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源氏“裏側”物語 もしくはいずれの帝の御時にか光源氏の兄になってしまった不運な公僕の顛末記  作者: 松本紗和子
第一章:桐壺 もしくは主人公の水面下でバタバタする白鳥の足の如き裏側の活躍
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第15話 これって私が墓穴掘ったことになるの?

◇一宮:五歳  二宮(後の光源氏):二歳  二月上旬

内裏 弘徽殿 午後一時ごろ

 

 年が明け、私は数え5歳。

 千寿は数え6歳。

 妹周子ちゃんは数え2歳になった。

 

 去年の10月、私はイケメン成昌バカ野郎の一件を、お爺に伝えた。

 お爺は蒼白になって私にお礼を言った。当たり前だ。“ちょっとうちのバカ息子が強姦に手を貸しちゃってさ~”ですませられる出来事ではない。

 未遂で済んだからよかったものの、実際にやってたらエライことになっていた。次期帝候補を有している今、スキャンダルはできるだけ避けなければならないからだ。

 安堵のため息をはいたお爺に、私は宿衛として仕えていた常陸国(茨城県)出身の武士、平忠克を臣下にしたいとお願いした。

 お爺は訳が分からない、という顔をしたが、そもそも成昌のバカを止めたのはこの忠克氏だ。

 体を張って、不興をかっても目上の者に諫言できるその胆力。そして、彼に付随する東国武士の武力。私はその二つが欲しかった。

 お爺は迷っていたが、母上の口添え(よろしいな、父上。しかし……。よろしいな!ハイ!みたいな)もあり、忠克氏は私の臣下になった。

 で、親王の家臣に位がないのもあれなので、お爺に頼んで忠克氏に官位を与えてもらった。

 宮中の馬に関することを司る左馬寮(さまのりょう)の職員、従七位上左馬小允(さまのしょうじょう)、武士にふさわしい武官だ。

 そしてその上で、私の政所(親王家の家政を司る機関)の警備部長にして、護衛という名のパシリをしてくれてる。

 おいおい、官僚が個人に仕えていいのか?というご意見もおありだろうが、この時代、国政機関の職員が、上位貴族(もしくは親王)の私的な家政職員となるというよくわからないことが起こっていた。それでいいんか平安時代。


 と、いうわけで、打倒光源氏作戦のための人員も、とりあえず一人は確保できたということで、私たちは少しずつ準備を始めていた。

 教養という面では、私たちは平安貴族には及ばない。読み書きの面ではカンニングのおかげで神童呼ばわりされているけど、それ以降は正直自信ない。

 だから、別の部分で評価してもらうしかない。

 美しさという面でもだ。平安貴族は美しいものを好む。桐壷帝(色ボケ野郎)の顔立ちからして、父親似である朱雀帝(わたし)も最上級のイケメンの部類には入るだろう。けど、見るだけで寿命が延びるとか言われる源氏の野郎には及ばない。

