第21話 運命の出会い ~運命の人はヒゲの薄汚れたオッサンでした
久々投稿です。大変お待たせ致しました。
和歌ですが、文法などこれであっているのかよくわかりません。
間違っていたらお知らせください
◇一宮/隆明親王:五歳 二宮/(後の光源氏):二歳 6月中旬
平安京
鬼。
元々、漢字の発祥国である中国では、「鬼」という字は死霊を指していた。
が、日本に入ってくると、日本古来の様々な信仰やなんやかんやが交じり合い、恐ろしい異形の怪物「鬼」が誕生した。
その鬼がどうしたって?
兵衛の話によると、夜中、このあたりで鬼が出るらしい。
夜中に物音を聞いて目覚めると、屋敷のそこかしこに誰かがいる。暗闇でよくわからないが、皆角が生えているから鬼だとわかる。何かをしようとしても、ぐったりして体が動かない。恐ろしくて声も出ない。妖術を使っているのか、奇妙な光も見える。
鬼は何かを探しているらしく、屋敷の中を物色していく。そして気が付いた時には、室内は荒らされ、几帳などもずたずたになっている。中には、髪を切られた女性もいるとか。
「夜に、辻を走る鬼たちを見た者もいるそうで……」
「まあ……」
中務でも鬼は怖いらしい。顔色が変わった。
ちなみに、現代に繋がる「鬼」、すなわち角が生え、トラの毛皮のパンツをはいた、ナポリの登山鉄道のコマーシャルソングのメロディで歌われるあんな感じの「鬼」の姿は、室町時代ごろから絵に出てくるようだ。
でも、この世界は現代人の感覚が混じったなんちゃってお平安世界。10世紀初頭設定のくせしてもう角アリの鬼が登場しているらしい。
で、その鬼が部屋を荒らしてる。
いやー、頭に枝かなんかつけて、鬼っぽく見せてるだけの盗賊じゃないの?
室内は荒らされていたらしいから、いろいろ盗んでるんでしょ?髪切った云々は、かもじ(つけ毛)の材料として売ったんだろうな。
「盗賊なんじゃないの?」
「盗賊のほうがいくらかまともでございます!」
千寿がごもっともな反論をしたが、兵衛は千切れるんじゃないかってぐらいぶんぶん首を振って否定した。
「閂を占めても、蔀をすべておろしても、どこからともなくやってくるのでございます!戸を壊した風もなく……それに、奇妙な幻を見た者もいたといっている者もおります!鬼が妖術を使ったのでございましょう!」
もう半泣きである。
今にも鬼が現れるんじゃないかって、周りを見回しては手をすり合わせている。あ、数珠持ってる。今気づいたわ。わざわざ持ってきたんかい。
しかし、戸締りしても云々ってのは、多分手引きしてるやつがいるんだろうな。金かなんかで取引したんじゃあないかな?変な光とか動けないとかはよくわからんが。
「私も、左馬寮で聞いたことがございます。いつの間にか屋敷にむ鬼のような賊の一団がいると」
「忠克」
どうやら近くで話を聞いていたらしい。忠克が外から口をはさんできた。
「その鬼ども、五条より南のあまり大きくない屋敷を狙って悪行を働いているようなのですが……」
「公卿ではない人たちの屋敷ってこと?」
「はい」
公卿ってのは、従三位以上の廷臣+参議のことね。
なるほど、あんまり大きくないってことは、多分警備員さんの数も少ない。上りは少ないかもしれないけど、その分安全に強盗できるってことね、ほーほー。
タチ悪いな。やっぱり鬼のフリした盗賊じゃないか。
「つい先日、六条の何某の家の帯刀に手ひどくやられたようで」
「へえ」
千寿が興味深そうに身を乗り出す。牛車の中だけど。あ、帯刀ってのは上級貴族の身辺警護をする人たちのことね。要するにSP。
で、その帯刀さんがどうしたって?
