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源氏“裏側”物語 もしくはいずれの帝の御時にか光源氏の兄になってしまった不運な公僕の顛末記  作者: 松本紗和子
第一章:桐壺 もしくは主人公の水面下でバタバタする白鳥の足の如き裏側の活躍
3/33

前書きもしくは愚痴

 いづれの御時にか、女御更衣あまたさぶらひ給ひけるなかに、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めき給ふ、ありけり。


 この文章を、皆様ご存知かと思う。

 そう、高校の古文の授業で、一回ぐらいはやっているはず。

 少なくとも、私はやった。うん。

 わかりやすく訳すと、


 いつの帝の時代だったか忘れちゃったけど、とある帝にお妃様がたくさんお仕えしていたの。でその中に、特に高貴ってわけじゃあないんだけど、ものすごーく溺愛されてるお方がいた。


 とまあ、だいたいこんな感じになる。

 え、違う?まあでも、大体あってると思う。


 ともあれ、日本人なら誰もタイトルぐらいは知っているあの物語の冒頭だ。

 一条天皇の中宮彰子に仕えた女房、紫式部が書いた日本古典の傑作中の傑作。

 時の帝の第二皇子・光源氏と数多の女君たちがおくる、恋、栄華、没落、政治・権力闘争などの平安時代の貴族社会を描いた長編小説。


 そう、源氏物語だ。


 でもぶっちゃけ、全文読んだ人ってあんまりいないんじゃあないかと思う。

 源氏物語っていろんな人が現代語訳出しているけど、実は54帖ある。400字詰め原稿用紙に換算すると、大体2400枚ぐらいになるらしい。

 ちなみに、某社の長編小説新人賞の規定が、大体原稿用紙250枚から300枚なので、単純に計算すると小説10巻分ぐらいになる。

 高校の古典とか日本史の授業とかであらすじやって、


「あー、あの光源氏とか言うイケメンチートがいろんな女の人とヤりまくる話でしょ」


 とかいう感覚なんじゃあないだろうか。

 確かに光源氏はイケメンチートで、臣籍に下ったとはいえ帝の第二皇子で、帝にひいきされてお屋敷ももらってるから当然金持ち。身分・財力は完璧だ。

 見ただけで寿命が延びるとか、何でこの国に生まれちゃったのとか言われるぐらいのレベルの超絶美形で、長身ですらりとしたモデル体型。

 教養なんかも、ちょっと踊ったり歌を詠んだりしただけで「天も祝福してる」だとか、「美しすぎて不吉だから魔よけのお経読んでもらっちゃお」みたいな反応されるハイスペックさ。

 もう非の打ちどころがない、超人みたいな完璧っぷりである。

 性格はクソだけど。

 え?

 光源氏って女好きだけど、優しいし情に厚くてマメで、一度愛した人は誠意を尽くして最後まで面倒見るぐらいの気概がある人じゃないのかって?

 うん。

 確かにそれも光源氏の一面ではある。

 善人の部分もあるのかもしれない。

 でも、あえてここで断言しておく。


 光源氏は大ウソつきのクソ野郎である。


 あらすじ読んだぐらいじゃクソさは感じられないかもしれない。あとはマンガで呼んだ人なんかもそうだと思う。

 源氏物語を漫画化した作品は数多くあれど、その中の多くが源氏のクソ野郎っぷりをマイルドにしているからだ。

 ある程度読み込むと「うわァ……」ってなるよ。いやいや、ホントホント。読んでみて、小説10巻分ぐらいあるけど。

 もちろん、私たちは現代人の定規で物を考えているから、平安人からすれば別にクソ野郎でもなんでもないかもしれないけど……いや。

 父の妻藤壺を寝取って子供を産ませ、六条御息所落としたはいいけどをいつまでたっても正式な結婚をせず、軒端荻をヤリ捨てし、兄の婚約者朧月夜を犯し、玉鬘にセクハラし……。

 平安人としても十分クソ野郎だろ、アレ。

 

 で、こう長々長々と源氏物語の話をしたわけなんだが―ごめんね、もうしばらく続くんだ。

 なんでかっていうとね。


  私―某地方都市に住む公務員(女)は、源氏物語のとある登場人物に成り代わっちまったのだ。


 「お前頭おかしいんじゃあねーの?」「メンタル行け」だって? 

 うんうん、そんな反応がくるのはよくわかってる。

 こんな最近流行りのラノベみたいな出来事が現実に起こったなんて、実を言うと今でも信じられない。

 けど、何度寝ても目覚めないし、顔をつねれば痛い。

 香の匂いも素材の味を生かし過ぎてる料理の味も、人の滑らかな肌の感触も、ばっちり感じている。

 今現在、私に起こっていることは、少なくとも私自身にとっては間違いなく現実なのだ。

 ぶっちゃけ、逃げたい。

 21世紀の快適な生活に戻って、風呂に入って飯食って酒飲んで寝たい。

 けどそれができない以上、私はこの場で必死こいて生きていくしかないわけだ。


 と、いうわけで、この三流小説みたいな記録を見つけてくれた皆様。

 時々でいいので、源氏物語の裏側で生きる私の愚痴に付き合ってくれるとありがたい。


 じゃあ、私がなんであちら(・・・)に向かう羽目になったのか。誰に成り代わっちまったのか。

 そこから書いていこうと思う。

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