったのですよ。


「そんな少しくらい運動したって、簡単には脂肪は取れないのよ……。高燃費仕様のユリちゃんと一緒にしないで欲しい……つか、羨ましいーっ!」


「そーだそーだっ! チートはんたいっ! アレだけ食べて、なんでそんなもんで済むんだよーっ!」


 マリネさんがぶーたれて、リオさんが乗っかってくる。

 でも、ダイエットかー。


「大丈夫なのですよ。エスクロン名物、高重力筋トレ毎日一時間もやれば、どんな人でもあっという間にスリムになるのですよ……リオさんもやってみるです?」


「それ……普通の子がやっちゃ駄目なヤツでしょーが! 私はともかく、マリネじゃ5分で音を上げると思うよ……」


「ア、アタシだって、それ位余裕よ……けど、重力5割増しって、どんな感じなの?」


「……自分の体重の半分の重り背負うようなモンなのですよ。あれに慣れると、1G環境とかって背中に羽が生えたみたいに感じるのですよー」


 正直、あの開放感はたまらないものがあるのですよ。

 なお、スポーツ業界の人達は、地球環境縛りがあるので、高重力トレーニングはご法度らしいのです……。


 けど、軍隊とか、エクササイズ業界では、むしろ定番……。 

 高重力環境も長居したり、転ばない限りは、大荷物を背負うようなもので、短時間ならいい負荷になるのですよ。


 なので、カラダを鍛えるとなると使わない手はないって考え方がエスクロン人に限らず、全銀河で浸透しつつあるのですよ。


『アスリートたるもの、純然たる地球環境にて育まれた人と言う種の限界に挑むべし』


 古来から続くオリンピック憲章なんだけど、地球環境と違う惑星で生まれた人はどうなるんだよって話も最近ではよく聞く。


 国際オリンピック委員会とか言って、もはや頑迷な老害組織化してて、競技もマンネリ化してて、記録も百年単位で更新されず、イベントとしては微妙な感じになってるのが実情。


 エスクロン系住民が主体で、無差別惑星オリンピックでも開催しよう……なんて、話も出てて……去年だかに、超人オリンピックと称するイベントを開催したら、そりゃもう銀河記録が派手に塗り替えられたり、ハチャメチャっぷりに大いに盛り上がったらしい。


 そりゃ、強化人間なら百メートルを5秒とかで走れるし、車持ち上げるとか余裕だもんね。


 そんな強化人間も、エスクロン人も人間って事には変わりない。

 不当な差別なんかなくなっちゃえばいいのですよ。


「……お、おぅ。アタシは……遠慮するわ。やっぱ、エスクロンって、エゲツないわね……」


 高重力エクササイズのおすすめ。

 あっさりと却下された。


「な、慣れると、五割増くらいなら、なんとでもなるのですよっ!」


 ユリとか、むしろ1G環境だと要リミッターなのです。


「まぁ、高重力ダイエット……なんてのも実際あるしねー。今度、やってみる? マリネ、運動嫌いだし、こないだから、食べる量がそもそも増えてるのって気づいてる? アンタ、ほっぺとかやばいよ?」


 確かに、さっきの体当たりの時の衝撃から換算すると、先週よりも2kgは増えてたのですよ。


 わずか一週間、何もしないでミニボトル4本分増加……他人事ながら、さすがにこれは……。


「……なのです。マリネさん、先週比で体重2kg増しだったのです」


「ユリちゃん……何故、その事を……」


 マリネさんが愕然とした表情で呟く……図星だったみたいなのです。


「さっき受け止めた時に測定した運動エネルギーと速度から、マリネさんの体重解っちゃったのです……」


「あっはっはっ! さすが、ユリちゃんだね。んっと……運動エネルギーの公式だっけ? こないだ物理の授業でやってたよねー」


「なのです。さっきユリが受け止めた運動エネルギーは約220ジュール、マリネさんの速度が時速約10km……。先週、同じ条件でのマリネさんタックルの運動エネルギー値は210ジュールだったのですよ!」


「ふーん、なんだマリネさん。太ったって言ってもあなたの身長なら、平均値じゃないの? まぁ、一週間で2kg増ってのはちょっとやばいと思うけど……。と言うか、ユリコさん、お久しぶりー!」


 校門を閉めに来てた冴さんが話に加わってきた。

 なんとなく定番で冴さんともタッーチッ!


「冴さん、おはよーなのです! あ、お兄さんに会ったのですよ! ちょっとかっこよくなってたのですよ」


「ああ、そういや……そんな事言ってたっけ。あの馬鹿アニキ……。でも、あのうざったいキノコカットも止めて、服とか気を使うようになったみたいなのよね……。ちゃんとお風呂も毎日入るようになったみたいだし、ちょっとは爽やかになってたでしょ?」


「なのですっ! ちょっと良い感じだったのですっ!」


「あはは、あのだらしにいがいつまで持つやら……なんだけどねー」


 そう言いながら、まんざらでもない様子。

 身内を褒められると嬉しいもんなのですよー。


「……はい、はーいっ! 冴センセー、ユリちゃんはともかく、なんで冴ちゃんまで、アタシの体重把握してるわけですかー?」


「ユリちゃんが思いっきり、答え言ってたじゃない。運動エネルギーと速度が解れば、質量なんて、運動エネルギーの公式で、逆算出来るでしょ? 単なる物理公式の問題よ……と言うか、ついこないだ授業でやったばっかじゃない……むしろ、なんで解んないの?」


 運動エネルギー = 1/2 x 質量 x 速度の2乗……。

 この公式を用いると、運動エネルギー総量と速度が判れば、物体の質量も解るのですよ。


 ……具体的な数字は乙女の情けで公表は差し控えるのですよ。


「えー? アタシ、そんなの習ってないよー! ユリちゃんの意地悪っ!」


 マリネさん、寝てたのです……。


 けど、超基本の公式なので、多分テストに出るのですよ!

再開記念で、一気三話掲載とかやったりました。

反省はしない。

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