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第38話 女神もついてくる気なの?

 元々の話が出来ず終いだったミリアだったが、結果的に他国に対する牽制にもなる活動をかれらが行ってくれる事になり上機嫌の様子である。


「宿はとってある?」

「……ロイヤルガーデンってとこ」

「……なるほど」

「女神様、知らないんでしょ?」

「……知らなくても生きていけるのよ」

「ふーん。案内してあげる!」


 すっかりキャミィとアイリスの玩具になったルシールだが、まんざらでもないようだ。


「今後の事は明日話すとしよう。もうすっかり暗くなってしまったしの」

「満腹になったら眠くなりました~」

「……明日食料も買って来ねばな」


 部屋を出ようとする皆にミリアが声をかける。


「私もお供したいのですが、立場上城を離れる訳にはいきませんので……カイル様が結婚して下さるなら話は早いのですが?」

「結婚ねぇ……」


 ミリアの冗談のつもりで言った一言に対し真剣に考え込むカイル。

 その様子を見たレフィアとシーラがカイルの方を振り向き、それを見て慌てて前言を撤回する。


「冗談ですよ。王族の一員になってしまったら【十王】に会えても迂闊に手を出すことは出来ませんよ?」

「あぁ、それは困るな」


 ミリアはその様子を見て笑みを浮かべると、


「お前さえよければ、私はいつでも立場など捨ててついていってやるぞ?」


 どこか悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 それは、今日初めてカイルに見せる素の姿だった。


「そんな事出来ないだろ? この国はミリアの国なんだから」

「……えぇ、良くご存知ですね。それではお互い頑張りましょう」


 にこりと微笑むと、ミリアはかれらが城から出ていくのを最後まで見届けていた。


「あなた、意外とモテるのね。そういうのに無頓着そうなのに。何故かしら?」

「モテる……?」

「……ふっ、私が悪かったわ」


 ルシールは鼻で笑うとそれ以降、その手の話題をカイルに振らなくなった。




 ***




 翌日、ギルド本部より依頼の通達があった。

 それはAランクの任務――ランペイジ王国からの依頼であった。


「依頼内容は書けないからギルドまで来いってさ」


 キャミィが嬉しそうに通達書を読んでいる。ギルドのシステムにも詳しい彼女にとって、高ランク任務の依頼は嬉しいのだろう。


「そういえばクラン名決めません?」

「……【王殺し(キングスレイヤー)】じゃなかった?」

「なにその物騒な名前。やめなさい、センス悪いわよ」

「そう、だよな……」


 事情を知らない女神ルシールの一言に少し傷つくカイル。

 キャミィとアイリスに慰められるその姿を見て、ルシールは鼻で笑う。


「……てか、何故女神がまだいるんじゃ?」

「いたらいけないのかしら?」

「いけないというかの……方向性も決まったし……」

「他にやること無いの?」


 キャミィは言いたいことをハッキリ言う。

 それは時として――いや、大体は刃となって襲いかかる。


「あなた達だけでは不安だからですー。暇だからじゃないですー」

「アハハ! 女神様暇なんだー!」

「……暇人の女神とか」

「何よ、絶対私がいた方がいいわよ。女神だし」


 からかわれムキになるルシール。その光景を見てカイルは思わず言葉を漏らす。


「可愛いな」


 パンッ――


 瞬間、女神に左頬を平手で叩かれ呆然とするカイル。

 くるっと女神は背を向けた。


「女神様に可愛いは失礼ですよ。多分」

「プライド高そうじゃからの。そういうところは迂闊に触れたらいかんな」

「女神様に可愛いはダメかー」

「……メモメモ」


 カイルに近寄り小声で緊急会議が開かれる。

 難しい顔をしたまま、とりあえず謝っておけ、という結論に達した。


「いや、あの……ごめん、つい……」


 ルシールに歩みより、背中越しに声をかけた。


「……ふぅ、まぁいいでしょう。私も手を出してしまってすみませんでした」


 背を向けたままルシールが返す。両手は胸の位置で力強く握られ、顔は紅潮し、目は見開かれ、動機が止まらない。

 女神ルシールは色恋沙汰に非常に疎く、また全く慣れていない為、チョロかった。


 ごほん、と咳払いをし再びくるりと体を翻す。

 彼女の表情はいつも通り――


「あれー? 女神様、笑ってる?」

「笑ってません」


 少し口角が緩んでいたのを引き締めるルシール。


「なんじゃ、冗談だったのかの? まぁ何にせよ良かったではないか。神を名乗る者は気難しいからのぅ」

「あぁ、ひやひやしたよ」


 ハッハッハ、と談笑し合う長齢者たち。


「そこ、うるさいわよ。それから私を女神様と呼ばなくていいわ。これから仲間になるのだから」


「「「……仲間?」」」


 皆の声が綺麗にハモる。

 表情に変化がない彼女は冗談かどうかも分からないのだが、ルシールはいたって真面目だ。


「今後の事を考えると、私の助力があった方がランクとやらも上がりやすいでしょう。クラン名も……そうね、【女神の(グレイス・オブ)恩寵(・ゴッデス)】……うん、いいわね」

「いや、そんな勝手に……」

「それで先程の無礼も許すわ。当然、()()()忘れてあげる」


 止めに入ったカイルだが、その一言で黙りこむ。

 少し間を置いて――


「良い名だと思うけど、皆はどうだ?」


 最強の力を手に入れて七百年。始めて力に屈したカイルだった。

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