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第二十三話「永友提督のグルメリポート」①

「ぱんぱかぱーんっ! にゃ、永友提督さん! こ、ここがユリお勧めのパン屋さん、タカギベーカリーなのでちゅよ!」


 住宅街の大通りに面したサクラダ高校からもほど近い路地の一角に、リオさんの実家、タカギベーカリーはあるのです。


 商業区にあるような本格的なお店と違って、居住区規格の小さなお店。

 お昼になると、パートのおばちゃん達が学校まで出張販売に来たり、朝晩は仕事場への行き帰りや、小腹を空かせた学生さんなんかが立ち寄る、とってもローカル色の強いお店なのです。


 ううっ、案内セリフとかもエスクロンからの声掛けで、急遽同行することになったTV局の人達が台本用意してくれたのに、もう噛み噛み。

 

 こんな役……ユリには、向いてないのですよーっ!


「おおっ! なんともボロ……じゃなくて、ノスタルジーあふれる佇まいっ! うん、これぞ街のパン屋って感じだ……! それにこの香り……天然小麦だけじゃなく、天然バターも使ってると見た! まったく、この未来世界ではどこに行っても、合成食材ばかりでうんざりしてたけど、さすが地上世界が近いだけはあるね! 思った以上に素晴らしいじゃないかっ!」


「提督さん! 見て下さいっ! 美味しそうなパンがいっぱい並んでますよ! これ、食べ放題なんですかっ!」


「違う違う……そこにトレーとトングがあるだろう? ちゃんと一個ずつ吟味して、食べたい分だけ選んで、そこのレジでお金を払って買うんだ……しかしまぁ、販売システムまで有人とは……むしろ懐かしくて、感動すら覚えるね」


「いくつか、焼き立てって書いてるのは、なんなんです?」


「うん、焼き立てって札のあるのは、文字通り焼き立て……作ったばっかりって事なんだ。これ21世紀の街角パン屋でも再現してるのかなぁ……? とにかく、それを狙うのがセオリーだ……うん、おかず系からスイーツ系、定番もきっちり押さえてるみたいだね……感心、感心」


「ああ、色々あって、目移りしますね……見て下さい、焼きそばパンとかプリンパンってのもありますよ。コンビニで売ってるのと、ぜんぜん違うように見えますね……美味しそうです」


「そうだね……コンビニのは、真空圧縮パッケージだったり、フリーズドライだったりするからねぇ。あれがむしろ、それなりに食べれるようになるんだから、そっちが不思議なんだが……これが本来の焼き立てパンって物なんだよ! もう香りで美味いって解るくらいだ! いいねっ!」


「……焼き立て! パンッ! はうわぁああああ……」


 ……初霜ちゃん、語彙が少なくなってる。

 対照的に、提督さんは専門分野なのか、めっちゃ饒舌。


 ちなみに、エーテル空間の中継港のコンビニでも売ってるパンってのは、基本的に宇宙船の中で食べるような真空無重力保存を想定してるような代物なので、そのままだととても食べられない。

 横長のブロックみたいな形をしてて、完成品の写真付きで常温棚に無造作に並んでるとかそんな感じで売ってる。


 お湯かけて、電熱調理……要するにレンジでチンする……そんな調理というのも怪しい工程を得て、食べられるようになるって代物。


 もっとも、インテリジェントレンジなら、その辺の工程を自動でやってくれるから、見た目も味もそれなりなんだけど……所詮は、ファクトリーでの大量生産合成食材。 


 リオさんの所のこだわりパン食べちゃったら、ちょっと好き好んで買う気にはなれないかなぁ……。


「……とにかく、オススメなのは買って、その場ですぐに食べる! パンだから、多少時間が経っても食べられるんだけど、焼き立てパンってのは、コンビニで売ってるのとはもう訳が違うっ! 何より、パンってのは割と素材が命だからね……。このお店は、その素材に並々ならぬコダワリがあるとみた。これはかなり、期待していいと思うよ」


「ゴクリッ……もう匂いだけで、お腹の虫が暴動を起こしそうな勢いです! 提督さん、早く入りましょう!」


 駆逐艦初霜の頭脳体……ちっちゃな黒髪ロングヘアのおとなしそうな子だと思ってたけど、甘いものに目がないとかで、パン屋の入り口の時点で、提督さんともども、俄然テンションアップ!

 

 まるで仲良し親子みたいな感じで、手を引いてお店へと突撃していく……微笑ましい光景なのです。

 

 あれから……。

 提督さん達に半ば押し切られる形で、クオン星系上陸が確定。

 

 遅まきながら、思考停止状態から復旧したクオン政府の人達も出てきたんだけど。

 

 永友提督率いる艦隊とエスクロンの巨艦ロンギヌスが桟橋に並んで、エスクロンの無人陸戦ユニット群がゾロゾロと中継港の要所要所を固めてる光景を見て、発狂したように抗議してたみたいなんだけど。

 

 治安維持局は中継港がテロリストに不法占拠されたような状況になってて、強制執行を許可するよう、再三政府に上申しており、銀河連合軍側も後追いながら、永友提督の制圧命令を追認する形で、その判断を正当化しており、法的には全く問題なし……。

 

 法務関係者も交えた上での議論の結果、クオン政府にはむしろ、中継港の機能回復のため、強制執行を下命する義務があり、その義務を放棄した以上、主権も放棄したとみなされるとの裁定が下り、クオン政府要人はあっさり論破され、涙目になって帰っていった。

 

