第二十二話「スイーツな提督さんなのです」③
「前々から、ブルーアースの連中と話し合っても無駄とは言われてはいたんだけどね。それでも、少しは話し合いのしようはあるだろうと思って、いい機会だからって、彼らと話し合ってみたんだけどね。自分達の武器は正義を遂行する為の武器であって、我々軍人が持つ武器は平和を破壊する悪しき武器だとかなんとか……もう終始そんな調子で、眉間にレイガン突き付けられながら、御高説を並べられるような有様でね……。全くもって、話し合いにならなかったよ……」
「エスクロンでは、話し合うだけ無駄。無法の海賊、テロリスト同然って扱いなのですよ」
「……そうだね。エリコさん達からもそう警告されてたんだけどね。私の認識が甘かったよ……いずれにせよ、結果的にまんまと祥鳳達と分断されて、本来護衛対象である君らを危うくさせてしまった……。これも私の不徳が招いた事態だ。改めて、心から謝罪させてもらうよ」
「敵がここまで無茶をした時点で、ある程度はしょうがないのですよ。あの……クオン中継港って今、提督の指揮下ってなってるみたいなのですけど……。って、あ、そっか……いつまでもユリが出しゃばってちゃダメですよね? 提督さん、すみません! こんな子供が出すぎた真似を……ここは保護者の姉に代わりますね」
……そろそろ、ユリはお役御免でいいよねー?
という訳で、エリコお姉さまに問答無用でバトンタッチ。
「べ、別に私は気にしないんだけど……。むしろ、もう少し君と話をしてたいんだけど……っとと、エリコさん。色々、ご迷惑おかけしたようで……いやはや、よく出来た妹さんですな……」
「あれ? あ、私? えっと、永友提督お疲れ様です……いつもお世話になっておりまして……。す、すみません! 実はエスクロン側の最高指揮官は私でして……。ユリコはあくまで戦術オブザーバーってところなので、そう……今回の一件は、私が責任を持って対応させていただきます! まぁ、細かい経緯は祥鳳にでも聞いて下さいね。とりあえず、クオン中継港は永友少将が接収したって事になってるんで、ここはもうロンギヌスと永友艦隊、全艦寄港って事でいいですかね? と言うか、銀河連合軍の港湾保護義務にも抵触する状況だと思いますので、既成事実化ということも含めて、むしろそうすべきかと」
うん、ユリが言おうとしてた事は、エリコ姉さまが代弁してくれた。
以心伝心、さすがなのですよ。
「た、確かに……うん、そうだね……。治安維持局も中継港の管制も、むしろ寄港については、歓迎するって言ってきてるから、それで良いんじゃないかな? でも、クオンの政府チャンネルはさっきから、ずっとだんまりなんだよね……。この国ってどうなってるんだい? 政府が銀河連合軍の将帥たる私の呼びかけに対して、無反応とか、私は一体誰と交渉すれば良いんだろう? 向こうが何も言わないのに、勝手に艦隊を寄港させて既成事実を積み重ねていくってのもどうかと思うんだよね」
「まぁ、色々とややこしい事になってる国ですからね。多分、予想外の展開で思考停止中なんだと思いますよ……。曲がりなりにも国を営む側の対応としては、動くべき時に動かない時点で、下の下だと思いますけどね。後ほど、直接コロニーに上陸の上で表敬訪問でもして、お騒がせしてすみませんって言っとけば良いんじゃないですかね? とりあえず、扱いとしてはうちのプロクスターと一緒で構わないんで、桟橋に艦隊並べたって、もう誰も文句なん言いませんよ」
「ああ、そんなもんでいいのか……。確かに、本来は我々の中継港への寄港って、所属星系の政府が拒否とか出来るもんじゃないんだよね……。今回は、向こうのメンツってのがあるし、なんとなく従っちゃってたけど……ホントはクオンに上陸もしてみたかったんだよね」
