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第04話 姉の扱いが難しい

「顔も体も違う」


 エリグラーズは鏡を見ていた。

 体つきが違うのはすぐに分かった。当然予想も出来た事だろう。

 しかし普段見慣れた顔とは全く異なり、完全な他人が映されていた。


「カッコいい! 渋い顔だなぁ、気に入った!」


 髪は真っ黒でベリーショート。若い頃の傷が顔にも体にも刻まれている。

 一人で騒いでいると、かつてエリグラーズがエリグラーズであった頃の記憶が流れ込んでくる。それは約七百年の膨大な記憶。

 それまでベッドの上に居ることが生活の殆どであった彼には処理しきれない程の情報である。

 ――程なくして彼は意識を失った。


 別の世界ではカイルと呼ばれた病弱な青年は、異なる世界で最強無敵の存在に転生していた。



 ***



「やはり顔も体も違う」


 翌朝、カイルは鏡を見ていた。

 体つきが違うのはすぐに分かった。当然予想も出来た事だろう。

 しかし普段見慣れた顔とは全く異なり、完全な他人が映されていた。


「なんだ……このなよなよとした顔つきは。男らしさがまるでない」


 年齢は十代から二十代だろうか。

 髪の色は青みがかった暗い灰色で、長さも男としては多少長めである。


「この体じゃ力加減間違えると骨折するな。あの時手加減して良かった」


 エリグラーズ――今はカイルだが――の独自の能力、それは【闘気(オーラ)】である。

 気功や魔法等の一種であり、外部からあらゆるエネルギーを取り込んで自信を強化できる。この能力は使用者への負担が非常に大きく容量を超えた強化は本来不可能なのだが、長年常時発動しながら戦い続けていたらいつの間にかそれが当たり前になり、肉体・精神への負荷を極限まで抑えた上で、無限に強化が可能となっていた。

 ただ、精神状態に左右されやすく闘争心が低いと発動すら出来ない。以前の世界では常に闘いに飢えていた為、【闘気(オーラ)】を発動している状態が常であった。


「カイル様、お迎えにあがりました」


 メイドが迎えに来てしまった。

 カイルは悩んだ。何故ならば服はまだしも下着が無いからだ。流石に二日続けてノーパンというのも居心地が悪いが、女性にそれを申し付けるのも悪い気がして言いにくい。


「まあいいか」


 カイルはそのまま出た。


「あ、カイルおはよー!!」


 やけにテンションの高いクリスティーナがブンブンと右手を振り大声で叫んでくる。彼女の周りには四人の人影が見えた。いずれも女性である。


「おはよう、姉さん」

「見て見てこの服! これ頂けるんですって! こんな高いブランド物、申し訳ないけど……あ~ん、かわいい~!!」


 くねるクリスティーナ。そう言えばそんな事を言っていたような気がするがカイルはファッションに全く興味が無い為、話を聞いていなかった。


「あの……カイル様、この度はお助け頂きありがとうございました。わたくし、もう二度と自由に生きる事が出来ないと嘆いておりました。貴方様はわたくしの英雄です」


 そっと手を取り、ぎゅっと握ってくる女性。

 ただの白髪(しらが)とは違い、透明感のある美しい白髪(はくはつ)。眼の色も薄く、異様な神秘性を感じさせる。その眼にはうっすら涙が浮かんでいた。


「わたくしはエルフ族、白光の民のシーラ・ドルーガ。是非わたくしに御恩返しをさせてください」


 そこまで言うと、他の三人が急に寄ってくる。


「あんたばかり話すぎだって」

「私も……」

「あたしも話したーい!」


 只でさえ鬱陶しいクリスティーナのテンションに加え急に喧しい女たち。転生前なら顔にワンパンかましていたかも知れないが、カイルの意識の影響だろうか。


「ほら、みんな少し落ち着いて。エリスさんも困ってるから後でゆっくり話そう。姉さんもね」


 大人の対応である。

 エリスは小声で、申し訳ございません、と囁いた。カイルはそれにどう答えたら良いのか分からないので笑顔の会釈で応えた。


「……お話の途中で大変申し訳ございませんが、皆様には来週の()()()()()のお話をさせて頂きたく。勿論強制という訳ではありませんが年に一度の祭事でございますのでご覧になられるだけでもと思いまして」


 そう言えばそんな話を昨日していた事をカイルは思い出す。クリスティーナはブランド品に釣られてしまい、最早言いなりだ。

覚悟を決めて話だけ聞く事にした。


「エリス、案内ご苦労。カイル様たちはこちらへおかけください」


 豪華な装飾が施された長机に椅子が12個ずつ。そこにはミリアとヴェテル王が席についている。

 グランに促され声をかけられたエリスも同じ列に腰をかける。


「まず武踏会の説明を致しますわ。ルールは至ってシンプルです。対戦相手のギブアップ、戦意喪失、死亡、いずれかで勝利です。特に禁止行為はありませんが、第三者が絡んだ場合は失格です。ここまでは宜しいですか?」


