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源氏“裏側”物語 もしくはいずれの帝の御時にか光源氏の兄になってしまった不運な公僕の顛末記  作者: 松本紗和子
第一章:桐壺 もしくは主人公の水面下でバタバタする白鳥の足の如き裏側の活躍
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第4話 てんせいしゃ を みつけた なかまにしますか →はい いいえ

◇一宮:四歳  ??:一歳  八月下旬


「まさか、一宮様も転生者だったなんて……」


 千寿は私の膝の上でごろごろしている白雪を撫でながら呟いた。

 私も思う。まさか従兄に転生者がいたとは。

 

「うん……図書館でトレーラーに突っ込まれたと思ったら、まさかの平安世界だもん。びっくりしたわ」


 私も千寿に顔を近づけ、できるだけ小さな声で囁いた。

 母上たちとの間には障子があるし、中務たちも少し離れている場所にいるから聞こえる心配はないと思うけど、念のためだ。


「え、図書館でトレーラー?」


 千寿がぱちくりとツリ目を瞬かせた。


「どうしたの?」

「いえ……俺も図書館でトレーラーに突っ込まれて死んだから……」

「え?」


 死因が同じ?と、いうことは、もしかして。


「A市の市立図書館?」

「!そうそう。じゃあ、一宮様も?」

「うん……」


 私が覚えている限り、あそこには4人いた。私、男性、女子高生二人。多分、全員死んだか瀕死の重傷なはずだ。もしかしたら、トレーラーの運転手も。

 私がそのことを話すと、千寿はこくこく頷いた。


「あ、そこにいた男が俺です」

「なるほど……そこにいたアラサー女が私です」

「げ、TS転生ってやつ?」


 千寿は上から下まで私を見ると、いや逆よりはいいのか?と呟いた。

 いいわけねぇだろ苦労は一緒だよ。


「男から女でも、その逆でも同じように苦労するよ。ねえ立って用足すのってどうすればいいの?持てば(・・・)いいの?角度(・・)とか考えたほうがいい?おまるに座ってしーで許される間に教えてくれない?」

「スンマセン」


 目を開いたま瞬きせずにそう囁くと、千寿はそっと目をそらした。

 転生してたった七日だけど苦労してんだよそれなりによ。

 すると、千寿は話を逸らすかのように驚くことを呟いた。


「トレーラーで異能付き異世界転生か……そんなラノベのテンプレみたいなことが起こるなんて……」

「えっ、特殊能力みたいなの、あるの?ウソ!」


 私、もってないぞ。あ、もしかしてタブレットがそれに入るのか?


「え、ないの?俺みたいに、特殊能力付きスマホついてこなかった?」

「一応生前のタブレットもってるけど、ネットとか書籍とかのタブレットの機能が普通に使えるだけだし……。まあ、それが特殊能力って言えばそうだけど」


 もしかしたらそれが異能になるのか?

 そう聞くと、千寿は私にスマホの画面を見せ、首を振った。


「いや。もっと超常現象チックだよ」


 千寿はスマホの画面をいじると、アルバムから1枚の画像を選び出した。

 この画像の場所は……さっきまで居た寝殿だ。でも、画像は今日じゃない。薄暗いし、そこにいる母上たちの服装も全く違う。多分、昨日だこれ。それによく見たら、こっそり隠し撮りした、みたいな画像だ。

