第42話 女神の実力
「と言うわけで、新たな仲間たちよ。さぁ、自己紹介よろしくね」
カイルたちの前に現れたのは、見覚えのある男女だった。
だがあまりにも予想外の人選に皆、言葉を失っている。
「えー、もう知ってると思うけど、クランに参加させて頂きます、エッジ・クラフト言います。皆さん、よろしゅう!」
「……ティアリエ・ゴッドバルツだ」
「ティアリエ、もっと愛想よくしなさい。そんなだから友達が一人もいないのよ」
「ぐっ……それは今関係ないだろ!」
「年も近い子もいるわ。これを機に友達の一人でも作ったら?」
「うるさい! 貴様は私の母親か!?」
「そうよ」
「違うわっ!!」
「このオレが入れへんやと……!? なんてキレのあるツッコミや!」
「黙れ変態サイコパス!」
ぎゃーぎゃーと騒ぎ立てる三人を前にし思わずカイルが口を開く。
「何しに来たんだお前ら」
「そうよ、少し静かにしなさい」
「ぐぅ……なんなんだこの女神っ!!」
ティアリエは握り拳を作りわなわなと震えていた。
若干哀れみの含まれた視線をエッジが送っているが、彼女は頑なに目を合わさない。
「ちなみにティアリエは冒険者登録もしたから。あなたのクランメンバーにしてあげてね」
「俺はいいけど……」
ちらっと見ると頬はふくれて腕組みをし眉間にシワが寄っている。
「不本意だがなっ! この女神が条件を聞くというから仕方なく手伝ってやる」
「条件?」
「【十王】との戦闘になったら参加させることと、カイル。貴様との再戦だ!」
(他にもあるが……)
ふぅん、と唸りルシールに視線を送る。表情一つ変えずその視線を受け止める彼女に、カイルは少しイラッとしていた。
「せや、折角やし女神らしい話したらどうです? 今後一緒に色々とやってくんやったら隠し事は少ない方がええやろ?」
「それもそうね。カイル、エッジ、ティアリエ。この三人は元は異世界の住人よ」
「「「え"っ!?」」」
言い始めたエッジが驚きの声をあげる。彼はティアリエが転生者だとは知らなかった。当然カイルも。ティアリエに関しては言った覚えがない情報を知っていた事への驚きも含まれていた。
異世界人が何なのかわからない四人の女性たちはなんの事か分かっていない様子だ。
「異世界の、とはどういう事ですか?」
シーラが冷静に問う。レフィアは難しい表情を浮かべたまま黙りこみ、キャミィとアイリスは興味がないのか二人で喋りだした。
「言葉通り、この世界とは異なる世界からやってきたのよ。ただし、魂だけね。魂の説明は面倒だから省くけど、肉体はこの世界のものよ。カイルだけは少し異質で、魂を現地人と交換したって感じかしら。私の管轄外だから詳しくは知らないけど」
「それは前世の記憶があるようなものなのでしょうか?」
「そんな感じね。当然記憶を全て引き継いでしまうと脳が耐えられないのと、たまに文明レベルを遥かに越えた知能を持った存在がいるからそこはバランス調整してるけど。じゃないと世界の意思が介入してきちゃうから大変なのよ、自我の崩壊とか別人格が構成されたりとかで。だから私たち神が人格や記憶なんかをこの世界に合わせて最適化してるの」
思わずシーラとレフィアがカイルの方を見る。
彼はその視線に気付いたが、意図には気付いていない。
「……そんな話はどうでもいい。今後の方針を聞かせろ」
「全く、いつまでそんな口調でいるつもり? 折角可愛い顔してるのにモテないわよ?」
「うるさい! そんな事に興味はないっ! 私はただ強くありたいだけだ!」
「……ねえさん、そういうのやめてくれません? 話進まへんのですわ」
「はいはい、心に余裕が無い人は困るわね」
「おい、女神。何なら力づくで黙らせてもいいんだぞ?」
「あら、出来るのかしら?」
「……上等だ。私が勝ったら今までの話は全て無かった事にしてもらおう!」
「あーあ、何でこんなんねん……」
エッジは力なくうなだれる。
「カイル様、止めますか?」
「女神の実力を知る良い機会だ。お前たちも半信半疑だろ?」
「キャミィ、アイリス。あなたたちも来ますか?」
「んー。あたしはいいや、興味ないし」
「……同意」
「自由じゃな……」
「それじゃ依頼内容の確認を頼むよ。詰め所で討伐対象と警護対象を聞いてきてくれ」
「らじゃー!」
キャミィとアイリスを見送り、ルシールに視線を送る。
「見学者はこれだけ? じゃあ行くわよ」
