第39話 新たな冒険の始まり
女神がクランに加わり名前も決定した為、改めてギルドに申請と依頼を聞きに行こうとする一同。
「私用があるからこれで失礼するわ。そうそう、機械大国メタリアで遠距離通話が可能なアイテムが出回ってるのだけれど、まだ持っていないなら人数分手に入れておきなさい」
そう言い残し、ルシールは姿を消した。
「ほぅ、女神ってのはたいしたもんじゃの。消えおったわ」
「……伊達じゃない」
「ほら、もう行くぞー」
冒険者ギルド、ランペイジ支部。
ここには魔物退治は当然ながら、賊の討伐、傭兵の依頼など、武力を重視する仕事が多い。
元々武力国家であり、国柄なのか国民にも血に飢えた者達が多く、何故か他国からも犯罪者が流れて来ており、残念ながら国内犯罪率は全世界で最も多い。
しかし国民は悲観的では無い。力こそ正義――良くも悪くも、この国はそういう国なのだ。
そんなわけで、今日もギルドは盛況であり、中は冒険者と依頼者でごった返していた。
「どうだったー?」
人混みを掻き分けて戻ってきたカイルに、キャミィは元気良く声をかける。
「あぁ、別室で説明するってさ」
指を指した方向にはギルド職員らしき人の姿がちらっと見える。
「……早く行こう」
応接室に通され、横長のソファーに腰を下ろす。
「ったく、なんじゃここは! 人来すぎじゃろ!」
「それだけ冒険者稼業が盛んということなのでしょう。良いのか悪いのか分かりませんが」
「ふん、いつの時代も力持つ悪はおるということか」
「悪事を叩く事だけが冒険者の仕事ではないんですよ」
別の扉から眼鏡をかけた男性が現れる。
ギルド職員の制服とは異なる黒い服。襟元にはギルドのシンボルである、盾と剣が彫られたバッジがキラリと輝いている。
「ご足労頂きありがとうございます。私、冒険者ギルドランペイジ支部支部長のベイジと申します。えー、クラン【王殺し】の――」
「クラン名は変更しました。【女神の恩寵】で今日申請してます」
「そうだったのですね。大変申し訳ございません。すぐに訂正させて頂きます」
カイルが急かさず口を挟む。
この名前が浸透することはどうしても避けたい。本気でそう思うのと同時に、冗談で付けたこの名を後悔するくらいには常識を身に付けた。
もっとも、それはルシールのお陰なのだが。
「それでですね。当支部としても初めての事なのですが、王家の方から直々に貴方に依頼したい、と仰られまして。
その依頼内容なのですが……」
ベイジは手元の鞄から複数枚の紙と、鉄で出来た薄いカードを四枚、白銀のカードを一枚取り出した。
「まずはこちらが、ランペイジ王国内全域の通行証です。一部の危険地域にも入れるものとなっています。それからこちらが、ギルドから発行される正式な冒険者の登録証となります」
「登録証って……」
カイルがシーラの方を向き目で合図をすると、それを受けて紙のカードを取り出し渡す。
冒険者ギルドで登録すると、ギルドの一員となった証として紙のカードを配布される。
簡素な作りだが、冒険者である証として広く知られている。
「あぁ、それは一般のメンバーカードですね。会員様全員にお配りしております。こちらは一部のクランや冒険者様にのみお渡ししている限定会員様用のカードでございます。
その価値を知る者は、相応の権力を持つ方です。きっと皆様のお力になるかと……」
「でもどうしてわたくし達に?」
シーラの問いに軽く微笑む。
「我々ギルドは様々な方とお取引させて頂いております。当然、将来ギルドの有益となりそうな方々とは懇意になりたいと考えております」
「ふぅん。これはそのギルドとやらに認められた証というわけじゃな」
ギルドに対する皮肉だろう。特に興味も無いような素振りだが、レフィアの冷ややかな目線は真っ直ぐベイジを見据えている。
「お互いに良い関係を築いていきたい、ただそれだけでございます」
笑顔から表情を変えない彼に感心したのかレフィアはそれ以降突っ掛かることは無かった。
「さて、肝心の依頼内容ですが……こちらをご覧ください」
