第41話 人気者は辛いね!
冒険者ギルドランペイジ支部では大事件とも言える出来事が起きていた。この世界におけるSランク冒険者数は八名。そこに新たな冒険者が名を連ねたのである。
しかもその者はギルドに登録してまだ十日しか経っていない若干二十歳の若者だった。
顔は暗めだがそこそこに良く、武踏会の活躍によりファンが急増。
クランメンバーは多種族の美人揃い、更には皆がAランクと話題になるには十分過ぎる要素があった。
「さっきのは何の真似じゃ、カイル!」
レフィアはムッとしながら詰め寄る。
「礼儀正しい方が何かと都合がいいだろ? 印象が良ければ俺たちも動きやすくなるし、問題を起こしても多少は目を瞑ってくれるかもしれない」
「おう……」
唸り声のように一言だけ発して黙りこむレフィア。
「シーラ、カイルの様子、おかしくないかの? なんというか……物事を考えているというか……」
「それは私も思いました。いつもなら注意される側だったのに……」
「そういうのは聞こえないようにやってくれないか」
応接間から出ると、騒がしいはずのギルド内はうってかわって静閑な様子である。
遠巻きに見ながら小声で話をしている者や、ちらちらと様子を伺っている者など、やけに視線が集中するのをカイルたちは感じていた。
街の喧騒の方がうるさく聞こえるほどだ。
「……静か」
「少し不気味じゃな……」
「とりあえず宿に戻って依頼を確認しよう」
出入り口の扉を開くとそこには――
「キャアアァァァーーー!!」
「ウオオォォォーーー!!」
男女の、まるで叫び声のような歓声がカイルたちを襲う。
ギルドの外には人、人、人。辺りを埋め尽くすほどの人数が集まっていた。
「なんなんだ、この人のゴミ山は」
「人混み、と仰ってくださいカイル様」
「先ほど礼儀を説うておった奴の言う言葉ではないんじゃが」
「うっひゃー! これ通れるかなぁ?」
「……邪魔」
各々感想を呟くがそれで状況が変わる訳もなく、またここまで集まった連中には当然、熱狂的な者もいる。
「ああああいりすたんはぁはぁ――はぷぁ!!」
アイリスに抱き付こうとした非常にふくよかで汗っかきな男性は、カイルの裏拳で人々の頭上に吹き飛ぶと、数人を下敷きにして落ちていった。
「大丈夫か?」
「……操は護られた」
「人一人殴り飛ばされても勢いが衰えないですね。どうします?」
すっ、とカイルが一歩前に出る。
黄色い歓声といえば聞こえが良いが、実際は怒号に近い叫び声を浴びながら拳を構え半身になると、左足を少し浮かす。
「破ッ――!!」
殺気を存分に周囲に放ちながら大地を踏み抜くように脚を突き立てる。
人々硬直し地面が僅かに揺れ動く。中には殺気に当てられへたり込んでしまう人もいた。
「よし、行こうか」
「……全く、荒っぽい奴じゃのぅ。ま、嫌いではないがな」
ギルドの外には暫くその場から動けなくなった人々が立ち尽くすという、異様な光景が続いていた。
***
「あら、何かあったのかしら?」
女神と【拳王】ティアリエがギルドに辿り着いたのは数十分後の事である。
ギルド前に集まっていた人々は半分以下に減っていたものの、残りはその場で先ほどの体験について互いに語り合っていた。
「興味がない。さっさと冒険者登録とクラン所属申請とやらを済ませるぞ」
一瞥もせずにギルドの中へと入る二人。
「なぁ、あれ……」
「は? はぁ!?」
「何で【十王】がここにいるんだ……?」
ギルドにいる冒険者たちは騒然とする。【十王】の中に冒険者はいない。目にみえるような確執などはないが、何かと問題を起こしやすい【十王】は冒険者にとって厄介者と見られていた。
「なぁ、冒険者になりたいんだが」
「へ? あ、はい……それではこちらの書類に必要事項を記入して提出してください……」
素直に紙を受け取り記入するティアリエをじーっと眺めているルシール。
「……貴様は登録しているのか?」
「あ、そういえばしてないわね。忘れていたわ」
「……おい」
ルシールも一緒に登録する事となり二人で窓口に提出しに行く。
「クランはすぐに入れるのか?」
「リーダーの承認が必要となりますので、それまでお待ちください。この場にいればすぐ済むのですが」
「うーん、カイルを連れてくれば良かったわ」
「ちっ、役に立たない女神様だな!」
「とりあえず申請だけしておきましょう。私とこの娘、【女神の恩寵】に入りたい宜しくね」
ギルド内が一層ざわつく。今日Sランクに昇格した冒険者が所属するクランに【十王】の一人が加入するというのだ。
冒険者クランにも序列は存在する。中でも上位三つのクランにはそれぞれSランク冒険者が所属しており、実力も規模もかなりの大きさだ。その力の均衡は絶妙なバランスで成り立っているのだが、その均衡が今日崩れようとしていた。
「さっきからうるさいぞ。文句があるなら直接言え!」
テーブルを拳で叩きつけ立ち上がりギルド内に睨みをきかす。一瞬で静まり返るギルド内に、ふんっ、と不機嫌そうに鼻息を立てる。
「おい、さっさと出るぞ!」
「全く、短気ね。まぁいいわ、カイルの所に行きましょう。あ、あと一人連れていくから先に行ってて頂戴。ロイヤルガーデンって宿にいるわ」
そう言い残しその場から消えるルシール。
それを見ていた冒険者たちは、騒ぎ立てる事もなく、ただただ絶句していた。




