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第09話 楽しい?ハンティング♪

 【ノラ草原】――


 ハルの街とユメリア城跡の途中にある大きな草原である。

 野性動物はもちろん、魔物も出没するのであまり近付く人はいないが、よく冒険者が害獣駆除の依頼で訪れる為目立った危険も少ない。

 奥には森林もあり、趣味で猟を行う者もいる。



「姉さん、あとどれくらい?」

「ここが草原だから……あと三分の一ってところね!」


「うー……おなかすいたよぅ」

「……同意する」


 その声を聞いたクリスティーナは、自分の鞄をガサゴソとあさりだす。


「じゃっじゃーん! サンドイッチ~。お腹空くだろうと思って作ってきました!」

「あ~クリスが神にみえるよ~」

「……同意する」

「ハムタマゴサンドかー。美味しそうだねー」

「もぐもぐ……美味ですもぐもぐ……」


 皆でサンドイッチを食べながら草原で休憩する一行。

 天気は良く心地好い風が吹いている。


「ねーカイル。食べ物持ってない?」


 キャミィはまだ食べ足りないのか、カイルにすり寄る。


「悪いけど用意してないな。グールをさくっと倒してすぐ帰るつもりだったし」


「むむむ……」


 右手を顎に、左手は右肘に添えて何やら悩む仕草をしている。


「ひっらめっいた~!」


 何やら閃いたらしく、両手を目一杯広げ、無意味に跳び跳ねた。


「あのね? この草原って色んな動物や魔物がいたりキノコとか木の実とか色々あるんだ!