「書面……?」
シーラが不思議そうに紙を受けとる。
「カイル様、これ……」
驚きの表情をあげながらカイルに紙を渡す。
流石のカイルも思わず目を見開いた。
そこに書かれていた内容は、『国内の治安回復の為、賊の討伐、町村の支援、犯罪組織の壊滅、工作員の排除を依頼する』――
「これは国の仕事では?」
「現在、ランペイジ王国は混乱の最中にあります。【能力者】の増加に伴う犯罪率の上昇はこの国が最も高いのです。原因があると、国王は考えていらっしゃるようですが」
皆考えるような仕草で話を聞く。
若干二名は飽きてしまって上の空だが。
「ちなみに期間は一年間です。似たような依頼は他の冒険者にも発行しておりますので常に仕事をしてほしい、というわけではありません」
「……抑止力になるようにすれば良いと?」
「流石カイル様。国も私達も相応の立場を与えるつもりです」
「それがその紙と金属製のカードか」
机の上に置かれたカードをおもむろに手に取る。
それぞれ名前と冒険者ランクが彫られていた。
銀のカードにはカイルの名とSという文字――
「今回の武踏会の結果と国……特に王女からの信頼の厚さを考慮し皆様のランクを見直しております。どうぞ、ご確認ください」
それぞれ自身のカードを手に取り確認する。鉄のカードにはAの文字が刻まれていた。
「おー、あたしもAランクだー!」
「……カイルはSランク……やったね」
「これらは依頼受領後にお渡しさせて頂きます」
「ほう? なかなか狡い手じゃの」
レフィアは目付きで牽制するが、先程の冷たい視線とは異なり口許は緩んでいる。
「今の世界で肩書きは何より重要だと思いませんか? そこに我々のネットワークが加われば、きっとあなた方の力になれると思いますが」
ベイジは少しズレた眼鏡を中指でクイッと上げながら、カイルの言葉を待った。
しかしカイルは紙を眺めたまま一向に反応しない。
「あ、あの……カイル様? 何か不都合な点でもございましたか?」
しまった、利用されていると思われたか――
ベイジは焦る心の声を抑えながら、恐る恐るカイルに問いかける。
「あぁ……結局俺たちは何をすれば良いんですかね?」
「あ……えー、それは……」
ベイジにはこう聞こえた。
俺たちに本当にやらせたい事は何だ。裏があるなら話した方が身のためだ、と。
加えて、ギルド側の真意にも気付いているかもしれない、という妄想がベイジを焦らす。
勤続十五年。ランペイジ支部の支部長まで登り詰めた頭脳明晰な男は、少々考えすぎるきらいがあった。
(流石ランペイジ王国の姫君を射止めただけはある……彼を侮り過ぎていた……!)
頭の悪さから本当に理解していないだけのカイルだったが、彼は深読みをし過ぎていた。
「カイル様。分かりやすく言えばこの国に巣食う悪を退治してほしい、とミリア様がお願いしているのですよ」
「なんだ、そんなことか。直接頼めばいいのにな。ベイジさん、依頼お受けします」
「へ!? あ、ありがとうございます! ふぅ……えー、それではこちらの書類にサインを……はい、はい。ありがとうございます。具体的な賊や組織の情報はこちらのファイルにありますので、ご確認ください。また最新情報はこちらの【フォン】をお使いください」
ケースの中には、女神が言っていた遠距離通話が可能なアイテム――【フォン】が五つ入っていた。
「こちらに文章で最新情報を配布させて頂きます。取り扱いに関してはこちらの書類で――」
「おー! なんか凄いね」
「……使ってみよう」
子供たちはおおはしゃぎだ。
「はい、それでは以上です。長時間ありがとうございました。世界中の各支部には既にクラン名の変更とランクの更新をさせて頂きましたので、今後はお手持ちのカードを提示して頂ければスムーズに対応させて頂きます」
「うむ、ご苦労じゃっ――」
「ありがとうございました」
レフィアの頭を無理矢理下げながら礼をするカイル。
それを見たシーラが目を丸くして驚く。
一方、女神は新たな協力者を求めて【刃王】の元にいた。




