第46話 vs奈落の旅団~テリタ村~
【ランペイジ王国】から【テリタ村】まで馬車を使うと五時間、【ハムサ村】は四時間かかる。二つの村はそれぞれ反対の方角に位置している。
カイル、エッジ、キャミィは【テリタ村】へ。レフィア、シーラ、アイリス、ティアリエ、ルシールは【ハムサ村】へと向かっていた。
時は少し遡る――
「村の位置が真逆やんけ! どうすんねん? 同時に叩かんとヤバイで? あいつらの報復で迷惑かかんの村やからな」
【奈落の旅団】は歯向かう者に容赦しない。ギルドへの依頼があったという事実だけで二つの村はその歴史を終えるだろう。
「俺がどちらかの村に一人で行く。後は頼む」
「アホか! ……とも言えんけどな。こんだけ人数おるんやからもう少し分散させた方がええで。脳筋のにいさんだけやと心配やしな」
「うむ、確かに」
「それは……まぁ……」
「あはは! カイル脳筋~♪」
「……ノーコメント」
「ふっ、さすがの貴様も頭までは強くないようだな!」
「お前がいうな。てか【拳王】はにいさんよりもヤバイで?」
「なっ! ふざけるなっ! この私のどこが……」
ルシールが黙って彼女の肩に手を置く。ティアリエはがっくりと項垂れてしまった。
「それではどのようにチームを分けましょう?」
「まずは絶対に分けなあかん二人を選んで……あとはパワーバランスを考えると……これでどや?」
「あら、キャミィちゃんと同じとこじゃない。狙った?」
「アホか、そんなんちゃうで。一応敵討ちの協力申し出たからには、行動で見せなあかんな思うただけや」
「ふーん。ま、いいんじゃない? 良い傾向よ、エッジ。人の心を学びなさい」
「あ? どういう……」
「さ、急ぐわよ。村の状況が分からない今、時間との勝負になるわ。ちなみに私は戦闘には参加しないけどアドバイスしてあげるから泣いて喜びなさい」
こうしてかれらはそれぞれの村に向かう為に、【ランペイジ王国】から出発するのだった。
***
「思ったよりも早く着いたな」
カイルたちは既に【テリタ村】に繋がる道へと辿り着いていた。ここから先は馬車では行けず、徒歩での移動となる。
「しかし、見晴らし悪いなぁ。奇襲でも受けたらたまらんわ」
周囲を木々で覆われたこの森のような場所では接近戦を得意とするカイルや、視覚を頼りにするエッジには不利と言えよう。
しかし――
「んー、今のところ人の気配はないよ! 小動物くらいかな? 罠も仕掛けられてないみたい」
獣人であるキャミィにとって、この程度は障害とは到底呼べない。
「キャミィちゃんが居てくれて良かったわぁ。なぁ、にいさん」
「まぁな」
カイルにも気配の察知くらいは容易に出来るのだが、野暮な事はせず黙って彼女の先導に従う。
やがて、道に迷う事なく【テリタ村】へと辿り着くのだった。
「ん? なんや、この門。壊れとるやないか……」
「エッジ、様子がおかしい……誰か先客がいるようだ」
強固な門は半壊し、入り口は開いたままになっている。
少し村の中へ入ると、三人の男の死体が転がっていた。
「なんや……こいつら、【奈落の旅団】やないか……」
「カイル、エッジさん、誰か近付いてくるよ」
「なんやと?」
カイルは既に【闘気】を展開し、拳こそ構えていないが奇襲に備えていた。
「三人……か」
建物の脇から現れたのは黒ずくめの服を着た男が三人。
フードは被っておらず、辺りを見回しながら村の入り口に向かっている。
「エッジ、見覚えは?」
「いや……ただ奈落の連中なのは間違いで。あいつらアホやで、見たら一発で分かる服着てんねん」
「……恐怖の象徴だ」
カイルたちの背後から、突如声が聞こえる。慌てて振り向くがそこには誰もいない。
「……そして死の象徴でもある」
再び彼らの背後から声がする。振り向いた先には、【奈落の旅団】の団員が三人、横並びで立っていた。
「うひっうひっひっひっひっ」
「……ここが墓場」
明後日の方向を向きながら変な笑い声をあげている大男。下にうつむきボソボソと小声で何やら呟く細身の男。そして、黄色の髪色をしたモヒカンの男。三人とも個性的な風貌に、カイルたちは色んな意味で気圧された。
「なぁ、あんたら子供見なかったか? 年は十四、五歳くらいなんだけどよ」
「さぁな……」
