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第一話「お茶会レディース」①

 これは、遠い星空の彼方の物語。


 幾星霜の時を超えて、幾多もの英雄と呼べる人達が戦い続ける世界。

 

 ……今日もどこかで、戦いは続いている。

 

 でも、そんな話はエーテルロードと呼ばれる別の宇宙のお話で……。

 地上に住む、ふつーの人達は、誰もが皆、TVドラマか何かの出来事のように感じていて……。

 

 誰もが、そんな宇宙の裏側で、代わり映えのしない平和な日常を送っていた。


 私もそんなひとり。

 

 これは、そんな何処にでもいる宇宙時代の女子高生のささやかな日常の物が――。

  

「……おーいっ! ユリちゃんっ! ど、どうなんやっ! これ……なんかエラいことになっとるでっ!」


 一コ上の先輩。

 アヤメ先輩の叫び声で、私はメモ帳への記述を中断される。

 

 ……せっかくこんなところまで来たんだから、未開地上世界の体験記とか書きたかったけど。

 

 思念記述用端末も降下船の中に置いて行かされたから、メモ帳でカリカリやってたんだけど、これって素晴らしく効率悪い……。

 

 なんか面倒くさくなってきたから、あとで思い出して思念記述して、いつも通り文芸サイトにでもアップしよう。

 

 ひとまず、書き出しはこんな感じでいいかな?

 女子高生のありふれた日常モノって感じでいーよね。

 

 ただ、ありふれてるかどうかは、何とも言えない。


 ユリは、こう見えて強化人間と呼ばれるちょっと人間離れしちゃってる子なのです。

 と言うか、ぶっちゃけ戦闘用と言う枕詞付くような。


 子供の頃から、機械の身体に慣れさせて、戦闘兵器の1パーツとなるべく莫大な予算を投入して、十年単位の月日を掛けて、育成されたエリート中のエリート。


 レアリティで言えば、星がいっぱい並んだりするような超級レアリティを誇るスーパーサイボーグソルジャーなのです!


 でも、スーパーサイボーグソルジャーは、訳あって休業中。


 今のユリは、どこにでもいる普通の女子高生として、女子校生活を楽しみ、人並みの常識を学ばないといけないのです。


 ……いけないのです。


 全く、失礼しちゃう話だよね。

 少しは常識を学んで来いなんて……これでも階級は宇宙軍少佐相当官!

 

 その気になれば、警戒艦隊や連隊クラス……1000人からなる大部隊の隊長さんだってこなせるくらいなのに……。

 

 要は、単なる長めの休暇のようなものなんだけど、実はこの星系って割とキナ臭い。


 そのうち、敵対勢力やテロリストを密かに掃除するとかそんな秘密ミッションがくだされて、ドッカーン、エイヤッて大暴れさせられると思うのですよ。


 その日の為に、ユリはどこにでもいそうな平凡な女子高生として埋没するのです。


 これって、まさに特殊戦部隊のお仕事って感じで超カッコいいよね。

 なんか、お父さんみたいーっ!


「おーいっ! ユリちゃーん! 返事くらいしたってや! 一大事なんやでーっ!」


 アヤメ先輩のちょっと必死な感じの声。

 

 大丈夫……一大事なんて、こんなところで早々起きるわけがないのですよ。


 ここは周辺数百キロに渡って、誰も居ない無人の荒野。


 住心地の良い、コロニーから遠く離れた宇宙の彼方の未開惑星の地上の真っ只中。


 ユリにとっては、この程度の環境、いわば、日常の延長線のようなもの……もちろん、暖かくて快適なことに過ぎたことはないけどね。


 人間ご飯食べて、水飲んでれば、そうそう死なないのですよ。

 死なずに、戦う気力を持ち続けていれば、身体一つでも戦力足り得るのです。

 

 敗北を認めた瞬間にこそ、真の敗北が訪れる。


 うん、ユリ……いいこと言った!