彼女の姿が消えかけるのと同時に視界が暗くなる。次にカイルたちの視界に入ってきたのは、砂と岩に囲まれた岩盤地帯だった。
「ここが貴様の墓場でいいわけだな?」
「おいおい、物騒な事いうなや……」
「ええ、あなたに殺されるわけないけど」
「ねえさんも煽らんといてください……」
何故か板挟みになっているエッジの言葉は、彼女たちには一切届いていないようで全て無視されている。
「……本当に、いいんだな?」
ティアリエは何かを確認するかのようにルシールに問いかける。
その問いかけすらもまるで意に介していない様子で、どこからか眼鏡を取り出し、それをかけながらティアリエに向けて手招きしていた。
それが彼女の神経を逆撫でする。
「よし、殺す!」
【唯一無二の金剛力】を発動させるティアリエ。この能力はデータの参照に多少時間がかかるのが難点である。とは言っても、一秒にも満たない時間ではあるのだが。
ティアリエは一歩でルシールの真正面まで距離を詰めると、その勢いを拳に乗せたまま放った。
拳はルシールの身体を抜け、その後ろにあった岩山に突き刺さる。そこにルシールの姿は無く、砕けた岩が彼女の足元に転がっているだけだった。
「ちっ、どこへ行った……!」
直ぐ様その場から離れ開けた場所へ移動するが、どこにも姿が見えない。それどころか自分一人しかこの場にいない事に、何故か今気付く。
「くっ、あの女神……勝てないと思って私を置いていったな! 卑怯ものー!!」
「それは違うわ。あなたはとても強くて可愛くて私、なんか到底太刀打ちできないわ」
ティアリエの前にうっすらとルシールの姿が現れる。彼女だけではない。エッジやカイル、その仲間たち。【十王】の面々が次々と現れていく。
「【拳王】さんはほんまお強いわ! オレなんて虫けらみたいなもんですわ」
「武踏会では勝ちを拾ったが、正直お前の強さには脱帽した。これからは俺たちを助けていってほしい」
「な、なんだ貴様ら……それが本音か! 全く、最初から素直になればいいものを!」
「人は誰しもが心を開けない生き物なんだよ、ティアリエ」
背後からいつか聞いた事のある、どこか懐かしい声が聞こえる。
それはティアリエの父親のものだった。
「な……そんな……」
「ティアリエ、久し振りだな。随分と小さく……いや、見た目は別人だったな。だが、中身は変わらず、私の可愛い娘そのものだ」
「おとう……さん……?」
頬を伝うは一筋の涙。現れたのはこの世界の、ではない。記憶からも消えてしまい思い出そうとしてもモヤがかかったように思い出せなかった、前世の父親の姿。
それが彼女の一番思い出したい頃の姿で、目の前に現れたのだ。
「一体どんな夢を見ているのかしらね」
目を瞑ったまま横たわるティアリエの顔を覗きこみながらルシールは言った。彼女の頬はうっすらと涙の跡に濡れている。
「にいさん、どないなったか分かりました?」
「いや……」
彼らにはティアリエがルシールに襲いかかろうとした瞬間前のめりに倒れこんだ、ということしか分からなかった。
「神には【神器】の使用が許可されているの。この眼鏡もその一つよ。眼鏡越しに見た相手を催眠状態にさせる事が出来るの。無制限でね」
「なんやそれ、めっちゃ反則級やんか!」
「基本的にはどんな相手にも通用するはずなんだけど、稀にいるのよな。異常なほど耐性の高い存在が」
ルシールはカイルに視線を送っている。
転生前の彼であれば通用はしなかっただろう。
「これである程度は信じて頂けたかしら?」
「うむぅ……」
「わたくしはカイル様が仰る事ならば真偽は問いません」
「……まぁいいわ。とりあえず戻りましょう」
宿の部屋に戻ると、キャミィとアイリスが手にした紙を難しい表情で眺めている。
「……テリタ村とハムサ村がぴんち」
カイルは紙を受けとると、まじまじと眺める。
堅苦しい文章で書かれてはいるが、内容としてはかなり規模が大きい盗賊団が村を支配している、という事だ。
村は諦めて従属しているようだが、村民からの密告で発覚したらしい。
【奈落の旅団】――裏社会ではその名を知らない者はいない程、知名度の高い盗賊団。【能力者】だけで構成されているこの盗賊団は本来義賊のような組織であったが、四年前に団長が変わってからは略奪を軸に、ありとあらゆる犯罪行為に手を染めていった。
今やランペイジ王国内のみならず他国の犯罪組織をも吸収し、世界規模にまで膨れ上がっている。