 クリスティーナを筆頭に女性陣が半端なく引いている。


「……舞踏会、では?」

「えぇ、武踏会です」


 かみ合わない。


「武器の使用も可、です。武器を使って負けようものなら一生物の恥でしょうけど」


 クスクスと笑うミリアに更に引く女性陣。

 こういう娘だったのかと、カイルは感心していた。


「ちなみに優勝者はミリアとの婚姻を許可する。他国の能力者(ホルダー)も出場だろう」

「私は自分よりも弱い相手と結婚するつもりはありませんので当然参加致します。此処にいるグランとエリスも、ね?」


 渋々な表情を浮かべるエリスとは反対に笑顔を崩さないグラン。

 それは余裕の笑みなのか執事としての矜持なのか。

 彼に俄然興味を抱くカイル。


「ちなみにこ奴らも能力者(ホルダー)だ。期待してよいぞ」


 その一言でカイルの腹は決まった。


「勿論賞金も出ますわ。優勝者は三千万Jil(ジル)、二位は五百万万、三位で百万です。参加費は一万Jilですが、貴人方は免除致しますわ」


「姉さん、とりあえず彼女たちの面目を保つために参加だけしようと思うんだ」

「何言ってるの、生死は問わないなんて危ないじゃない。それにあんた体弱いんだから……」

「無理そうならすぐに降参する。頼むよ、参加したいんだ」


 クリスティーナは初めて見る弟の強い眼差しに断りきれなくなってしまった。

 他の女性たちの事は気にもせず、カイルは自らの欲求に従う。強い者と闘いたい。彼を突き動かすのはその衝動のみである。


「参加表明は当日で構いませんので、皆様、是非一度お考えください」


 ミリアのその一言でお開きとなった。

 しかしカイルは一つ疑問に感じる事があった。何故、奴隷商人に捕らえられていた彼女たちまで誘うのか。


「ねーカイル、ちょっといい?」


 ふと、声を掛けられ振り向く。

 其処にはミリアと一緒に捕らえられていたであろう女性たちの姿があった。


「ちょっとあたしたち訳アリで、この国に暫くお世話になる予定なの。んで、だったら四人で冒険者ギルドに登録しようかなって話になったんだけど、これも何かの縁だしクラン申請もしようかなって話になってて――」

「えっと、良かったら一緒に冒険者やらない?」


 冒険者ギルドとは、全世界で幅広く運営されている人材派遣業である。

 国だけでは対処が出来ない場合や内密に処理したい問題など、様々なニーズに応える為、設立された。

 ランクにより紹介可能な仕事内容と報酬が変わる。

 また、ギルドに登録した冒険者三人以上の署名を得られればクラン申請が可能である。

 クランとしての知名度が上がれば当然、活動の幅も広がるのだ。

 冒険者、という響きにカイルは勇者だった頃を思い出しどこか懐かしく感じる。


「あ、自己紹介まだだっけ。あたしは猫人族(ワーキャット)のキャミィ・リリーだよ。よろしくネ♪」


 猫人族は獣人の一種である。

 俊敏性が非常に高く、また狩り能力にも長けている。

 明るい性格なのか、天真爛漫という言葉が似合いそうな彼女は終始笑顔である。

 茶色い髪の上には猫人特有の耳が生えており、ピコピコ動いていた。

 キャミィの後ろから恐る恐るこちらの様子を伺っている少女が挙手した。


「私は……人間。アイリス・アルベール。能力者(ホルダー)


 カタコトで喋っているが、言葉が不自由というよりは対人関係が不自由なのだろう。

 カイルは奇妙な親近感を覚えていた。

 身長が低いからだろうか、非常に幼く見える。

 黒く長い髪は俯いている彼女をより暗い印象にさせた。


「おっけー、次私ね。レフィア・グリンガム、一応人間よ。私も能力者(ホルダー)なんだけど、戦闘特化で【舌王】みたいなのとは相性悪くて」


 アハハ、と笑う女性。

 アイリスと比較すると身長が非常に高く見える赤髪の女性。

 キャミィとは違う明るさがあり、楽観的で奔放な感じだろう。


「わたくしは既に自己紹介を済ませておりますので……」


 シーラが控え目に呟く。

 他の三人から何か言われたのだろうか。初対面の時とは異なり恐縮した様子が伺える。

 しかしこれならミリアが武踏会に誘っていたのか理解できる。

 そして同時に、ミリアを含めこの五人の女性を捕らえたアルビーの評価がうなぎのぼりだ。


「カイル・イングラムだ」


 言葉少なに名前を告げる。

 しかし意図は伝わるだろう、とカイルは思っている。

 彼女たちと行動する事に異論はない。問題はクリスティーナなのだ。


「姉さん――」


「もういいよ。冒険者になりたいんでしょ?」


 案外、あっけなく引き下がるクリスティーナだったが。


「だったら私も一緒に行くね! 叔父さんにもこれ以上お世話になれないし、良い機会だもんね!」


 いい加減に弟離れしてほしい。心の中で強く思うカイルだった。

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