 だから、私たちは平安貴族どもの支持を期待することはできない。それ以外の人間に支持してもらうしかない

 内政すると、この二つを一挙に解決することが期待できる。

 一応、善政を施すということは君主としてのステータスになるし、武士や庶民は貴族とはまた別の基準で生きている。

 典型的な平安貴族である源氏より、彼らの生活と自尊心を満たしてやれる私たちのほうに心を寄せてくれるだろう。特に、源氏を知らない遠方の者ほど。希望的観測だけど。

 そういうわけで、今日も弘徽殿で護衛という名のパシリ忠克氏にお話を聞いているところである。


「それで忠克、農具のほうはいきわたりそう?」

「はっ。田植え定規、雁爪のほうは問題御座いません。千歯こきも、収穫までには間に合いましょう。しかし、八反ずりのほうは……」


 忠克は目の前の書類を見て、答えづらそうに口ごもった。真面目でしっかり者なんだよな、忠克氏。だから、こういう風にノルマこなせないと不安そうな顔をするんだ。

 そんな忠克に、千寿が軽く手を振って答える。


「ああ、いいよいいよ。さすがに八反ずりまでは期待してなかったから」

「申し訳ありません、千寿君」

「気にしないで」


 今行っているのは、まあ日本人といったら米だろ、ということで田んぼの改革である。

 しかしながら、私は技術や歴史にはそこそこ口出しできるが、農業関係はほぼジャンル外だ。

 と、いうわけで、その辺は農学部出身米農家12代目の千寿くんに丸投げしてる。

 田植え定規は、間隔をきちんと揃えて植える“正条植え”のための道具だ。竹で作った6角形の長ーい枠だと思ってくれていい。この時代、田んぼの形に添って苗を植えていたため、日当たりやや風通しにばらつきがあり、また除草・除虫の効率も悪かったのだ。そこで、等間隔に植えることで除草・除虫の負担を軽減させるとともに、収穫量を増大させる効果があった。以上、千寿くん談。

 作業も雁爪(がんづめ)八反(はったん)ずりともに、除草用の農具の一つだ。雁爪は18世紀初頭、八反ずりは明治末期頃から使われ始めた。こっちは私の知識ね。一応仕事してるのよ。


「この時代は湿田がほとんどだからな……できるだけ早めに乾田に移行したいんだけど」

「ふーん……」


 21世紀日本で私たちが目にする田んぼは、ほとんどが乾田(かんでん)と呼ばれるものだ。乾田とは、灌漑をやめれば―要するに、水を入れなければ田んぼが乾いた状態になる。

 湿田はその逆で、1年中水を湛えてドロドロになっている状態の田んぼのことだ。明治以前はほとんどが湿田だったらしい。重い鋤を振り上げて泥水をかぶりながら、田起こししたり、稲刈りしたりするわけだ。キツイに決まっている。しかも、酸素の供給が十分ではないので、稲の生育があんまりよくないらしい。

 そういうわけで、千寿は湿田を乾田に移行したいんだとか。イチノミヤ、ソノヘンヨクワカンナイ。


「水はけがいい場所なら水路でどうにかなりそう。でも、だめなら暗渠排水ってことになっちゃうんだけど……」


 千寿がちらっと私を見た。私の技術面での知識のサポートを期待しているようだ。

 乾田化するには排水しなきゃならないんだよな。えーっと……。


「暗渠排水……確か竹と笹使った方法があったよ」


 頭の中の記憶の引き出しを開け、その中でも平安時代で使えそうなものを提示する。

 テラコッタでもイケそうだけど、竹の笹のほうが手間かからないだろ。竹って意外と腐りにくいし。


「用水路は?21世紀(あっち)だとコンクリ使ってるんだけど」

「コンクリぃ?さすがに平安時代(こっち)じゃ無理」

「無理か……じゃあ、木か石だな。ローマン・コンクリートとかは?ほら、他にも使えるし」

「ローマン・コンクリ……OPVS(オプス) |CAEMENTICIVMカエメンティキウム?」


 千寿の提案に、私はいつだったか読んだローマ関連の論文を思い出した。

 火山灰、石灰、海水……材料はそろっている。鹿児島大で、シラス(火山活動による噴出物によってできた地層)を使ったコンクリートの研究をしてたけど……。

 でも、ローマンコンクリートって、まだわかっていない部分も多いし、そもそもその前に実験繰り返す必要があるだろうからな。すぐには使えない。時間がかかる。


「一つの手かもしれないけど、素人考えで馴染みがないものに手を出すよりは既存の技術を使ったほうがいいとおもうな。もちろん、いずれ研究はしたいけど」

「それもそうか……」


 ちなみに、この会話は生粋の平安時代人、忠克の傍で行われているものだ。明らかに平安時代ではあり得ない会話内容なんだが、忠克は特に突っ込むことなく静かに待機している。

 一応、忠克は私と千寿が曾祖父清道公の神霊とその他大勢の皆さまに、夢の中で弟子入りしているという大ホラを知ってるので、きっとそこで教わったことを話し合っていると思っているんだろう。