 ちなみに、エスクロンの地上戦ユニット群は、元々ロンギヌスの艦内警備用という名目で用意してあったもの。


 港湾市街区へ逃走したテロリストが数名いたので、治安維持局側も拘束したテロリストの対応で手が足りず、銀河連合軍へ支援を要請。

 

 永友艦隊もそんな陸戦の用意なんてしてなかったんだけど、エスクロン側の好意で、永友艦隊へ機材一式無償レンタルしたという形で、臨時陸戦隊が編成、投入され、逃走したテロリストの拘束後も、そのまま警戒のため、各所に配置されたままになっている。

 

 見た目も白一色でエスクロンのロゴマークが入ってる以外は、クオンコロニーでもお馴染みのパトロイドの人型形態とほとんど変わりないので、中継港の職員関係者もほとんど違和感なく受け入れているようだった。

 

 クオンの中継港にエスクロンの地上戦力が展開される事については、あくまで銀河連合軍の戦力として展開している事と、過去に結ばれた安全保障条約が未だに有効であることから、これもまた問題ないと判断された。


 クオンの政府関係者もそんな条約の存在、忘れかけていたようなのだけど……「両者いずれかの異議申し立てがなければ、本条約は自動更新されたとみなされる」なんて、但書が入っていて、きっちり50年間更新され続けていて、名実ともに有効とされた。

 

 なにより、中継港は、あくまで中立地帯……国家主権については、あくまでグレーゾーン扱いである上に、エスクロンへの支援要請は、銀河連合軍の要請で行われているので、政府レベルでいくら騒いでも無理筋……。

 

 とにかく、諸々の後始末の関係で、永友提督とその麾下艦隊、そしてロンギヌスはしばらく、クオン中継港に滞在することとなり、このような事態で政府発言力の裏打ちとなるまともな軍事力をクオン政府は、持ってない事から、その発言は封殺されることとなったのです。


 要するに、死活問題レベルの揉め事起こってたのに、なんにも出来なかった以上、もう黙ってろ……そう言うことなのです。

 

 クオン唯一の軍事力足る治安維持局や軌道警備艦隊も、どちらもクオン政府の下位組織ではあるものの、軍事アレルギーの政権下という関係上、日頃から冷や飯食らい状態で関係は良くない……治安維持局がむしろ、嬉々として銀河連合軍に接収されたとなっては、もはや為す術など無いのですよ。

 

 そんな訳で、クオン政府の人達はあっさり折れちゃって、銀河連合軍の将帥の一人、永友提督とその随伴者……頭脳体の上陸も認めざるを得なくなって……今に至る。

 

 かくして、ユリは成り行きで、提督さん達の送り迎えと現地案内……エスコート役を拝命した。

 

 調整未了だからって、逃げようとしたんだけど……銀河連合軍とクオン政府とで、エスクロンも交えて話し合いとかやってたら、あっさり丸一日が経過。

 

 挙げ句に、なんだか良く解らないうちに、エスクロンCEO命令なんてのが来て、永友提督達の接待をやれと。

 提督や初霜ちゃんにも妙に気に入られたみたいで、割と普通に仲良く出来てる。

 

 永友提督、お手製の美味しいディナーとかご馳走になっちゃったし、初霜ちゃんからは、最新のエーテル空間戦術とか、これまでの黒船との戦いとか、色々聞かせてもらった。

 

 なんかもう、無茶苦茶ドラマティックだったよ!

 

 それから、エルトランに急遽、中継港まで来てもらって、エスクロンの関連会社所有の武装商船の護衛付きで、クオンコロニーに……とまぁ、こんな感じで、永友提督と護衛兼主賓って感じの初霜ちゃんのご来訪となった。

 

 銀河連合軍の将官の星系への上陸……はっきり言って、国家レベルの一大イベントのはずなんだけど。

 

 永友提督って、なんだかとっても腰が軽い上に、やたらと交渉が巧みな人で、各方面との話し合いで、なるべく波風立てないように、お忍びで食べ歩きして、有力者の顔を立てて、挨拶回りするってことになったらしい。

 

 そして、真っ先に永友提督の訪問を食らったのは、ユリ推奨って事になってしまったリオさんのご実家のパン屋さん。


 このお店……ユリも何度か来てるんだけど……まぁ、外観はコロニー黎明期に作られた安普請の小型商店……築50年ともなると、相応に経年劣化を感じさせる外観をしてる。


 お客さんも4、5人も入れば窮屈になる……それくらいには、小さなお店。

 

 リオさんのご両親は基本的に、対面販売を良しとして、それがお店の売りでもあるから、レジの前にいるんだけど。

 可哀想なくらいガチガチになってるし、ちょうどバイトで店に出てたエプロン姿のリオさんも完全に固まってる。

 

 でも、ユリが後ろの方に居るのを見つけたら、そっこーで捕まった。

 

「ちょっ! いきなり、政府から銀河連合軍の将官がお忍び来訪するから、対応するようにって何事かと思ったら、ユリちゃんの差金だったんだね! これ、どう言う事?」


 裏手のバックヤードに引き込まれて、壁ドンされながらの一言。

 なお、リオさんの方が小さいので、物理的に壁ドンは無理があるんだけど、ユリがちょっと膝を曲げて、目線を合わせてみた。

 

 えっと……一度、やられたかったから?

 実際、ちょっとドキドキなのですよ。

ちなみに、タカギベーカリーの雰囲気は、そこら辺にあるパン屋さんと同じと思っていいです。(笑)

サンジェルマンとかあるやろ? あんな感じ。

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