「へー、知らねぇのか。どうやらこっちじゃなかったみたいだな」
陽気に声をかけてくるモヒカン男を適当にあしらい、カイルは拳を構える。
キャミィを見ると既に半獣人化が始まっており、見た目の変化こそ少ないものの、爪と牙、そして目付きは獣人のそれだ。
「エッジ、キャミィのフォローを頼むぞ」
そう言い残し、カイルは突然男たちへと襲いかかった。
「おいおい、いきなりかよ! イラージャ、ベン! さっさと終わらすぞ!!」
三人とも自身の能力を発動させる。
「くらぶぇるしぃっっっ!!」
その前に、モヒカンの男はカイルの拳を顔面に受けると、三メートル程吹き飛んでいった。
残る二人は一瞬呆気に取られる。その隙を、カイルは逃さない。
「……くっ、【完全なる睡魔】」
イラージャの能力は対象を眠らせる能力である。睡眠を必要とする存在であれば、如何なる者でも抗う事が出来ない。
しかし、【闘気】はあらゆる状態異常の類いに対して強い耐性を持つ。
「……ベン!?」
変な笑い声を発していた大男は全身切り傷だらけになってその場にうずくまっていた。
「……バカな。我ら奈落の――」
そこでイラージャの意識は途切れた。
「一応全員死んでへんみたいやけど、どないする?」
カイルは息を荒げているキャミィに視線を送る。
半獣人化は少し解かれ精神的には落ち着いたようだが、奈落特有の黒装束に反応しているのか、爪と牙だけは鋭いままだ。
「……キャミィ」
「昔ね、幼馴染みの子が行方不明になったの。全然見つからなくって。その頃、他にも行方不明になった子たちが結構いたから誘拐されたんじゃないかって」
二人は彼女の話を黙って聞いている。キャミィの目には涙が貯まっていた。
「ある日ね、冒険者をしてた同じ部族の人がその子を見つけたって言って連れて帰ってきたの。片耳と片目は無くなってて手と足の指は第一関節が切断させられてた。言葉も喋れないし子供も産めないって言ってた」
涙が頬を伝う頃には、キャミィは再び半獣人化していた。
彼女の体からは殺気が渦巻くように放たれている。
「【奈落の旅団】は奴隷商人の真似事もやっとるからな……エグい話や……」
「殺したければ殺していいよ。どのみちこいつらを自由にするわけにはいかないだろ?」
止められると思ったのだろうか。キャミィは唖然としていた。そして、いつの間にか半獣人化も解かれていた。
「せやで。はよせんと獲物減ってまうで?」
エッジは【変幻自在の操刃】でベンとイラージャの体を切り刻む。
「ぐああぁぁぁ!!」
一瞬意識を取り戻した二人だったが、あまりの痛みと出血量の多さに視界が歪み再び意識を失った。
「このまま放置でお陀仏や。あと一人残っとるけど……お嬢ちゃん、どないする?」
「うっ……」
怒りに支配されていた時は考えていなかったのだろう。
しかし彼女はまだ十六歳の少女である。人を殺す、という行為に対して嫌悪感を抱いていた。
「それでいい。命を奪うという行為は……なるべくならやらない方がいい」
カイルは、目を見開き体を震えさせながら悩む少女の頭にぽんっ、と手を置く。
「どうしてもその時が来たなら、狩りを思い出せ。少しは気が楽になると思う。だが、人を殺したら殺されても文句を言えなくなるからな」
カイルはモヒカン男の側まで歩いていくと、指先に【闘気】を集め、男の頭目掛けて放つ。
まるで太い針のように放たれたそれは、眉間に細い穴を空け彼の生命を奪った。
その行為を呆然と見ていた少女に近付くと、びくっ、と肩を震わせた。
「手を汚さなければ守れない物もある。だけど、それは出来る者がやればいい。キャミィ……できればお前に……そして、あいつらにもそれをさせたくない。だから俺たちに任せておけ」
少女は溢れんばかりの涙を流し、カイルの胸に飛び込む。
その涙の真意は彼らには分からない。しかしカイルの言葉が本心からのものだということは伝わっていた。
「【奈落の旅団】は十人一組で行動してんねん。残りは四人……鬼が出るか蛇が出るか。気合い入れ直しましょか」
エッジはカイルに視線を送ると歩みを進める。彼が気を張っているのは、奈落のメンバーに対してではない。入り口に無造作に残された彼らの死体。【奈落の旅団】を恐れない者が、自分たち以外にもいるという事実に、である。