 千寿がその画像を一度タップすると、「キキミミ:リアルタイム」そして「再生:時間指定」という2つの項目が現れた。


「キキミミ?」

「ああ。俺のスマホはさ、インターネットとかそれに関係したアプリは使えないんだけど、こうやって」


 千寿が「キキミミ:リアルタイム」をタップする。

 すると、画像の上に今日の日付と時刻が現れた。かと思うと、そこから母上たちの声が聞こえてきた。


『……それにしても、まことによかった』

『ほんに、父上』

『大事な皇子(みこ)様だ。薨去あそばした時はどうしようかと思うたが……』


 私は障子に耳を当てて、中の話し声を聞いてみた。

 小さくて聞きづらかったけど、スマートフォンから聞こえてくる話の内容と、同じことをしゃべっている。


「俺のスマホはさ、その写真を撮った場所の“音”を、聞くことができるんだ。写真を撮ってから72時間―3日間しか効力がないけど」

「音?」

「そう。そこで話されたこととか、動物の鳴き声とか、物音とか。今みたいにリアルタイムでも聞けるし、3日間のうち好きな時間を指定して聞くこともできる」

「へェ……」


 要するに、盗聴器みたいなもんだね。

 3日間しか効力がないし、まさか他人の家にずかずか入って写真撮るわけにもいかないから、使いどころは限定されそう。出入りできる宮中とかなら使えそうだけど……。

 千寿くんにそう助言すると、まああんまり役には立たないね、と頷いた。


「スティッキィ・なんとかみたいななカッコイイ名前を付けようと思ったけど、思い浮かばなかったから断念した」

「気が合いそうだね、千寿くん」


 同じマンガ読んでるな、こいつ。

 お互いそんな結論に達しなんとなく目をそらすと、周囲が聞き取れる限界まで潜めたお爺の声が聞こえてきた。


時期(・・)時期(・・)であった故な……呪詛(すそ)でもされたのかと、恐ろしいことを考えてしもうたわ』

『まあ父上、呪詛だなんて……』

『あり得ぬ話ではあるまい。一宮様があのまま薨去(こうきょ)あそばしたままであられたら?帝は間違いなく二宮様を春宮にお立てしようとなさるであろうよ』


 二宮?

 二宮って、この間産まれた私の異母弟のこと?

 私たちは眼を見合わせた。

 お爺と母上たちの話は続く。


『そなたは一宮様の看病で忙しかった故にまだ知らぬであろうが……つ主上の二宮様と更衣への寵愛は尋常ではない』

『なんですって!?』

『参内されたのは3、4日前だが、主上はとかく更衣をお離しにならぬ。政も、相も変わらずよ』

『主上も主上であられるが……身の程をわきまえぬ更衣も更衣じゃ!』


 母上が声を荒げた。スマホと障子の奥から、同じ声が聞こえてくる。

 更衣と二宮君?

 流れから言うと、この間産まれた異母弟二宮君は、更衣腹らしい。

 前も話したけど、皇族・摂関・大臣クラスの家柄の娘がなる女御と、納言未満の家柄の娘がなる更衣との間には、大きな身分の差がなる。

 簡単に言えばこの時代、女御の産んだ子は皇位継承者候補として見られるのに対し、更衣の産んだ子は臣籍降下の対象となる可能性が高いのだ。

 だから、女御である母上があまり気にする必要はないと思うんだけど……どういうこと?


「千寿、お爺たちの話していること、わかる?」

「あー」


 千寿は軽く頭をかくと、私に顔を寄せさらに声を潜めた。


「まあ聞いたとおり、帝は身分が低くて、お父さんが亡くなってて後ろ盾の弱い更衣を寵愛してるんだけど……もうその寵愛っぷりが尋常じゃないって」

「尋常じゃない?」

「うん」


 尋常じゃない寵愛っぷり?

 何だそれ。

 母上たちの更衣に対する非難と愚痴はまだ続いている。


「もう帝は更衣を朝も昼も夜も離さず几帳の影で男の女の声がどうとかこうとか……そのせいで、政務(まつりごと)や神事も滞ってるみたいなんだ」

「うおお……それは尋常じゃない……」


 朝も昼も夜も、仕事ほっぽり出して×××ってやべェわ。確かに尋常じゃない。

 というか更衣も流されて付き合わないで仕事するように言えよ……。


「父上の話じゃ、皆玄宗皇帝と楊貴妃の例を出して、国が乱れるんじゃないかとか、そんな風に言ってるって」

「玄宗皇帝と楊貴妃?」


 呆れたように首を振る千寿だったが―私の脳内にはとある一文が浮かんでいた。


 ……唐土(もろこし)にも、かかる事のおこりにこそ、世も乱れ、悪しかりけれと、やうやう、天の下にも、あぢきなう、人のもてなやみぐさになりて、楊貴妃のためしもひきいでつべなりゆくに……


 現代語訳すれば、


 大陸(中国)でも、このようなことが原因で国が乱れて大変なことになったものだ、と、世の中でも苦々しく人々の悩みの種となって、楊貴妃の例まで引き合いに出しかねないほどになってゆくので……


 みたいな感じだ。


「一宮様?」

「ごめん、今ちょっと考えてるから、話しかけないで」


 急に黙りこくった私を心配したのか、千寿が顔を覗き込んできた。

 でもごめんね、ちょっとそれどころじゃない。

 軽く手を振って黙っているように頼むと、それこそ尋常じゃあない私の空気を察してくれたらしい。

 千寿くんは心配そうに口を閉ざした。

 ホントごめんね、でもちょっと予想が当たってたらヤバいのよ。

 この時代、帝の寵愛というのは、身分が高いものが多く受けるのが当然だった。

 そんな常識がある時代に、帝は身分の低い更衣を、人の非難や諫言なども耳に入らないほど、政務も手につかないほど寵愛する。

 その更衣は一人の男御子を産んで死んでしまうが、今度はその御子が長い長い波乱万丈の物語を紡いでいく……。

 この世界は、そんな物語の世界なのではないか?