「そうですね……このクオン星系って元々は、エスクロンの植民星系のひとつですからね。本来は遠慮もなにもないはずなんですよ。ただ、この手の非常事態に際して、モノを言うのは、原則としてどうなのかって話ですからね。中継港には元々国家主権は及ばないってのがエーテル空間条約にも明記されてますし、この場で誰が一番偉いかってなると、永友提督……貴方が一番偉いんですよ? むしろ、堂々と偉そうに振る舞っていいかと思います」
「……確かに私も少将に昇進して以来、なんだか物凄く権限とか責任が増えちゃってね。戸惑うことばかりなんだけどね。偉そうにしろとは、また傑作だね……はっはっは!」
提督さん、色々誤魔化すように高笑いしてると思ったら、横から小さな手が伸びてきて、問答無用でフレームアウト。
でも、すぐに戻ってくる。
袖にちっちゃな手が握られてて、その手の主は見切れてる……。
「ははは……ほ、本来の目的を忘れるところだったよ……。初霜の奴が頑張ったから、ご褒美に期待とか言っててね。ユリコちゃんは確か、クオンのコロニーに滞在してるんだよね? となると、どこか天然食材を使った美味しいスイーツのお店とか知らないかい? そんな気取った高級店とかじゃなくて、ファミレス的なのとか、女子高生向けのとかさ! そんなのでいいからさ! ねっ!」
対応はお姉さま任せで、ユリはフレームの片隅の小画面状態で黙ってたんだけど……。
な、なんか無茶ぶり来たのですよ?
お勧めのお店? ショッピングモールのスイーツ食べ放題のお店は?
はうわっ! お店の名前覚えてないっ!
ちらっとモニターを見ると、おずおずとフレームインしてきたヘアバンド付けたちっちゃいセーラー服姿の女の子と目が合う。
何この子、かわいいーっ!
ID照合……銀河連合軍永友艦隊所属、駆逐艦頭脳体「初霜」
銀河連合でも最強クラスのスターシスターズって話は聞いてたけど、こんなんだったんだ!
提督が彼女の耳元で何事かささやくと、初霜ちゃんの目がぱぁっと輝く。
多分、このお姉ちゃんが美味しいお店に連れて行ってくれるよとか何とか、吹き込んだっぽい。
見事なる責任転嫁……永友提督、やってくれるのですよ!
うーん、この子を連れて行って、喜ばれるお店かぁ……。
あそこはお値段格安だけど、合成食材天国だから、リクエストとはちょっと違うような……。
ぶっちゃけ、コンビニスイーツと軽食を食べ放題にしたって感じで、いっぱい食べられるって以外に売りは無いと思う。
まぁ、それはそれで素敵なんだけど……。
天然食材……確かに美味しいんだけど、クオンコロニーだって、高級品扱いだし……そんな気楽に扱ってるところ……あ、あった! これならっ!
「お、美味しいメロンパンが売りの天然小麦に拘ったパン屋さんなら、知ってるのですよ……」
とっさに思いついたのがリオさんの実家のパン屋さん。
オシャレスイーツとか、インスタグラフィック映えするお店とか……。
ユリは、その手の普通の女子高生的な発想とか、まだまだ無理なのです!
むしろ、レーションおやつとかで満足しちゃう系なのですよ……。
「メロンパン! よく解りませんが、名前的にいい感じですね! 提督、ご存知でしょうか? メロンが丸ごと乗っかったパンですか? ちょっと食べにくいような……」
「いやいや、そんなんじゃないから。けど、美味しいメロンパンか……。あれはあれで、シンプルなだけに美味しく仕上げるのは意外と難しいんだ。しかも天然小麦を使ってるとなると、相当なこだわりがある店なんだろうね。知られざる名店、実にいいねっ! 私が探していたのは、まさにそう言うお店なんだよ。すまないが、ユリコさん……良かったら、案内を願えないかな? ここは、ちょっとよろしく頼むよ! うんっ!」
……ごめん、リオさんっ!
なんだか、とんでもない話になっちゃいそうな予感……。
そんな訳で、ひとまず波乱の予感を湛えながら、次回に続く……なのですーっ!