第二十三話「永友提督のグルメリポート」③
……カメラが回ってるのに、気付いてないリオさんは、あくまで自然体。
ユレさんも無害な人だって、解ったらしく、ニコニコと見上げながら前に出る。
「うふふ、こんにちわぁ! これでも、アタシってば、667の上級ディレクターなのよ? でも、ゴメンなさいね……色々と慌ただしかった上に、お騒がせしちゃって……。ホントはちゃんと細かく打ち合わせとかしたかったんだけど、永友提督って、何かと言うとサッサ、サッサと話進めちゃう人でね……。えっとあなたが、このパン屋さんの看板娘、リオちゃんね! なんでも、そこのユリコちゃんのお友達なんですってね! とっても、仲がいいってのは、もう言われなくても良く解ってるから」
「なのです! 学校の仲良しさんなのです……いつも、お弁当のパン分けてもらったり、遊んでもらったりしてるんですよー」
そう言って、抱きつきっ!
リオさんの胸、おっきいから抱きつくと割とボリュームある。
でも、ユリにはないこのマシュマロみたいな感触。
実は、結構気に入ってたりするのです……。
リオさんも別に拒むわけでもなく、優しく抱き返してくれて、頭ポンポンしてくれる……。
キャンプの時も誰かにお母さん系とか言われてたけど、納得の包容力なのです!
「そ、そうなんですよ。ユリちゃんってとっても食いしんぼで……むしろ、お昼休みの略奪者? でも、クオンで美味しいお店知らないって聞かれて、真っ先にうちを紹介してくれたなんて、持つべきものは友達ってやつですね。あ、お店の宣伝とかもしてくれるんですよね? うちって、ご覧の通り無名の赤字ローカル店でして……」
「それは、もぉちろんよぉ! と言うか、アタシも天然小麦のパンなんて始めて食べたんだけど、試食させてもらった普通の食パン……フワッフワで独特の香りがあって、普通に売ってるのと、まるっきり別物。アタシもあっちこっちの星系でグルメリポート番組とかやって、いつもご相伴に預かるんだけど、はっきり言ってこのお店……かなりレベル高いって断言できるわ。なんなら、別口のグルメ番組で紹介したっていいくらいよ?」
ユレさんも、リオさんちのパン気に入ったみたいで、絶賛コメント。
ユリ的にはさもありなんって感じなのですよ。
「え、ホントですか! ユリちゃん、やったっ! 667って言えば、「あの星、この星、ぶらり食レポ旅」とか有名だよね?」
略して「ぶら食」……ユリもエスクロンにいた頃から、よく見てるのですよ。
B級アイドルとか、無名の若手芸人とか使って、どこそこ? みたいな星系にフラッと訪れては、現地の色んなローカルご飯とかを食べ歩くと言うなんともゆる~い番組。
見てると、いつもお腹が減ってくるのですよ?
「あ、その番組、担当アタシなのよ。んじゃ、今度改めて、「ぶら食」取材班連れて、取材させてもらうって事でどう? うふふ……クオン星系とか、とっても無名な惑星だし、この独特の街の雰囲気……色々と絵になるわぁ……どう?」
「おおお、マジですかー! ユリちゃん、ぶら食だって! マジすごーいっ! ユリちゃん、ありがと愛してるーっ!」
リオさんに、抱き返されて、感極まったのか、ほっぺにチューされる。
良かった、大喜びって感じなのです!
ちなみに、グルメ番組ってのは、大昔から伝統的に続いてるTV番組の定番。
割と視聴率も取れる上に、取材される側も宣伝効果抜群で、誰もが幸せウィンウィンってことで、専門チャンネルがあるくらいには盛り上がってる。
それに、VRで一緒に食べた気になれるグルメVRチャンネルってのも、人気のコンテンツなのですよ……。
ユリも暇な時は、グルメダイブとかよくやってたのですよ。
でも、VRでいっぱい食べても、リアルでは腹ペコ状態だったりする上に、VRでは満腹感は得られないのですよ……そこはちょっと悲しいところ。
「喜んでもらえて嬉しいのですよぉ……ユリも、リオさん大好きっ!」
……女の子同士で抱き合って、イチャラブ状態。
思わず、引かれるかなって思って、ディレクターさんを見ると、微笑ましいって感じでニコニコ顔。
「あはは、二人共とっても仲がいいのね。うん、これはこれで絵的には、とっても素敵よ」
「ユリも、リオさん大好きなのですよ……」
思わず、頬ずりしまくりなのです!