「どっちにしろ、排水は人が必要だね」

「忠克、人は足りてるの?」


 千寿の問いに、忠克が頷いた。


「昨年の旱魃で、瀬戸内の田畑を捨てて京にやってきた農民を雇いました」

「そう。じゃあ葛野(かどの)の荘園からだな。狭い部分でいいから、笹と竹の暗渠排水を試してみよう。宮様、後で絵図書くの手伝って」

「わかった。忠克、ありがとう」


 私が礼を言うと、忠克は静かに頭を下げた。

 ちなみに、葛野郡というのは、今日の西のほうにある郡だ。

 私は一応三品親王という位を持っているので、そのくらいに応じた所領を国からもらっている。他も、相続したり、寄進してもらった荘園がけっこうある。その荘園の一つが、葛野郡にあるのだ。

 京から朝行けば夕方には帰れる距離にあるので、実験に使っている。

 ……ん、あれ。

 どうしたのかな、なんだか心配そうな顔をしている。


「忠克、大丈夫?」

「は?」

「いや、すごく心配そうな顔をしているから」


 そう言うと、忠克は私から目をそらし、すごくバツの悪そうな顔をした。

 

「は、いえ……その……」


 どうしたのかな、口ごもってる。

 すると、千寿があ、と声をあげた。


「もしかして、桐壺更衣のこと?」

「……申し訳ございません」


 千寿が聞くと、忠克は申し訳なさそうに頭を下げた。

 そっか、やっぱり噂が広まるのは早いなあ。

 しょうがないって言ったらしょうがないし、予想外って言ったら予想外だけど……。

 どうしようもないよ、ヤレばデきるんだもん。

 私は忠克に向かって軽く手を振った。


「大丈夫だよ、母上はともかく、僕たちは気にしてないから」

「は……差し出がましいことをいたしました」


 私が本当に気にしてないことがわかったらしい。忠克は安心したように頭を下げた。

 真面目な気遣い屋さんだなあ忠克君。そういうところ、私好きだなあ。そういう意味じゃないからね。

 それはいいんだが、やっぱり読み書きのできる管理者クラスの人員が忠克君一人じゃ大変だよな。一応、部下に下人を何人かつけてるんだけど、それでもバタバタしてるし。左馬寮のお仕事もあるもんな……。

 誰か、兄弟とか、常陸にいたころの部下とかいないかな?


「忠克、兄弟でも、親戚でも、こっちに来れそうな人いないの?」

「私の兄弟でございますか?」

「そう」


 忠克はきょとんとした顔をした。


「左馬寮の仕事もやって、僕たちの研究も手伝って……だと大変でしょ?誰か、手伝ってくれるような人呼んでもいいよ。官位は難しいかもしれないけど、給金は払うよ」

「そうだな、そうしなよ忠克。忠克の兄弟なら、真面目で仕事もしっかりしてくれるだろうし」


 私と千寿が言うと、忠克は微かに口元をほころばせ、頭を下げた。


「ありがとうございます、宮様、千寿君。国の者達と相談いたします」

「うん。決まったら教えて」


 忠克は一礼すると、左馬小允の仕事に戻って行った。


 さて、忠克氏がいなくなってしばし。

 私たちはぶらぶらと弘徽殿から麗景殿に向かう長い通路を歩いていた、

 特にすることもないので、散歩しているのだ。千寿は写真を取りながら、私はなんとなく建築様式を見つつ、長い通路を端まで行って戻ってくるだけの散歩である。

 すると、千寿が呟いた。


「……まさか、桐壺更衣が二人目を妊娠するなんて」

「予想外すぎる」


 私と千寿は足を止め、顔を見合わせた。

 こんなことがあった。

 元祖・周囲に迷惑をかけるアホカップル、桐壷帝&桐壺更衣だが、相変わらずである。

 私がかなーりきつい諫言をしたからちょっとは落ち着いたかと思えば、そんなことはない。

 一時は仕事もするようになり、桐壺更衣との接触も減り、母上や他の女御更衣と夜を共にしたこともあったようだ。

 けど、喉元過ぎれば何とやら。半月もしないうちに再び桐壺更衣一筋になってしまった。

 それも、前と違ってむやみやたらにそばに置いたりせず、格別に重々しく扱うようになった。昼近くまでいちゃついて仕事サボるのは相変わらずだったけど。

 だから、母上はものすごく警戒した。主上は一宮(わたし)ではなく、更衣ごときが産んだ二宮(後の源氏)を春宮(とうぐう)にするつもりではないか、と。

 他の女御・更衣たちもそうだ。せっかく主上に呼んでいただけるようになったのに、また桐壺更衣一筋になってしまった。きっと、桐壺更衣が主上を誑かしたのよ!