 だからカイル、一緒にハンティングしよ!」


 誰がするか、皆は心の中で呟く。

 当然、カイルも同じ気持ちだろうと皆が眺めていると、


「いいぞ、やろう」


 カイルは快諾した。


「やた~~~♪」


「ちょ、ちょっと! カイル、ハンティングって狩猟だよ? サバイバルだよ!?」

「む。」

「えー、それよりもグール先に退治して街へ戻るってプランは?」

「むむ。」

「……時間の無駄」

「むむむ……」

「そもそも、カイル様が一緒にやる必要があります?」

「……しゅん」

「大丈夫、すぐ終わらせるから。キャミィ、行こう」

「あ~ん! カイル大好き~♪」


 キャミィは物凄い勢いで跳び跳ねると、カイルの上半身にしがみついてきた。

 これまた物凄い勢いで抱き付いたまま頬擦りをしてくる。

 女性陣が冷たい視線を浴びせてくるが決して嫉妬などではなく、恐らくはキャミィに対する甘さへの批判と無茶苦茶されているカイルへの哀れみが混ざっているのだろう。


「……キャミィ、そろそろ降りようか」

「おう!」

「それじゃ取り敢えず森林の方へ向かおう。出来るだけ早く終わらせないと、な」


 カイルはチラっと視線を馬車の方へ送る。

 それを察したのか、キャミィが無言でこくこく頷いていた。


 森林へ向かう二人を見守る彼女たち。


「カイル大丈夫かしら……」

「まー大丈夫ですよ。さて、私は昼寝でも……」 

「……読書」

「わたくしも休憩致しますわ」


 早くも森林の奥へ向かう。

 カイルは木の根本に何種類かのキノコが生えているのを見つけていた。

 だがこの世界の菌類には疎い為、短時間でとなると中々手を出しにくい。


「動物でもいれば良いんだが……」

「カイルー。これおいしいよ♪」


 いつの間にかキャミィはキノコを食べている。

 さすが獣人族と言ったところだろうか。

 キャミィは、はい、とカイルにも差し出してくる。

 それを受け取り躊躇なくかぶりつく。

 念のため【闘気(オーラ)】を軽く展開しておく。


「うん、意外とうまいな」 

「おー……カイルってばワイルドだねぇ」

「まぁな」


 半世紀ほど山籠りをしていただからだろうか。

 カイルは【闘気(オーラ)】を展開しておけば毒の類いは大体いける、ような気がしていた。


 キャミィの耳がぴこぴこ動く。

 突然、雰囲気が狩人のように鋭くなる。

 カイルも気配を察知したのか、周囲を警戒した。


 ゾゾゾゾゾ……


 地面を這うような音がする。

 音の主は人間の頭部程の大きさはあるであろう黒い塊。

 それが群れをなしこちらに迫ってきていた。


「なんだこれ……」

「もしかして……こりは!」


 キャミィは腰を落として構えると、右脚で地面を強く踏みつけた。


「はっ!!」


 ズゥン……と鈍く大地が揺れ、周囲の黒い塊は一斉に宙へと浮く。

 ひっくり返ったその塊からうねうねと動く脚が見えた。


「虫の類いか」

「やっぱり……黒鎧虫(こくがいちゅう)!」


 黒鎧虫――

 その見た目と、集団行動をとることで気持ち悪い虫と認識されている。

 しかし基本的には無害で、蜜や草、小型の虫などを主食としている。

 甲虫の一種で、硬く発達した甲羅は並みの衝撃ではヒビも入らない程、強固である。

 一度ひっくり返えると自身では元に戻れないのが欠点。


「この虫は焼いたり蒸したり茹でたりするとね、とーってもおいしいんだ♪」


 ひょいひょいと虫を拾うキャミィ。

 一匹があまりにも大きいので、脇に抱えているのだが、虫がジタバタと脚を動かしているのでなんとも言えない気持ち悪さがあった。


「みんなの分も持っていこー!」

「それはやめとけ……」


 阿鼻叫喚の地獄絵図が容易に想像できる。

 カイルは落ち葉を集めると、指先に【闘気(オーラ)】を集中させる。

 ボッ!と勢い良く火がついた。

 山籠りの成果である。


「おー! カイル凄いねぇ。なんの能力?」

「……サバイバル?」

「へ~」


 キャミィの興味は既に虫に移っており、長めの木の棒を手に取ると、甲羅とその中身の間に突き刺した。


「よいしょー!」


 ブジュル……


 虫の体液と共に甲羅が剥ぎ取られ中身だけが姿を現す。

 それは例えるなら、殻の無い海老を丸くしたような姿だった。

 別の木の棒にその中身を突き刺し炙る。

 身が徐々に白くなり、体液が滴り落ちる。


「なるほど、これは美味そうだ」

「でしょー? ……あ、カイルあとお願い」


 突然キャミィの表情が険しくなる。

 木の棒をこちらに投げつけると、森の奥へと走り去っていった。

 カイルは言われたまま虫の中身を抉りとり、木の棒に刺して焼く。

 五匹程焼いたところで周囲に虫の姿は無くなっている事に気付いた。

 流石の虫も身の危険を感じたのだ。


「おまたせー!」


 キャミィは鹿を引き摺りながら戻ってきた。


「えっへっへー♪」

「凄いけど……今から捌くの?」

「うん、ダメ?」

「うーん……」


 取り敢えず虫を二人で平らげる。

 想像通り、いや、想像以上に海老の食感に似ており、多少青臭さも残っているがプリプリの身は歯応えの良い弾力と程よい塩気が食欲を加速させる。


「はふはふ……うまいな」

「はふはふ……おいしーよね!!」


 二人は仲良く完食した。

 鹿はそのまま馬車まで持っていく事にした。



「なにやってるのあなたたち……」


 鹿を見たクリスティーナが呆れたように言い放つ。


「鹿だけじゃないよ! 黒……」

「それはやめとけ」


 カイルは慌ててキャミィの口を押さえる。


「なんだか知らないけど、鹿かぁ」


 クリスティーナは少し悩んでいるようだ。


「取り敢えず捌くのは良しとして、血抜きする場所が欲しいわね。ただ時間がね……」

「この辺に置いとくと野性動物に持ってかれるだろうな」

「んー……」


「ひらめいたっ!」


 キャミィが何やら閃いたらしい。


「これお裾分けしてくるー」


 鹿を担ぐとあっという間に森の中へと姿を消した。


「さすが獣人……」


 カイルは呟かずにはいられなかった。

 数分で戻ってくキャミィ。


「鹿はあげてきたよ」

「誰に?」

「デカイ熊」

「はぁ!?」


 クリスティーナは慌てて荷物を纏め始める。


「ちょっとカイル! 早く行くわよ! 熊がいるなんて……」


 熊ならなんとかなるだろうが、余計な事を言うのはやめよう。

 カイルはそう思い黙って支度をしていた。


「なんかダメだった?」


 キャミィはキョトンとしている。

 獣人の常識は人間のそれとは大きく違うのだろう。


「大丈夫、何にもダメじゃない。ハンティング楽しかったろ?」

「うん、楽しかった」

「それでいい」


 へへーと笑うキャミィ。

 初対面の時と比べ子供の国っぽく見えるのは打ち解けた証拠だろうか。

 時折見せる鋭い気配と今の緩い様子のギャップが彼女の魅力かもしれない。

 カイルはそう感じていた。


「あ、もう出発?」


 欠伸をしながらレフィアが馬車から降りてくる。


「あぁ、いよいよグール退治だ」


 この時のカイルはまだ知らない。

 グールという存在が何なのか、を。


「ねぇ、カイル」

「ん?」

「また、二人で遊ぼうね」


 そう言ってキャミィは馬車の中へと入っていく。

 気のせいだろうか、キャミィの表情がやけに女性らしく見えたようにカイルは感じた。

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