「その帯刀、動かぬ体を何とか動かし、一人を叩き伏せたのだとか」
「へぇ!」
「残念ながら、鬼に反撃され昏倒してしまい、正体を見破るまではいかなかったとのことでございます」
あれま残念。
しかし、聞けば聞くほど鬼のフリした盗賊じゃないか。幻術云々ってのはよくわかんないけど……薬でも使ったのかな?でも平安時代だしなー。
「と、ともかく、鬼でございます!」
兵衛が叫ぶように言った。
「鬼の中にはツチグマなどと呼ばれていた鬼もいたそうで……きっと、麻呂子親王に退治され、立岩に封じられていた鬼がよみがえったのではないかと……」
ツチグマねぇ……・
ツチグマってのは、用明天皇のころに丹後国(現・京都府北部)三上ヶ嶽に住んでいたとされる鬼の首領だ。用明天皇の第三皇子麻呂子親王こと当麻皇子によって退治され、岩に封じられたという。
けど、第一、用明天皇のころ鬼って……いや、長くなるからやめとこ。
んー、とはいえなぁ。怨霊全盛期の平安時代人である兵衛相手に、鬼が云々の話を無視しちゃ可哀そうか。
しかたない。おうち帰ろーっと。
「わかったよ、兵衛」
「では……!」
私がため息交じりに頷くと、兵衛の顔がぱぁあああ!と輝く。びっくりするほどぱぁあああ!って感じで。ぱぁああああ!
「そこのマクワウリ何個か買ったら帰ろう。千寿もそれでいい?」
「は、はい!ありがとうございまする!」
千寿は仕方なさそうな苦笑を浮かべたが、頷いてくれた。中務は兵衛にあきれていたけど、それでもほっとした表情。やっぱり怖かったのね。兵衛は満面の笑み。生真面目な忠克氏は部下に指示を出している。有能。
私は忠克の部下に何個かマクワウリを買いに行かせるよう頼むと、帰宅の指示を出した。
人々の生活や街の様子を見ながら、五条大路から烏丸小路に入って、しばらく。
錦小路との辻の近くで、その一団に出会った。
「ん、あれは……」
忠克の声がした。
「どうしたの、忠克」
私が尋ねると、忠克はすぐさま答えた。
「いえ、倒れそうな小屋に、人が群がっておりましたので」
「小屋に?」
私は御簾の奥から忠克の指さした方向を見た。
四条大路以降は貴族の住む住宅街だが、その周囲をよく見てみると、小さな家数多くある。
これは小屋と呼ばれている貴族たちが自家の使用人を住まわせている家で、まあ社員寮といった感じだろうか。
その小屋の中でも、特にボロボロで、廃墟といっていいそれの奥に。
彼らはいた。
10名前後の男女が群がっている。服装からして庶民だろう。半分は子供だった。
「どうしたのかな?」
千寿が身を乗り出し呟いた。御簾の端に手を触れ、隙間からそっと外を覗いている。
私は牛車に乗るとき、通行の邪魔にならないようできるだけ端を走らせるように命じている。そのうえ、私の良い対策で、牛車の速度はゆーっくりだ。
なので、彼らの声がはっきりと聞こえた。
「カルヤシャ、しっかりしろ!」
「しっかりして、今すぐ何か―早くしろ、クガミミ」
よく見えないが、数人の男女がバタバタと走っている。何があったんだろう、今日は暑い。ぶっ倒れたんだろうか?つかカルヤシャとかクガミミっていう名前。あれだな……どっかで聞いたことあるな。うーん、どこだっけ。
「カルヤシャ?なんか平安京っぽくない名前だな」
「……確かに」
カルヤシャって、なんか平安時代人っぽくない名前だ。むしろ……。んー。
「なんかこう……半妖とか忍者とか、そんな名前っぽい」
「それな」
……いたな、そんな感じの名前の犬の半妖!最近続編が出たやつ!
いや、違うんだ。もっと……こう、あれよ。なんか大学でやった気がする。
そうしているうちに、牛車は小屋に近づいていく。すると、小屋の中の様子がよく分かった。
どの子もひどいナリだ。髪はぼさぼさなうえに、あちこち絡まっている。痩せた体を包むぼろぼろの服は垢じみて不潔だし、顔も土まみれ。匂いもひどい。畜舎の匂いと、草っぽいような甘ったるいような、独特の香りが混じってなんとも言えない異臭となって漂ってくる。
そんな一団の中心に一人のオッサンがいるのがわかった。薄汚れ汚いが、あれは修験者の格好だ。ということはオッサン、修験者が修験者崩れなんだろう。保護者なのかな?