 そして、いじめが始まった。

 母上や弘徽殿の女房達は、私が止めていたからイヤミぐらいですませていたけど、そのイヤミがすごかった。

 式部や中務たちは、桐壺所属の女房達とお上品な口撃を交し合っていたし、母上も母上で桐壺更衣とすれ違ったりするときは強烈なイヤミを浴びせていたらしい。


“そう言えば今日、大学助が来ておったの”

“はい、女御様。本日は史記の巻37、衛の国のことについて学ばれるとか……”

“まだ4つであられるのに、もう37巻まで進んでおられるとは、さすがは一宮様でございますわ!”

“そう言えば、衛の国には宣姜なる女がいたとか……”

“そのような恐ろしい女がおったのう”

“我が国にもそのような女がいるでしょうか?女御様”

“君主を誑かし、野心のためなら長幼の序など歯牙にもかけぬ者なら、どこにでもおろう。この内裏にもきっとおるぞ”

“まあ恐ろしい!”

“ホホホ……”


 さりげなく我が子(わたし)の優秀性をアピールし、桐壺更衣を宣姜に例える。お前、帝を誑かして自分の息子を春宮にしたいんだろ?このビッチが!ってところだろうか。

 ちなみに宣姜とは、春秋戦国時代の衛の国の君主、宣公の夫人で、我が子を太子にしようと、先妻の産んだ長男を讒言し、死に追いやった女性だ。ちなみに、宣公のほうも長男に負い目(宣姜は元々長男の許嫁だった)があり廃嫡したかったので、ちょうどよかったらしい。怖い。

 で、イヤミですませなかった他の女御更衣たちはどうしたかというと、実力行使に出たっぽい。

 プークスクスのイヤミも、私が諫言した分グレードアップ。しかも、私の神霊云々の大ホラが広まっているから、今や桐壷は“主上の寵愛を得るためならば国すらも顧みない究極の悪女、神霊に愛された一宮様を押しのけようとする、神仏を顧みない不信心者”だ。私が原因だってわかってるけどすごい酷い。

 ホウレンソウを意図的に怠ったり、廊下に汚物(おまるの中身。言わなくてもわかるな?)をぶちまけたり。

 ちなみに、私の散歩ルート(今いる弘徽殿―麗景殿の長い通路)に誰かが汚物をぶちまけたはいいけどたまたま桐壷更衣がそこを通らず、朝になっても片付けられてなくて私が踏んだっていう笑えない事件もあった。

 そして5日前、桐壺更衣がぶっ倒れた。その前夜、雪が降る中常寧殿だかどこだかの廊下に閉じ込められたらしい。

 しかも、その時に桐壺更衣が妊娠していたこともわかった。

 嫌がらせを受け、我が妻ばかりか胎の我が子まで危険にさらされた桐壺帝は大激怒。後涼殿(清涼殿の西にある殿舎)にいた更衣(三条更衣(さんじょうのこうい)という)を追い出して、そこを桐壺更衣の控えの間として差し出したのであった。

 当然母上は大噴火した。真蛇再び、女房達の覇気はさらにグレードアップしていた。どこで習ったんだ。

 そういうわけで、原典にもあった(経緯は違うけど)エピソードが再現されたというわけである。


「女御様が実力行使の嫌がらせしなかったから、心労が若干軽くなって妊娠したのか?」

「それに加えて、私が桐壷帝にイヤミ言って半月我慢したから、ますます燃え上がったのかもしれん」

「恋愛は邪魔が入ると燃えるっていうもんな」


 千寿がぱしゃりと坪庭の写真をとりつつ頷いた。

 