「あはは……くすぐったいってばぁ……。ユリちゃんって、こんな人懐っこい子だったんだねぇ……前は、もっとピリピリしてたのに、すっかりこんなんだし……にしても、どうしたの? 今日はいつも以上に甘えっぷりが激しいんだけど」
うーん、言われてみればそうかも。
これは多分アレですよ……戦場の空気を味わって、気分がささくれだってた所にリオさんに会えて、いい感じに和めたから?
こうやってると、日常に戻れたって感じがするのですよ。
「ごめんね……リオさん、ちょっと色々あったのですよ。はぁ、リオさんに会えたら、なんか色々こみ上げてきちゃって……」
「まぁ、良く解んないけど、私で良かったら、存分に甘えると良いよ……よしよし、イイコ、イイコ!」
ギュッとされて、頭ナデナデ……リオさん、女心を巧みに突いてくるのですよ。
なんだっけ……ナデポだっけ?
「うんうん、仲良きことは良きことってね。ところで、リオちゃんだっけ? アナタも良かったら、提督さん達の案内とかしてくれないかしら? ユリちゃんもそのお友達のアキちゃんも、どうにもカメラ慣れしてないから、さっきからグダグダでね……。おまけに地元の子って訳じゃないから、このコロニーの事も、そんなに詳しくないみたいなのよね……」
「ユ、ユリは……普通の女子高生になりたてって感じだし、このコロニーの事あんまり詳しくないのですよ……。だから、案内役なんてさせても、全然使えないよーって言ったのですよ」
……レーザーライフルで、1km離れたマンターゲットをヘッドショットで撃ち抜くとか、巨大宇宙戦艦を一人で操艦するとかなら、出来るんだけど。
放課後女子高生の遊びとかとなると……ご飯食べて、ご飯食べて?
おしゃれして、ナンパとかされちゃったりしないかなーとか、思うんだけど……。
周りの女子は皆、男の子とは縁がなくって、逆ナンパとかは恐れ多いって感じだし……。
おしゃれ下着も今の所、女の子にしか見せたこと無い……。
こないだのキャンプで、男の人達の前で思いっきり、パンチラしてたらしいけど、あれ……パイロットスーツだし、そう言うんじゃないからノーカンなのですよ。
けど、それ以前に、圧倒的女子力不足の気がする……硝煙とオゾン臭の香る戦場女子からは、できれば卒業したかったのに、ついつい気負っちゃって、やらかしちゃった……。
……ユリは、別にむせる女とかなりたくないのですよ。
「お、おう……そっか、そりゃ、そうだよね。ユリちゃんってこっちに来て、確か三ヶ月とかそれくらいだしね。うーん、クオンの美味しいところとか、面白いところかぁ……。でも、ここって何もないからね……。公園とか遊園地くらいならあるけど、エスクロンとかには全然劣ると思うしなぁ……」
確かに、惑星エスクロンは銀河有数の美しい惑星って事で、観光客にも大人気で、観光スポットやリゾート施設にも事欠かないんだけど……。
永友提督は、エスクロンと懇意にしてる関係で、何度か招待されてるって聞いてる。
むしろクオンコロニーは、永友提督が生きていた時代……21世紀初頭の雰囲気があって、あちこち行ってみたい……なんて、ご要望を承ってる。
なお、エスクロンからは、予算とかは天井知らずで気にしなくていいから、全力で接待するように言われてる。
なんだか、ユリのマネーカードには、数字の桁がちょっとおかしい感じのお金が振り込まれてるんだけど……。
クオンには、高級レストランも高級ホテルも無いとかで、予算だけあってもね……って感じではあるのですよ。
クオン政府からは……もう好きにしてーって投げやりなコメントが出てるみたいで、周辺警備なんかは、治安維持局が全力で対応中……。
他にも閣僚まとめて絶賛ひきこもり中の政府の代わりに、クオンのお役所から観光開発課の人が貧乏くじをひかされる形で、随伴してて、その人がクオン滞在中に色々便宜を図ってくれる事になってるんだけど。
課長兼課員なんて言うぼっち部署の人で、物凄く頼りなかったので、クオンに進出してたエスクロンの関連会社の人達がフォローに付いてるらしい。
そうエスクロンと関係ないとみせかけて、その関連会社の社員は、ユリも知ってる宇宙軍関係者とかも混ざってて……なんとなく、エスクロンも色々企んでる様子なのですよ。
ちなみに、エスクロンの上層部からは、お色気接待とか要らない事は、考えなくていいとか、言ってたけど、お色気接待ってそもそも、どんなんだろ? アキちゃんに聞いたら、はぐらかされた。
あとで、いろいろ追求するのですよ!
ちなみに、ユリちゃん普通に耳年増。(笑)