「これは……」
千寿が口元を抑えた。路上おトイレ事件よりもショックを受けているようだ。
21世紀日本は豊かな国だ。だから、ストリートチルドレンなんてほとんど見られない。私も見たことがない。多くの日本人にとって、こんな姿の子どもたちは、遠い外国のものなのだ。
そんな彼らが、自分たちが住んでいる京の、自分たちの家の、すぐそばにある廃墟寸前の小屋に、身を寄せ合って暮らしている。
……助けてあげたいが、この時代、こんな光景はあちこちにあったのだろう。すべてを救っていたらすぐに許容量を超えてしまう。でも……。
「あっ」
私が悩んでいると、千寿が声を上げた。
「どうしたの?」
「いや……」
千寿は私の耳元でささやいた。中務達にはあまり聞かせたくないことらしい。
「昔さ、オランダのアムステルダムに旅行に行ったんだよ」
「うん」
「そこで喫茶店、コーヒーショップっていうんだけど、そこに入ろうと思ったら店員から外国人立ち入り禁止って言われてさ」
「オランダのコーヒーショップ……」
オランダのコーヒーショップって、そりゃアレじゃないか。いやまあ喫茶店としても営業してるんだけど、むしろAHOJ-G基準と呼ばれるものに従いとあるものを販売・提供していることで有名なアレよ。
で、そのコーヒーショップと今の状況がなんだって?
「この甘ったるいにおい……そこで嗅いだ匂いと同じなんだよ」
「!」
鬼のような賊、カルヤシャ、クガミミ、修験者、甘ったるいにおい……もしかして。
えーっと、でも急に「すんませーん!」って言っても、警戒されるだけだよな。えーっと、お近づきのなんか、えーと、えーと。あ、ウリ。
「一宮様!」
私は中務の悲鳴のような声を背で聞きながら、マクワウリと竹の水筒を何本かひっつかみ、牛車から飛び降りた。
デコボコ道のおかげで足の裏が痛むけど、気にならない。
「宮様ッ!」
千寿の声と、「こちらに!」という忠克の声が聞こえる。その直後、バタバタという足音が後を追ってくる。多分、忠克とおつきの護衛の皆さんだ。あと千寿も。
「な、なッ!」
一団がびっくりしてる。
そうだよな、いきなり身なりよさそうなボンボンと、武装したお兄さんたちが来たら大人だろうが子どもだろうがびっくりするよな。ごめんな。
しかも武装した一団が私たちが何やってるか見えないように取り囲んでるんだもんな。こわいよね。
すると、多分10歳くらいだろうか?
そのぐらいの少年が、棒切れをもって子どもたちと私の前に立ちはだかった。弟分、妹分を守ろうとしているらしい。
「てめぇら、何しにきやがった!」
「無礼なッ!」
まさかの皇族を「てめぇ!」呼ばわり。忠克は刀こそ抜かなかったが、鯉口に手をやり、鋭い声で少年を咎めた。
少年は一瞬びくりと震え、棒を取り落とした。目も涙目で、プルプル震えている。それでも私を睨みつけることをやめない。なかなかに根性のある子だ。
すると、あの小汚い修験者が慌ててやってきて平伏する。
「お許しを、若様!」
修験者は地面に額をこするようにして謝罪をする。同時に、あの少年の頭をむんずとつかみ、引きずるようにして平伏させる。
「いてッ!」
「親も学もない童でございます!お許しを!」
私どんだけ暴君だと思われてるんだ?これでも女の子に見紛うくらいの美幼児だぞ?と言いたいところだが、こんな武装集団従える幼児なんて怖くて仕方ないわな。しゃーない。
私は忠克を目線で制した。こんなむくつけき武装集団バックにいる私に危害を加えることはできない。心配はいらない。