「しかし、桐壷帝も馬鹿だよな。なんであんなことしたんだ?三条更衣に桐壺が恨まれるって思わなかったのか?」

「更衣を守るためなら、他人の苦労や屈辱なんて頭からすっぽ抜けちゃうんだよ。ホントバカだよな」


 元凶の一つである桐壷帝がバカでドアホの色ボケ野郎だってのはみんなわかってる。

 けど、妻である女御や更衣たちが一天万乗の天子である帝を恨むことなんてできない。その恨みは、自然ともう一つの元凶、桐壺更衣へと向き、彼女を蝕んでいく……。

 更衣は元々優しい人だったらしい。けど、一族の宿願のために、恨まれる立場にならざるを得なかった。

 そう思うと可哀想だし、帝がもっと分別ついてりゃどうにでもなったんだろうけど……ちなみに、その帝は私にあんまり会いたがらない。

 当時数え4歳の息子にあんなこと言われた挙句、その息子は神仏の申し子ときた。そして、その息子のせいで愛しい愛しい桐壺更衣が苦しんでいる(逆恨み)。神仏の申し子ならば心優しく美しいこの人を追い込んだりしないはず(追い込んでいるのはお前だ)、神仏ではなく物の怪が憑りついているのでは……?というわけだ。

 桐壺更衣と繋がりすぎて頭がフットーして脳みそがグズグズになってるんじゃなかろうか。


「しかし、これでこれからの状況が見えにくくなった」


 ぱしゃり。また千寿のスマホのシャッター音が聞こえる。


「うん。女の子ならいいけど、もう一人皇子が産まれたってなったら……」


 桐壺更衣の子は源氏一人だけだった。

 けど、いま彼女は第2子を妊娠している。完全なイレギュラー展開だ。

 女の子ならばいいだろう。しかし、男の子だったら……。

 これって、私が墓穴掘ったことになるのかね?


「更衣の子だということは変わりない。臣籍降下の対象になる。けど、帝の対応次第では……」

「例えば、親王のまま葵の上を娶らせて後ろ盾にして、“源氏天皇”の道筋を残すとか?」


 やるかもしれない。けど、5歳の私に何ができるわけでもない。


「わからないし、今は何もできない。でも、警戒は必要だね」

「そうだな」 


 頷き、またぱしゃり。

 したら、千寿が変な声をあげた。


「あんン?なんじゃこれ」

「どうしたの」


 千寿のほうを向くと、通路にある柱の根元にしゃがみ込み、スマホをかざしたりよけたりしている。

 すると、千寿が驚くべきことを言った。


「宮様、これ、QRコードだ」

「QRコードォ?」


 QRコードって、あのモザイクみたいなごにょごにょした正方形(最近は長方形もあるらしい)奴だろ?

 読み取りすると、URLとか情報が出てくる。

 千寿が根元にスマホをかざした。すると、肉眼で見ただけでは何も見えなかったそこに、確かにQRコードが書かれている。

 どうやら、スマホのカメラを通さなければ見えないようになっているらしい。


「なにこれ、どうなってるんだ?」


 平安時代にQRコード。すごくミスマッチだ。しかも、カメラを通してしか見えない。

 首をかしげると、千寿が呟いた。


「わからない……他の転生者がやったのかな」

「千寿の盗聴能力みたいに、適当なところにスマホを通してしか見えないQRコードを張り付けるって能力?」

「ありうる……」


 私は21世紀のネットにつながる以外は普通のタブレットだから、私ではない。千寿も違う。

 と、なれば、やはり他の転生者説がやった説が濃厚か?何らかの事情でスマホを手に入れた平安時代人がやったって説もない事はないけど。

 千寿はカメラを読み取りモードにすると、そのまま柱に向かってかざした。


「ちょっと読み取ってみる」

「うん」


 そうだね、とにかく読み取ってみよう。

 すると、すぐにぴろん、という電子音がしてスマホの表示が変わった。

 そこには、PDFと思われるURLがあった。

 千寿はごくりと喉を鳴らすと、URLをタップした。

 すぐにネットブラウザが開く。


「……」

「……」


 しかし、そこに現れた表示は、“繋がりません”だった。


「あ、そもそも俺のスマホ、ネット繋がらねーんだわ」

「だめじゃん」  



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