第二十三話「永友提督のグルメリポート」②
「……お、美味しいスイーツを紹介してって言われて、とっさにリオちゃんちを出しちゃったのですよ……ごめんなさいなのです! ユ、ユリは悪くないのですよ……? お、お店の宣伝になったりしないかな? と言うか……その前に……ただいま?」
一応、手をシュタッと挙げて、遅まきながらの挨拶。
そう言えば、戻ってきたのに、ユリからは連絡も入れてなかった。
「あ、う、うん……ユリちゃん、おかえり。ごめん、それが先だったね……。た、確かに銀河連合軍の永友提督って言えば、グルメ番組とかバラエティ番組に出てたりで、軍人って感じがしないので有名だし、サインでももらって、あの永友提督も太鼓判! とかやれば、うちもきっと行列ができるパン屋になったり……? な、なんかテレビも来てるみたいだよね……これもユリちゃんの差し金?」
「テレビとかは、ユリは関係ないのですよ……。ユリは美味しいスイーツのお店知らないって永友提督さんに聞かれて、リオさんのおうちを紹介しただけなのですよっ! 実際、ユリはリオさんのとこのパン……大好きなのですよ?」
「そっか、美味しいスイーツって聞かれて、真っ先にうちの名前出してくれたってのは、むしろ誇るべきよね……。でもさー、さすがに、これは前代未聞なんだけどさ……。確かに本来、こう言うのってお店やってる家の子からしたら、商売繁盛のチャンスって喜ぶべきなんだって解ってるけど、正直なんとも複雑なのよね……。ほら、うちって建物古いし、この辺も割と古い区画だから、ぶっちゃけみずほらしくって、テレビ映えしないって言うか……どうなんだろ?」
うん……? コロニーの環境は、紫外線なんかも外壁でカットされてるし、雨風もコントロールされてるから、経年劣化と言っても、半世紀も経ってるとは思えないくらい綺麗なのですよ?
ぶっちゃけ、エスクロンの旧市街区とかは、建物とかはもっとボロいし、統治も行き届いてなかったりするのですよ……。
「町並みとかは、別にリオさんのせいじゃないし、ロケーションとかテレビ映えするかどうかなんて、テレビの人が考えることなのですよ。お店が流行ると、忙しくなるかも知れないけど、商売繁盛でお金もいっぱい! きっと皆、ニコニコなのですよ?」
ユリがそう言うと、難しい顔してたリオさんもニッコリ微笑んでくれる。
「そ、そうだね……実際、うちって素材に拘ってる割には、お値段控えめだから、割と赤字続きでさ……これがきっかけで繁盛してくれたら、皆とっても助かる、むしろチャンス! うん、そう思うべきだよね! でも、こう言うのって普通、何日も前に予め連絡して、警備の人とかTV局の人とかと、色々打ち合わせとかするもんじゃないの? 朝イチに連絡してきて、午後イチくらいに、銀河連合軍の永友提督が来るから、よろしくって、どんだけ適当なのよっ! しかも、テレビ局付きって、聞いてなかったし……もう、お父さんもお母さんもテンパっちゃってカチコチだよっ!」
……永友提督、段取りも思い切りも良すぎなのですよ。
そもそも、その目的もシンプルに美味しいものを食べさせてって、ホントにそれだけ。
テレビの方は……誰も呼んでないのに、大手のチャンネル667から、ごっついオカマさんディレクターの率いる取材班が割と速攻でやって来た……。
チャンネル667って、全銀河規模で番組配信してるような超大手テレビ局のひとつなんだけど、嘘やヤラセもありありの超いい加減なTV局で、各国の政治的な意向とかはガン無視しまくりで、右翼や左翼と言った偏った思想に染まる事もなく、偏向がかかってない、ある意味フリーダムなマスコミというのがお父さん評価。
面白そうなネタフリをするだけで、そっこーで飛びつく腰の軽さに定評があって、今回も、どこから情報がリークされたの知らないけど、この騒ぎを聞きつけて、取材班が割と早い段階でやって来て、ディレクターが永友提督と顔見知りだったという事で、同行取材をするって話になっちゃった。
と言うか、ユリも思いっきり顔、映されちゃった。
もっとも、クオンのマスコミにも何度か取材されてたし、エスクロンからも普通に取材許可が降りてるとかで、色々メイクとかアイドルみたいなフリフリのお洋服でおめかしされて、レポーター代わりにされた……。
曰く、エスクロンとクオン星系の友好の象徴、親善留学女子高生! なんだって……。
ユリって、歩く最高機密の塊じゃなかったのかなぁ……。
でもまぁ、ユリなら周辺警戒も万全に出来るし、永友提督の護衛も兼ねてるって思えば……悪くない?