「ユリコさん! お願いですから、助けてください! 火がっ! 火がーっ!」

 

 もうひとりの先輩……エリー先輩の必死過ぎる声に、さすがに振り返ってみる。


 振り返ってみてみると、焚き火の上に張られたワイヤーに吊るされたヤカンのお湯がグツグツ煮えて、お湯が蓋から吹きこぼれてのを見て、二人の先輩方がアワアワしてるところだった。

 

 お湯が火にかかって、ジュウジュウ言ってるけど、火勢を弱めるほどでもない。

 

 まぁ、普通にお湯が沸いてるだけ、まだあわてるような時間じゃない。

 思わずため息をつく。


「先輩……騒ぎ過ぎ……って……うわぁ」


 言いかけた言葉が途切れる……めっちゃ炎立ってるよっ!

 うわぁとか思わず声が出て、凄く平坦だけど、とっても驚き中!


 なにこれ……1mどころか時々、2mくらいの高さにまで立ち上ってるのですっ!


 ……これは流石に想定外。

 何でこんな事になったのぉ……?


 そもそも、燃料にした苔やら雑草、小枝程度じゃこんな火力は実現できない。

 一応、凝縮炭素燃料棒を使ってはいるけど、あれってこんな派手に燃えるようなものじゃない。


 うーん、ユリの想定が甘かったか、惑星大気情報に見落としがあったのかな。

 大気に可燃性ガスが含有されてる可能性……それは、考えてなかった。


 即席で成分分析……。

 窒素 80%、酸素19.5%、アルゴン0.1%、二酸化炭素0.04% etc……。

 ちょっと酸素濃度薄めだけど、典型的な地球準拠テラフォーミング惑星の大気組成。


 メタンとか濃いわけでもないし、水素系ガスとかもほとんど無い……この大気組成で問題があるとは思えない。

 

 となると……なんだろ?

 あ、そう言えば……酸素が薄いから、火の勢いも足りないし、お湯沸くの時間かかるよって説明したら、酸素タブレットあるから、放り込もうとか言ってたような。


 酸素凝縮剤を焚き火にくべるなんて、クレイジーな真似。

 ジョークの一種かと思って、聞き流しちゃったんだけど……。


 まさか、ホントに実行したの?


 とにかく、ユリが思ってた以上に、なかなか激しいことになってる。

 

 うーん、これはお湯を沸かすどころじゃないな……。

 未開惑星だから、水源なんてほとんどないから、単純に火を消すと言っても、いっそ爆破したほうが早そうなくらい……。


 ……どうしよう、これ。

 人の話は、ちゃんと最後まで聞いて欲しかった……。


 あ、いや……地上世界の常識ってものをひとかけらも持ってないし、火の扱いも解ってないって、知ってたんだから、そこを軽視したユリが悪い……。


 先輩達を責めるのは、筋違いなのです。


 生木ならぬ、生ゴケも混ざってたみたいで、モクモクと煙も凄い……地平線の彼方からでも、ここでファイアー祭り開催中って解るくらいだろう……環境シールド無かったら、今頃、風下に居るユリはくんせいになってたかもしれない。


 これ、都市部だったら、通報されて消防ドローンがダース単位でやってくる……よねぇ。

 それならそれで、お任せでドロンしてしまえば、問題ないんだけど。


 何度も言うけど、ここは未開惑星の荒野の片隅。


 植物はまばらにしか生えてないし、動物にしても、微生物以外では、ワラジムシとかダンゴムシ、ミミズみたいな土壌改良系の小型昆虫が試験的にばら撒かれてる程度。


 そんな消防ドローンがスクランブルしてくる気配は一向にない。


 さてさて、この天まで届けキャンプファイヤー……どうしよう。


 まぁ、ほっといてもお湯が蒸発しきるかもしれないけど、燃料自体は大したものじゃないから、黙ってみてれば、そのうち鎮火するのですよ。


 慌てない、慌てない。

 けど、このまま一人で背中を向けて、読書タイムとかどうかと思うので、伸びをしながらロッキングチェアを立つと、のんびりと歩みを進める。


「お二人共、慌て過ぎ……えっと、酸素タブレット……火の中に? 投入? まぁ、そうなる……よ。まずは……距離……取る。間合い……重要……なのです」


 なんとも跡切れ跡切れな変な喋り方だと、自分でも思うのだけど。

 ユリはいつもこんな調子。


 これでも、頑張ってるのですよ?

始めてみました宇宙アウトドア日常もの。(笑)


なお、本作品は「宇宙駆け」シリーズのスピンオフ作品です。

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