「大丈夫だよ」
「しかし……」
「大丈夫」
忠克は不安そうな顔をしたが、私は首を振った。すると、察してくれた忠克は、すっと私から離れた。
そう、大丈夫。それに、忠克は地元で盗賊どもを切り伏せて地獄に叩き込んだ凄腕の武者だ。この子が私に何かするより、私の後ろにぴったりと張り付いた忠克がこの子を切り伏せるほうが早い。心配はいらない。大事なことなので2回言った。
「……あのさ、御坊」
「な、なんでしょうか……」
私は衰弱が激しいと思われる子を見た。
唇はカサカサ、目は落ちくぼみ、ぼんやりとした眼差しで私を見ている。
脱水症状なんだと思うけど、多分アレだ。体が小さいから、他の子よりも衰弱が激しいんだろう。栄養も足りていないだろうし……。
「……あげるよ」
「え?」
「その子に食べさせて」
私は持っていた水筒とマクワウリを渡した。
修験者はきょとん、とした顔をしたかと思うと、まじまじと私の顔を見た。そんなことしたら無礼なんだけど、そんなことどうだっていいほどびっくりしているみたいだ。
すると、頭を押さえられていた少年がそろ、と顔を上げて言う。
「……あんた。キゾクだろ?」
「これ!」
貴族じゃないよ~皇族だよ~。でもそんなことわからんか。とりあえずニッコリ笑顔でごまかしておく。
すると、少年が不思議そうに言った。
「なんでオレらに、こんなことを……」
医療保険もなければ社会保障もない平安時代。疫病や飢饉が発生すると、平安京は死体だらけになった。埋葬なんて手がかかることも行われない。貧民の死体は、空き地や河原で放置された。
平安王朝時代の貴族たちは、命の誕生や消滅によって生じる「穢れ」に触れることを何よりも恐れた。貴族は清浄を保たねばならなかった。皇族はもっと、帝はなおさらそうだった。だから、年老いて死にそうになった使用人を邸宅から追い出し、野垂れ児を強要することも多かった。
無論、人々に施しを行う優しい貴族はいただろう。しかし、社会そのものが人に―特に下層の者たちに優しくない世界だったのだ。
……一見華やかなこの時代、死も汚泥も現代以上に身近だった。多くの人々の命は塵芥のように軽かった。生命力の弱い老人や子供たちから死んでいったのだろう。
さて、何でこんなことをだったな。とはいえ、外れたら恥ずかしいし、忠克たちに聞こえるのもあれだし、えーっと……。うん。
私は半尻の袖を引っ張った。袖の縫い目部分がぶちぶちと音を立てて切れ―ない。あれ。
「んぎぎ……」
「……何やってるのさ」
ぐぐ……と力を込めて袖を引きちぎろうとする私の姿を、千寿があきれた顔で見ている。私の目の前にいる修験者も、そして忠克も、「え、やだ……何しでかそうとしてるのこの子……」みたいな顔をしている。
違う、違うんだ。予定では、もっとかっこよくぶちぶちびりっといくはずだったんだ!平安時代の縫製って結構粗めだから大丈夫だと思ったのに……所詮満4歳児じゃ無理ってことか?
「おかしい……もっとかっこよく破けるはずなのに」
「ええ……?」
何やってんだこいつ……という顔をしながらも、千寿は私の袖をつかみ、引きちぎるのを手伝ってくれる。
ぶちぶち、と音を立てて糸が切れ、半尻の袖が破れた。すっごいかっこ悪かったけど。めっちゃ恥ずかしかったけど。ああ、子どもたちの「この子、ちょっと変だよね……」みたいな視線がツライ。
顔が赤くなったのを感じたけど、ええいもうヤケじゃ!