 私の脳裏に、そんな考えが浮かんでいたのだ。

 父を亡くして後ろ盾が弱い更衣、その更衣を寵愛して仕事も手につかない帝、二人の間に産まれた第二皇子、二宮。

 そしてその更衣を忌々しく思う弘徽殿女御と、娘の産んだ一宮を次の帝としたい父右大臣。

 そして、二宮の3歳年上の異母兄である私、一宮。

 符合具合がヤバすぎる。

 おいおい、だとしたら、私の立場マジで悪いぞ。

 この先二宮と帝にコケにされる運命しか見えてこない。


 ……。…………。


 いや!まだそうと決まったわけじゃない。歴史上に更衣はいっぱいいた。中将更衣さんとか一条更衣さんとか、黄衣の王さんとか。そっちの方の更衣さんかもしれないじゃないか!

 なんたってここは平安異世界。TL系の平安異世界だったら、今まで虐げられていた身分の低いお姫様が後宮にあがって帝に溺愛されどーのこーのとかありそう……半分くらい現実逃避してたら。


『まったく、主上も今では、桐壷帝(きりつぼのみかど)などと陰で呼ばれるようになっておしまいに……』

『忌々しいッ!桐壺更衣ッ!!』


 呆れたようなお爺の声とた母上怒声が現実に戻してくれた。


「ぐぼあッ」

「ちょ、一宮様!?」


 母上、教えてくれてありがとう!

 奇声を上げておネコ様の胴体に顔をうずめた私を、千寿くんが慌てて起こしてくれた。

 急に体重をかけられた白雪はというと、びっくりして一瞬こっちを見たけど、何ともないとわかるとまたピスピス寝息を立てて寝始める。ごめんよ白雪。

 乳母たちに気づかれたかと思って後ろを窺ったけど、中務も兵衛もあらあら子供たちがネコと戯れてるわうふふって微笑ましく見守ってる。

 その鈍感なとこ、どうかと思うよ私!小さい声で話し合ってたから仕方ないのかもしれないけどさ。


「大丈夫?」

「いやだよ~これから悲惨だよ~私ィ」

「はぁ?」


 泣きたい、すごく泣きたい。

 こういう時に知識あるって嫌になっちゃう。これからの運命がもうわかっちゃんたんだもん。

 だいたいNTRは私の趣味じゃあないんだよ。そもそも私元女だよ!あの野郎に対抗できんの?絶望しそう!


「白雪、慰めてよー、泣きたいよー。これから不憫生活が待ってるよー」


 これからの悲惨な扱いを脳裏にえがいた私は、膝の上の白雪を抱き上げ、その綺麗な顔に自分の頬をすり寄せた。

 白雪はよくわからないながらも、なーご、と鳴いて私の顔を舐めてくれる。ありがとう白雪。お前は最高のおネコ様だ。


「待って待って一宮様。何が悲惨なの?不憫生活って何?」


 よくわかってないのがここにもいたぞ。


「何がって、わからない?」

「だから、何が?」


 ?じゃないよ。可愛く首かしげてもダメだよ。

 ここまでキーワードが出てるとわかりそうなもんだけどなあ、学校でも必ずやるだろうし。特に冒頭部分。私が本職だからそう思うだけなのか?

 それとも、千寿は古文苦手なのlかな?


「……千寿くん、古文苦手?」

「……すいません、赤点取ったことあります」


 千寿くんはそっと目をそらした。

 しかし赤点か。私も数学の成績は相当悪かったからなー。人のこと言えないか。

 しかし、古文赤点って、ここだと致命的じゃないかな。だって。


「なんで平安時代に転生しちゃったの?古文の真っ只中みたいなもんじゃん」

「俺もそう思ってるわ」


 ですよね。

 いかんな、私に一番近い同年代がこれでは……後でスパルタだな。

 寝言がありおりはべりになるまで仕込んでやるわ。

 私は白雪を千寿に渡し、自分のタブレットを取り出した。


「弘徽殿女御とその息子の第一皇子。女御の父の右大臣。後ろ盾の弱い桐壺更衣、更衣に溺れて後宮の秩序を乱し、政を蔑ろ(ないがしろ)にする桐壷帝。その間に産まれた第二皇子」

「今まで出てきたキーワードだな」

「ヒントをあげよう。桐壺帝と桐壺更衣の間に産まれた第二皇子は、後に臣下に下って源氏という姓をもらう」

「源氏……?」


 千寿はしばらく源氏、源氏、平安時代……と白雪を撫でながら呟いていたが、しばらくしてあっと声をあげた。


「源氏物語……」


 よし、そこまでたどり着いたか。

 千寿は私のほうを見て言った。


「え、じゃあ俺たちは、源氏物語の世界に転生したってこと?」

Exactly(その通りでございます)


 私は乾いた声で笑ってやった。


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