「ユリちゃーん! 駄目よぉ……一応、案内人役なんだから、勝手にどっかいっちゃ皆、困ちゃうわ。って、あら……お取り込み中だったかしら?」
667のオカマディレクターさん……ユレさんに見つかってしまった。
なお、タンクトップに短パンというスポーティーなスタイルに、全身筋肉モリモリのマッチョダンディー。
……なんだけど、本人曰く公認オカマさん。
身体は筋肉、心は乙女……とかなんとか。
その辺、ユリにはよく解んないんだけど、見た目のいかつさに反して、とっても気の優しいいい人だってのは解ってる。
ユレさん、とってもいい人なのです!
「うわっ、何この人……でっかいし、むっちゃゴッツい! ひぇえええ……」
さすがにリオさんも驚いてる。
なにせ、身長も2m近くもあって、筋肉ムキムキな巨人みたいな体格してる。
二の腕なんて、ユリの太ももくらいあって、なんと言うかスケールが違う!
リオさんから見たら、もう見上げるような感じで……リオさん、とっさになんだろうけど、ユリに思いっきりしがみついてる……壁ドンの姿勢だったから、今度は逆に受け止めるような感じになってる……。
でも、ユレさんって、そんなゴツい見た目の割に、目付きは凄く優しいし、お団子がてっぺんと左右に三つ並んだ珍妙な髪型は、見るものの警戒心を自然に解く……癒し系な感じな人なのですよ。
「駄目ですよ……そんな威圧感たっぷりな感じで出てきちゃ。リオさんみたいにちっこい子相手だと、泣かせちゃうのです」
「あらヤダ、ゴメンね……脅かしちゃったかしら? 大丈夫よ……アタシ、ご覧の通りオカマさんだから、女の子にはトコトン優しくってのが信条なの。でも、やっぱり女の子同士でイチャラブってのはいいわよね。なんと言っても、絵になるし、エスクロンなんかだと、女の子同士で結婚とかもありなのよね?」
思わず、リオさんと見つめ合う……いつものおふざけのノリで、こんなになってるんだけど。
壁ドンからの抱きしめられ、顔も近いし、ユリも尻もち着いちゃってるから、リオさんから見たら、下着とかも丸見え……ミニスカートだから、色々恥ずかしいことになってるっ!
これ……今にも押し倒されそうな感じに見えなくもないような……。
うーん、どう説明しよう……。
「イチャラブって……えっと、いつもこんな調子なのですよ……」
「うん、そうだよー。私らっていつもこんな事ばっかりしてるから、ホントになんでもないよ? えっと……テ、テレビ局の人ですよね?」
リオさんの選択……何事もなかったのようにさらっと誤魔化す。
さすがだ。
実際、普通に立ち上がって、ユリに手を貸してくれる。
リオさん、優しいのです。
でも、ユレさん……一見、カメラマンも連れず、手ぶらに見えるけど、肩の上に自走吸着式の小型カメラが乗っかってて、今もカメラは回ってる。
ユリも慌てて、気をつけっ! スマイル、スマイルー。