「忠克、矢立!」
「は?矢立でございますか?」
「いいから早く!」
忠克はますます訳が分からない、という顔をしたが、懐から矢立を取り出した。
矢立、いわゆる筆と墨壺を組み合わせた、携帯用筆記用具だ。生まれたのは鎌倉時代だが、私は職人に原始的なものを作らせたんだ。
つっても、細い竹で作った筆入れに、同じく竹と麻のくず布で作った墨壺をひもで括り付けただけの原始的な奴だけど。
私は忠克から墨をつけた筆を受け取ると、袖に和歌を書き付けた。う、結構難しい……けど、まあ中々の手跡だ。
打ち日さす 都の茅屋に 臥せる子らは 恋しからずや 与謝の大山
意味はもう読んだまんまだ。平安京のあばら家で寝てる子どもたちは、恋しくないのだろうか、故郷である与謝の大山が、ぐらいの意味だ。
後で見ている忠克が、「与謝の大山?」と不思議そうにつぶやく。
ええい、今はわからなくてもいいんじゃ。ともかく、私はそれをヤケクソ気味に修験者に手渡した。
そこで気づいた。
あ、やべ。これで修験者が字読めないとかだったら今までのこと全部無駄になるんだけど。どうしよう。
私のバカ!識字率99%な21世紀の感覚で平安時代人に接するんじゃないよ!
けど天は我に味方したようである。
私の和歌……?を呼んだ修験者の表情が変わったのだ。
私はさらにたたみみかける。
耳元に唇を寄せ、修験者にしか聞こえない声でこう囁いたのだ。
「ねえ御坊、この子たちって、もしかして………、なんじゃないの?」
「なぜそれが……!」
修験者が焦ったような声を上げる。
にんまり、と顔に笑みが浮かぶのがわかった。
修験者は厳しい表情で私を見る。半ば睨むような表情だ。
それに気づいた忠克が、太刀の柄に手をかけ、いつでも抜けるような構えを取った。私達を隠すように取り囲んでいる武者たちも、同様だ。
空気が一瞬にして緊迫する。千寿は戸惑いを浮かべている。多分、私の考えがわからないんだろう。
それは後で説明するとして、と。
「忠克!」
「は!」
忠克は急に大きな声を出した私に面食らったみたいだったけど、いつものようにきびきびと答える。
「彼らがこれを持って訪ねてきたら、僕に取り次いで。最優先でね」
「……!取り次ぐなど、何をおっしゃいます!このように下賤な……」
当然のように大反対する忠克。うんうん、当たり前だよね。わかるよ。
でも、彼らは私が味方につけるべき人々の一人だ。庶民、武士、そして最後の一つ。この男が、彼らに繋がる糸の一端だ!
「これは命令だよ、忠克」
「しかし……」
私は命だといってもなおも反対する忠克を無視し、修験者を見た。
警戒しているようだ。まあ当然と言ったら当然だよね。急にあんなことを言われたんじゃあそんな風にもなるわな。
「何も取って食おうってわけじゃないんだ、御坊」
「……では何故?」
「取引だ」
そう、取引だ。
「私は味方と資源を、そちらは後ろ盾と安寧と金を得られる」
うまくいけば、私は強大な味方を得ることができるし、資源も得られる。この時代、鉄をはじめとした鉱物資源はかなり貴重なのだ。彼らはそれを握っている。もしかしたら、山のネットワークともいえる一種の情報網を手に入れることができるかもしれない。
そして、鉱物を握る彼らの立場は、歴史上極めて不安定だ。今はまだ隠れていられるだろう。だが、これから武士が台頭してくればそうもいかない。彼らは討伐され、父祖伝来の地と富を奪われることになる。無論、命も。
私は再び修験者を見た。
「取引がしたい、御坊。もし、この施しに少しでも感謝しているのだったら、二条烏丸殿に、この人―平忠克を訪ねるんだ」
私はいまだに警戒した様子の修験者にいうと、千寿と忠克を促す。
「取引に応じてくれるなら、悪いようにはしないことを保証する。我が名において」
ちょっとカッコをつけて背を向ける。ふッ……とっくに卒業したはずの中二病が再発した気分……。
しかし、千寿の急な思い付きのおかげで、ラッキーだったわ。まさか、武士に並ぶもう一つのピースと、ここで接触できるとは思わなかった。
うまくいくことを祈り、私は牛車に乗り込んだ。
……なお、牛車の中で中務と兵衛に、おうちに帰ってから母上に散々怒られたことをここにお知らせします。
……そしてそれから数日後の夜。宿直をしていた忠克が、私の下にやってきた。あの修験者を連れて。




